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灰焔の残響の中で (R16)  作者: Wolfy-UG6
第1巻 ― 再生の残り火
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第4章:奇妙な世界

ネリアがこの世界に来てから、三年が過ぎていた。

今では自分の体重を支えて立てるようになった小さな脚は、数か月前から歩くことを可能にしていた。

声もまた形を成し、かなりはっきりと話せるようになっていた。


ニヴァリスの月が始まったばかりで、寒い時節の訪れを告げる冷気が漂っていた。

ネリアはゆっくりと目を覚まし、腕を伸ばしてから上体を起こした。

家の木材に残る朝露が、心地よい松の香りを広げていた。


彼女は不透明なタイツと膝まで届くスカートを身につけ、その上から小さな上着と毛織りを重ねた。

それから台所へ向かうと、そこではすでにゼフィラが朝食の支度をしていた。


「よく眠れた、私の可愛い子?」

彼女は柔らかな声でそう尋ねた。


ネリアは、父が彼女のために特別に作った椅子を引いた。

座るための小さな斜めの踏み台も付いている。

彼女は両手を机に置き、顎をその上に乗せた。


「うん。

ママ、いいにおい。

おなか、すいた。」


その言葉はどこか不自然だったが、ネリアは子供らしく話すよう無理にそうしていた。

両親や、他の誰にも、自分の本当の正体を悟られたくなかったからだ。

話せないふりをするのは、本当に厄介だった。

何度も、大人のように話してしまいそうになったことがある。


だが、彼女にとって最も大変だったのは、この世界の言葉に慣れることだった。

話し方は彼女のいた場所とは大きく異なり、存在しない言葉も多かった。

その一方で、まだ理解できない概念が、ここには確かに存在していた。


「もうすぐできるわ。

もう少し待ってね。」

ゼフィラはそう言ってから続けた。

「今朝は、あなたの好きなブリオッシュとソーセージよ。」


ネリアの唇に、自然と笑みが浮かんだ。

母の料理はとても上手で、毎回、食事のたびに涎が出そうになる。

数分後、ゼフィラは三枚の皿と食器をテーブルに並べ、料理を置いた。

それから窓へ向かい、それを開けた。


「エルドラン、ごはんよ。

今すぐ来なさい。

来ないなら、あなたの分はネリアにあげるから。

いい?」


エルドランはすぐに戻ってきた。

腕に抱えた薪を暖炉のそばに置き、ネリアの隣に腰を下ろす。

食事は終始、穏やかな空気の中で進んだ。


「なあ、お姫様。

今朝はパパと一緒に訓練してみないか?」


その言葉を聞いた瞬間、ネリアは最後の一口を喉に詰まらせ、咳き込んだ。

彼女は父を見上げ、目を輝かせた。


「わたし、やる。

パパと、れんしゅう。」


訓練できること自体は嬉しかったが、その言葉の幼さがあまりにも滑稽で、笑いそうになった。


本当に、子供の役を演じるのは大変だ。

疑われないように言葉を壊すなんて、まったく。

早く成長して、こんな話し方をやめたい。


エルドランはテーブルを片付けると、ネリアのもとへ行き、彼女を抱き上げた。


「残りは頼むよ、フィラ。」

彼はそう言ってから続けた。

「俺は娘を、剣の達人にしてくるからな。

だがその前に、お嬢さん。

寒さよけに、外套だ。

さあさあ、動くぞ。」


彼は扉へ向かい、小さな外套を取ってネリアに差し出した。

だが彼女は眉を上げ、まだ一人では着られないのだと示した。


「エルドラン、年齢の割に出来る子なのは確かだけど、やりすぎはだめよ。」

ゼフィラはそう指摘した。

「それと、もう一度私をフィラと呼んだら、訓練をドラゴンが恋しくなるくらい熱くしてあげるわ。」


彼はネリアの腕を外套に通し、留め具を閉めてから立ち上がり、扉を開いた。

外へ出るよう手で合図し、それからゼフィラの方へ振り返る。

片手で扉を押さえたまま、出口へ一歩下がった。


「二、三時間ほど訓練してくる。

あのやる気なら問題ないだろう。

それで、俺を温める話は後で頼むよ、小さなフィラ。」


彼は、ゼフィラが手にしていた鍋を投げつけるよりも早く、さっと扉を閉めた。

悪戯っぽい笑みを浮かべていた彼女の気配が、内側に残ったまま。

エルドランはネリアの手を取り、小さな門へ向かった。


「俺のそばを離れるな。

いいな。

訓練場へ向かう道は、人の往来が多い。

商人の馬に踏まれたりしたら困るからな。」


ネリアは彼のそばを離れず、村の様子を少しずつ目にしていった。

庭の外へ出るのは、これが初めてだった。

ソルヴァエルは、老若男女あわせて百人ほどが暮らす、静かな小村だった。

雰囲気は穏やかで、ネリアとすれ違う人々は皆、まず父に挨拶し、それから彼女にも声をかけてきた。

最初は、それが少し戸惑いだった。


どうして、みんなこんなに挨拶するんだろう。

街の衛兵だってことは知ってるけど、それにしても丁寧すぎない?

私の知らないところで、何か大きなことをしたの?


胸を焼く疑問はいくつもあったが、今はまだ口にできない。

そうして歩き続けていると、一人の男の前で足が止まった。

背は低めだが、体つきはがっしりしている。

長い髭は膝まで伸び、髪と絡み合っていた。

広く、深い傷跡の残る両手は、過酷な労働の歳月を物語っている。


「よう、エルドラン。

未来の村の守り手と一緒に散歩か?」


男は腹の底から笑いながらそう言った。


「おはよう、グリドール。

今朝はどうだ。

ああ、このお嬢さんに少し鍛錬をさせるつもりでな。

自分の身を守れないまま、育てる気はない。」


だが、二人が話している最中、ネリアの視線は台の上に置かれた一つの石に引き寄せられた。

雪のように純白で、星を閉じ込めたかのようにきらめいている。

彼女は吸い寄せられるように近づいた。


「なに、これ、パパ。

いし、きれい。」


ゆっくりとした声だった。


二人は会話を止め、ネリアが何を指しているのかを探すように彼女を見た。


「それはな、小さいの。

シグニロスの石だ。

衛兵や冒険者の武器や鎧を作るのに使われる。

だが、美しい装身具を作ることもできる。」


それに対し、エルドランは笑いながら言い返した。


「まだ三歳だぞ、グリドール。

本気で理解できると思うか。

シグニロスなんて言葉、今のこの子には難しすぎる。」


「ほほほ、だが見てみろ。

子供は、大人が思っている以上に分かっているものだ。

まあいい。

それで、石の話や、このお嬢さんに絆された話をしに来たわけではないだろう?」


グリドールは炉の前に戻り、鉄くずを一つ取り出して、水の張られた樽へ沈めた。

樽の縁に手を置き、ネリアには理解できない言葉を口にする。


「グエルグルク・ティルケロス・ペルモネーテ。」


樽の水が、霜のような淡い青に光った。

急激な温度変化により、金属は一気に冷え、暗い色へと変わっていく。


ネリアはさらに近づき、その光景に目を輝かせた。

そっと樽に手を置き、グリドールの言葉を、理解していたことを悟られぬよう、心の中だけでなぞる。

だが、何も起こらなかった。


「少し下がれ、ネリア。

危ない。」

エルドランはそう言って、彼女の肩に手を置いた。

「それでな。

今日は注文をしに来た。

何だかんだ言っても、お前は村一番の鍛冶師だからな。

まあ、もてなしは、笑うトロル並みだが。」


その言葉に、グリドールは樽から引き上げた鉄棒を握りしめ、暗い視線をエルドランに向けた。

ネリアは、空気がわずかに張りつめるのを感じた。

だが次の瞬間、二人は同時に声を上げて笑い出した。


「そんなお世辞で値引きを期待してるなら、代わりに値上げしてやるぞ。

それで、何が欲しい。

奥さんに指輪か?

それとも新しい武器か?」

グリドールがそう尋ねた。


「ゼフィラに指輪?

うーん、それはまた今度だな。

今回は、謝るようなことは何もしてない。」

エルドランが答えた。


二人はまた、心から楽しそうに笑い合った。


――助けて。

本気で、この寒い冗談を聞き続けなきゃいけないの?


「いや、冗談はさておきだ。

娘のために剣が欲しい。

長さは七十センチほどで、あまり重くないものがいい。

訓練場には、子供用の装備がなくてな。」


そう言って、エルドランはネリアに視線を落とした。


「おお……なるほど。

ちびっこのためか。」

グリドールが小さく息を漏らした。


彼は鉄くずを金床に戻し、ネリアの方へ歩み寄った。

一瞬のためらいの後、ネリアは父の背後に隠れ、脚にしがみついた。

グリドールは膝をつき、手招きで近づくよう示した。


「手を見せてごらん。

ちゃんと作るには、それが必要だ。

良い剣というのは、使い手にぴったり合うものだからな。」


彼は笑みを浮かべてそう付け加えた。


エルドランは少し横にずれ、ネリアの背に手を置いて安心させ、行くよう促した。

ネリアはそれでもためらいながら、ゆっくりと前に出た。

彼女が差し出した手を、グリドールは丁寧に取り、向きを変えながら何度か確かめる。

そのたびに、小さく「ふむ」と声を漏らした。


「よし、問題ない。

二週間くれれば、仕上げてやろう。」

ネリアの手を離し、彼は続けた。

「代金はな、夕飯に招待してくれ。

ただし、宴だぞ。

いいな。」


「本気か?

食事で払うのが嫌なわけじゃないが、金なら問題なく払えるぞ?」

エルドランは少し戸惑いながら答えた。


「エルドラン、あんたは軍の装備だけで、もう十分すぎるほど払ってる。

それに、娘のためだろう。

ほら、この少し不安そうな顔を見てみろ。

心配するな。

金にも客にも困ってない。

ソルヴァエルの未来の剣士、その始まりを祝わないとな。」


「それなら、ありがたく受け取ろう。

本当に感謝する。

今夜ゼフィラに伝えて、日にちはまた連絡する。

じゃあ、そろそろ行くよ。

遅れてしまう。

ほら、ネリア。

さようなら、だ。」


エルドランはそう言って手を振った。


ネリアも父の真似をして、小さな手を振った。


――私に、剣?

本当に?

すごく……すごく嬉しい。

抱きついてお礼を言いたいけど、それはまずい。

でも……?


彼女は父のズボンをつかみ、軽く引いて注意を引いた。

エルドランが腰を落として目線を合わせた瞬間、ネリアは彼の胸に飛び込んだ。

彼は優しく抱きしめ、そのまま立ち上がる。


「おおお、これはこれは。

パパの抱っこが欲しかったのか?

ママのより、こっちがいいって?

ははは。」

彼は笑いながら言った。

「それ、本人には言うなよ。

知ったら、外で寝かされるからな。」


彼は家々の向こうに姿を見せる訓練場へ向かって歩き出した。

ネリアは彼の肩に頭を預け、その時間を味わった。


――この生活も、悪くない。

優しい両親がいて、ここは穏やかだ。

今はただ、楽しめばいい。

何もかも心配するのは、やめよう。


そう思い、彼女は目を閉じた。


残りの道のりも、エルドランの首に腕を回しながら過ごした。

人々や家々、広がる景色を一つひとつ目に焼きつける。

まだ、知るべきことも、学ぶべきことも山ほどある。

だが今は、この二度目の機会と、今あるものを大切にすればいい。

世界は、もう少し待ってくれてもいい。

彼女が、成長するまで。

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