第22章:永遠の愛へのレクイエム
ネリアが村を離れてから四日が過ぎ、朝日が彼女の寝室を照らしていた。
彼女たちはアーヴァンクール家の屋敷に到着し、温かく迎え入れられていたが、ネリアは到着してからずっと、かすかな緊張を感じ取っていた。
彼女は伸びをしながら目を覚まし、大きくあくびをした。
開け放たれた窓から、鳥のさえずりが彼女の目覚めに寄り添っていた。
やがて起き上がり、身支度を整える。
屋敷の使用人たちは、毎朝彼女の服を用意し、静かに部屋へ置いていってくれていた。
小さな長衣に薄手のタイツ、控えめな靴を身に着け、彼女は食堂へと向かった。
中に入ると、すでに皆が卓を囲んでおり、彼女の姿を見て会話が止んだ。
ネリアは軽く一礼して居合わせた人々に挨拶し、テリシアの隣に腰を下ろした。
一人の給仕が近づき、温かなショコラと果汁飲料を差し出した。
脇には焼き菓子の籠が置かれ、ネリアは遠慮なく一つ手に取り、ショコラに浸した。
「よく眠れた、ネリア。
ロリエッタが言っていたけれど、また昨夜も窓を開けたままだったそうね。
そのうち風邪をひいてしまうわよ」
エリーズ・アーヴァンクールがそう声をかけた。
ネリアは慌てて口の中のものを飲み込み、急いだせいで小さくしゃっくりをした。
「うん。
だって、もしパパとママが来たら、すぐに会いに行けるでしょ」
そう答えたネリアに、エリーズは満面の笑みを向け、夫へと視線を戻して自然に会話を再開した。
テリシアはネリアの頭にそっと手を置き、彼女はまた食べ始める。
「そんなに心配しなくていい。
あなたのお母さんを知っているでしょう。
村中の魔術師を束ねても敵わないほど強い人よ。
それにお父さんも……少し粗暴なところはあるけれど、優秀な隊長だわ。
きっと一瞬たりともあなたのことを忘れていない」
テリシアはそう言った。
ネリアは彼女を見上げ、口いっぱいに牛乳と菓子を頬張ったまま、歪んだ笑みを返した。
その様子にテリシアは笑い出し、ネリアは顔をしかめながら再び杯へと戻った。
「ねえネリア。
今日はロリエッタと一緒に街へ行かないか。
新しい服を買わないといけないし、その美しい髪を手入れする物も必要だ」
アンスウェル・アーヴァンクールがそう尋ねた。
ネリアは勢いよく頷き、外に出られることを思って嬉しそうにした。
急いでショコラを飲み干すと、椅子から飛び降り、自室へと駆けて準備を始めた。
「本当に可愛らしいわ。
こういう時にこそ、子を持てないことが悔やまれるの。
エルドランとゼフィラは、本当に幸運ね」
エリーズは微笑みながら言った。
「君、そんなことを考えるな。
子を持てないのは君のせいじゃない。
大切なのは、私たちが共にいることだ」
アンスウェルが答える。
妻は彼の手を取り、優しく撫でながら、その慰めの言葉に微笑んだ。
「それでも、あの人たちが無事でいるといいのだけれど。
娘と離れているのは、きっとあの人たちにとっても辛いはずよ」
エリーズはそう続けた。
「想像以上にね。
エルドランはネリアを送り出すために厳しく振る舞っていたけれど、離れるのがどれほど重かったか、誰の目にも明らかだった」
テリシアが断言した。
「私が知り合った頃は、剣術の稽古中に居眠りする怠け者だったのに。
まさか、この地で最強になるとは誰が想像しただろうな」
アンスウェルはそう語った。
そんな会話が続く中、エルドランの過去に興味を抱いたテリシアが耳を傾ける一方で、ネリアは自室で身支度をしていた。
衣装箪笥から帽子を取り出し、服に合うか一つずつ試し、ようやく気に入ったものを見つける。
それを被り、他の帽子を元の場所へ戻すと、部屋を出た。
跳ねるような足取りで鼻歌を口ずさみながら食堂へ向かい、出かける準備ができたことを告げるために扉を押し開ける。
再び会話が途切れ、全員の視線が彼女に集まった。
「まあ、見てごらんなさい。
本物の小さなお姫様が、ご登場じゃない」
ネリアは王女に喩えられたことを思い、わずかに頬を赤らめ、楽しげな様子で彼らの方へ歩み寄った。
「ロリエッタ、よければ行ってきなさい。
ネリアが待っている」
アンスウェルは少し声を張って言った。
ロリエッタが部屋に入ってきた。
長い青の衣に、同じ色の帽子を被っている。
彼女はアンスウェルから差し出された封を受け取り、ネリアのもとへ歩み寄って手を差し出した。
二人は部屋を出て、出口へ向かい、大きな螺旋階段を下りていった。
「それで、何がしたい?
よかったら、何か食べに行ってもいいわよ。
二人だけの秘密にして」
ロリエッタは声を少し落として言った。
「街のこと、全然知らないの。
だから、見て回りたいな」
ネリアは嬉しそうに答えた。
二人は屋敷を出て馬車に乗り込んだ。
手綱が空を裂く音を立て、馬車は遠ざかっていく。
テリシアは食堂に残り、アーヴァンクール夫妻と話を続け、再び隊長の過去への興味を募らせていた。
「知っておくといい。
エルドランは最初から尊敬されていたわけじゃない。
とにかく問題児でね、とりわけ両親には手を焼かせていた。
何度、耳を引っ張られて学院を追い出されるところを見たことか」
アンスウェルは笑いながら語った。
「本当ですか。
今では彼が若者たちを叱り飛ばす立場なのに。
どうしてあんなに直截なのか、少し分かった気がします」
テリシアはそう返した。
「夫がエルドランを紹介してくれた時、正直、最初は受け入れがたかったわ。
彼、ずっと私を見ていたの。
まあ……あまり行儀のいい見方ではなかったわね。
ゼフィラと、あの気の強さが彼を正したのよ。
二人が一緒になる前は、本当に手に負えなかった」
エリーズは少し気まずそうに続けた。
「妙に納得してしまいます。
でも、二人はどうやって出会ったんですか。
ゼフィラが冒険者だったことは知っていますが、出会いについては何も知らなくて」
テリシアは尋ねた。
アンスウェルとエリーズは同時にため息をついた。
アンスウェルは水を一口大きく飲み、杯を置いてからテリシアを見た。
「とんでもなく馬鹿げた出会いだった。
エルドランは任務に出ていたが、授業を真面目に聞いていなかったせいで、すべてが破綻した。
泥沼から引きずり出したのがゼフィラだ。
あの日以来、彼は彼女を放さなかった。
初めて、自分を『いい男』として見ない女だったからな」
アンスウェルはそう説明した。
「しかも皮肉なことに、ゼフィラは同じ街の学院で魔術を学んでいたの。
数え切れないほど平手打ちを食らっていたけれど、それでも諦めなかった。
少しずつ、ゼフィラが折れたのだと思うわ。
彼女の気質が、エルドランを少しずつ鎮めていったの」
エリーズが付け加えた。
「だが、正直に言えば、あの手紙には強い違和感を覚える。
確かに彼は無鉄砲だったが、あんな言葉を書いたことは一度もない」
アンスウェルはそう続けた。
沈黙が落ちた。
テリシアは、ネリアが見つけないよう身に忍ばせていた手紙を取り出した。
それを再び差し出し、アンスウェルは広げて、もう一度読み返す。
「どうしても腑に落ちない。
これ、帰るつもりがある者の文面じゃない。
指示書というより、別れの書簡だ。
まるで、もう死んでいるかのように」
彼はそう語った。
一方その頃、ネリアは商人から差し出された氷菓を受け取っていた。
ロリエッタは先に銭を取り出して自分の分を受け取り、ネリアと共に馬車へ向かう。
一日が過ぎるのは早く、二人は笑い合いながら過ごし、袋の中にはネリアの新しい衣が詰まっていた。
「本当にありがとう。
これで、パパとママに見せるものがたくさんできた。
きっと、お金を使わせすぎだって文句を言うだろうけど」
ネリアは笑いながらため息をついた。
「心配しなくていいわ。
その姿を見たら、二人とも目を輝かせるわよ。
自分たちの小さな王女が、こんなに楽しそうなら、きっと喜ぶ」
ロリエッタはそう答えた。
二人は車室に乗り込み、空いた席に袋を置いて腰を下ろした。
ロリエッタが壁を軽く二度叩くと、馬車はゆっくりと動き出した。
「でも、どうしてパパはあなたのことを一度も話してくれなかったんだろう。
なのに、あなたは私のことを知ってたのに」
ネリアはそう尋ねた。
「アーヴァンクール家は目立たない一族だからよ。
そして、あなたのお父さんとお母さんには、彼らについて決して口にしないよう言いつけられていた。
どれほど賢い子でも、ふとした拍子に情報を漏らしてしまうもの。
上級貴族というのはね……どう言えばいいかしら。
あまり気持ちのいい慎重さばかりじゃないの」
ロリエッタはそう説明した。
残りの道中、ネリアは貴族とは何か、身分とは何かを次々と尋ねた。
自分が今まで、そうしたことにまったく興味を持ってこなかったのだと気づく。
それでも心の奥では、父がこれほど重要な人々と繋がっていることが、確かな誇りとして残っていた。
二人は屋敷へと戻った。
ネリアは袋をいくつか抱え、急いで中へ駆け込む。
テリシアに見せたい一心だった。
だが、食堂にも、他の部屋にも彼女の姿はなく、ネリアは自室へ向かい、荷物を置いた。
見せるのは後にしよう、とそう決める。
ネリアは袋から衣を取り出し、丁寧に寝台の上へ並べた。
今夜、どれを着るべきか。
綺麗な装いを選びたかった。
アーヴァンクール家が、金を使ったことを後悔しないように。
彼女は着替え、濃紺の衣を身に纏った。
袖は肘の上まで伸び、縁は細やかな刺繍の絹で仕立てられている。
丈は膝まであり、下に薄手のタイツを履き、同じ青に乳白色の縁取りが施された小さな靴を履いた。
鏡の前でくるりと一回りし、自分の選択に満足そうに微笑む。
それから寝台脇の小さな卓へ行き、引き出しを開けた。
五歳の誕生日に、母がくれた髪留めを取り出す。
「色は合ってるけど……ちょっと暗すぎるかな」
そう呟いた、その時だった。
窓の外から音がした。
木製の車輪と、蹄がゆっくりと地を叩く音。
ネリアは弾かれるように窓へ駆け寄った。
荷車から、一人の男が降りるのが見えた。
それ以上考えることはなかった。
ネリアは部屋を飛び出した。
階段を駆け下りる途中、使用人の一人が呼び止めようとする。
「ネリア、戻りなさい。
あなたは――」
言いかけて、舌打ちする。
「くそ……あの馬鹿が、荷車を置いたまま執務室へ向かうなんて」
女はアンスウェルの執務室へ走り、扉を叩くこともなく中へ入った。
そこでは、テリシア、エリーズ、アンスウェルが、たった今到着した男と話していた。
彼は、エルドランとゼフィラの遺体を運んできたのだと告げていた。
「理由を聞かせてもらおうか。
なぜ断りもなく入ってきた。
私は君に――」
アンスウェルが憤る。
「そんな時間ありません、旦那様。
あの子が……ネリアが、ものすごい勢いで下に。
わ、私、止められなくて……すぐお知らせしないとと思って」
息を切らしながら、女は答えた。
その場の空気が凍りついた。
誰もが、言葉の意味を拒むように立ち尽くす。
テリシアが弾かれたように立ち上がり、部屋を飛び出した。
外では、ネリアがすでに馬の前まで辿り着いていた。
胸が激しく打つ。
両親かもしれない、という期待だけが彼女を前へ進ませる。
手には、先ほどまで握っていた髪留めがあった。
「後ろに人が見えたもん。
きっと疲れて、起き上がれないだけ……」
彼女は小さく囁いた。
荷車の後ろへ回る。
布がかけられた人影。
その下から、不自然に伸びた手が見えた。
ネリアは空いた手でその薄汚れた布を掴み、引き寄せる。
布は地面へ落ちた。
目に映った光景が、彼女の息を奪った。
心臓が、その瞬間に止まったかのようだった。
ネリアは近づき、荷車から垂れたゼフィラの手に触れる。
氷のように冷たい。
血の気を失った肌は、異様な白さを帯びていた。
その隣に、もう一人。
だが、誰なのか分からなかった。
裂傷に覆われ、肉を失った身体は、もはや判別できる形を留めていなかった。
「マ……ママ?
なんで、変な人と一緒に寝てるの。
臭いし……ほら、起きて。
このままじゃ、病気になっちゃうよ」
ネリアは、目の前を拒むような、柔らかな声でそう言った。
返事はなかった。
震える手で、彼女はゼフィラの手を掴み、起こそうとして引いた。
小さな力にもかかわらず、奇妙な音がした。
乾いた、鈍い音。
硬直した腕が、無理に引かれたことで軋んだのだ。
「お願い、来て……。
上には、ふかふかのベッドがあるの。
後でいくらでも寝ていいから……。
手、こんなに冷たいよ」
自分でも気づかぬまま、声は震えていた。
その時、屋敷の扉が激しく開いた。
テリシアが駆け出し、荷車の周りを回り込む。
彼女はネリアの手首を掴み、髪留めを握ったままのその手を引き離し、強く抱き寄せて視界を塞いだ。
だが、ネリアは抵抗した。
「離して、テリシア。
ママを起こさないと。
病気になっちゃう。
なんで、あんな変な人の隣にいるの」
そう言って、彼女は必死に押し返す。
「ネリア、やめて。
あの人は……もう、目を覚まさない。
一緒に戻ろう。
ちゃんと、話すから」
テリシアはそう答えた。
「いや。
なんでそんなこと言うの。
どうしてそんなに意地悪なの。
ママ、約束したもん。
帰ってくるって……ほら、帰ってきたじゃない」
ネリアの声は、次第に高くなっていく。
やがて、他の者たちも外へ出てきた。
アンスウェルとエリーズが合流し、荷車の後ろを見た瞬間、エリーズは即座に顔を背けた。
テリシアはネリアの両腕を強く掴み、振り向かせないようにする。
「ネリア、お願い。
戻ろう。
あとは、大人に任せて」
必死に、平静を保とうとしながら、テリシアは繰り返した。
「いや。
行かない。
ひどいことばっかり言う。
今すぐ離して。
助けないなら、私がやる」
ネリアは怒鳴った。
彼女は暴れ、テリシアの拘束を振りほどいた。
再び荷車へ向かおうとして振り返った瞬間、足を取られ、地面に倒れ込む。
転倒の拍子に、反射的に何かに掴まろうとした手が、髪留めを放した。
地面に落ちたそれは、砕けた。
埋め込まれていた小鳥の飾りが、いくつもの破片に割れて散らばる。
ネリアはそれを見つめ、涙を溢れさせた。
慌てて、地面に這いつくばり、破片を集める。
「だめ……だめ……。
ごめんなさい、ママ。
壊すつもりじゃなかった……」
小さな声で、そう呟く。
彼女が欠片をかき集める間、テリシアたちは、どう振る舞えばいいのか分からず、立ち尽くしていた。
「……あれが、本当にエルドランなのか。
一体、何があった。
どうすれば、ここまで残酷になれる」
アンスウェルが、絞り出すように言った。
ネリアは、壊れた髪留めを握ったまま立ち上がり、アンスウェルを睨みつけ、再び荷車へと視線を戻した。
「黙って。
そんなこと言わないで。
あれはパパじゃない。
パパは来るの。
私たちを、家に連れて帰る。
そんなこと言うなんて、ひどい。
全部、言いつけるから」
ネリアは叫んだ。
それ以上、彼らの言葉に耐えられず、彼女は走り出した。
涙で視界は滲み、足元もおぼつかない。
テリシアはすぐに追いかけ、遺体の前に残された者たちを後にした。
「……す、すみません。
私のせいです。
すべて……」
遺体を運んできた男が、俯いて言った。
「謝らなくていい。
ここへ来させたのは、こちらの判断だ。
いずれ、見せなければならなかった。
……もう少し、形が残っていればよかったがな」
アンスウェルはそう答えた。
「追いかけた方がいいのでは?
あの臭いの中、あそこまで近づけたことも信じられないし……。
それに、お父親のあの姿を見て……」
エリーズが不安げに言う。
「いや。
テリシアに任せよう。
彼女なら対処できる。
我々は、あの子にとって他人だ」
アンスウェルはそう結論づけた。
夜が落ち、沈黙が辺りを包んだ。
誰の顔にも疲労と衝撃が刻まれ、立ち続けるだけでも力を要するようだった。
時が止まったかのように、誰一人、動かなかった。
ネリアは森の奥へと走り続けた。
振り返ることはしない。
木々の間に、テリシアの呼ぶ声が響く。
やがて、握りしめていた髪留めの破片が、指の隙間から零れ落ちた。
それでも彼女は止まらず、ただ、遠くへ逃げることだけを考えていた。
第一巻 完
気に入っていただけましたか?
穏やかで、喜びに満ちた日々でしたね。
魔法や英雄がすべてを救うとお思いでしたか?
あなた方が目にしたのは、物語のほんの序章にすぎません。
地獄は深淵へ至るための一段階に過ぎず、私はその扉をわずかに押し開けただけ。
闇は、ときに炎よりもなお恐ろしいのです。




