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灰焔の残響の中で (R16)  作者: Wolfy-UG6
第1巻 ― 再生の残り火
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第19章:希望の息吹

破城槌が門を打ち据える音が鳴り響き、ソルヴァエルの兵たちは、いつ何が現れるのか分からぬ恐怖に身を震わせていた。

その間を縫うように一人の兵が駆け、素早くエルドランのもとへ近づく。


「隊長、数名の村人は避難させましたが……多くが立ち退きを拒んでいます。

説明はしましたが、軍が自分たちを害するとは信じようとしません。」


「嘘だろ、今それは要らん。

子どもは残っているのか。

どんな手段を使ってでも避難させろ、必要なら親から引き離してでもだ。」


「はい、隊長。

まだ子どもはいます。

命令を伝えます。」


兵は慌ただしく走り去った。

その直後、木材が軋む音が響き、槍を地面に打ち鳴らす音が太鼓のように重なる。

最後の衝撃とともに門はついに砕け、破城槌の頭部が瓦礫の中から引き抜かれた。

その向こうには、盾を構えた兵の列が、果てしなく広がっていた。


「ゼフィラ、避難を手伝え。

お前はもう限界だ。

村人を助けて、一緒に退け。」


「避難はさせる。

でも、あんたを置いて逃げる気はない、馬鹿。

これを一人で背負わせるつもりはないわ。」


彼女は苦しげに立ち上がり、村の方へ向かった。

エルドランは兜を被り、剣を抜くと、それを高く掲げて兵たちに備えを命じる。


「兵士たちよ、戦えとは強制しない。

逃げる選択をしても、俺は理解する。

だが残るなら、誓いを思い出せ。

できる限り、村人を守れ。」


再び角笛が鳴り、敵兵たちは盾を正し、隊列を組んで中庭へ進み出る。

エルドランは最後に自軍の兵を振り返り、微かな笑みを向けると、稲妻のように姿を消した。


その刃は一人の敵兵を貫いた。

エルドランの速度に、相手は反応する暇すらなかった。

彼は即座に剣を引き抜き、空を裂いて、別の兵の兜を断ち割る。

虚ろな眼が転がり落ち、そこには空の骸だけが残った。


それを見て、ソルヴァエルの兵たちも動き出した。

剣を抜き、一斉に突撃する。

金属の激突音が鳴り響き、他の音はすべて押し潰された。


一方、ゼフィラは市場のある村の中庭を横切っていた。

風に運ばれた火の粉が家々に降り注ぎ、すでに火が回った建物もある。

濃い煙に満たされた家屋から、残っていた村人たちが否応なく外へ追い出されていた。


「何をしているの。

あいつらが遊びで戦ってると思ってるの。

今すぐ出て行きなさい、愚か者。

祈ったところで、戦争はあなたたちを見逃さない。」


通りに集まった村人たちは、悲しげな目で彼女を見た。

ようやく理解し、動き出す者もいれば、立ち尽くしたままの者もいる。

神に助けを乞い、膝をつく家族へ向かう途中、ゼフィラは年老いた男が家畜を連れ出そうとしているのを見た。


「何をしてるの。

今は獣の世話をしてる場合じゃない。

囲いを開けて、勝手に逃がしなさい。」


だが男は答えず、革紐で牛を繋ぎ続けていた。

ゼフィラは近づき、その腕を掴んで動きを止める。


「離せ、この汚らわしい魔女め。

お前の言葉一つで、俺の獣を死なせる気はない。」


「魔女?

向こうの音が聞こえないの。

時間はもう贅沢品よ、老いぼれ。

命はあなたの所有物じゃない。

年を取っていようと、死は容赦しない。

誰かを救いたいなら、子どもたちの避難を手伝いなさい。」


男は荒々しく体を振り、ゼフィラは手を放さざるを得なかった。

彼女は目を伏せ、考えを改めるのを諦め、通りの中央で動けずにいる一家へ向かう。

だが、術の疲労が彼女を蝕み、足取りは不確かになり、倒れまいと必死に抗っていた。


「今は倒れるな、まだ早い。

ここから人を出さなきゃ……」


自分に言い聞かせるように、彼女はそう呟いた。


だが家族へ近づこうとしたその時、息を切らした衛兵の一人が駆け寄ってきた。


「や……奴らが……。

城壁に穴を開けました。

もう村の中に入ってきています。

全員を逃がす時間は……ありません……」


「最悪ね。

運命が本気で私たちを潰しにきてるらしい。

できるだけ多くを避難させて。

私は時間を稼ぐ、少しでも。」


彼女は続けて尋ねた。


「……どこに、突破口が?」


男が指し示した方向へ、ゼフィラは歩き出した。

拳を握り締め、疲労を考えないようにしながら。


だが路地を曲がった瞬間、下卑た笑い声が耳に届いた。

そこには敵兵が五人、そしてその前に一家がいた。

父親は無残に打ち据えられ、すでに息絶え、地面に横たわっている。


その傍らで、子どもが声を上げて泣き叫び、父の名を呼びながら起き上がるよう懇願していた。

兵たちは母親を持ち上げ、乱暴に家の中へ押し込む。


「そのクソガキを黙らせろ。

あれが喚いてたら、どうやって楽しめってんだ。」


兵の一人がそう吐き捨てた。


一人が家から出てきて、子どもの方へ向かう。

ゼフィラは壁に手をつき、体を支えながら立っていた。

右手に魔力を集めようとするが、何の感覚も返ってこない。


「……今じゃない。

お願い、こんな時に裏切らないで。

応えて……」


声は掠れ、震えていた。


子どもの前に立った男は剣を抜いた。

ゼフィラは無理に力を引き出そうとする。

走って助けに行くこともできないと分かっていながら。


だが、何も起こらなかった。

先の術で、彼女は完全に空になっていた。


粘ついた音が耳に届いた。

次の瞬間、子どもの泣き声は途切れた。


止めなければと叫ぼうとした。

だが声は出ず、ゼフィラは壁の角にもたれ、座り込む。

両手で顔を覆った。


「どうして……。

どうして今なの……。

一番必要な時に、どうしてこんなに……」


その場に、彼女はしばらく動けずにいた。

家の中からは、女の叫び声が次第に大きくなっていく。

だが体は言うことをきかず、意志そのものが抜け落ちたようだった。


「……エルドランを……探さなきゃ。

助けられるのは……あの人しかいない。

私は……彼が必要……」


低く、か細い声だった。


彼女は何とか立ち上がる。

あちこちで悲鳴と笑い声が交錯していた。

通りを抜けた先で、彼女は立ち止まる。


村の衛兵一人が、敵の巡回に囲まれていた。

彼は武器を捨て、膝をついている。


「や、やめてくれ。

俺は……あいつらの仲間じゃない。

王国に仕えているだけだ。

邪魔はしない、手伝う……」


地に伏したまま、必死に訴える。


ゼフィラはその顔を認識した。

かつて彼女を罵り、事が起きる前に差し出そうとした男。


「俺たちに?

手伝うだと?

はははは。

どうやら状況が分かってねえな。

俺たちは支配しに来たんじゃない。

滅ぼしに来たんだ。

自分の村を裏切って仲間入り?

都合のいい方に尻尾を振るだけの犬だ。

裏切り者は要らねえ。」


冷たく言い放たれる。


衛兵が言い返す間もなく、刃が喉を貫いた。

一息の動作で、男は笑いながら斬り払う。

首が転がり、開いた口と虚ろな目だけが、地面に残った。


「さあ、続けるぞ。

好きにやれ。

こんな風に味わえる機会は、そう多くねえからな。」


兵はそう言い残し、去っていった。


ゼフィラは物陰に身を潜め、兵たちが離れるのを待つ。

そして再び、正門の方へと歩き出した。


だが進むにつれ、視界が滲み、足取りは重くなる。

悲鳴と笑い声、血の匂いが空気を満たし、頭が回り始めていた。


遠くから、さらなる懇願の声が聞こえてきた。

泣き声と笑い声が混じり合い、精神を少しずつ削っていく。


「ママ、起きて……お願い。

どうして動かないの、ママ。

おじさんたち、また来ちゃうよ……」


ゼフィラの近くで、幼い子どもの声が響いた。


「おい、こっちは年増を見つけたぞ。

連れてくからな。」


男の声が、無遠慮に割り込む。


「いや、やめて、離して。

ママ、ママ……お願い、助けて……」


少女の叫び。


ゼフィラは耳を塞いだ。

これ以上、耐えられなかった。

吐き気をこらえながら、ただ前へ進む。


不思議なほど道は開けていた。

誰ともすれ違わない。

まるで皆、別の場所で忙殺されているかのように。


やがて彼女は城壁に辿り着き、それに沿って大門へ向かった。

だが、そこで強烈な違和感に襲われる。


静寂。

金属のぶつかる音が、もう聞こえない。


体の抗議を無視して足を速め、村の入口に辿り着いた瞬間、光景が彼女を打ち据えた。

無数の死体が、地面を埋め尽くしていた。


立ち上る臭気に耐えきれず、膝をつく。

胃の中のものを吐き出し、目の前の現実に身体が拒絶反応を示す。


彼女は顔を上げ、口元を拭った。

苦い味が喉に残り、唾を飲み込むのも困難だった。


そして視線を平原へ向ける。

煙が空を覆い尽くし、炎が歪んだ光で景色を照らしている。


その中に、エルドランがいた。

まだ立っている。

たった一人で。

彼の前には、数え切れぬほどの兵。


傍にいなくとも、ゼフィラには分かった。

彼は限界だった。


エルドランは剣に体を預け、今にも崩れそうに立っている。

その周囲で、敵兵たちは笑っていた。


王が一定の距離を保ったまま近づき、満足げな笑みを浮かべる。


「望み通りだろう。

見てみろ、お前の愚行が生んだ結果を。

選択肢は与えた。

さあ、これがその答えだ。」


冷えた声だった。


「選択だと……。

受け入れていようが、貴様らは殺していた。

この軍勢を率いてきた時点で、最初から決まっていたはずだ……」


エルドランは息を切らしながら答える。


「もういい。

貴様の戯言には飽き飽きだ。

だが、言葉もここまでだな。

探していたものが、どうやら見つかった。」


王は、エルドランの背後へ視線を移した。


エルドランは振り返る。

そこには、死体と血に足を取られながら、這うように近づくゼフィラの姿があった。


彼は手を伸ばす。

だが、力は残っていない。


「二人とも捕らえろ。

もう終わりにする。」


王の命令が落ちた。


兵の一人がエルドランに近づき、剣を奪い、柄頭でこめかみを打ち据える。

激戦と疲労の中、視界は一瞬で暗転した。

彼は崩れ落ち、地面に倒れる。


荒い呼吸だけが、まだ生きている証だった。


「エルドラン……!」


ゼフィラの叫びは、絶望に歪んでいた。


最後の望みを込めて手を伸ばした瞬間、腹部に激痛が走る。

息が詰まった。


王の兵が近づいており、容赦なく蹴りを叩き込んでいた。

その手には、槍。


「……ごめんね、ネリア。

約束は……守れそうにない。

幸せでいて。

生きて……自分を誇りなさい……」


か細い声だった。


そこで、彼女の意識は途切れた。

闇がすべてを包み込み、世界は消えていく。

ようやく訪れた静寂が、彼女の心を解放した。

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