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灰焔の残響の中で (R16)  作者: Wolfy-UG6
第1巻 ― 再生の残り火
14/21

第13章:必要な旅立ち

数日後。

森を抜ける朝の光が差し込み始めたころ、ネリアは胸を弾ませて目を覚ました。


(やっとこの日だ。

はやく来てほしい。

はやく、まなびたい。)


彼女は急いで着替え、部屋を出た。

両親の寝室の前を通る。

まだ眠っている。

エルドランの荒い鼾だけが静けさを破っていた。

ネリアはそのまま台所へ向かう。


「はぁ……ちいさいって、ほんとにたいへん。

うえのたな、とどかない……。

でもママはおこさない。

きのうもパパとおそくまで、はなしてたもん。」


小さく呟く。


彼女は卓に座り、籠の果実を一つ取り、かじりながら待った。


やがて一刻ほどが過ぎ、両親の寝室から物音がし始める。

ほどなくゼフィラが寝間着姿で出てきた。


「ネリア、もう起きているの?

まだ早すぎるわよ。

どれくらい前から?」


目をこすりながら尋ねる。


「ち……ちがうの。

ちょっとだけ、おなかすいただけ。」


ネリアは答えた。


ゼフィラは歩み寄り、娘の頭頂に口づける。


「もっと上手に嘘をつけるようにならないとね。」


ため息をつく。


「何か作ってあげる。

お父さんを起こしてきて。」


ネリアは椅子から降り、忍び足で寝室へ向かう。

鼾は相変わらず響いている。

音を立てぬよう近づき、身をかがめ――勢いよく飛びついた。


エルドランは跳ね起き、ネリアを落としかける。

だが反射的に抱き止めた。

ネリアは声を上げて笑う。

彼は彼女を膝に座らせ、目をこすり、何度も瞬きをした。


「パパ、ママが、はやくおきてって。」


ネリアはぴょんと跳ねる。


「まったく……お前の母さんは魔女だな。

娘を使って拷問とは。」


欠伸をかみ殺す。


「魔女ですって?」


壁にもたれていたゼフィラが言う。


「今日はかわいい娘はいないわよ。

どれだけ魔女か、思い知らせてあげましょうか。

ネリア、牛乳よ。」


ネリアはすぐに降り、母のもとへ。

二人は卓へ戻る。

湯気立つ牛乳が彼女の体をゆるめる。

ゼフィラは小さな菓子を並べた。


「ママ、はちみつのやつ、ほしい。

おねがい。」


首を傾げ、唇をきゅっと結び、甘える目を向ける。


ゼフィラは大きく息を吐き、立ち上がる。

戸棚から〈黄金の月〉を取り出した。

先ほど届かなかった菓子だ。


「また作らなきゃね。

食いしん坊さん。

その顔がいつも通じると思わないことよ。

お父さんほど単純じゃないわ。」


卓に置く。


ネリアは〈黄金の月〉を牛乳に浸す。

そこへエルドランが来て、隣に座った。


「俺には牛乳はないのか?

たまには子供に戻りたいものだ。

俺も甘やかしてくれ。」


からかう。


「まあ、王子様。

口移しで食べさせましょうか?

雛のように。」


ゼフィラは返す。


「ネリアを着替えさせるわ。

もうすぐ来るはずよ。」


彼女は手を差し出す。

ネリアは椅子から降り、頬をふくらませたまま最後の一口を噛む。


ゼフィラは軽い上着に柔らかな上衣を重ね、厚手の脚衣を履かせ、長い裙と高い靴を履かせた。


「言うことをよく聞いて、ウェンズワースから離れないこと。

思っていたほど彼を知らなかったとしても、一人でいるより安全よ。」


真剣な声だった。


「うん。

きをつける。

やくそく。」


ネリアは答える。


ちょうどその時、戸口の小さな鈴が鳴った。


エルドランが開け、ウェンズワースを迎え入れる。


「座れ。

すぐ来る。

何か飲むか。」


冷ややかな口調。


ウェンズワースは腰を下ろし、ため息をつく。

エルドランは小瓶を取り出し、二つの杯に注いだ。

一つを差し出し、自分も口をつける。


「まだ受け入れられないか。

娘が俺を選んだこと。

だが忘れるな。

お前にはある。

俺にはないものが。

剣を教えられるのは、お前だ。」


ウェンズワースは言う。


「剣で思い出した。

三歳の祝いに作ったやつを渡そう。

扱い方を教えてやってくれ。

認めたくはないが、魔法はお前の方が詳しい。」


エルドランはネリアの部屋へ向かった。


廊下へ出たところで、ゼフィラとネリアが戻ってくる。

ネリアは手を振った。

卓にはプルネルの香りが漂う。


「本当に直らないわね。

苛立つとすぐ酒。

強いのが救いだけれど。」


ゼフィラは鼻をしかめる。


「責められはせん。

嘘をついた男に娘を預けるのだ。

何も感じぬ親の方が異常だ。」


ウェンズワースは杯を置いた。


「言い方がいつも真っ直ぐすぎるのよ。

たまに戸惑うわ。」


ゼフィラは小さく息をついた。


エルドランは台所へ戻り、まっすぐウェンズワースのもとへ歩み寄ると、剣を包んだ布を差し出した。

結び目を解き、布を外し、ネリアに贈られた刃を露わにする。

数秒それを見つめてから、卓の上に置いた。


「これはまた、たいした贈り物だな。

鋼を強化し、大量のマナを受け入れられるようにするエルフのルーン刻印。

そう簡単に手に入る代物ではない。

かなりの値がしたのではないか。」


ウェンズワースは剣を収めながら言った。


「いや、そうでもない。

村の鍛冶屋がくれたんだ。

見たときはやり過ぎだと言ったが、聞き入れなかった。

だが……今となっては、あの子が使えるのか分からない。」


ゼフィラが説明する。


「だからお前に預ける。

使えるかどうか見極められるのはお前だ。

強化の理屈は分かるが、暴走した時……俺では対処できるか自信がない。」


エルドランが続けた。


ウェンズワースは杯を空け、椅子から立ち上がる。

エルドランとゼフィラを見た。


「では行く。

人目のない場所まで離れねばならん。

無事に返す。

信じてくれ。

少なくとも……可能な限りはな。」


笑いながら言った。


ネリアは椅子から降り、両親のもとへ向かう。

一人ずつ抱きしめた。


「言ったこと、忘れないで。

彼から離れないのよ。」


ゼフィラは抱擁を解きながら言う。


彼女も立ち上がり、小さな袋を差し出した。

ネリアが中を見ると、着替えが入っている。

ゼフィラは戸口まで付き添い、外套を着せ、口づけた。

そして背筋を伸ばし、ウェンズワースを見る。


「必ず守って。

あなたほどの魔導士ではないけれど、娘を託すの。

冗談では済まないわ。」


冷ややかな静けさを帯びた声だった。


ウェンズワースは扉を開け、ネリアに外へ出るよう合図する。

続いて外に出て、ゼフィラとエルドランへ向き直った。


「何度でも言うが、問題ない。

心配はいらん。

何かあれば、すぐ知らせる。」


そう言ってからネリアを見る。


「行くぞ。

道は長い。」


ネリアは満面の笑みを向け、歩き出す。

門を抜ける前に振り返り、大きく手を振った。

エルドランとゼフィラは姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。


「しばらく、長く感じるだろうな。

どうしてこうも、ことごとく狂う。」


エルドランは寂しげに言う。


「分かっていたはずよ。

あれほど可愛くて、小さな魅力の使い方まで覚えてしまった子が、普通でいられるわけがない。

あの子は成長する。

止められない。

だから、できる限り支えるしかないの。」


ゼフィラは答えた。


「分かっている……。

だが、もう少しだけ、あのままでいてほしい。」


エルドランは言った。


ゼフィラは家の中へ戻る。

エルドランは戸口に立ち、虚ろな目で庭を見つめ続けた。

数分後、咳払いが彼の注意を引く。

廊下の角から、ゼフィラが顔を出し、微笑んでいる。


「変えられないことよ。

でも、久しぶりに二人きり。

少し楽しんだらどう?

もう気を遣う必要はないでしょう。」


ウインクした。


彼女は腰を揺らしながら廊下を進む。

それを見て、エルドランは間の抜けた笑みを浮かべた。


「話を逸らすのが早いな、我が妻よ。

その魔女の力で欲を煽るとは……まったく、恐ろしい。」


家の中へ入る。


「認めなさい。

この身体には逆らえないのでしょう。

温めてくれないと、凍えてしまうわ。」


囁きながら近づく。


エルドランは何も言わず、ゼフィラの頬に手を添えて口づける。

そのまま抱き上げ、寝室へ向かった。


一方その頃、ネリアとウェンズワースは小さな馬車で既に道を進んでいた。


「それで、どこへ行くの?

数日でも離れられるの、楽しみ。

やっと普通に話せる。

子供らしく振る舞っているか考えなくていい。」


ネリアは弾んだ声で言う。


「気持ちは分かる。

だが正直、奇妙でもある。

その小さな身体で、淀みなく話されるとな。

慣れんものだ。」


ウェンズワースは答えた。


「隠すの、大変だった。

最初は本当に苦労した。

頭の中ははっきりしているから、何度も普通に話しそうになった。

でも失敗しても、気づかれてはいないと思う。」


ネリアは説明する。


「そうだろう。

お前はあの二人の娘だ。

それは変わらん。

たとえ我らがこの地の者でなくとも、身体は確かに親から生まれたもの――」


ウェンズワースが言いかける。


「だめ。

そこまで。

両親がそういうことしてるところ、想像したくない。

分かってるけど、知りたくない。」


ネリアは顔をしかめて遮った。


ウェンズワースはその言葉に笑い出し、手綱を鋭く打って速度を上げる。

景色は数刻にわたり流れ去り、話題は世界のことへと移っていった。

ネリアは抑えていた好奇心を、ようやく解き放っていた。

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