7.花が咲く~センニチコウを君に~(一期最終話)
「私、蕾のこと好きなんだよね」
親友から突然言われた言葉。
男性から告白された事は何度かあったが、まさか女性から、しかも同僚で幼なじみの彼女から言われるなんて思いもしなかった。
あの時は、またこの人の冗談が始まったぐらいにしか考えていなかったが、まさか両想いにまでなるとは……
ふとカレンダーを見た。
今日は3月7日の金曜日、2日経てば彼女から告白された日からちょうど1年経過ことになる。
カレンダーの3月9日に大きく【告白記念日】と書いた。
私は言われた方だから覚えているけど、彼女の方はどうなのだろう……そう考えてしまう。
今は多分彼女よりも私の方が好意を寄せているだろう。
それなら私からディナーとかに誘ったほうがいいのでは?
でも、それは何か違う気がする、彼女から告白してきたのがきっかけで作られた記念日なのだ。
だから彼女から何か言われるまで何も言わないでおこう……1人そんな事を考えながら、いつものように出社する。
「おはようございます!」
本庄さんが笑顔で挨拶してくれた。
昨年発売されたD社の飲料が若者にうけ、それがSNSで拡散されていき、ついには流行語大賞にノミネートするほど話題になっていた。
その影響で会社の売上は上がり、私達の課にも新しく仕事が舞い込むようになって、朝は課長を除く2人で作業していたが、今年から3人で作業することになった。
夕勤で出社していた本庄さんも朝へシフトが代わり、私とカレンに加え彼女も同じ時間に仕事をするようになったのだ。
軽くおはようと返すと、私の隣にいるカレンが真面目に仕事をしていた。
去年の働きが評価され、新しく業務を振り分けられたのだが、かなりの量あるらしく彼女は毎日のように私に文句を言ってきていた。
むしろ他の会社ではこれくらいの業務量が普通なのだと思うが、楽を知ってしまっている私達には激務に感じる。
カレンは、パソコンを操作しながら目線をチラッとこちらに向けると、おはよう。と軽く挨拶してくる。
だらけきっていた時を知っているとまるで別人だ、そう思い席に着きパソコンを立ち上げると、個人チャットに本庄さんからメッセージがきた。
この個人チャットは他人には見えないようになっており、あまり表立って言えないような事を発言するのに使用していた。
"お疲れ様です。蕾さんに対してカレンさん何か冷たい感じですけど、ケンカとかされてます?"
傍から見ればケンカしているのか、倦怠期なのかとか、そんな感じに見えるのだろうが、実は違う。
"ケンカはしてないです。仕事中はあまり私と必要以上にベタベタようにしてるんです。休憩中とか仕事が終わった時に、我慢した分甘えたいって前言ってましたから。"
そのチャットを見て本庄さんは笑顔になっている。
"良かったです。今真剣にカレンさん仕事されてますけど、内心、蕾さんと話したいとか甘えたいとか思ってるってわかると、何か可愛いいですねw安心しました。"
返信を見て私も業務に戻る。
隣の子が頑張っているのだから私も負けないように頑張らなければ。
17:30ー
日も落ちて外は暗くなっていた。
本庄さんは定時である17時に退社したのだが私達は少し残業、夕勤の人達はきており、引き継ぎもしたので帰ろうとしていたらカレンから個人チャットが来た。
"私も今仕事終わるから一緒に帰ろう、話があるから"
改めて文章だけの会話が嫌いになる。
言葉のニュアンスと言うのだろうか、怒っているのか、はたまた冗談っぽく言っているのかわからなくなる時がある。このメッセージも捉え方によってはこの後、別れ話を切り出されてもおかしくは無い文章である。
一言"了解"と打つと、私達はほぼ同時に帰る準備をし始めた。
いつもの帰り道、最近は手を繋いで帰ったりしていない。
仲が悪くなったのではなく、ただ歩道が狭く横並びだと邪魔になるからだ。
前に彼女がおり、夜風に流されてふんわりとカレンからいい香りがする……仕事から解放され、2人で帰るこの時間が私は好きだ。1人きりじゃないんだと思えるから。
歩きながらカレンが不意に、失恋……と呟く。
「えっ、いきなりどうしたの?」
ビックリして聞き返してしまった。
「3月9日って曲あったじゃん?あれって卒業ソングとして定番になってるけど、実は失恋ソングなんだって」
「へー初めて聞いた……で、なんで急にそんな話を?」
「3月9日の事、思ってたら何か思い出しちゃってさ。私にとってその日は特別だから……予定、空けといてくれる?」
言われるまでもなく予定は開けている。
その日は記念日だし、大切な人と過ごそうと決めていたからだ。
彼女の問いに頷くと一言そっか、と返ってきた。
前にいて表情は見えないが声のトーンで嬉しくなっているのがわかった。
来る3月9日。
朝、家のチャイムがなり玄関の扉を開けるとラフな格好をした彼女がいた。
おじゃましますと慣れた様子で私の自室がある二階にあがっていった。
私は一階でホットの紅茶を用意し、上にあがる。
部屋の扉を開けると、ピンクのクッションに彼女が腰掛けており、紅茶を差し出すとずずっと音をたてて勢いよく飲んで言う。
「いやー3月なのに外寒かったよー!」
家が隣なのだから外に出る時間なんて少しなのに大袈裟だ。
おつかれと声を掛けると、また紅茶を飲んでおり、外が寒いから家で過ごそうとこの前計画したのが間違いではないと感じた。
「もう1年か……」
そう呟く彼女を見てそうだねと呟き返した。
「今日何の日か覚えててくれたんだ、良かった」
「私から告白したんだから当たり前でしょ?」
「今でもたまに思うんだけど、なんであのタイミングで言ったの?確か仕事中だったよね」
そう言うと彼女は少し俯いて話した。
「……実はね、転職しないかって誘われてたんだ。知り合いがやってる所が人手不足でさ」
「へー……初耳」
「言ってなかったからね。今やってる仕事、やりがいないなーって感じてた時にその話があったから。私から蕾の事誘ったのに私だけ辞めるの気が引けたけどね」
今も同じ職場にいると言うことはその話は無かったことになったのか、もしかして私の返答次第では彼女は転職し、今こうしていなかったのではないか、昔から私の事好きで強引に誘っておいて今更あきらめるのかとか色々考えていたら、カレンは私の方を向いて話を続けた。
「正直、告白……断られると思ってた。断られたら蕾の事諦められると思ったし、吹っ切れて転職出来るとか……まさか保留とは言え受け入れられるとは思ってもみなかったよ」
その時は私の性格上、断りにくかったのも理由にあるが、これから特に何もする予定もなかったし、これだけ真剣に言ってくれているなら考えてやるか!
位の気持ちだった。
そんな適当な理由で返事をしてしまい申し訳なく思って彼女に謝罪してしまった。
首を横に振り、少し笑みを浮かべ嬉しかったよ、と言う彼女の目にはうっすら涙が見えていた。
「本当に嬉しかった……本格的に転職するのやめようって思ったのは蕾が誘ってくれたバスツアーに行った時かな?意外な一面も見れたし、何より凄く楽しかった。あぁ、改めて好きなんだなって感じたし、この人なしの人生は考えられないって……その日に知り合いに電話して転職の誘いに断りいれたんだ」
こうして思うと彼女が私を好きになっていくタイミングと私が彼女を好きになるタイミングがほぼ同じなのだ。
あの時、夢か心の中でカレンとの進行状況を野球の試合に例えて行っていたが、仮にあちらも同じようにカレンだけの中で試合をしていたら同じような試合結果になっていたのではないか。
「そしてさ、しばらくした後に事故とはいえキス……したじゃん?あれは反則技だよね、蕾への好きメーター?って言うのかな、それがMAX100だったのが300ぐらいへ跳ね上がってさ、もうなにがなんだか……
外で待ってる時、私の顔真っ赤だったと思う……」
やはりそうだ、私と彼女は似ている。
最初はコインの裏と表ぐらい違うと思っていたのだが、そうではなかったのだ。
「これからどうしていこっか?」
カレンは優しく言う。
これから……昔から将来の事とかやりたいこともなかったし、告白されてなかったら、なあなあと生きていたと思う。
でも今は違う、1人じゃないから。
「カレン、笑わないで聞いてね……まず、私達の関係を親に報告する。拒絶されて、最悪勘当もあるかも……でもお互い学生でもないし、安定した給料があるんだし新しく新生活をスタートさせられると思ってる。
あとは他の人からの目。
本庄さんみたいに理解してくれる人だけじゃない、絶対私達のこと気持ち悪いとかそう思う人がいる、でも当の本人達が幸せならいいだけ、他の人なんて関係ない。
そして最後に、最後に……」
私はそう言うと前もって用意した紙を彼女に手渡す。
その紙には、女性専用の賃貸物件の情報が載っていた。
「最近ネットで賃貸物件探すようになって、誰かさんと一緒に住めるところあるかなーって……どうかな?」
紙を持っているカレンの手が小刻みに震えており、その目からは大粒の涙が溢れていた。
「私で……いいの……?」
それはこっちが言いたいことだった。
私は笑顔で大きく頷く。
この先どんな困難も越えられる。
大好きな彼女、カレンと一緒なら。
殺風景な部屋。
引っ越してきたばかりのこの部屋には、前の家から荷造りして持ってきたダンボールがいくつか重なってあるだけ。
荷物があらかた片付いたら花でも飾ろうか。
…センニチコウがいい。
センニチコウの花言葉は「永遠の恋」、「色あせぬ恋」
私達にピッタリの言葉だ。
これにて完結とさせて頂きます。
機会がありましたら続編を書く予定です。
しかし、個人的な傾向なのですが物語を続けていくとシリアスになっていく傾向があり、2人の幸せを邪魔したくないとも思っております…
最後まで読んで頂きありがとうございました。
また機会がありましたら、読んで頂けると嬉しいです。