6.違う目線で~カーネーションとシュウメイギク~
「あけましておめでとう!」
早いことにもう年が変わっていた。
仕事は異例の長期休暇があり、12/28~1/12までとなっており、改めて繁忙期頑張った甲斐があったと言うものだ。
年明けを深谷家と鴻巣家で一緒に過ごす、いつ始めたかは覚えていないが毎年の恒例行事となっていた。
テレビを見てワイワイ盛り上がっている両親たちを見て笑顔になる彼女。
その笑顔を見ているとふと昔を思い出す。
最初にあったのは幼稚園に入る前。
引越しの挨拶をするからと、眠っているのを無理やり起こされ鴻巣家に行ったのが出会いだった。
出てきた人は綺麗なお母さんとお父さん、そして彼女、蕾ちゃん。
「私、深谷カレン、よろしく!」
同い年と言うこともあり、元気よく挨拶をしたが彼女は母親の影に隠れ小さく……よろしく……と呟いた。
その声を私は一生忘れることはないと思った。
小学生になった鴻巣蕾ちゃんは相変わらず背が小さく、大人しめであったが、胸も大きく男子から人気があった。
男子からチヤホヤされている様子を見て、周りの女の子グループは無視をしようと考え、実行した。
無視だけでなく直接手をあげたりもしており、その様子を見た私は怒りに震えた。
「蕾ちゃんをいじめるな!」
必死にかばったが、私もイジメの被害に遭うようになる。
ある日の帰り道にて蕾ちゃんは泣きそうに言っていた。
「ごめんね、私のせいで……深谷さんまでいじめられて……私の事かばわなくていいから……」
それからは必死だった。
いかにしてもう一度仲良くできるか。
賄賂も使った……駄菓子を奢ったりしただけだが。
次第に無視もされなくなり、私の傍にいる蕾ちゃんにまで話しかけてくれるようになりイジメもなくなった。
ただ、イジメたりした謝罪が無いことに怒っていた私だったが、
「そ、その……深谷さん……深谷さんが私の為に頑張ってくれたんだよね……えっと、その……ありがとう、カレンちゃん!」
この言葉で私の怒りはどこかに消えていったのだ。
月日は流れ、高校生になった私達。
蕾は頭が良く勉強も出来た。
それに比べ私は赤点ギリギリ、いや、赤点をとる時さえあったぐらいだ。
「蕾って将来やりたいことある?」
「考えてない……大学も薦められてるけどいまいち将来どうしたいって考えられなくて……」
放課後、こんな話をしていたのを思い出す。
蕾なら頭がいいし、東京の大学に行ってしまうのでは……
足りない頭をフル回転させ、ある答えを導き出した。
とある日、教室で寝たフリをしている蕾に私はある資料を持って話しかけた。
「蕾、コレ見て!」
「ん……これって……ここの生徒が就職した履歴一覧のってるやつだよね?」
「そうそう!これどう思う?家から徒歩圏内だし、給料もボーナスもそこそこ!どう?」
「そこそこって……まあいいんじゃない?」
「よし、一緒に受けよう、ここ!」
「て……えぇ!?カレンだけ受けるんじゃないの!?」
そうして蕾を引き止めた。
内心、内定辞退されるかと思ってヒヤヒヤしたが、同じ職場で課も同じ、オマケに席も隣とは運命を感じたなあ。
「なんか考えてる?」
蕾の声で我に返る。
「ううん、なんでもない。昔を思い出してただけ」
「昔……ふうん、別にいいけど。でも他の女性の事とか考えてたら許さないからね」
笑顔なのだが目が笑っていない。
そうこうしているうちに1月5日。
私達は初詣に行っていないことに気がついた。
今なら混んでないからと言う後付けの理由をつけ、私達は2人で行くことにした。
個人的には着付けてもらいたかったが、急な計画でもあったのでお互い私服で行くことにした。
「さっむー」
蕾はコートをはおり、マフラーもしているのに手袋はしておらず、はーっと息をかけ両手を温めている。
雪も今にも降りそうな天気であるのにだ。
「なんで手袋してないの?」
重装備の私に蕾は手繋ぎたいからと恥ずかしげもなく答えた。
公園で告白の答えをもらってから、蕾は私に積極的になっていった。
人前で手を繋ぐのも今は普通にしている。
しょうがない、寒いけど片方だけ脱ぐか。
私は左の手袋を外し、コートのポケットにしまうと彼女の右手を繋いだ。
その繋ぎ方は言わゆる恋人繋ぎと言うものであった。
「えへへ、カレンの手暖かい」
「そう?良かった」
素っ気なく返事するがニヤニヤがお互い止まらない。
今、他人からバカップルと言われても反論は出来そうにない。
そんなバカップル改め私達は神社へ着いて手っ取り早くお参りした。
二礼二拍手一礼
左にいる蕾は長く何かお願いしている。
その顔のなんと可愛いことだか……
お参りを終えて、お互いお守りを選んでいる最中、蕾に先程何をお願いしたか聞いてみた。
「さっき長ーくお願いしてたけど、何お願いしてたの?」
「さっき?……好きな人と一緒に入れますようにってずっとお願いしてた」
そうか、だからお賽銭を500円も入れていたのか。
「蕾って理論派なのにこう言うのは信じるんだねw」
「別にいいじゃん!……それよりもこれ、あげる!」
渡されたのは恋愛成就のお守り。
それを見てまた笑いがこみあげてきた。
「カレン、おみくじ引いてく?」
「うーん、なんかいいかな、未来は己の手で切り開くべし!みたいな?」
「おー、なんかかっこいいかも……!」
そんな話をしていると遠くから小さな女の子が私達の元に駆け寄ってきた。
よく見ると、ピンクの着物を着たカナタちゃん……カナっちだった。
「お二人共、あけましておめでとうございます!」
丁寧に頭を下げ、挨拶をしてくれた。
「あけましておめでとう、カナっち!着物似合ってるねー」
「そうですか?ありがとうございます!友達とすいてる時に来ようって約束してて、近くのお店で着付けてもらったんです。お二人はご一緒で……」
そう言いかけると目線を下に落とし、手を繋いでるのが見え、明らかに動揺している。
その様子を見て蕾もしまったと思い手を離そうとするが、その手をぎゅっと握り逃がさないようにした。
「私達付き合ってるの」
……言った、言ってやった。
こう言える日を何年待ったことか。
達成感でこの先何が起きてもいいとさえおもっていた。
蕾も観念したのか、手を握り返してきた。
「以前から仲良いなーとは思っていましたが……あ!私、そう言うのに偏見とか持ってないですからね!
そのーいつからお付き合いを……」
アワアワと焦りながら言うカナっちに私は自信をもって、出会った時からと答えた。
言った瞬間、引かれたかなと思い蕾のほうを向くと、くすくすと静かに笑っており、可愛いの感想以外出てこなかった。
「羨ましいです、お二人が……」
「そう?本庄さんだって可愛いし、恋愛もできるんじゃない?」
「……お二人の前だから言いますけど、私、アセクシュアルなんです」
アセク……何?と蕾の方を向くと、理解してるのか真剣な表情になっていた。
「アセクシュアル……他人に対して性的な事に惹かれない事を言って、人によっては恋愛感情とかも薄くなってくと聞いた事あるわ」
「はい……蕾さんは物知りですね。私の場合全く恋愛に興味無いって言うことじゃないんですけど、性的な事とか一度もしたいと思ったことなくて。
男友達ができても、手を出されそうになるとそれまでで……でも、女の子同士だと安心できるし、そっちの方が魅力的に見えたり……人によって違うんでしょうけど、私はそんな感じです」
驚いた。
会社ではそんな素振り見せたこともないのに。
カナっちがこんな思いでいたなんて……それに比べて私はこの子に見せびらかすように手なんてつないで……
そう思っているとカナっちは私達の顔を見た。
「小さい時言われて、もしかしたら変化があるかもしれないとも言われていました。
2人のこと見れて羨ましいって思えるなら、私少しだけど変わっているのかなって。
……お二人のラブラブな話、職場でも聞かせてください!今日の事、誰にも言いませんから!」
そう言うと手を振りながら去っていった。
「蕾……その……」
言葉に詰まっている私に一言、帰ろっかと声を掛けてくれた。
帰り道、なんだか空気が重い。
「カナっち、これからどうして行くんだろう……」
「さあ……本庄さんの人生なんだし私達がどうこう言える問題じゃないと思うし」
「そっか……そうだよね……」
「それよりも手、強く握って恋人発言、すっっっっごく嬉しかった」
重くなった空気を察し、話題を変えてくれたのがわかる。
私がこの人を好きになったのには細かい気配りも出来るところも一つの理由なのだ。
「だって、なんか……ここで言わなきゃ蕾と上手くいかなくなりそうって思って、そしたら自然と行動に出ちゃってた」
「そっか……出会った時から付き合ってたって言ってたけど、それって一目惚れ?」
「……そう、いつの日か秘密って言ってはぐらかしたけどそうだよ……恥ずかしくて言えなかった」
またそっかと呟く蕾、そしてこちらを見て笑顔で言う。
「それじゃ、私と同じだね!」
カーネーションの花言葉…「無垢で深い愛」
シュウメイギクの花言葉…「薄れゆく愛」「淡い思い」