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2-8.彼女らは愛を形に残したい(二期最終話)

 私は見てはいけないものを見てしまった。

 その日は早く仕事が片付いたので課長から上がって良いと16時頃言われる。

 基本定時は17時なので先月ぐらいから夕勤のカレンと会わないで帰っちゃうなと考えながら会社を後にする。

 私が務めている会社では定期的にシフトが朝から夕方になる交代勤務を導入しており、最近はカレンが夕勤にシフトが変更になり新人教育をしているらしく自宅でも時間が合わずあまり話していない。

 最後にまともに話したのっていつだったかな…

 そうだ、早く仕事も終わったし何かプレゼントして話しのネタにしようかな、そう考え自然と駅前の大きなショッピングモールへ足が伸びていた。


 プレゼントなのだが何がいいのだろう、洋服はカレンの方がセンスあるだろうしここは無難に食べ物…あ、そういえば引っ越したら飾ろうとしてた花まだ買ってなかったからそれにしようと花屋へ向かい目的の花を購入した。

 どのタイミングで渡そうかと内心楽しみにしていると見慣れた人を見かけた…あれはカレンに…隣の人は…誰?

 カレンの隣には長身で背中まで伸びた黒髪が綺麗な人がおり談笑しながら歩いている。

 昔から友達も多いし地元の友達と出掛ける事も多かった為、普段は誰かと一緒にいても特段気にしないのだが今日はカレン夕勤だったはず…仕事前に買い物かとも一瞬頭をよぎったが今の時間じゃ始業時間には間に合わない。

 仕事だと私に嘘をついて他の人と出掛ける理由…

 そんな訳ないとは思いつつ彼女たちの後を追ってしまう。

 それにしてもあの美人は誰なんだろう、服装だってシンプルなコーデなのに着こなしている…それにしても2人は楽しそうにしている、最近こんな時間とれてなかったな…

 そんな彼女らが向かった先は宝石店、ここで購入したことはないが何回かは中を見た事があった。

 とても気安く手にできる値段ではなかったのを覚えている。

 物陰から気付かれないように監視していたが、しばらくして店員さんが奥から何か小さな箱を持ってくる。

 あれは指輪を入れるケース…中から指輪が取り出されカレンが同行している女性の指へ指輪をはめている…間違いない、これは"浮気"だ!

 ショックで手に持っていた通勤用のバッグと購入した花を落としそうになる。

 徐々に上がる心拍数、引いていく血の気…

 気がついたら走ってショッピングモールを飛び出していた。

 カレン、私への気持ちは嘘だったの…?


 家に着いたが何もやる気が起きなかった。

 二階の自室へ行く気力もなくしスーツ姿で一階のテーブルに座り自分の腕を枕にして寝ていた。

 さっき見た光景が蘇る…自然と目から涙が静かに流れてくる。

 その時玄関が開く音がしたので慌てて涙を拭って何事もなかったかのように座り直す。

「ただいまー、蕾起きてたんだ…ってまだ着替えてないの?シワになるよー」

 そんな呑気な台詞を吐かれイライラとしていくのが自分でもわかる。

 しばらくして彼女は私の向かい側の席についたので顔を合わせないようそっぽをむいた。

 カレンは不思議そうにしていたが、いつもの調子で手を頬に伸ばしてきたためその手を払い除けるとまた不思議そうに、少し怒っているようにもしている。

「どうしたの、何かあった?」

 "何かあった?"…よく言えるな…仕事だと嘘をつき浮気していたくせに…頭に血が上り勢いよく席を立つと横の席に置いてある先程購入した袋からまだ出されていない花を持って玄関へ向かう。

 待ってよ!と後ろから聞こえるが無視、パンプスを履き出ていこうと玄関の扉に手をかけた所で彼女に肩を捕まれた。

「一体どうしたの…何か嫌なことでもあった?」

「嫌な事…そう、あったわよ…この浮気者!私に触らないで!」

 扉に掛けていた手を離し肩を掴まれていた手を振り払うと、勢いよく家を飛び出した。

 涙が流れるのを止められず、走りながら色々思い出していた、告白してくれたことやデートしたこと、一緒に住める喜びを共有したり、そして…そして…


 日も落ちて街灯に日が灯っていた。

 気が付けばいつもの実家前の公園のベンチに座って放心状態になっていた。

 そういえば何か悩んだりするといつも河川敷に行くってカレンがお父さんの事言っていた。

 私も何かあるとここに来ている事も思い出した。

 ふとスマホを取り出すとカレンから何件も着信履歴があったが全て無視している。

 こんな時悩みを話せるのって…カナタちゃんかな…?

 カナタちゃんにメッセージではなく電話をかけた。

 朝から共に仕事をしていたし寝ているのではと思ったが、電話にはすぐ出てくれた。

 寝る準備をしていたようで申し訳なかったが、先程あったことを全て話す…私が話終えるとカナタちゃんは「そうですか…」と深刻そうに答える。

「思うんですけど勘違い…だと思うんです。

 私も前そのお店でネックレス購入したことあるんですけど他の店と比べて高価だったの覚えてますし、気軽に寄れる所ではないですよね。

 だから蕾さんがそう考えちゃうのわかりますけど、ちゃんとカレンさんと話し合ったんですか?」

「だって仕事って嘘ついて他の人となんて…それ絶対浮気だよ!」

 必死に反論するがカナタちゃんの言う通りだ、何も相手の言い分を聞かず思い込みだけで出ていってしまった。

「絶対浮気じゃないですよ?根拠とかはないですけど…だって2人凄く仲良いしラブラブですし両想いですし…普段からその様子見てると羨ましくなるくらいですから。

 …私も最近好きな人出来ましたけど、そんな風になれたらいいなって思います」

 最後の言葉が衝撃的だったが彼女の声も眠そうになっていたので相談に乗ってくれた事に感謝の言葉を言い通話を終えた。

 ふと空を見上る、この後どうしよう…

 その時だった、誰かの足音がこちらへ向かってくると、ザッと音を立て息を切らしてその人は私の横に止まった。

「探したよ…はぁはぁ…ここかなとは思ったけどやっぱりね…電話出てよもうー…」

 その人の透き通るような声を聞くと昔から安心したが今はそう感じない。

 空を見上げるのを止め「なんの用?」と不機嫌そうに彼女の方を向き、ショッピングモールで見た事を話すと驚いた様子だった。

「あれ、新しい好きな人?

 綺麗だったよ、後ろから見てたけど楽しそうで凄くお似合いだった…私の事なんてもうどうでもいいんだよね…」

 俯いてまた涙があふれる、先程勘違いかもと言われて少し納得したと思ったのにそんな言葉しか出てこなかった。

 しばらくした後、不意に私の名前を呼ばれたので目線を向けるとカレンも泣いていた。

「どうでもいい訳ないでしょ…蕾の事どうでもいいって思うならパパに勘当されてまで一緒にならないよ、バカ…」

 大粒の涙を自分の腕で拭いながら言っていた。

 大切な事を忘れていた、カレンは私と一緒になる時にお父さんとの関係を絶ったんだ。

 そこまでしてくれたのに浮気なんてありえない、こんな大事な事に今更気が付くなんて…

 感情とは思考をゆうに超え行動へと移させると実感する。

 しばらくお互い泣いていたが落ち着いてきたので仕事だと嘘をついて出掛けてたこと、一緒にいた人は誰なのか、指輪の件も聞いたが全て勘違いだった。

「仕事だと思ってたんだけど確認したら休みでさ、ちょうど友達から連絡あって…てか高校の時一緒だったから蕾も知ってる人だと思うんだけど…まぁいいか。

 そんでその友達が結婚するからって指輪選ぶの手伝ってた訳」

 なんだそんなことか…肩から、いや全身から力が抜けた。

 その様子を見てクスクスとカレンは笑っている。

「浮気だなんてするはずないのに…ヤバ、めっちゃ面白い…」

「笑い事じゃないよもう…見た時本当この世の終わりぐらいショック受けたんだから…」

 私もつられて2人でしばらく笑っていると、あの店には別の目的があって行ったとカレンは言い始めた。

 別の目的ってなんなんだろ…そう思っているとバッグから小さい箱を取り出し、その箱を開けると中には花の装飾がある指輪が入っていた。

「これ、前から頼んでて…本当は"告白記念日"の三月に渡す予定だったんだけど予定伸びちゃって。

 渡すのは後で受け取るだけしようって思ってたんだけど蕾が家飛び出しちゃうから…これも一緒に持ってきちゃった」

「それって…私に…?」

「もちろんそう…蕾って指輪とか付けないからサイズわかんなくて、蕾のお母さんにまでサイズ確認してきたんだよ?

 花、昔から好きだったからこれにしたんだけど…どうかな」

 こんなの見せられて感動しない人なんているのだろうか、今日n回目の涙が溢れ出す。

 カレンから手を出すよう言われベンチから立ち上がり左手を差し出すと指輪を薬指へはめてくれた。

「綺麗…」

 指輪をした手を空にかざすと自然と声が出た。

 その様子をみてカレンは満面の笑みを浮かべている。

 …そうだ、私もプレゼントがあったんだと思い出した。

 こんな高価な物の後で何か申し訳なかったが、家を飛び出した時に一緒に持ってきた花を取り出して手渡すと彼女も綺麗と呟いていた。

「それ"センニチコウ"っていう花、一緒に住んだら飾ろうと思ってたんだけど買うのすっかり忘れてて。

 今日早上がりだったからプレゼントしようと思って買ったんだよね」

「ありがとう!本当綺麗だよね…なんでこれにしたの?」

 言葉にするのは少し恥ずかしかった…だけどこの問いには答えなければならない、そう感じた。

「センニチコウの花言葉は"永遠の恋・色褪せぬ恋"

 私達にピッタリだと思って…勘違いして酷いこと言ってごめん」

「もういいよ、私こそ勘違いさせるような行動とってごめんね…もう夜も遅いし一緒に帰ろっか!」

 気が付けば日付が変わりそうになっていた。

 久しぶりに手を繋いで帰ることにした私の手には、どんな物よりも綺麗だと思えるような指輪が光っていた。

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