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2-7.越谷 瞳は変わりたい

 私は"普通"ではないらしい。

 物心ついた時からあった違和感、周りの女の子は可愛い服を選ぶが私はカッコイイ服を、恋をするのも女の子だった。

 そして"瞳"と言う名前、父が娘が出来た時に名付けたいと思っていた名前だそうだが私はこの女の子らしい名前も嫌いだ。

 そのせいで学校では"女男"とアダ名をつけられ虐められていた。

 中学へ上がったが学校へ行くのは辛かった。

 長くなる髪、履きたくない制服のスカート、周りと合わせなければ虐められると思い自分の気持ちに嘘をつきながらの生活…苦痛以外の何物でもない。

 どうして周りと違うのか、私は頭がおかしいのか…

 毎日のように自傷行為を繰り返し、精神も安定しなかった…そんな私を見て父は病院に連れて行ってくれた。


 "性同一性障害"心と身体の性別が一致していない事を言い、私の場合は心は男で身体は女の子なのだ。

 そうわかってからは気持ちは少し楽になったし、父は私に女の子の名前をつけたことを謝罪して男の子だったらつけたかった"辰己"と呼ぶようになった、学校側もその事を理解して男子の制服での登校を許してくれた。

 しかし万人が理解してくれる訳ではないのだ。

 中学でもイジメまでもいかないからかいはあったし、何より母が私を気味悪がり最終的には父と離婚し家を出ていった。

 私のせいで…そう思っていたが父が「気にするな、性別がどうであれお前は私の"息子"だ」と言ってくれた事が心の支えとなっていた。

 周りを見返したい…そう思いスポーツや勉強も努力し、高校や大学も地元ではトップクラスの所へ入ることができ、そこでは能力が評価される世界で性別なんて気にする人はあまりいなかった。


 大学を卒業後、私は手術し性別も男になり"越谷(こしがや) 辰己(たつみ)"と正式になったのだ。

 そこまで行くハードルは高かったが父の協力があってこそだった…D社で働くようになって数ヶ月、その父が亡くなったのを聞いた時は膝から崩れ落ちた。

 昔から身体は丈夫ではなかったし最近は病院通いだったのもあって覚悟はできていたつもりだったが、いざその場面に遭遇するとショックが大きかった。

 葬儀は身内だけで行ったが一様離婚した母へも連絡した、返ってきたのは無関心そうな返答で今すぐにでも通話している受話器をぶん投げそうになったのを覚えている。

 しかし離婚したのは私…僕のせいでもあるから淡々と父の事を伝え母との会話を終えた。

 彼女と話し思い出した、本当の事を知ったら拒絶されるのではないかと言う恐怖を…

 仕事にも慣れていった時ヘルプで他の部署と掛け持ちしてくれないかと提案があり、その課…現在もそこで仕事している【ES課】へ挨拶に行くことになる。

 そこは業務はそこそこで残業や評価もそこそこな場所で、目立つ実績がないため社員のモチベーションが上がらず退職する人が多い場所であった。

 その課長とは気が合いプライベートでも会う仲になり、ふとした事で僕が女だった事を言った時があった。

 また拒絶されるのではと思ったが「仕事もできるし性格もいい君の性別なんて関係ない」と言ってくれたのが嬉しかったし少し父の面影を見たのが懐かしい。

 恥じることなどない、僕は僕として生きよう!

 そう思ったのだった。


「…これが今まであったこと。

 僕は子供を作れない身体だし作ろうとは思わない。

 もし子供が出来たとして僕と同じような気持ちの子だったら苦労かけるだろうなと…

 子供が欲しくないって所は君と同じさ」

 彼女が横になりながら真剣に話しを聞いてくれていた。

 彼女は僕をどう思うのだろうか…

 そう思っていたら枕に顔を埋め「それでも好きです」とカナタちゃんは言ってくれた、本当の僕を認めてくれたようで嬉しかった。

 そういえば僕はカナタちゃんの事をどう思っているのだろうか…

 いつも一生懸命で気配りも出来る可愛い子、ぐらいしか思っていなかった。

「越谷さん、返事は聞かないです。

 私が勝手に好意を寄せてるだけですし、これからもその気持ちは変わらないです。

 正直越谷さん仕事もできてイケメンだしモテるから私なんて…って思ってたんですけど、さっきの告白聞いて決心しました。私諦めませんから、辰己さん!」

 彼女は真剣な表情で僕を見ていた。

 好意を寄せられた事はあった、だが本当の自分を知ってしまえば相手は拒絶してしまうかも、将来家庭を持ちたい人の願望を叶えて上げられないかも…

 不安ばかりだったがこの子となら…

「…わかった、でも返事はいつか必ずするよ。

 カナタ、それまで待ってくれるかな?」

 また枕に顔を埋め頷いてくれた。

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