2-5.鴻巣 蕾と深谷 カレンは意見を譲れない
とある日の昼休み、私は蕾さんに呼び出された。
いつもはカレンさんと2人仲良く上の階へ移動し食事をとっているのに今日は珍しいなと半ば強引に誘われた場所へ急ぐ。
一足早く待っていた蕾さんは私へ向かいの席に座るよう促すと、不機嫌そうな顔をしてこちらを見ている。
私なにか怒らせるようなことしたかな…
そう思っていたが違かった、怒りの矛先は私ではなくカレンさんだったのだ。
それは前日の事、新居で荷解きをしていた時に起きたと言う。
二階の自室はあらかた片付き一階のリビングで家具を設置していた際にテレビを西か東に置くかで口論になったそうだ。
蕾さんはアンテナの線があるから西側がいいと主張し、カレンさんはダイニングテーブルから座って見やすい東側がいいと言っていたそうで、売り言葉に買い言葉、そして今に至ると言う。
「ねっ、カレンが悪いでしょ?」
怒りながら昼食をとる蕾さんは凄い顔をしている、こんなことでしていい顔ではない気がする…
しばらくしてカレンさんもこちらに歩いてきたが、蕾さんの存在に気が付くと不機嫌そうな顔を浮かべ私に「一緒に食べよ」と軽く言い隣に座った。
そして沈黙が流れる、気まずい…
「あーあ、わからず屋の誰かさんがいるせいで気まずいなー」
最初に沈黙を破ったカレンさんの言葉、これが開戦の合図になった。
「わからず屋は誰なんだか、だいたいセンスがないのよねカレンは。前から思ってたけど何その髪、綺麗だけど会社にしてくる髪じゃないよね」
「蕾だってセンスないし!だいたいオシャレもしないし似合ってるけど姫カットみたいな髪型どうにかしたほういいよ?」
「うるさいわね!昔から私の事好きすぎて見すぎなのよ!昨日だって私ばっっっっかり見て!変態!」
「なによ!そっちだって昨日私に好きって何回言ったと思ってるの!この一途!」
…これは喧嘩なのだろうか、内容が貶してるようで褒めてるような。
気まずかったが内容を聞いて笑いを堪えてると2人が私の方を見て「笑うな!」と揃って声を発した。
仕事が終わり2人は別々に帰っていった。
いつも一緒に帰っているのに…でも帰る場所は一緒なのに…
少し心配になり私も仕事の引継ぎをすませ2人の後を追うことにした。
しばらく2人は離れて歩いていたが、蕾さんが家と違う方向へ歩き出したので蕾さんの後を追った。
少し早歩きで歩いていると思ったら向かった場所はスイーツのお店で、店頭で何やら見て悩んでいる。
しばらくしてショートケーキを2つ買って家の方向に歩き出したのでカレンさんはどうしてるかなと2人の愛の巣へ向かっていたカレンさんを探した。
少し歩いたらカレンさんを見つけた。
カレンさんは自宅から少し離れた駅前のスイーツ店で少し悩んでいたと思ったらショートケーキを2つ買い帰路へついた。
その姿を見てまた笑いが込み上げてくる、本当にお互い好きなんだな…"夫婦喧嘩は犬も食わない"か…
翌日、また蕾さんにお昼を誘われた。
しかし蕾さんはまた不機嫌そうになっており、三階の席につくなり「聞いて聞いて!」とまくしたててきた。
あの後2人でデザートを食べ、テレビの位置も見やすいカレンさんの意見を尊重した形で戦は終決したのだが、脱いだ衣服をそのまま入れるカレンさんと裏返して入れる蕾さんの意見が対立、また戦を告げる狼煙が上がったのだ。
「ねっ、カレンが悪いでしょ?」
この光景は昨日見たなと思っていたが、また同じタイミングでカレンさんが不機嫌そうに来ると私の隣にドスっと座る。
また始まるんだろうなと思っていたら案の定、口喧嘩に似た"イチャつき"が始まった。
「ナチュラルで可愛いくせに最近は甘えてきて可愛すぎるんじゃ!」
「なによ!そっちだって最近香水変えて凄くいい香りさせて!そんなの甘えたくなるでしょ!」
「別に蕾のためにしたわけじゃありませーん!香水切らして変える時に、この匂い私も好きだから蕾も好きかなって思っただけで私がしたいからしただけだしー!」
「私の事好きすぎでしょ!…私も好きだけど…とにかく私を誘惑するの禁止!」
また笑いが込み上げてきて今回は声を上げて笑ってしまった。
この人達はいつまでも付き合った当初のように仲が良いんだなと改めて思う、私もいつかこんな人が出来たらいいな…
気になる人はいる。
だけど私は人を好きになる"資格"があるのだろうか…
この数ヶ月後、私はある人と仲を深めていくことになる。