夜明けの盾との対話
最後のブラッドウルフが地に沈み、森の中に静寂が戻った。
血の匂いが夕暮れの空気に混じり、遠くで小さな鳥が鳴く。
リジーはゆっくりとリュートを背負い直し、周囲を見渡す。
この場にはもう、敵はいない。
息を整えながら、戦利品を回収しようとしたその時――
「お前、面白い戦い方をするな」
低く落ち着いた声が響いた。
リジーは即座に振り向き、双剣の柄に手を掛ける。
そこにいたのは、数人の冒険者たち。
夜明けの盾(Dawn Shield) のメンバーだった。
剣士のアッシュ、タンクのガルツ、ラビット役のロキ、そしてエルフのドルイド・セリア。
彼らは木々の影から姿を現し、戦場を見渡していた。
「……覗き見ですか?」
リジーは落ち着いた声で問いかける。
「いや、たまたま通りかかったんだよ」
アッシュが軽く肩をすくめた。
「戦闘の音が聞こえたからな。確認のために様子を見てた」
リジーはアッシュをじっと見つめる。
アッシュの後ろでは、ガルツが腕を組んで低く唸っていた。
「一人でこれだけの敵を相手にするとは……無茶な戦い方だな」
「無茶ではなく、戦略的に動いているだけですよ」
リジーは冷静に言い返す。
「魅了が2体できれば、もう少し楽に戦えるんですけどね……1体しかできないんです」
ロキが口笛を吹くように笑った。
「なるほどな。魅了1体だけってのは制限があるが……それでもよくやるぜ」
セリアは静かにリジーを観察し、呟く。
「魔力ではなく、歌で戦う……不思議なものね」
「ありがとう」
アッシュはリジーのリュートをちらりと見た後、にやりと笑った。
「戦闘お疲れさん。そろそろ日も沈むし、一緒に街へ帰ろうぜ」
「……え?」
リジーは思わず目を瞬かせた。
彼女の戦闘を見て、距離を置かれるかと思っていた。
だが、アッシュはごく自然にそう言ってきたのだ。
「なにより、素材の回収はまだだろ?」
アッシュが倒れたブラッドウルフを指しながら言う。
「早く処理して帰ろう。これから魔物も活発になる時間帯だ」
リジーがまだ考えを巡らせていると、ガルツが腕を組んだまま言った。
「……手伝ってやるから、酒の一杯でも奢ってくれ」
「は?」
「素材の回収も、一人じゃけっこう骨が折れるだろう」
アッシュも同意するように頷いた。
「面白い戦い方を見せてもらった礼だ。俺も手伝うよ。酒の他に、ついでに肉でもつけてくれるなら、なお嬉しいな」
リジーは一瞬だけ驚いた後、ふっと小さく笑った。
「……わかった。ありがとう」
アッシュとガルツが満足げに頷く。
「決まりだな。さっさと片付けて帰ろうぜ」
こうして、リジーは初めて「夜明けの盾」と共に帰路についた。
次話は2025/02/26 15:00に予約投稿してます。