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バードの戦い方



 森の木々の間から、夕暮れの光が差し込んでいた。

 西の空は茜色に染まり、街へと続く道をゆっくりと影が覆い始める。


 アッシュたち 「夜明けの盾」 のメンバーは、下級の魔物討伐依頼を終えて街へ帰る途中だった。

 ほどよい疲労感を感じながらも、皆、気を緩めすぎることはない。


 この森は 比較的安全な場所ではあるが、完全に油断できるわけではない。

 特に夕暮れ時以降は、魔物たちの活動が活発になる時間帯だ。


「……おい」


 先頭を歩くロキが、不意に立ち止まる。

 ピクリと耳を動かし、周囲に意識を集中させた。


「ブラッドウルフの声が聞こえる」


 彼の言葉に、一行の空気が変わる。

 ロキはラビット役として 高い聴覚 を持ち、索敵の役割を担っている。

 ラビットというクラスは敵の攻撃を受けられるような体力はないが、アタッカーとしても偵察としても非常に能力の高い役割で、盗賊やアサシンといったスキルも持ち合わせる器用なクラスでもある。

 その彼が「聞こえる」と言うなら、間違いなく近くにブラッドウルフがいる。


「恐らく、戦闘中だな」


 ロキは静かに周囲を見渡す。

 遠くから、獣の唸り声と鋭い爪が地面を削る音が聞こえた。


「何者かが戦っている?」


 エルフのドルイド、セリアが小さく呟く。

 彼女は表情を変えず、慎重に周囲の気配を探った。

 ドルイドというクラスは、攻撃魔法、簡単な治癒魔法の両方が使えるこちらも器用なクラスである。

 しかし、攻撃魔法に特化したウィザードや、治癒魔法に特化したクレリックほどの効果の強い魔法は持ち合わせていない。


 ドラゴンの獣人のガルツが腕を組み、低く唸る。


「近づいてみるか?」


 戦闘に特化し、更には体力があり敵の攻撃を受け、仲間をまもるタンク。

 体の頑丈な獣人や、時にはドワーフといった種族がなりたがるクラスではあるが、攻撃もタンク役もできるドラゴンの獣人というガルツは、自分の特性を十分に理解していた。

 ドラゴン種族の住人ゆえに、体力もあり知恵もある。だが、一部分の種族たちからは獣人、もしくはドラゴンというだけで忌み嫌われる為、彼自身はチームのリーダーではなく、副リーダーとしての地位にいる。


「……いや、むやみに首を突っ込むのは危険だ」


 アッシュが静かに言う。


 この「夜明けの盾」のチームリーダーであるアッシュが周囲を警戒しつつ判断を下す。

 アッシュは人間ではあるが、だからこそ多種族への嫌悪、友好と、バランスよく立ち回る事が出来た。


 人間は体力もそこまで高いものではないし、知能もエルフに比べれば低い。

 ドワーフほど器用でもないが、雑多を飲み込める多種族にはわかりにくい「心情」というものに理解が深かった。

 おそらく、自分たちよりも能力が高い種族とうまく折り合いをつけて生きなければならないこの世界では、人間種にとって必須の生きるための手段でもある部分ともいえる。



「戦っているのが何者であれ、俺たちの安全確保が優先だ。

 状況を確認しながら、慎重に進もう」


 メンバー全員が頷き、足音を殺しながら慎重に進む。



 そして――


 木々の間から、戦場が見えた。











 最初に見えたのは、一匹のブラッドウルフが血を流しながら地に伏している姿。

 そのすぐそばには、武器を構えた 琥珀色の髪の毛の少女。


「……!」


 アッシュは息をのんだ。


 リジーは、鮮やかな動きで 一匹のブラッドウルフを倒した直後 だった。

 双剣を構え、静かに次の敵へと視線を向けている。


 彼女の背には、リュートがあった。


「……まさか」


 アッシュの隣で、ロキが驚いたように呟く。


「一人で戦っているのか?武器を使うなら、リュートなんて邪魔だろうに……」


「もしや戦いながら奏でていたのか?」


 ガルツが低い声を漏らす。



「音で攻撃が出来るのか?楽器でぶん殴る?」


 ロキが不思議そうにガルツを見上げると、セリアが何かを思い出したように呟いた。


「たしか、数は少ないけれどバードというクラスがあったわ。歌や楽器の演奏で、マナを使う魔法とは違うけれど、似た効果を生み出せるクラスよ」


 ロキは、ふぅんと顎で頷きリジーの戦い方を見続ける。

 セリアもじっと戦場を見つめ、静かに観察していた。



「一人で、これだけの数のブラッドウルフを相手にしているのか」


 アッシュは、視線をリジーに向けたまま思わずつぶやいた。


(……いつも、こうして1人で戦っていたのか?)


 彼女の戦い方は、明らかに 「単独で戦うこと」を前提 としていた。

 魅了で敵を同士討ちさせ、眠りの魔歌で敵の数を減らし、双剣で仕留める。

 戦闘の流れを完全にコントロールしながら、一人で戦えるように動いている。


(面白い戦い方だ……)


 アッシュの中で、「興味」と「心配」 が入り混じる。


 リジーは、この戦い方でずっと1人で戦ってきたのか。

 それとも、かつて仲間がいて、その戦い方が染みついているのか。


 だが、そんな考えを巡らせる間にも、リジーは次の敵と向き合っていた。


「……どうする?」


 ロキが小声でアッシュを見た。


「このまま様子を見るのか?」


 アッシュは一瞬考え、静かに頷いた。


「少し、見せてもらおう」


 メンバーは木々の影に身を潜めながら、リジーの戦いを見守る。


 その間にも、リジーは冷静に敵を捌き、次のブラッドウルフへと向かっていった。


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