翼のチームのちょっかい
黒猫のゆりかごの夜は、いつも賑やかだ。
今日も冒険を終えた者たちが集い、酒と食事を楽しんでいる。
リジーはいつものようにカウンターの端に座り、静かにリュートの弦を弾いていた。
その音色が店の喧騒に心地よく溶け込んでいく。
「お、リジー! 今日もいい音色だな!」
軽快な声とともに、彼女の隣にどっかりと腰を下ろしたのは、翼のチームの剣士、ガイル だった。
茶色の乱れた髪に、軽薄な笑み。いつも軽口を叩きながら、リジーを口説いてくる男だ。
「そろそろ俺と一杯付き合ってくれてもいい頃じゃねぇか?」
「お酒は、好きではありませんので」
リジーはさらりと流しながら、弦を弾き続ける。
「そうか? でも、たまには楽しく飲むのも悪くねぇぜ?」
「……そうですね」
「おっ、じゃあ――」
「ですが、私は一人で静かに飲む方が好きです」
ガイルは一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「おいおい、そんな寂しいこと言うなよ。どうせなら、俺みたいな頼れる男と飲んだ方が楽しいと思わねぇか?」
「……ふふ」
リジーは少し笑った。
「……いえ、別に」
ガイルは「ぐっ」と言葉を詰まらせる。
隣の席でその様子を見ていた翼のチームの大剣使い、バロックがクックッと笑いを堪えていた。
「おいガイル、お前それ完全にあしらわれてるぞ」
「うるせぇ! まだ勝負は終わっちゃいねぇ!」
ガイルはぐいとリジーに顔を寄せ、低い声で囁くように言った。
「なぁ、リジー。お前もそろそろ、一人旅なんてやめて、俺と組まねぇか?」
「……翼のチームに入れと?」
「そうだ。ソロで戦っているより俺らと組めば、退屈しないし、安全だ。何より――俺ともっと近くなれるぜ?」
ガイルは軽くウインクして見せる。
だが――
「遠慮しておきます」
リジーはあっさりとそう言い、カウンターに置いたグラスの縁を指でなぞった。
「私は、自由に旅をするのが好きなのです」
「くっ……なんでだよ、ちょっとくらい揺れてくれたっていいじゃねぇか」
ガイルが唇を尖らせたその時――
ガチャリ
酒場の扉が開いた。
「おっさーん!ただいま戻ったぞー!」
大きな声とともに入ってきたのは、人間の剣士を筆頭としたチーム だった。
先頭にいたのは、背が高く、落ち着いた雰囲気を持つ男だ。
その後ろには、無骨なタンク役であろうドラゴンの獣人、すこし細身の軽装の男、そして優しげなエルフの故を持ったドルイドが続く。
「お、今日は随分と賑やかだな」
アッシュが周囲を見渡しながら、軽く手を挙げた。
リジーは彼らに視線を向ける。
ガイルの存在がかき消されるように、場の空気が変わった。
「おいおい、リジー。まさかこいつらとつるんでるのか?」
ガイルが小さく唇を噛んだ。
「……いいえ。初めて見かけます。と言っても私がこの街にきて、それほど経過していないのであたりまえなのでしょうが」
リジーは静かに言う。
「けれど、彼らの雰囲気は……なんだか好ましいように感じます」
その言葉に、ガイルはムッとしたような顔をする。
アッシュがリジーとガイルのやり取りを見て、ニヤリと笑った。
「おや、ナンパの邪魔をしちまったか?」
「っ……違ぇよ!」
ガイルが酒をあおりながら悪態をつく。
リジーは静かにリュートを弾いた。
この夜、彼女の周りの人間関係が、また少し動き出したのを感じながら――。