黒猫のゆりかご
久しぶりの投稿です。
いろいろ大目に見て下さい。
夕暮れの空が赤く染まる中、一人の旅人が街の門をくぐった。
腰まで伸びる琥珀色の髪を緩く編み、背には年季の入ったリュートを背負っている。軽やかな革のロングブーツが石畳を踏みしめ、双剣が腰で微かに揺れる。
リジーは、長旅の疲れを癒せる宿を探していた。
「……」
目の前には、木製の看板に黒猫のシルエットが描かれた建物。門の衛兵が教えてくれた宿屋の中の候補の一つだ。この宿を選んだのは、単純に自分が猫が好きだからである。
扉を開けると、食事時のざわめきと温かい料理の香りが迎えてくれた。
冒険者たちが円卓を囲み、酒を飲み交わしながら賑やかに語らっている。カウンターの奥では、筋骨隆々な男が大鍋をかき回していた。
「……いらっしゃい」
無骨な声の主は、宿の店主だった。頭は禿げ上がっているが、分厚い腕と鋭い眼光が只者ではない雰囲気を醸し出している。
リジーはカウンターに歩み寄り、静かに口を開いた。
「一晩、泊まりたいのですが」
「1人か?部屋は空いてる。食事はつけるか?」
「お願いします」
リジーが金貨を数枚置くと、店主は頷き、顎でカウンターの方を指した。
「そこで適当に座って待ってな。すぐに飯が出る」
リジーは頷き、カウンター席に腰を下ろした。
周囲の冒険者たちがちらちらと彼女を見ている。珍しいハーフエルフの旅人だからか、それとも女性の一人客が珍しいのか。だが、リジーは気にせずリュートを背から下ろし、静かに弦を弾いた。
心地よい音色が店内に広がる。ざわついていた酒場の空気が、わずかに落ち着いた。
「おい、いい音じゃねぇか」
後ろの席にいた剣士風の男が声をかけてきた。
リジーは顔を上げる。
「旅の音楽家か?」
「……いいえ。ただの冒険者です」
「へぇ、なら結構な腕前だな。どこから来たんだい?」
「……さあ、どこからでしょう」
剣士はニッと笑ったが、それ以上は深く聞いてこなかった。
そこへ、店主がリジーの前に豪快な肉料理を置く。
「食え。冷めねぇうちにな」
リジーは「ありがとうございます」と小さく礼を言い、フォークを手に取った。
この街が、どんな場所なのか。
しばらく滞在するのも悪くないかもしれない――そう思いながら。