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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第四章 京都百鬼夜行

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京都百鬼夜行祭 弐

※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。

イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。


なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは

作中の描写と多少異なる場合があります。

あらかじめご了承ください。

ホテルに戻った俺たちは、ヴィヴィアンをロビーのソファに寝かせた。

恐怖で震え続ける彼女が少しでも落ち着くまで、俺たちはすぐそばで待機し、様子をうかがっていた。


その異変に気づいたのだろう。刹那様と薫が駆け寄ってきた。


「何があった」


刹那様に問われ、俺は鬼の面をつけた三人と遭遇したこと、

そしてその直後にヴィヴィアンがあの状態になったことを説明した。


「そうか……三人の鬼の面か……」


刹那様はそう呟き、薫へ視線を向けた。

だが薫は首を振り、わからないと示した。


それを見た刹那様は「ともあれ、一旦パラドナーラ嬢が落ち着くのを待つか」と言い、

俺たちはしばらくヴィヴィアンが正気を取り戻すのを待った。


しばらくして落ち着きを取り戻したヴィヴィアンは、「すみません」と皆に頭を下げた。


「早速で悪いのだが、パルドナーラ嬢。いったい何があった?」


刹那様がそう尋ねると、ヴィヴィアンは小さく身震いし、自分の両肩を抱きしめた。


「大丈夫か?」


俺が声をかけると、ヴィヴィアンは


「ええ、大丈夫です……少し思い出しただけで……」


苦笑いを浮かべて答えた。


「すまない、パルドナーラ嬢。無理に思い出さなくてもよい。だが、何があったのか教えてほしい」


刹那様にそう促され、ヴィヴィアンはぽつり、ぽつりと話し始めた。


祭りの巡回で俺たちと烏丸通りを歩いていると、前方に鬼の面をつけた三人がいたという


――その瞬間。


「黒いお面の人と目が合った瞬間、私は闇に“囚らわれました”。

何もない暗闇なのに、恐怖だけが形を持って、身体を締めつけてくるんです。


確かめようとして触れた――その瞬間、黒い炎が私を包み込みました。

逃げる時間も、叫ぶ時間もなく、身体の内側から焼かれていく。

痛みが頂点に届いたところで、ぷつりと意識が途切れて――私は、死んだのだと……


けれど、それは“入口”でした。

次に押し寄せてきたのは、争いと破壊の歓喜。

暴力の愉悦。

力の濁流。


そこに人格はありません。

悪意も憎悪もない。

ただ、闘争だけが純度を失わずに存在している。

人でも魔物でもない、純粋な破壊と悦楽だけで出来た、悪神のようなもの……でした」


そう言ってヴィヴィアンは、もう一度自分の身体を抱きしめた。


「……たぶん、死を追体験したんだろう」


刹那様はそう言って続けた。


「強者と向き合ったときに起きることがある。彼女は巫女……シャーマンの資質上、相手の魂の本質まで覗いてしまったんだろうな」


刹那様はそのまま、ヴィヴィアンをじっと観察していた。


「すまないが、パルドナーラ嬢。そなたが触れた鬼の面は、人かそれとも妖の類だったのか?」


刹那様はヴィヴィアンの様子を気にしながら、優しく尋ねた。


ヴィヴィアンは首を横に振り、否定した。


「分かりません……でも、あれは人でも魔物でもありません……純粋な暴力の塊でした……」


そう言って、ヴィヴィアンは恐怖に身を寄せた。


――それを聞いた瞬間。


「くそっ!」


刹那様が吐き捨てるように叫び、近くにあった強化ガラスのテーブルを踏み抜いた。

ガシャーンと派手な音を立て、テーブルは真っ二つに割れた。


刹那様の顔は怒りと焦りに歪み、親指の爪をがりがりと噛んで苛立ちを露わにしていた。

その雰囲気に呑まれ、騒がしかったはずのロビーは、いまや物音ひとつしない静けさに包まれていた。


苛立ちを隠しきれない刹那様に、薫が声をかけた。


「……刹っちゃん……」


呼びかけられた刹那様は薫を見て、短く指示を出した。


「すまない、薫……事の現状を二宮様に報告してくれ……」


刹那様はなおも親指の爪を噛みながら言う。


「わかったけど……なんて?」


薫が聞き返すと、刹那様は真剣な表情で答えた。


「丹波の鬼が来た、と言えば伝わるはずだ」


「……わかった」


薫はそう返して立ち去ろうとしたが、背後から呼び止められた。


「薫」


刹那様はそのまま続けて話した。


「もし一条がいたら、いまの状況を洗いざらい聞いて来てくれ。これ以上、後手に回るのはまずい」


薫は真剣な表情で頷き、「分かった」と返事をして駆けだしていった。


それを見届けた刹那様は、低く名を呼ぶ。


「黒……」


「済まないが、学生の時間は終わりだ。一族として仕事を頼む」


そう言われた黒は黙って刹那様の前に跪き、指示を待った。


「いまは少しでも情報が欲しい……悪いが、敵情視察を頼む」


「畏まりました」


「ただし、相手は丹波の鬼の可能性がある……危険を感じたら即離脱しろ」


「御意」


そう言って黒は姿を消した。


刹那様はいまだ親指の爪を噛み、ぶつぶつと独り言を漏らしている。

だが、誰も声をかけられず、沈黙だけが過ぎていった。


しばらくして――刹那様はふと我に返ったのか、辺りを見回たした。

静寂に包まれたロビーで、自分に視線が集まっていることに気づき、踏み砕いたテーブルの惨状を理解した。


「すまない……少し頭を冷やしてくる」


そう言い残し、刹那様はホテルを出て行ってしまった。


俺たちは何もできず、声をかけることすらできなかった。

刹那様の行動が、あまりにも衝撃的だったからだ。

あんなふうに取り乱した姿を見たのは初めてで、いつも凛として揺るがない人だという印象しかなかった。


気づけば、俺の身体は勝手に動いていた。


「閣下……どこへ行かれるのです?」


イザベリアが声をかけてきたが、俺は一度だけ立ち止まり、彼女の顔を見たが、俺はそのまま黙って刹那様の後を追った。


ホテルの外へ出て辺りを見回すと、遠くに刹那様の背中が見えた。

俺は追いつくように歩幅を速め、声をかけた。


「刹那様……」


刹那様はゆっくり振り向き、俺の顔を見た。


「君か……どうした?」


問われても、すぐには答えられなかった。


「一人で出歩くのは感心せんぞ……」


「……その……」


俺が言葉に詰まっていると、刹那様は続けた。


「気になって、追いかけて来たのだな」


「はい」


刹那様は空を見上げ、何かを思案するように囁いた。


「少し歩こうか……」


刹那様はそう言って、再び歩き出した。


俺たちはしばらく黙って歩いていたが、刹那様が先に口を開いた。


「君は今回の件、どこまで知っている?」


そう問われ、俺は頭の中を整理しながら、知っている範囲を話した。


二宮様から聞いた宮家の話。

三宮の政治家たちの暴走。

九尾復活の儀式に龍華帝国が関与していること。

天皇が不在であるがゆえに、その空席を埋める名目で葵を利用し、皇位を狙っている。

それが原因だと。


それを聞いた刹那様は、短く頷く。


「簡単に言えば、そうだな……」


そして、そのまま話を続けた。


「今回の騒動、君は――一条を押さえれば収まると思っているだろ?」


「はい」


「それは、間違いだ」


俺は思わず「えっ」と喉の奥で詰まり、刹那様を見た。


「そもそも事の始まりは、一部の政治家たちの暴走だ」


刹那様は俺の顔を見て、淡々と続ける。


「もともと、宮家に関わる家系に男児が生まれれば、いずれ起こり得た話だった。……だが、そこへ龍華帝国が入り込んだ」


「九尾の復活……ですか?」


「あぁ。だが、その話は一条が一蹴した」


刹那様はわずかに眉を寄せる。


「一条家は京都を守護する家系。そんなことをすれば京都の街がどうなるか、あいつが一番わかっているからな」


「なら……」


「馬鹿な政治家どもは、龍華帝国や他の術師に頼り始めた……」


刹那様は一度、息を吐いた。


「それに待ったをかけたのが……藤原家だった」


刹那様は淡々続けた。


「藤原家は代々、宮家を支える大きな家系。その分家の一つに一条家がある。

 一条は本家の命で、渋々、儀式に加担しているに過ぎない」


「なら、藤原を……」


俺が言いかけたところで、刹那様が言葉を遮った。


「藤原家を押さえても、変わらん……そもそも暴走している無能な政治家どもは、北条家一派だからな」


「藤原家と北条家が、手を結んだと?」


そう問うと、刹那様は首を横に振った。


「わからん。……そこは、まだ調査中だ」


藤原家と北条家が結託しているのなら最悪だが、現時点では断定できない。

そんな話をしながら歩き続け、俺たちは鴨川に着いた。


刹那様は黙って河川敷へ降り、鴨川の流れを見つめていた。


「君は、この鴨川がどういう意味を持っているか、知っているか?」


刹那様にそう聞かれた俺は、答えられなかった。

川に“意味”があるなど、考えたこともなかったからだ。


「……排水溝だそうだ」


刹那様はそう言い、河川敷を歩き出した。


「百鬼夜行とは、人の流れを使って京都の街に溜まった邪気を、この鴨川に集めて流し出す――そういう儀式なのだそうだ」


京都に溜まった邪気を鴨川へ落とし、流し、散らす。

それが本来の百鬼夜行――刹那様はそう言った。

だが、その前提が崩れつつある、と。


「九尾を復活させれば、どうなるか……君は分かるかい?」


そう問われ、俺は「多少の被害が出る程度では」と浅く考えた。


「平安の世に、何百、何千の軍勢を何度も撃退してきた大妖怪だ。そんなものが復活して、ただで済むと思うかい?」


その言葉に、俺は息を呑んだ。


そうだ。

討伐できるかどうかすら分からない。

強さも不明。

被害の規模も想像していなかった。


どこかで――勝てる。

大丈夫だ。

そんな根拠のない自尊心が、俺の中にあった。


「だから一条は賭けた」


刹那様は俺を見て言った。


「自らの命と引き換えに、九尾に制約を掛け、制御しようとした」


「……失敗したのですか?」


それを口にするのが、やっとだった。


「いや。制約は掛けられた。問題は、そのとき溢れ出た邪気だ」


俺が首を傾げると、刹那様は続けた。


「溢れ出た邪気が、予定より多すぎた。そのせいで幻界が度々干渉し、一部の者が取り込まれた。怪我人も出たし、行方の知れない者もいる。……予定より被害が大きすぎたんだよ」


刹那様は立ち止まり、鴨川へ視線を向けた。


「本来なら、溢れた邪気を祭りの人流で鴨川に排出し、最後の儀式で九尾と妖を討つ――そのはずだった」


「予定が狂ったんですか?」


「あぁ。餓鬼や鬼クラス……せいぜいゴブリンやオーガ程度だと、認識が甘かった」


「……いったい、何があったんです?」


俺は率直に聞いた。何が起きたのか。

なぜ刹那様が、あれほど取り乱していたのか。


刹那様は真剣な顔で俺を見て、言った。


「溢れ出た邪気で――京丹波の鬼、『酒呑童子』が来た」



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。

物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、

あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。


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