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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第四章 京都百鬼夜行

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京都百鬼夜行祭 壱

※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。

イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。


なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは

作中の描写と多少異なる場合があります。

あらかじめご了承ください。

結局、俺はホテルに戻ってからも、何一つ出来なかった。


部屋に籠り、ぼんやりと思考を巡らせているだけで、

答えが出るはずもない事を分かっていながら、

考えるのをやめる事が出来なかった。


何度か、イザベリアやヴィヴィアンが様子を見に来て、

声をかけてくれていたのも覚えている。


だが、その言葉は、耳には届いても、頭には残らなかった。


結局、そんな調子のまま一日が過ぎ、

気が付けば百鬼夜行祭当日の朝を迎えていた。


朝。


いつもと変わらぬ時間に起き、

いつもと同じように皆で朝食をとる。


湯気の立つ料理の匂い。

食器の触れ合う、控えめな音。


日常のはずの光景なのに、どこか現実感が薄かった。


その沈黙を破ったのは、イザベリアだった。


「……閣下が、先日二宮様に何を言われたのかは存じませんが」


彼女はそう前置きしながら、

皿の上の料理に視線を落としたまま、淡々と続けた。


「特に、気にされる必要はないかと存じます」


その口調には、責める事も、慰める事もない。

ただ、事実を述べているだけだった。


「そもそも、今回の騒動は―――

 閣下が気にしたところで、どうにもなりませんわ」


その一言に、胸の奥がちくりと痛んだ。


俺は思わずイザベリアを睨みつけたが、

彼女は俺の方を見ようともしない。


結局、何も言えず、俺は視線を落とした。


「……では」


イザベリアは、ようやくこちらに視線を向けた。


「閣下は、どうされたいのですか?」


言葉は穏やかだった。

だが、逃げ場はなかった。


俺は答えられず、箸を持ったまま、動きを止めていた。


「閣下お一人で、解決できるとお思いで?」


その問いに、胸の内で何かが引っかかる。


「今回の件、二宮様から“解決しろ”と命じられたのですか?」


「……いや……」


小さく、そう答えるのが精一杯だった。


イザベリアは、朝食の手を止め、

今度こそ、はっきりと俺を見据えた。


「でしたら、答えは明白ですわ」


「今回の件は、閣下一人でどうにか出来る問題ではありません」


淡々と、断言する。


「もし、閣下で解決できるのであれば、

 他の方々でも、同様に対処が可能です」


「それを“されていない”という事は――」


「そういう事ですわ」


それ以上、イザベリアは何も言わなかった。


だが、その沈黙の方が、どんな言葉よりも重く、胸に残った。


結局、重い空気のまま朝食は終わった。


誰も多くを語らず、ただ食器の音だけが、必要以上に響いていた。


食後、簡単に今日の予定が共有された。


百鬼夜行祭の一般の始まりは、十三時。

丸太町から烏丸通を下り、御池までの通りに、出店や屋台が並ぶらしい。


一般客向けの催しは、二十一時から二条城で行われる浄化の儀。

そして、二十三時をもって、公式的な行事はすべて終了。


――ここまでは、あくまで“表”の話だ。


本番の浄化の儀は、丑三つ時。

午前二時。


場所は、京都御所内。


当然ながら、その時間帯、御所の中に立ち入ることは許されない。

そのため、今回参加した探索者たちは、

京都御所周辺の外周警護に当たるという。


学生である俺たちは、さらにその外側。


十三時から十七時頃まで、順番に、

祭りの会場となる烏丸通を巡回警備。


それが終われば、解散。

あとは自由行動、という扱いだった。


話を聞き終えた時、俺ははっきりと理解していた。


俺たちは、意図的に“遠ざけられている”。


危険な場所から。

核心から。


守られているのか、排除されているのか。


その判断すら、俺には出来なかった。


ただ一つ確かなのは、この騒動の中心から、

俺たちは確実に外されているという事だけだった。


それが正しい判断なのかどうかも分からないまま、

胸の奥に、言葉にならないもやもやを残していた。




結局、俺は胸の奥に澱んだものを抱えたまま、昼からの巡回に出た。


烏丸通周辺は、文字通り人で溢れ返っていた。

道の両端には屋台や出店がずらりと並び、人の流れと熱気が、通り全体を飲み込んでいる。


――ああ、祭りだ。


前世の記憶が、ふいに蘇った。


この世界に転生してから、これほど多くの人間が集まり、笑い、騒ぐ光景を、俺は一度も見たことがない。


人の声。

足音。

呼び込みの怒鳴り声と、子供の甲高い笑い声。


屋台から漂ってくる、たこ焼きや焼きそばの甘辛いソースの匂い。

炭火で焼かれる焼き鳥の脂が弾く音。

香ばしく焼けたトウモロコシの匂いが、風に乗って鼻をくすぐる。


人の体温と、屋台の熱。

雑多で、騒がしくて、少し息苦しい――

それなのに、どうしようもなく懐かしい。


イザベリアやヴィヴィアンたちは、少し戸惑ったように辺りを見回していた。


この喧騒、この密度。

彼女たちにとっては、圧倒される光景なのだろう。


俺は気づかないうちに、口元を緩めていた。


それを見ていたのだろう。


「……閣下は、お祭りがお好きなのですか?」


イザベリアが、ふとそう問いかけてきた。


俺は歩きながら、屋台の明かりを横目に見て答えた。


「いや……」


「昔を思い出してな。ちょっと、懐かしくなっただけだ」


それ以上は言わなかった。


この喧騒の中では、朝まで抱えていた重たい思考が、ほんの少しだけ遠ざかっていた。


「そうですか……今だ納得がいってないご様子だったので……

 少しでも気が紛れたならと……」


イザベリアはそう言うと、それ以上は踏み込まず、先に歩き出した。


「……ありがと」


俺は小さく呟き、その背を追った。


祭りの人混みは相変わらずで、笑い声と呼び込み、太鼓の音が重なり合って流れていく。

クラス全員で列になり、その波に身を任せるように歩いていた。


その時だ。


前方から、鬼の面を付けた三人組が歩いて来るのが見えた。


一人は背が高く、黒い着物姿。

一人は中背ほどで、赤い着物姿。

そして最後の一人は、小柄で、白い着物を纏っていた。


三人とも鬼の面で、表情は分からない。

祭りでは、どこにでも居そうな格好だ。


……なのに。


なぜか、目が離れなかった。


歩き方か。

距離感か。

それとも――空気か。


理由は分からないが、三人の周囲だけ、妙に人の流れが避けている気がした。


そのまま、すれ違がった瞬間。


――ゾクッ。


背筋が凍り付くような悪寒が走った。


俺は反射的に、振り返ると。

次の瞬間、息が止まった。


黒と赤の鬼の面が、いつの間にか目の前にいた。

顔を、面を、俺の顔すれすれまで近づけて、覗き込んでいる。


距離が、近すぎる。


「お頭ぁ~……男がいますぜぇ」


赤い着物の鬼の面が、にちゃりとした声で言った。


「……珍しいのぉ」


黒い着物の女が、面越しに俺を舐め回すように見ているのが分かる。


「お頭ぁ~……食っていいっすか?」


赤い鬼の面が、舌なめずりするように言った。


俺は――動けなかった。


声も、足も、思考すらも。

二人の気配に呑み込まれ、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


その時。


「アハハハ!」


乾いた笑い声が響いた。


「すまんの、坊主」


黒い着物の女が、俺の肩を力強く、ばんばんと叩いた。

冗談めいた仕草なのに、骨に響く。


「今宵は祭りじゃ。許せ」


そう言って、赤い着物の女性の襟首を掴んだ。


「ほれ、行くぞ」


そのまま、ずるずると引きずって歩き出した。


「おとこぉ~!」


赤い鬼の面の女性は、手をわちゃわちゃと振りながら、名残惜しそうに叫んでいた。


そして、最後に。


白い着物の小さな鬼面の女性が、俺の前で立ち止まった。

何も言わず、ただ、ぺこりと一礼して、とことこと小走りで二人の後を追っていく。


三人は、あっという間に人混みに溶け、見えなくなった。


祭りの喧騒が、何事もなかったかのように戻ってきた。


……だが。


俺の肩には、まだ叩かれた感触が残っていた。



その時だった。


「ヴィヴィアン! ヴィヴィアン!!」


イザベリアの叫び声が、祭りの喧騒を切り裂いた。


俺は反射的に振り向いた。


そこには、地面に座り込み、自分の両肩を強く抱きしめたヴィヴィアンの姿があった。


「……っ!」


俺は一気に駆け寄り、距離を詰めた。


「おい、どうした! ヴィヴィアン、大丈夫か!」


声をかけ、肩に手を伸ばした。

だが、返ってきたのは、意味をなさない呟きだけだった。


「……ダメ……ダメ……」


焦点の合わない目。

呼吸は浅く、早い。


俺の声は、まるで届いていなかった。


イザベリアに視線を向けると、彼女は、わずかに首を横に振った。


――分からないと。


嫌な予感が、背中を這い上がった。


俺は周囲を見渡たした。


いつの間にか、俺たちの周りには人だかりができていた。

祭りの最中だ。

倒れた人がいれば、視線は集まる。


ひそひそとした声。

心配と好奇が混じった視線。


……このまま、ここには居られない。


俺は迷わなかった。


ヴィヴィアンの背中に腕を回し、そのまま抱き上げた。

身体は軽い。

だが、震えだけが、今だ続いていた。


「一旦、戻るぞ」


俺は短く、そう告げた。

誰も異論はなかった。


クラスの皆が、自然と人の流れを遮るように動きだした。

イザベリアが前に出て、進路を確保する。


俺達はヴィヴィアンを抱えたまま、人混みを駆け抜けた。


祭りの音が、少しずつ遠ざかっていく。


太鼓の音。

笑い声。

呼び込み。


その全部が、現実感を失っていく。


腕の中で、ヴィヴィアンはまだ震えていた。


――さっきの“鬼の面の三人”と、関係がないはずがない。


だが、その確信を口にする者は、誰もいなかった。


俺たちはそのまま、祭の熱気を背に、ホテルへと引き返した。


祭りは続いている。

何事もなかったかのように……



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。

物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、

あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。


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