立場
※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。
イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは
作中の描写と多少異なる場合があります。
あらかじめご了承ください。
「……まったく」
二宮は、セレナが去っていった縁側の先を、しばらく黙って見つめていた。
「やっかいな相手を、招き入れたものじゃな」
その声音には、怒りよりも疲労が滲んでいた。
正直、俺にはよく分からなかった。
教会だの、神託だの、聖剣だの――
もっと面倒で、もっと泥臭い押し問答になると思っていたからだ。
「……あっさり引いていったな」
気がつけば、そんな言葉が口を突いて出ていた。
二宮は、俺の方を一瞥すると、大きく息を吐いた。
「はぁ……」
そして、呆れたように言い放つ。
「お主は、もう少し勉強せい」
「あやつはな、自分の意思で来たのではない」
二宮は、縁側に残る気配を視線でなぞるようにしながら続けた。
「団長という立場、教皇の命、主神の神託――
それらに縛られた上で、来るしかなかったのじゃ」
「断られると分かっておってもな」
二宮は、ふっと鼻で笑った。
「形式を踏まねばならぬ身分というのは、そういうものじゃ」
二宮の言葉を受けるように、イザベリアが静かに補足した。
「あの方は、あれ以上踏み込めません。
立場が、それを許さなかったのですわ」
理屈としては分かる。
だが、正直なところ、胸の奥には引っかかりだけが残った。
何か大事な前提を、俺だけが見落としているような感覚。
それ以上、イザベリアは語ろうとしなかった。
問い返しても、答えは返ってこないと悟り、俺たちはそのまま二宮邸を後にする事となった。
――帰り際だった。
二宮はふと足を止め、こちらを振り返った。
「お主、覚者なんじゃってな」
唐突な言葉に、思わず立ち止まる。
「お主の記憶がどうかは知らんが……
もう少し、この世界を知ることじゃ」
二宮は俺を見据え、淡々と続けた。
「さもなければ、大事の時、何も出来んぞ」
それだけ言い残すと、二宮は背を向け、回廊の奥へと去っていった。
問い返す間もなかった。
残された俺は、その言葉の意味を測りかねたまま、
ただ、胸の奥に重く沈む違和感を抱えて立ち尽くしていた。
帰りの車の中、二宮に投げつけられた言葉が、頭の奥に残ったまま離れなかった。
覚者。
転生者。
その呼び名自体は、もう聞き慣れているはずなのに、
なぜか今になって、重みだけが後から追いかけてくる。
俺は、自分が転生者であることを疑ったことはなかった。
この世界の成り立ちも、危険も、理不尽さも――
全部、俺の知っているゲームの世界、
『ダンジョンズドミニオン』の延長だと、どこかで思い込んでいた。
……いや。
「思い込んでいた」なんて、都合のいい言い方だな。
たぶん、今もそう思っている。
信じている、に近い。
一度、黒野に話したことがある。
類似した世界だとか、改変の途中だとか、
そんな曖昧な言葉で片付けられた記憶が、ふと思い出した。
――結局、何も分かってなかった。
分かろうと、してこなかった。
俺は視線を横にずらした。
そこには、イザベリアが静かに座っていた。
窓の外を見つめる横顔は、いつもより少し硬い。
その姿を見て、別の違和感が胸を刺した。
そういえば――
俺が知っている『ダンジョンズドミニオン』は、日本だけの世界だった。
龍華帝国なんて存在しなかった。
インペラ帝国も、ノヴァリア神聖王国も、聞いたことすらない。
じゃあ、この世界は何なんだ?
俺が知っている“設定”は、どこまでが通用して、どこからが嘘なんだ。
考えようとすればするほど、思考は絡まり、輪を描いて、同じところをぐるぐるとかけ回る。
理解しようとすればするほど、逆に、何一つ掴めない感覚だけが強くなる。
頭の中が、ぐちゃぐちゃだった。
整理も、結論も、答えも――
今の俺には、どれも出せそうになかった。
京都某所――
地上の喧騒から切り離された、地下深くの祭儀場。
空気は淀み、湿り気を帯びていた。
石壁に刻まれた古い呪紋が、かすかに紫色の燐光を放ち、
まるで呼吸するかのように明滅している。
その中心に、一人の女性が立っていた。
祭壇の上には、妖しく輝く九つの玉。
硝子のようでもあり、獣の眼球のようでもあるそれらは、
互いに共鳴するように、不規則な光を放っている。
――祈りの器ではない。
あまりにも、生々しすぎた。
白い陰陽服に身を包んだ女性は、静かに印を結ぶ。
袖口から零れる魔力が、紫に光る石へと流れ込み、
石は応えるように、鈍く、淫靡な光を強めていった。
呪法が紡がれるたび、空間が軋む。
祝詞ではない。
浄めでもない。
それは「呼び起こす」ための言葉。
封じられたものを、目覚めさせるための儀式。
女性は、微動だにせず、ただ魔力を注ぎ続ける。
九つの玉が、ゆっくりと脈動を始めていた。
儀式を終えた女性が、祭儀場を後にしようとした、その時だった。
石段の向こうから、硬質な足音が近づいてくる。
振り返ると、そこにいたのは、全身を鎧に包んだ、一人の女性だった。
無駄のない装備。儀礼でも威嚇でもない、純然たる“戦場の装い”。
女は目を細め、祭壇の方を一瞥する。
「……もう、儀式は終わったのか?」
低く、感情を抑えた声。
女性は足を止め、静かに答えた。
「ええ。一通りは。あとは……封を解くだけです」
鎧の女は答えず、視線を外さない。
紫に燐光を放つ石、九つの玉、歪んだ空気。
そのすべてを、値踏みするように見つめていた。
「……こんな場所に来て、よかったのですか?」
女性は、同じく祭儀場へ視線を向けたまま問いかける。
「あなたのような方なら、本来は忌み嫌い、嫌悪する場所でしょう」
女は、鼻で小さく息を吐いた。
「そうだな」
「本来なら、貴様を殺してでも、止める立場だ」
鋭い視線が、女性をを射抜く。
「……一条」
名を呼ばれた一条は、驚きも怒りも見せなかった。
「……ならば、何故そうなさらないのですか?」
淡々とした声。
「そうしていただければ、私も、こんな事をせずに済むのですが」
二人の間に、沈黙が落ちた。
鎧の女は、答えなかった。
いや、答えられなかった。
一条は、その沈黙を見て、わずかに口元を歪める。
「結局――」
その声には、諦めとも、怒りともつかぬ響きがあった。
「私たちのような者は、使われ、利用されるだけです」
「時代が変わろうと、神が顕れようと――」
「結局、何も変わらない。何も、変わらなかった」
一条は、そう言い切ると、背を向けた。
「……それだけですよ、団長様」
白い陰陽服が、闇の奥へと消えていく。
足音が遠ざかり、完全に聞こえなくなった後。
鎧の女は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
やがて、ぽつりと呟いた。
自分の、甲冑に覆われた手を見つめながら。
「……結局」
強く握り締めた拳が、わずかに震えた。
「私も同じ穴の貉か……」
団長と呼ばれた女性も、静かに祭儀場を後にした。
祭儀場の奥では、九つの玉が、再び、鈍く光っていた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。
物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、
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