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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第四章 京都百鬼夜行

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聖剣(画像あり)

※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。

イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。


なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは

作中の描写と多少異なる場合があります。

あらかじめご了承ください。

縁側へと続く廊下と、その向こうの庭から、静かな足音が重なって聞こえた。


姿を現したのは、豪奢な騎士甲冑に身を包んだ一団だった。

磨き抜かれた銀の装甲は、陽の光を反射して冷たく輝いている。

儀礼ではない。

完全武装だ。

戦場に立つ者の装いだ。


その列の中に――アリアがいた。


変わらぬ白銀の髪。

だがその姿は、俺の知る彼女よりも、どこか遠い。


縁側に立ったまま、一歩も中へ踏み込まず、先頭の騎士が声を発した。


「初めまして、二宮様」


銀髪を長く垂らしたその騎士は、完全武装のまま、微動だにしない。

礼は尽くしている。

だが、武器を解く気は一切ない。


それを見た瞬間だった。


「……ほぉ」


二宮が、囁いた。


その声に、怒鳴りも威圧もなかった。

だが――空気が変わった。


「お主ら……ここが何処かわかっておるのか?」


言葉が聞こえた、その瞬間。

怒気が、爆ぜた。


目に見えるはずもない圧が、部屋と庭を一気に満たす。

息が詰まる。

皮膚の内側から締め付けられる感覚。


それを感じ取ったのだろう。

騎士たちが一斉に、剣の柄へと手を掛けた。


次の瞬間。


――カラン。


軽い金属音が、庭に響いた。


一本の剣が、持ち主を失ったまま、庭の石畳の上を転がっている。


騎士たちは一瞬、動きを止めた。

理解が、遅れて追いつくと。


「……貴様ぁッ!!」


怒号と共に、剣が抜かれる。


――だが、それが終わりだった。


ボッ。


ボッ。


炎が、音もなく立ち上がった。


剣を抜いた騎士たちは、悲鳴を上げる暇すらなく、

一瞬で燃え尽き、次の瞬間には、そこに居なかった。


灰すら残らない。


俺は息を呑み、反射的に二宮と一条を見た。


だが一条は、何も言わず、ほんの僅かに首を横に振る。

――聞くな。

――理解しようとするな。


そう告げているようだった。


縁側に立つ銀髪の騎士は、その光景を横目で一瞥しただけだった。

目を細め、何かを測るそんな雰囲気だった。


先頭に立っていた騎士は、何も言わなかった。

ただ静かに一歩進み出ると、縁側で膝を折り、正座した。


完全武装のまま。

甲冑の金属が、縁側の床に触れて低く軋む。


そして、そのまま深く頭を下げた。


「……部下が、失礼いたしました」


声は低く、抑えられている。

だが、曖昧さは一切ない。


その光景に、周囲がざわめいた。


「だ、団長……!」

「何をなさって――」


騎士たちが戸惑い、アリアも思わず一歩踏み出しかける。

だが、正座した騎士は微動だにしない。

頭を下げたまま、沈黙を貫いていた。


二宮は、その姿をじっと見下ろしていた。


責めるでもなく、怒鳴るでもなく。

まるで――値踏みするように。


沈黙が、重く場を支配している。

誰も息をする音すら出せないでいた。


やがて、二宮が呆れたように息を吐いた。


「……よい。表を上げい」


その一言で、張り詰めていた空気がわずかに緩む。


騎士は、ゆっくりと顔を上げた。

視線は真っ直ぐ、二宮を捉えている。


騎士は、二宮に促されるまま、言葉を続けた。


「私の指揮下にある者が、この場を弁えぬ態度を取りましたこと――

 心より、お詫び申し上げます」


そう言って、再び深く頭を下げる。


今度は、迷いのない所作だった。


「団長、もう――」


周囲の騎士たちが止めようと声を上げた。

だが、“団長”と呼ばれた騎士は、片手を静かに上げてそれを制した。


言葉はない。

それだけで、部下たちは口を閉ざす。


彼女は、まだ頭を下げたまま動かない。


二宮は小さく息を吐き、興味を失ったように手を振った。


「……よい。詫びは受け取った。

 それ以上、頭を下げられても困るわい」


その言葉に、ようやく場の緊張が一段落ちた。


騎士はその気配を察し、静かに背筋を正したまま、名乗りを上げた。


「改めまして、二宮 姫華親王様」


「私は、ノヴァリア神聖王国 近衛騎士団団長

 セレナ・アークラディアと申します」


名乗りと同時に、騎士は深く一礼した。


「本国より、大事な神器を預かっている身、

 ゆえに、このような不躾な装いで参上した非礼、

 どうかご両所、御寛恕(ごかんじょう)願いたい」


その声音に、言い訳や弁明の色はない。

あるのはただ、職務としての覚悟だけだった。


二宮は鼻で小さく笑った。


「……神器を預かっておるか……」


二宮はそう呟くと、騎士達に抱えられた豪華なケースへと視線を向けた。


「ならば尚のこと、我の前で剣に手をかけるなど、言語道断じゃな」


セレナは否定しなかった。


「仰る通りです。

 故に、部下の不始末は、団長である私の責でございます」


そう言って、彼女は再び深く頭を下げた。


「して――其方は、何しに参った?」


二宮の声は低く、温度がなかった。

怒っているわけでも、威圧しているわけでもない。

ただ、興味がないというだけの声音だ。


まるで帳簿の一項目を処理するように、

淡々と、事務的に、話を先へ進めようとしている。


その空気を、セレナは正確に読み取ったのだろう。

彼女もまた、感情を削ぎ落とした声音で応じた。


「此度、本国の主神ノヴァリア様よりご神託を賜り――

 教皇聖下の命により、神器“聖剣”をお預かりして参りました」


その言葉を聞いた瞬間、

二宮はわずかに眉を動かした。


「……それを、我が国に奉納でもしてくれるのかえ?」


呆れを含んだ、半ば冗談のような口調。


だがその一言に、騎士たちがざわめいた。

剣呑な空気が、一瞬だけ張り詰める。


――だが。


セレナは、何も言わずに腕を横へ伸ばした。


それだけで、騎士たちは口を閉ざす。

彼女の背に立つ者たちは、その動きだけで従った。


「ご冗談を」


セレナは視線を逸らさぬまま、淡々と続ける。


「本日は、御剣家のご子息――

 葵様とお取次ぎいただけるとの話を受け、参上いたしました」


そう言って、彼女は一条へと視線を向けた。


二宮は、それを見て大きく息を吐いた。


ため息というより、面倒事を飲み込む音だった。


「許可した覚えはないんじゃがな……」


そう呟きながら、二宮は一条を睨む。


一条は即座に膝を正し、深く頭を下げた。


「申し訳ございません、二宮様」


二宮は一瞬だけ天井を仰ぎ、

もう一度、今度は露骨にため息を吐いた。


「……獅子堂や」


俺に視線が飛んでくる。


「御剣の倅を、叩き起こせ」


「……マジかよ」


内心でそう呟きながら、

俺は部屋の端で伸びている御剣のところへ向かった。


肩を軽く揺する。


「おい、御剣」


反応なし。


もう少し強く揺する。


「起きろって」


「……う~ん……」


返ってきたのは、寝言のような呻き声だけ。


……チッ。


俺はしゃがみ込み、

御剣の頬をペチペチと軽く叩いた。


「おい、起きろ。ほら」


「……う~ん……」


イラッとした。


俺は顔を近づけ、耳元で思い切り息を吸い――


「起きろォォォォ!!」


叫んだ。


「はい!!」


御剣は跳ねるように飛び起きた。


背筋を伸ばし、条件反射のように返事だけは完璧だ。


……軍人かよ……。


周囲の視線が、一斉に御剣へ集まる。


セレナも、アリアも、騎士たちも、

そして――


二宮は、肘をついたまま、ニヤニヤと笑みを浮かべ御剣を見下ろしていた。



「……なに、なに、なに?」


御剣は勢いよく飛び起きたものの、状況が飲み込めていないらしく、

目を瞬かせながら部屋の中と縁側をきょろきょろと見回していた。


完全武装の騎士団。

異様に静まり返った空気。

そして、縁側に正座してる銀髪の騎士。


遅れて状況を察したのか、御剣の表情がわずかに引き締まる。


俺は小さくため息をつき、声をかけた。


「……お客さんだ」


そう言って、顎で騎士団の方を示す。


「聖剣の件で来たんだと。お前の対応待ちだ」


軽く背中を押すと、御剣は一度だけ俺を振り返った。


その目には、まだ完全には覚悟が定まっていない色がある。


だが、逃げる気もない。


御剣はのそのそと歩き、自分の席へ戻ると、

縁側の騎士――セレナの方へ向き直って座った。


敷居を挟み、内と外。


これ以上は入ってくるなと、

無言で線を引くような構図だった。


それを見て、セレナは小さく、ほんのわずかに口元を緩めた。


「初めまして」


澄んだ、だが感情を抑えた声。


「私は、ノヴァリア神聖王国

 近衛騎士団団長、セレナ・アークラディアと申します」


名乗りと同時に、完璧な一礼。


御剣は一瞬だけ息を整え、同じように背筋を伸ばした。


「……初めまして。

 御剣家嫡男、御剣 葵と申します」


言葉は丁寧だが、声にはわずかな硬さがある。


セレナの“格”に、完全に呑まれているのが分かった。


俺はそれを見て、思わず天を仰いだ。


――あちゃー……。


御剣はまだ、“交渉の場”に慣れていない。


セレナはそんな御剣の様子を見逃さず、淡々と本題に入った。


「此度、本国の主神ノヴァリア様よりご神託を賜り――

 教皇聖下の命により、神器“聖剣”をお預かりして参りました」


そう言うと、彼女は部下に目配せをする。


騎士が一歩進み出て、豪奢な装飾が施された白い箱を差し出した。


清廉で、重みのある存在感。


中身を見ずとも、“ただの箱ではない”ことは嫌でも分かる。


セレナは箱を受け取ると、低く命じた。


「……ここはもう良い。下がれ」


「しかし、団長――」


騎士が言いかけた瞬間。


「下がれ」


声は低く、鋭かった。


それだけで、騎士もアリアも口を噤んだ。


不満と警戒を残したまま、

一団は静かに縁側の向こうへと退いていく。


完全に姿が消えたのを確認してから、

セレナは箱を朝倉さんへと差し出した。


朝倉さんは無言でそれを受け取り、部屋に入り、

御剣の前へ丁寧に箱を置いた。


「中をお確かめいただいて構いません」


御剣の行動より先に、朝倉さんが動いた。

朝倉さんが静かに箱を開け、中の包みを解いていった。


白布の下から覗いたのは――

俺の位置からは見えない。


だが、御剣が小さく息を呑むのが分かった。


「……ご立派な神器ですね」


感嘆の混じった、素直な声。


セレナは頷き、静かに言った。


「手に取っていただいても構いませんよ」


その瞬間、御剣の動きが止まった。


「……結構です」


即答だった。


セレナの眉が、ほんのわずかに動いた。


「理由を、お伺いしても?」


御剣は一度だけ息を吸い、迷いを断ち切るように言った。


「僕は、聖剣の担い手にはなれません。

 ……なる気もありません」


場の空気が、ぴんと張り詰めた。


「僕は、ノヴァリア神聖王国のことも知りません。

 主神ノヴァリア様のことも、一切知りません」


御剣は視線を逸らさず、続けた。


「そんな僕に、この神器を扱う資格はありません」


朝倉さんは何も言わず、静かに布を戻し、箱を閉じた。


その一連の所作に、迷いはない。


セレナは、その様子を見て、短く頷いた。


「……分かりました」


箱を受け取りながら、彼女の声に感情の揺れはなかった。


それを黙って見ていた二宮が、ぽつりと呟く。


「あっさりと引くのじゃな」


セレナは視線を二宮に向け、静かに答えた。


「ええ。分かりきっていた事でしたので」


セレナは、白い箱を抱え直すと、静かに立ち上がった。


その動きには、迷いはない。

だが、満足の色もなかった。


「此度の件、機会を与えていただいた事に感謝いたします」


一歩下がり、形式通りに一礼した。


それは礼儀であって、感情ではない。

職として、立場として、口にせねばならぬ言葉だった。


セレナは踵を返し、立ち去ろうとする。


だが、縁側を離れる直前、一瞬だけ、歩みが止まった。


「……次に会う時は」


振り返らずに、言葉だけが落ちる。


「戦場になるでしょう」


それは予告ではない。

脅しでもない。


そうなるという事実確認だった。


「どうか、大切なものを失われませぬよう」


それだけ言い残し、セレナ・アークラディアは、この場を去っていった。






セレナ・アークラディア


挿絵(By みてみん)



ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。

物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、

あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。


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