葵の優雅な休日?
朝、俺が目覚めると何時もどうり沙耶が挨拶をしてくれる。
「お早う御座います葵様」
俺は沙耶に挨拶を返し、寝ていたベッドから出ると、これまた何時もどうりに沙耶に寝間着を一瞬で剥ぎ取られる。
剥ぎ取られた寝間着に顔をうずくめ臭いを堪能している沙耶を横目に俺は今日の一日を考える。
今日は勉強も訓練もない休日の日だ。
TVやゲーム等をして楽しみたいとこだが…
出来るだろうか…
休日、それはなんとも心地よい響きなのだが…
ここでは地獄の始まりだ。
それは、おれが勉強も訓練も何もないフリーな一日だ。
それは沙耶や摩耶、メイド達にとって俺を一日甘やかせる最高の日なのだそうだ。
一日中メイド達に着せ替え人形の様に衣服を着せられ、一人ファッションショーをやらされたり、メイド達が作ったお菓子を腹いっぱいに食べさせられたりしてきた。
初めの頃はヒャホーって喜び、天国は此処にあったのかと喜んでたが、そんな生活が何年も続けば苦痛に切り替わる…
そんな事を憂鬱に考えていると沙耶が俺の着替えを終わらしてくれていた。
俺がため息をついていると、沙耶がニヤリと微笑みながら顔を上げる。
「葵様、今日の朝食は豪華フルコースです」
「えっ?朝から…?」
「はい、もちろんです。今日は葵様のご機嫌を最高にするべく、メイド全員で選び抜いた一流食材を使っておもてなししますから」
俺が何か言おうとする前に、沙耶は俺の手を取ってダイニングルームへと連れて行った。
そこにはすでに摩耶が待ち構えていた。
彼女の目がキラリと光る。
「お早う御座います、葵お坊ちゃま。今日は、あなたをとことん甘やかします。」
摩耶の宣言に続き、テーブルの上には朝食というには豪華すぎる料理が並べられていた。
サラダ、フルーツ、スープ、ステーキ、そしてなんと寿司まで!これで一食分…
「ちょ、ちょっと待って!いくらなんでも量が多すぎないか?」
「大丈夫よ、葵お坊ちゃま。しっかり食べて大きくなりましょ?」
摩耶が俺の肩に手を置き、優しく囁くが、その目は完全に俺を逃がす気がない。
「はい、どうぞ。あーんして差し上げます」
沙耶がスプーンを持って、俺に「はい、口を開けて」と言わんばかりに迫ってきた。
逃げ場がない、逃げたいが逃げられない…
覚悟を決めて、俺は口を開けるのだった…
朝食地獄の後に
「ごちそうさまでした…もう…動けない…」
そう呟いた俺に、摩耶がにっこり笑顔で言い放つ。
「さて、葵お坊ちゃま、朝食が終わったら次はお着換えの時間よ」
「ええ!?ま、またですか!?」
「もちろん。今日は葵お坊ちゃまのために、さらに新しいコーディネートを用意してあるの。さあさぁ、楽しみね」
もはや断る隙すらない。
俺は半ば諦めて、彼女たちに引きずられるようにして着替え部屋へと運ばれていく。
部屋に入ると、そこには何着もの服が並んでいて、俺の顔は思わず引きつった。
「どうぞお着替えを」沙耶が微笑みながら言ったが、その目は鋭く「逃げたら許さない」というオーラが出ている。
「わ、わかった…」
俺は観念して、まずは一着目の衣装を着てみる。
鏡を見ると、そこには煌びやかなタキシード姿の俺が映っている。
似合うかどうかはさておき、沙耶と摩耶の目は輝いている。
「さあ、次は可愛い系のコーディネートよ」
「いや、せめて選ばせてくれないのか…?」
「もちろんダメです、葵様!」
そうして俺はどんどん着替えさせられ、王子風の服、騎士風の甲冑、果ては猫耳パジャマまで。沙耶やメイド達が目を輝かせて写真を撮りまくっている中、俺は次第に現実を忘れたくなってきた。
ようやくファッションショーが終わった頃、俺はすでにくたくたになっていた。
しかし、沙耶と摩耶はまだ満足していないらしい。
「葵様、おやつの時間です!」
またか…
これまでにも何度か経験したが、メイドたちは俺を太らせようとしているのかと思うほど、量とバリエーションでおやつを出してくる。
チョコレートケーキ、シュークリーム、マカロン、プリンにパフェ…。
甘い匂いが鼻を刺激してくる。
「いや、朝食で既に腹いっぱいなんだが…」
「それでも、少しずつでも食べていただかないと…」
沙耶がチラリと後ろに並ぶメイド達を見る。
俺もつられてチラッと目をやると、キラキラとした眼差しでこちらを眺めているメイド達が目に入った。
沙耶が容赦なくおやつを差し出してきので、俺は観念してパクッと口に入れる。
甘い、美味しい、でももうお腹が限界だ…
それでも沙耶は「まだまだこれからです、沢山ありますよ」と、次々にお菓子を差し出してくる。
流石に全部は食べきれなかっが、全種類は制覇出来たと思う…出来たよね?
おやつタイムが終わる頃には、俺は完全に甘いものに満たされて動けなくなっていた。
すると沙耶が満足そうに微笑む。
「では、葵様、少しお昼寝の時間です」
「ああ、ようやく休めるのか…」
しかし、沙耶の「お昼寝」とは、決してただの休息ではないことを俺はすでに学んでいた。
彼女がベッドに誘導し、俺を寝かせると、すかさず隣に座って髪を撫で始める。
しかも、彼女だけではなく、メイドたちも次々に部屋に入ってきて「お昼寝のお供」と称して周りに集まってくる。
「み、みんなで見守らなくてもいいだろう…」
「いえ、葵様が快適に眠れるように、私たちも心を込めてサポートいたします」
そして、摩耶までもがやってきて俺の隣に横になり、頬杖をつきながらこちらを見ている。
「さあ、葵お坊ちゃま、ゆっくりお休みなさい」
寝ろと言われても、これだけ見守られていると寝られるわけがない。
しかし、沙耶が優しく頭を撫で、摩耶が穏やかに微笑みながら見守っている。
子供の身体のおかげだろうか、眠気に逆らえずにだんだんと目が重くなっていく。
そして、ついには眠りの世界へと落ちていった。
目を覚ますと、すでに夕方になっていた。
俺が起き上がると、沙耶が満面の笑みでお茶を用意してくれていた。
「お早う御座います、葵様、お目覚めのお茶です」
「ありがとう…って、え?何だこの豪華なティーセットは!」
テーブルには山盛りのサンドイッチやスコーン、さらには小さなケーキまで並んでいる。朝食とおやつで既に限界を迎えている俺に、さらにこれを食べろというのか…
「今日の葵様のために特別にご用意いたしました!」
「って、食えるかぁぁぁ‼」
俺は素で叫んでしまった。
沙耶は遠慮もなく、満面の笑みで楽しそうにティーカップを差し出してきた。
諦めて俺はそれを受け取るが、今日一日が終わる頃には、きっと俺はただの人間ではなく、スイーツの化身にでもなってしまうのではないかとすら思えた。
お茶を終えて一息ついた俺は、もうすぐ一日が終わることを信じていた。
しかし、そこに沙耶が現れる。
「葵様、お風呂が用意できました」
「お、お風呂か…」
やっと一人で落ち着けるかと思いきや、沙耶はにっこりと微笑んで言った。
「もちろん、私たちがご一緒にお手伝いいたします!」
「えっ!?いや、流石にそれは…」
「葵様、安心してください。今日一日、葵様は私達に身を任せておけば良いのです!」
その夜、俺は結局一人になることもなく、沙耶と摩耶、メイド達に囲まれながら優雅すぎる(と言うか騒がしすぎる)お風呂タイムを過ごした。