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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第四章 京都百鬼夜行

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裁可

※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。

イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。


なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは

作中の描写と多少異なる場合があります。

あらかじめご了承ください。

「――さて、始めるでありんすえ」


その声が落ちた瞬間、空気がいっそう重くなった。


畳の上に座っているはずの身体が、

見えない手で上から押さえつけられたような感覚に変わった。


胸の奥が軋む。息を吸っているはずなのに、肺が膨らまない。


「今回の■■■■は、わっちが門を開くでありんす」


声は近くも遠くもない。

距離という概念を、最初から持っていない声音。


「奉納は百倍。異論は認めんでありんす」


それで、何かが決まった。


誰も答えない。

いや、答えるという選択肢そのものが存在しなかった。


聞こえるのは、自分の歯が小刻みに鳴る音と、

やけに大きく感じる心臓の鼓動だけだ。


カチカチカチ……。


その音が、場違いなくらい生々しい。


「……お待ちを、■■様」


唐突に、もう一つの声が頭の内側に直接響いた。


冷静で、整っていて、だが感情の所在が掴めない声。


「何でありんすかえ、●●●」


先ほどの声が、わずかに楽しげに応じる。


「百倍の奉納、その量自体に異論はありません。

 ですが、無意味な奉納は、ただの塵です」


空気が、わずかに軋んだ。


「物だけ多くとも、意味がありません」


「……二宮」


低く、命令するような声。


「百倍“相当”の品を奉納しろ」


一瞬、場が静まり返る。


「米や麦はともかく――

 清酒は、ただのアルコールに過ぎん」


淡々と、切り捨てるように続く。


「飲めぬ酒、食えぬ物に意味はありんせんしなぁ~」


どこか愉快そうに、先の声が笑う。


「●●●の好きにするでありんすえ」


「……有り難う御座います」


「此度の奉納の儀。

 価値ある上等の物を百倍相当で用意せよ」


言葉が、契約として空間に刻まれる。


「今後は、意味ある十倍相当の物を差し出せ。よいな」


沈黙。


誰も応じない。

応じる必要がないのだと、身体が理解していた。


「他に無ければ、これで終わるでありんすえ?」


さらに沈黙。


「……なら、これにて契りはなった」


その宣告と同時に、

場の“緊張”が一段、質を変えた。


「ところで――」


声が、愉しむように続く。


「そち達の後ろに控えておるのが、今回の役者でありんすかえ?」


背中に、視線を感じた。


見られている、というより――

量られている。


「脆弱でありんすなぁ~」


その言葉だけで、喉の奥がひくりと痙攣した。


「只人風情に、▲▲は重いかと」


軽く言われただけなのに、

胸の内側を直接掴まれたような感覚が走る。


「まぁ、よいでありんすえ」


興味を失ったような声。


「……そこの、シヴァの眼子」


呼ばれた。


ヴィヴィアンを。


だが、ヴィヴィアンは答えない。


その瞬間――

空気の圧が跳ね上がった。


胸が潰れる。

肋骨の内側から、身体を押し割られそうになる。


息が漏れそうになるのに、吐くことすら許されない。


視界が白く滲み、思考が途切れかけた、その時。


「――やめい」


低く、しかし確実に別の“格”の声が響いた。


「◆◆◆の女王よ」


それは、ヴィヴィアンの声だった。

だが――ヴィヴィアンではない。


「うちの子を、虐めるな」


一言で、空気の圧が押し返された。


「盗み視などせんと……

 居るなら、さっさと出てくるでありんすえ」


場が、張り詰める。


二つの“存在”が、ギシギシと

互いの領域を測り合っているのが、素人の俺にも分かる。


「……で、なんの用じゃ?」


「そちは、此度の件に干渉するでありんすかえ?」


「ない」


即答。


「なら、良いでありんす」


張り詰めていた空気が、

ゆっくりと緩む。


「はぁ……それだけか?」


「それだけでありんす」


「じゃが、この器が壊れそうなら、干渉はさせてもらうぞ」


「それは構いんせん。

 こちらからは、何もせんってだけでありんすえ」


「……っち」


舌打ちが聞こえた。


次の瞬間――


バタンッ


ヴィヴィアンが倒れた音だった。


「……干渉してくるでしょうか?」


少し間を置いて、先ほどの声が響く。


「釘は刺したでありんす」


「では、これにて裁可を終了とする」


そして、最後に。


「二宮。匙は、投げられたでありんすえ」


冷たい愉悦を含んだ声。


「そち達の児戯――

 楽しく拝見させて貰うでありんす」


その言葉を最後に、


――バタン、バタン、バタン。


四方から襖が閉じる音が重なり、最後に


パンッ


と、乾いた音が響いた。


次の瞬間。


張り詰めていた圧が、一気に抜け落ちた。


闇が剥がれ、視界が元の畳と柱に戻っていた。


俺は――

しばらく、動けなかった。


身体が、まだあの重さを覚えていたからだ。




しばらくして――

本当に、しばらくしてからだ。


指先に、ようやく感覚が戻ってきた。

痺れが引くというより、身体が現実を思い出したような感覚。


その頃になって、正面から静かな声がかかった。


「……お疲れ様でした」


一条が、こちらに向き直っていた。

背筋を正し、何事もなかったかのように、

綺麗な所作で一礼する。


その仕草が、あまりにも“普通”で――

俺は一瞬、さっきまでの出来事が夢だったのかと錯覚しかけた。


深く息を吸う。

今度は、ちゃんと肺が膨らんだ。


ようやく落ち着きを取り戻し、俺はゆっくりと視線を巡らせた。


畳。

柱。

障子越しの柔らかな光。


先ほどまで、世界そのものが押し潰されていたとは思えないほど、ただただ静かに、時間が流れていた。


……だが、人間は正直だ。


イザベリアは、まだ動けていなかった。

土下座の姿勢のまま、肩を小刻みに震わせている。


ヴィヴィアンは――

完全に意識を失っている。


横倒しになった彼女を、沙耶が静かに支えていた。

呼吸を確認し、首元に手を添え、落ち着いた動きで介抱している。


……いや。


沙耶さん、平気なのか……?


思わず、心の中でそう呟いた。


あの場にいて、何事もなかったかのように動いている。

――この人、何者だよ。


御剣は……

うん、ダメだ。


目を回したまま、完全に意識を失っている。

力の抜けた身体が、だらりと畳に倒れていた。


俺はその様子を見て、思わず苦笑いを浮かべる。


「……まあ、そうなるよな」


それを見ていたのだろう。

一条が小さく息を吐いた。


「仕方ありません……」


そう言いながら、一条は御剣の側にしゃがみ込み、乱れた姿勢を丁寧に整え、畳に寝かせ直してやっていた。


その所作は、驚くほど慣れている。


……何度目だ。


そう思った時、

ふと、視界の端に二宮の姿が入った。


二宮は、まだ震えていた。

視線を床に落としたまま、自分の身体を抱きしめるようにしている。

声も出さず、ただ、そこに座っている。


――神と人間の、正しい格差。


俺は、ゆっくりと息を吐いた。


さっきまでの重圧が、まだ胸の奥に残っている。


だが――

それでも。


俺たちは、生きている。


そして、何かの“契り”は結ばれた。


今はこの静けさだけが、現実味を帯びていた。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。

物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、

あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。


感想・考察・ツッコミなど、

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