一条家 弐
※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。
イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは
作中の描写と多少異なる場合があります。
あらかじめご了承ください。
準備を終えた俺たちがロビーに降りると、
すでに御剣と沙耶の二人が待っていた。
俺に気づいた御剣は、ぱっと表情を明るくして近づいて来た。
「今日はよろしくね、獅子堂君」
嬉しそうにそう言うと、俺の後ろにいたイザベリアにも向き直り、
「イザベリアさんも、よろしくね」
と、丁寧に挨拶をした。
俺はその様子を横目に見ながら、沙耶の方へ視線を向けると、
沙耶は無言で一歩下がり、軽く頭を下げてきた。
――なるほど。
俺たちが“面倒を見る側”ってわけか。
イザベリアたちと楽しそうに話している御剣を見て、
俺は念のため釘を刺しておく事にした。
「御剣。これから行く場所は、敵地かもしれねぇ。
あんまり勝手なことするなよ」
「わかってるって」
即答だった。
さらにイザベリアも、表情を引き締めて言葉を添えた。
「剣の件もあります。
くれぐれも、勝手に触ったりしないで下さい」
「わかってるよ~」
御剣はぶーっと頬を膨らませて不満そうに言った。
「刹那姉様にも、こんこんと言われたから」
「……何て?」
俺が聞き返すと、御剣は指を折りながら答えた。
「見るな、触るな、興味を持つな、だってさ」
完全にふてくされた顔だった。
俺たちはその御剣のふてくされた顔を見て、思わず笑いながら軽く言葉を交わしていた。
その時――
「お待たせしました」
と、落ち着いた声がかかる。
振り返ると、朝倉さんが一礼しながら立っていた。
「出発の準備が整いました。どうぞ、こちらへ」
そう言って先導し、建物の外へと案内する。
外には、艶のある黒塗りのリムジンが静かに停まっていた。
朝倉さんが自ら後部座席のドアを開ける。
俺たちは一瞬顔を見合わせてから、順に車内へと乗り込んだ。
重厚なドアが静かに閉まり、エンジン音が低く唸る。
こうして俺たちは、
京都・一条家の屋敷へと向かうことになった。
車は静かに発進し、しばらく京都の街を走った。
窓の外に流れる景色を指し示しながら、朝倉さんが淡々と観光名所を説明してくれる。
古い寺社、石畳の通り、重なり合う屋根――
観光として見れば穏やかな景色だが、今の状況ではどこか落ち着かない。
やがて車は減速し、静かな一角で止まった。
降りてみると、そこは京都御所の北側、すぐ隣に建つ巨大な和風建築だった。
塀も門も高く、威圧感すらある。
ただの華族の屋敷とは、どう考えても規模が違う。
「……でかいな……」
思わずそう呟き、門を見上げていると、
ふと横に掲げられた表札が目に入った。
二宮。
俺は首をかしげ、朝倉さんの方を見る。
「朝倉さん。
二宮って表札が出てるが……一条じゃないのか?」
そう尋ねると、朝倉さんは少しだけ口元を緩めて答えた。
「こちらは“二宮様”の邸宅でございます。
一条様は、その管理を任されている立場です」
……なるほど。
朝倉さんはそう言い終えると、門を開き、俺たちを振り返った。
「どうぞ。中へ」
門から玄関までは思ったより距離があり、
その道すがらに見える庭は、手入れが行き届いた静謐さと、
どこか異様なほどの気配を孕んでいた。
手の行き届いた草木、風が吹くたびに葉擦れの音が低く響く。
――庭、というより結界の内側だな。
そんな感想が自然と浮かぶ。
やがて玄関先に辿り着くと、そこに一人の女性が立っていた。
白を基調とした巫女装束にも似た着物。
だが神社のそれとは微妙に違い、装飾や刺繍が施されており、
動きやすさを重視した実務装束のようにも見える。
「初めまして」
凛とした声だった。
「二宮邸をお預かりしております、一条 綾女と申します」
そう名乗り、深く一礼した。
一条。
此度の騒動の中心人物。
イザベリアやヴィヴィアンが一瞬だけ身構える気配を見せたが、
女性はそれに気づいた様子もなく、落ち着いたまま言葉を続けた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます。
どうぞ、お入りください。二宮様がお待ちです」
その一言で、この屋敷の“主”が誰なのか、はっきりと理解させられた。
ここは一条家の屋敷ではない。
一条家は、あくまで預かる側。
俺は小さく息を吐き、覚悟を決める。
――さて、ここからが本番だな。
一条に案内されるがまま、
邸内をぐるりと回り奥の大広間に案内された。
部屋の中の上座には一人の女性が座っていた。
白と赤を基調としたシンプルながら豪勢な着物。
頭には冠のようなものを戴いている。
俺はその姿を見た時、どことなく懐かしさを覚え、
どこかで見たことがあるような気がした。
「どうぞ」
一条に促されるがまま俺達は中に入り、
女性の手前、横に一条が着く。
俺と御剣が女性の対面に、
その後ろにイザベリア達が並んだ。
「お座り下さい」
そう言われ、俺達は敷かれた座布団に正座する。
それを脇から見ていた一条も、黙ってその場に正座した。
「よくぞ参られた。我が二宮だ」
そう名乗ると、二宮は話を続けた。
「いろいろと話したいのはやまやまだが、
先に行わねばならぬ事がある」
「そなた達には、これより執り行う
儀式契約の裁可に奉見してもらう。
異論は認めん」
淡々と、しかし拒絶の余地なく言い切る。
「その場では頭を垂れ、黙しておれ。
決して顔を上げ、相手の尊顔を拝もうとするな」
「何を言われようとも、
決して口を開くな。目を開くな。
名を呼ばれるまで存在を消しておけ。」
最後に、念を押すように告げた。
「――よいな」
一方的に二宮から告げられた言葉を、俺はすぐには理解できなかった。
意味を噛み砕く前に、場の空気だけが先に重く沈んでいく。
俺たちが戸惑い、互いに視線を交わしていると、一条が静かに立ち上がった。
「二宮様、そろそろ」
二宮は何も言わず、小さく頷くと、先ほどまで一条が控えていた脇へと移動し、正座した。
一条はそのまま俺たちの対面に座り直し、深く一礼する。
「これより、仏神との契約の儀を執り行います」
淡々とした声だったが、そこに感情はない。
ただ“決定事項”を告げる声音だった。
「申し上げたい事もおありでしょう。しかし、時間がございません。
誠に恐れ入りますが、先ほど二宮様がおっしゃった通り──
黙して頭を垂れ、儀が終わるまでその姿勢を保って下さい。」
一条はそう言って、再び深く頭を下げた。
「決して口を挟まず、顔を上げぬよう、重ねてお願い申し上げます。」
その言葉に、イザベリアが小さく息を呑み、問いを投げる。
「……もし、顔を上げたり、口を挟めばどうなりますの?」
一条は首を横に振った。
「良ければ──死。
悪ければ、災禍を招くやもしれません」
断定はしない。
だが “何が起きても不思議ではない” と、はっきり告げていた。
そこへヴィヴィアンが静かに口を開く。
「神とは、頭を下げ、畏れ、敬意を払うもの。
決して目で見てはならず、耳で聞き、口にしてはならない。」
一条はその言葉に、わずかに口元を緩めた。
「……流石は、シヴァ様の眼子ですね」
だが次の瞬間、表情が一気に引き締まった。
「これより行われるのは‘’裁可‘’。
あなた方は、その裁定を‘’奉見する者‘’に過ぎません」
一条はゆっくりと、しかし確実に言い切った。
「くれぐれも、粗相のなきよう」
そして、もう一度深く頭を下げた。
「一条」
二宮の声が、大広間に静かに響いた。
「そろそろ時間です。頭を下げ、そのまま動かぬように」
一条はそう言って、身体の向きを上座へと向け、静かに頭を垂れた。
一同が頭を下げ、部屋の中が完全に静まり返った、その瞬間だった。
パン!
乾いた音と共に、襖が一枚、勢いよく開かれる。
パン、パン、パン、パン──
間髪入れず、四方の襖が次々と開かれたような音がした。
その瞬間、濃密で、底冷えするような空気が一気に流れ込んできた。
息が、重い。
いや──
空気そのものが、死を含んでいる。
視界が潰れた。
ついさっきまで畳と壁に囲まれていたはずの空間が、
一瞬で“何もない闇”に塗り潰された。
上下も、距離も、奥行きもない。
ただ、黒い。
──ヤバい。
一瞬の出来事だったが、理解が追いつく前に本能が悲鳴を上げた。
これは“見てはいけない場所”だ。
恐怖というより、
存在してはいけない領域に足を踏み入れた、その感覚。
その闇の中から。
「よもや、わっちを待たせるとは……」
女の声が、静かに響いた。
妖艶で、艶やか。
だが、そこに温度はない。
「……随分と、よい度胸でありんすな」
声音は柔らかい。
それなのに、背筋が凍る。
声が聞こえた、というより──
頭の内側に直接、言葉を流し込まれるような感覚だ。
俺は反射的に歯を食いしばる。
顔を上げるな。
見るな。
聞くな。
口を開くな。
理解している。
理解しているのに──
この“存在”は、
理解できる範疇にいない。
「ほう……」
くすり、と笑った気配がした。
「頭を下げたまま……
礼儀は、まだ覚えておるようでありんすなぁ~」
その瞬間、空間がわずかに軋んだ。
こちらを“見ている”。
「安心するでありんす。
今宵は、喰らいに来たわけではありんせん」
淡々と、だが逃げ場を与えぬ声音。
「これは契り。裁可を下すための、ただの顔合わせでありんす」
……顔合わせ。
この状況で……
“ただの”……
冗談じゃない。
喉が、ひくりと鳴りそうになるのを必死で堪えた。
「二宮。そなたが望んだ“場”は、ここで相違ありんせんな?」
その名を呼ばれた瞬間、
空気が一段、重くなった。
──これが、神。
恐怖ではない。
理解でもない。
ただ、逆らえないと知る感覚。
いや……身体が拒絶しているような感覚。
それだけが、俺の全身を支配していた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。
物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、
あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。
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