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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第四章 京都百鬼夜行

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一条家 弐

※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。

イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。


なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは

作中の描写と多少異なる場合があります。

あらかじめご了承ください。

準備を終えた俺たちがロビーに降りると、

すでに御剣と沙耶の二人が待っていた。


俺に気づいた御剣は、ぱっと表情を明るくして近づいて来た。


「今日はよろしくね、獅子堂君」


嬉しそうにそう言うと、俺の後ろにいたイザベリアにも向き直り、


「イザベリアさんも、よろしくね」


と、丁寧に挨拶をした。


俺はその様子を横目に見ながら、沙耶の方へ視線を向けると、

沙耶は無言で一歩下がり、軽く頭を下げてきた。


――なるほど。

俺たちが“面倒を見る側”ってわけか。


イザベリアたちと楽しそうに話している御剣を見て、

俺は念のため釘を刺しておく事にした。


「御剣。これから行く場所は、敵地かもしれねぇ。

 あんまり勝手なことするなよ」


「わかってるって」


即答だった。


さらにイザベリアも、表情を引き締めて言葉を添えた。


「剣の件もあります。

 くれぐれも、勝手に触ったりしないで下さい」


「わかってるよ~」


御剣はぶーっと頬を膨らませて不満そうに言った。


「刹那姉様にも、こんこんと言われたから」


「……何て?」


俺が聞き返すと、御剣は指を折りながら答えた。


「見るな、触るな、興味を持つな、だってさ」


完全にふてくされた顔だった。

俺たちはその御剣のふてくされた顔を見て、思わず笑いながら軽く言葉を交わしていた。


その時――


「お待たせしました」


と、落ち着いた声がかかる。


振り返ると、朝倉さんが一礼しながら立っていた。


「出発の準備が整いました。どうぞ、こちらへ」


そう言って先導し、建物の外へと案内する。

外には、艶のある黒塗りのリムジンが静かに停まっていた。


朝倉さんが自ら後部座席のドアを開ける。


俺たちは一瞬顔を見合わせてから、順に車内へと乗り込んだ。


重厚なドアが静かに閉まり、エンジン音が低く唸る。


こうして俺たちは、

京都・一条家の屋敷へと向かうことになった。


車は静かに発進し、しばらく京都の街を走った。

窓の外に流れる景色を指し示しながら、朝倉さんが淡々と観光名所を説明してくれる。


古い寺社、石畳の通り、重なり合う屋根――

観光として見れば穏やかな景色だが、今の状況ではどこか落ち着かない。


やがて車は減速し、静かな一角で止まった。


降りてみると、そこは京都御所の北側、すぐ隣に建つ巨大な和風建築だった。

塀も門も高く、威圧感すらある。

ただの華族の屋敷とは、どう考えても規模が違う。


「……でかいな……」


思わずそう呟き、門を見上げていると、

ふと横に掲げられた表札が目に入った。


二宮。


俺は首をかしげ、朝倉さんの方を見る。


「朝倉さん。

 二宮(にみや)って表札が出てるが……一条じゃないのか?」


そう尋ねると、朝倉さんは少しだけ口元を緩めて答えた。


「こちらは“二宮様(にのみや)”の邸宅でございます。

 一条様は、その管理を任されている立場です」


……なるほど。


朝倉さんはそう言い終えると、門を開き、俺たちを振り返った。


「どうぞ。中へ」


門から玄関までは思ったより距離があり、

その道すがらに見える庭は、手入れが行き届いた静謐さと、

どこか異様なほどの気配を孕んでいた。

手の行き届いた草木、風が吹くたびに葉擦れの音が低く響く。

――庭、というより結界の内側だな。

そんな感想が自然と浮かぶ。


やがて玄関先に辿り着くと、そこに一人の女性が立っていた。


白を基調とした巫女装束にも似た着物。

だが神社のそれとは微妙に違い、装飾や刺繍が施されており、

動きやすさを重視した実務装束のようにも見える。


「初めまして」


凛とした声だった。


「二宮邸をお預かりしております、一条 綾女(あやめ)と申します」


そう名乗り、深く一礼した。


一条。

此度の騒動の中心人物。



挿絵(By みてみん)




イザベリアやヴィヴィアンが一瞬だけ身構える気配を見せたが、

女性はそれに気づいた様子もなく、落ち着いたまま言葉を続けた。


「本日はお越しいただき、ありがとうございます。

 どうぞ、お入りください。二宮様がお待ちです」


その一言で、この屋敷の“主”が誰なのか、はっきりと理解させられた。


ここは一条家の屋敷ではない。

一条家は、あくまで預かる側。


俺は小さく息を吐き、覚悟を決める。


――さて、ここからが本番だな。


一条に案内されるがまま、

邸内をぐるりと回り奥の大広間に案内された。

部屋の中の上座には一人の女性が座っていた。


白と赤を基調としたシンプルながら豪勢な着物。

頭には冠のようなものを戴いている。


俺はその姿を見た時、どことなく懐かしさを覚え、

どこかで見たことがあるような気がした。


「どうぞ」


一条に促されるがまま俺達は中に入り、

女性の手前、横に一条が着く。

俺と御剣が女性の対面に、

その後ろにイザベリア達が並んだ。


「お座り下さい」


そう言われ、俺達は敷かれた座布団に正座する。

それを脇から見ていた一条も、黙ってその場に正座した。


「よくぞ参られた。我が二宮だ」


そう名乗ると、二宮は話を続けた。


「いろいろと話したいのはやまやまだが、

 先に行わねばならぬ事がある」


「そなた達には、これより執り行う

 儀式契約の裁可(さいか)奉見(ほうけん)してもらう。

 異論は認めん」


淡々と、しかし拒絶の余地なく言い切る。


「その場では(こうべ)を垂れ、黙しておれ。

 決して顔を上げ、相手の尊顔を拝もうとするな」


「何を言われようとも、

 決して口を開くな。目を開くな。

 名を呼ばれるまで存在を消しておけ。」


最後に、念を押すように告げた。


「――よいな」


一方的に二宮から告げられた言葉を、俺はすぐには理解できなかった。

意味を噛み砕く前に、場の空気だけが先に重く沈んでいく。


俺たちが戸惑い、互いに視線を交わしていると、一条が静かに立ち上がった。


「二宮様、そろそろ」


二宮は何も言わず、小さく頷くと、先ほどまで一条が控えていた脇へと移動し、正座した。


一条はそのまま俺たちの対面に座り直し、深く一礼する。


「これより、仏神との契約の儀を執り行います」


淡々とした声だったが、そこに感情はない。

ただ“決定事項”を告げる声音だった。


「申し上げたい事もおありでしょう。しかし、時間がございません。

 誠に恐れ入りますが、先ほど二宮様がおっしゃった通り──

 黙して頭を垂れ、儀が終わるまでその姿勢を保って下さい。」


一条はそう言って、再び深く頭を下げた。


「決して口を挟まず、顔を上げぬよう、重ねてお願い申し上げます。」


その言葉に、イザベリアが小さく息を呑み、問いを投げる。


「……もし、顔を上げたり、口を挟めばどうなりますの?」


一条は首を横に振った。


「良ければ──死。

 悪ければ、災禍を招くやもしれません」


断定はしない。

だが “何が起きても不思議ではない” と、はっきり告げていた。


そこへヴィヴィアンが静かに口を開く。


「神とは、頭を下げ、畏れ、敬意を払うもの。

 決して目で見てはならず、耳で聞き、口にしてはならない。」


一条はその言葉に、わずかに口元を緩めた。


「……流石は、シヴァ様の眼子(まなこ)ですね」


だが次の瞬間、表情が一気に引き締まった。


「これより行われるのは‘’裁可‘’。

 あなた方は、その裁定を‘’奉見する者‘’に過ぎません」


一条はゆっくりと、しかし確実に言い切った。


「くれぐれも、粗相のなきよう」


そして、もう一度深く頭を下げた。


「一条」


二宮の声が、大広間に静かに響いた。


「そろそろ時間です。頭を下げ、そのまま動かぬように」


一条はそう言って、身体の向きを上座へと向け、静かに頭を垂れた。


一同が頭を下げ、部屋の中が完全に静まり返った、その瞬間だった。


 パン!


乾いた音と共に、襖が一枚、勢いよく開かれる。


 パン、パン、パン、パン──


間髪入れず、四方の襖が次々と開かれたような音がした。


その瞬間、濃密で、底冷えするような空気が一気に流れ込んできた。


息が、重い。


いや──

空気そのものが、死を含んでいる。


視界が潰れた。


ついさっきまで畳と壁に囲まれていたはずの空間が、

一瞬で“何もない闇”に塗り潰された。


上下も、距離も、奥行きもない。


ただ、黒い。


──ヤバい。


一瞬の出来事だったが、理解が追いつく前に本能が悲鳴を上げた。

これは“見てはいけない場所”だ。


恐怖というより、

存在してはいけない領域に足を踏み入れた、その感覚。


その闇の中から。


「よもや、わっちを待たせるとは……」


女の声が、静かに響いた。


妖艶で、艶やか。

だが、そこに温度はない。


「……随分と、よい度胸でありんすな」


声音は柔らかい。

それなのに、背筋が凍る。


声が聞こえた、というより──

頭の内側に直接、言葉を流し込まれるような感覚だ。


俺は反射的に歯を食いしばる。


 顔を上げるな。

 見るな。

 聞くな。

 口を開くな。


理解している。

理解しているのに──


この“存在”は、

理解できる範疇にいない。


「ほう……」


くすり、と笑った気配がした。


「頭を下げたまま……

 礼儀は、まだ覚えておるようでありんすなぁ~」


その瞬間、空間がわずかに軋んだ。

こちらを“見ている”。


「安心するでありんす。

 今宵は、喰らいに来たわけではありんせん」


淡々と、だが逃げ場を与えぬ声音。


「これは契り。裁可を下すための、ただの顔合わせでありんす」


……顔合わせ。

この状況で……

“ただの”……

冗談じゃない。


喉が、ひくりと鳴りそうになるのを必死で堪えた。


「二宮。そなたが望んだ“場”は、ここで相違ありんせんな?」


その名を呼ばれた瞬間、

空気が一段、重くなった。


──これが、神。


 恐怖ではない。

 理解でもない。


ただ、逆らえないと知る感覚。

いや……身体が拒絶しているような感覚。

それだけが、俺の全身を支配していた。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。


本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。

物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、

あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。


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