一条家 壱
※本作中の挿絵・画像は自動生成AIによるものです。
イメージや雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
なお、キャラクターの容姿や髪型、衣装などは
作中の描写と多少異なる場合があります。
あらかじめご了承ください。
刹那様の話を聞き終え、
朝食を終えた俺たちはレストランを後にした。
その時だった。
「――獅子堂様」
背後から、落ち着いた女性の声がかかる。
振り返ると、黒髪をきっちりとまとめ、
仕立ての良いスーツを着た女性が立っていた。
「初めまして。
一条家の使いとして参りました、朝倉と申します」
そう言って、丁寧に頭を下げた。
その瞬間――
イザベリア、ヴィヴィアン、鈴凛が即座に俺の前へ出た。
「何のご用ですの?」
イザベリアが一歩前に出て、
一条家の使いを名乗る女性を鋭く睨む。
朝倉は一瞬驚いたように目を瞬かせたが、
すぐに苦笑いを浮かべた。
「……まあ、この状況では致し方ありませんね」
軽く息を吐き、
改めて気を引き締めた様子で俺を見る。
「ここでお話しする内容ではありませんので……」
そう前置きすると、彼女はくるりと踵を返し、
先ほどまで俺たちがいたレストランの奥を示した。
「少しだけ、お時間をいただけますか」
警戒したままのイザベリアたちを横目に、
俺は一瞬だけ考え――小さく頷いた。
「……分かった」
こうして俺たちは、
再びレストランの中へと足を戻すことになった。
席についた俺たちは、朝倉さんの話を聞くことになった。
「わざわざ移動していただいて申し訳ありません。
ですが、内容自体はそれほど大したものではございません」
そう前置きしてから、朝倉さんは淡々と続ける。
「一条様より、明日の予定の件と、
今回の一件についてお詫びを申し上げたいとのことでして。
一度、屋敷にお越しいただきたい――それだけです」
「……お詫び、ですか?謝罪ではなく?」
イザベリアが、露骨に険しい目で睨みつける。
だが朝倉さんは、彼女には一切視線を向けず、
最初から最後まで俺だけを見て言った。
「いかがでしょうか?」
その態度に、イザベリアがギリッと歯噛みするのが分かる。
「……インペラトル帝国第三皇女殿下が、
何にご立腹なのかは存じませんが」
朝倉さんは、静かな声でそう言うと――
「これは当国の問題です。
インペラトル帝国には、直接の関係はございません」
そう言って、優雅な所作でお茶に口をつけた。
「それとも――
この件を外交問題として扱われますか?」
……なるほど。
要は、国外の人間は黙っていろ、ということか。
俺は思わず、はぁ……と大きくため息をついた。
そして、朝倉さんに視線を戻した。
「……こいつらを連れて行くことは可能か?」
そう聞くと、朝倉さんは一瞬だけ目を細め――
すぐに、にこりと微笑んだ。
「ええ、可能です。
彼女たちも今回の件における当事者ですから。
話を聞く権利は、ございます」
――聞くことは許す。
だが、口は出すなっか……
護衛に徹しろ、ということだろう。
「分かった」
俺がそう答えると、朝倉さんは満足そうにニコリと笑った。
そして――
ふと視線を横に流した。
「あぁ……そちらの、李家のお嬢さん」
その声に、鈴凛が怪訝そうに顔を上げた瞬間、
朝倉さんの目が細く、冷たく細められた。
「今回のご訪問につきましては、
李家のご息女は御遠慮いただきます。」
その一言で、空気が凍りついた。
「……はぁ? なんでよ!」
鈴凛は勢いよく席を立ち、食ってかかる。
「今回の件、龍華帝国が一枚噛んでいるからです。」
朝倉さんは、感情の欠片も乗せずにそう言った。
鈴凛と正面から視線を合わせ、一歩も引かない。
「そんなの知らないわよ!私は関係ないでしょ!」
なおも噛みつく鈴凛に、
朝倉さんは静かに、だがはっきりと言い放った。
「……敵勢力の関係者を、当家に招けと?」
その言葉は、怒りでも威圧でもなく――
事実を告げるだけの声だった。
「これは感情論ではありません。立場と、国と、利害の問題です」
そう言ってから、朝倉さんは一度だけ俺を見る。
「獅子堂様。ご了承いただけますね?」
……なるほど。
これは“選別”だ。
そして同時に、どこまで踏み込ませるかの線引きだな。
俺はゆっくりと息を吐いた。
「……朝倉。あまり学生を虐めるな」
その声に、場の空気が一瞬で変わった。
入り口に立っていたのは――
御剣刹那様だった。
「悪いな、李家の娘」
そう言って、朝倉さんの隣に立ち、淡々と続ける。
「今回の件だがな。
龍華帝国の連中が、思った以上に深く絡んでいる。」
刹那様はそう言って、鈴凛を見た。
「先に話したトラブルの大半のボヤ、器物破損、不可解な消失。
あれは龍華帝国の工作員の仕業だった。
そこに、李家の人間も混ざっている。
……分かるだろ?」
鈴凛は一瞬だけ唇を噛みした。
「……なにやってんのよ、おふくろは……」
そう小さく呟いたあと、両手を上げた。
「はいはい。わかりました~」
それを見て、刹那様は苦笑いを浮かべる。
「すまないな」
だが、すぐに表情が引き締まった。
「しばらくの間、お前は私の監視下に置く。
くれぐれも、変な真似はするなよ」
「……変な事って何ですか。
何も知らないし、何もできませんけど」
鈴凛がむすっとしながら返すと、刹那様は淡々と答えた。
「それは分かっている。だが、立場の問題だ」
そう言って、腰に差した刀の柄を、軽くポン、ポンと叩いた。
「迂闊な行動をすれば……斬らねばならん」
ぶーっと不貞腐れた鈴凛は、
紅茶を飲もうとカップを持ち上げた。
――その瞬間。
パキン。
乾いた音が、はっきりと響いた。
次の瞬間。
カップと皿が、真っ二つに割れた。
割れた断面から紅茶が溢れ出し、
鈴凛は取っ手がついた半分を持ったまま、
呆然とそれを見つめた。
そして――
**ギギギ……**と音がしそうなほど、ゆっくり首を動かし、
刹那様を見た。
刹那様は、ニコニコと笑っていた。
……マジかよ。
いつ斬った?
抜刀の動作もない。
鯉口を切る音も、納刀音も……いっさい無かった。
それなのに、目の前のカップは、確かに斬られていた。
……これが。
神速の居合。
音斬り。
人間の理屈が、完全に置き去りにされた瞬間だった。
「あらあら、カップが割れてしまうなんて……
不吉ですわね。李家のお嬢様、どうかお気を付け下さい。」
朝倉はそう言って、終始変わらぬ笑顔を浮かべていた。
刹那様が店員を呼び寄せ、割れたカップと皿を片付けさせ、
新しいものを用意させた。
一通り片付けが終わり、場の空気がようやく落ち着いた頃、
刹那が俺の方を見て口を開いた。
「獅子堂君。すまないが、今回の訪問に弟も同行させてやって欲しい」
「……葵を、ですか?」
確認するように聞き返すと、刹那様は小さく頷いた。
「ああ。今回の火種の中心にいるのは、あいつでもある。
現状を、きちんと理解させておきたい」
その視線には、姉としての感情と、
次期当主としての責任が同時に宿っていた。
「……わかりました」
そう答え、俺は今度は朝倉さんの方を見る。
「そういや、ヴィヴィアンはいいのか?」
すると朝倉さんは、まるで最初から決まっていたかのように微笑んだ。
「パルドナーラ嬢がよろしければ、ぜひに——とのことです」
どうやら、ヴィヴィアンは最初から“想定内”だったらしい。
「では、出発の準備をいたしましょう」
朝倉さんはそう言って席を立ち、俺たちもそれに倣って立ち上がり、
準備のため、いったん部屋に戻ることになった。
「……李家の娘は、ここで私と留守番だ」
刹那のその一言で、鈴凛と別行動になった。
「はぁ!?」
と声を上げかけた鈴凛だったが、刹那の視線に射抜かれ、
結局は何も言えずにレストランに残ることになった。
俺はその様子を横目に見ながら、心の中で一つだけ思った。
——これ、絶対に“ただの挨拶”で終わる話じゃねぇな。
刹那は、去っていく獅子堂たちの背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。
「……行ったか」
今、この場に残っているのは――
龍華帝国・李家の娘、ただ一人。
彼女には悪いが、少しの間、大人しくしてもらわねばならない。
「李家の娘。確か……鈴凛、だったな?」
刹那はそう言いながら、彼女の正面に腰を下ろした。
「……えぇ」
鈴凛は、若干ふてくされた様子で短く答える。
その態度に、刹那は思わず苦笑した。
「今回の騒動が収まるまで、すまないが……少し大人しくしていてくれ」
そう告げると、近くにいた店員に緑茶を頼んだ。
「今回、うちにちょっかいを掛けているのは――嫦娥派の連中だ」
その言葉に、鈴凛の表情が一瞬、凍りついた。
「西王母派の李家からすれば、直接の関係はないだろう。
だがな……この国では、そうはいかない」
刹那はそう言って、どこか諦めにも似た笑みを浮かべる。
その様子を見て、鈴凛は目を見開いていた。
「……どうした?」
店員から差し出された湯呑みを受け取りながら、刹那が尋ねる。
すると鈴凛は、驚愕を隠そうともせず口を開いた。
「……‼ 何故、それを……」
「何故も何も――」
刹那は静かにお茶を口に運びながら言った。
「五年前の、あの日からだ。
龍華帝国は、はっきり二つに割れただろう?」
その一言で、鈴凛は苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……そなたに責任はない」
刹那はそう前置きし、
「だが、これ以上面倒事を増やさないでくれ」
と、静かに釘を刺した。
ズズズズ……。
一口、深くお茶を啜る。
「……はぁ。やはり、ここの茶は美味いな」
ほんの少しだけ、肩の力を抜いた刹那だったが――
その空気を壊すように、鈴凛がぽつりと呟いた。
「……日ノ本、こえぇ……」
その言葉に、刹那は思わず小さく笑った。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。
物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、
あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。
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