夢幻界
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
深夜――
ガシャーンッ!!
突然、廊下の方から、
何かが割れる乾いた音が響き渡った。
俺はその物音で目を覚まし、もぞもぞとベッドから起き上がった。
「……なんだぁ……」
大きなあくびを噛み殺し、
半分寝ぼけたまま目を擦りながら部屋を出た。
リビングは真っ暗で、誰の姿もない。
辺りを見回しても、誰の気配すらも感じられなかった。
部屋の中で何かが割れた……と思ったんだが……
どうやら音は外からみたいだ。
「……外か……」
寝ぼけた頭を掻きながら、
俺は廊下へ出るため、部屋の扉のノブに手を伸ばしたその瞬間。
「……ダメ」
耳元で、かすれた声が囁いた。
同時に、ガシッと手を掴まれた。
反射的に振り返ると、
そこにいたのはヴィヴィアンだった。
ヴィヴィアンは俺の手首を、強く握りしめていた。
「……なんだ、ヴィヴィアンかよ……驚かせんなよ……」
そう言った瞬間、ヴィヴィアンは俺の口を塞ぎ、
人差し指を自分の唇に当てて――
「……シー……」
「……んだよ……何するんだ……」
俺がそう言いかけた、その時だった。
バンッ! バンッ! バンバンバン!!
突然、扉が激しく叩かれた。
「……んぁ?誰か、いるのか?」
反射的にそう言い、俺が扉を開けようとした瞬間――
「ダメ‼」
ヴィヴィアンが必死に、俺を全力で後ろへ引っ張った。
とっさに踏ん張りも利かず、俺は後ろへ引き倒された。
ドンドンドン!!
今もなお、ドアは誰かに激しく叩かれている。
「いってて……」
尻を擦りながら起き上がり、俺は思わずヴィヴィアンに文句を言った。
「……いきなり何すんだよ。痛いだろうが。」
俺の言葉に、ヴィヴィアンは申し訳なさそうに頭を下げた。
そのおかげで、すっかり目が覚めた俺は、
今も続くドンドンという音に顔をしかめる。
「……出なくていいのか?」
俺がそう聞くと、ヴィヴィアンは首を横に振り、
「……ダメ」
とはっきり答えた。
「出ない方が、宜しいかと」
その声と同時に、いつの間にかヴィヴィアンの横に黒が立っていた。
「うぉっ!?」
思わず変な声が出た。
「……なんだ、黒かよ……驚かすなよ……」
ドキドキしながら言う俺に、黒は落ち着いた様子で部屋を見渡した。
「おそらく、妖の類かと。先ほど部屋の中を一通り確認しましたが、
この部屋にいるのは――
私とヴィヴィアン様、そして獅子堂様の三人だけです」
「……そうですか……」
ヴィヴィアンはそう呟き、少し考え込んでから口を開いた。
「おそらく……幽界と幻界に取り込まれたんだと思います。」
俺が黙って聞いていると、ヴィヴィアンは簡単に説明してくれた。
「幽界は、霊や死者の世界。
幻界は、人の夢や恐怖が形になる世界です」
ドアを叩く音が、また響く。
「今はその二つが重なって、
“夢幻界”のような状態になっています」
「……つまり?」
「中身のない“何か”が、実在するように振る舞っている状態です」
ヴィヴィアンは俺を真っ直ぐ見て、静かに言った。
「だから……応えたり、開けたりしたら駄目です。
それは“こちらが現実だ”と認めることになりますから」
ヴィヴィアンはそう言って俺をジッと見た。
正直、わけも分からない状態で、
いまいちピンっと来てない俺はヴィヴィアンに聞いた。
「んじゃ~どうすれば良いんだ?」
ヴィヴィアンは、少しだけ視線を伏せてから、静かに答えた。
「何もしないことです」
「……は?」
思わず聞き返す俺に、ヴィヴィアンは真っ直ぐ言った。
「話しかけない。返事をしない。開けない。近づかない」
「夢幻界のものは、こちらの反応を“現実への足場”にします」
ドアの向こうから、
ドン……ドン……
叩く音が、少し間隔を変えて響く。
「無視すれば、向こうは“ここに現実が無い”と判断します」
黒が低く補足した。
「要するに、存在しないものとして扱え、ということです」
ヴィヴィアンは小さく頷いた。
「……しばらくすれば、消えます。ただし――」
一拍、間を置いて。
「誰かが応えなければ、です」
その言葉に、俺は思わず唾を飲み込んだ。
しばらく沈黙が続いたあと、
ドアを叩く音はいつの間にか消え、
辺りは水を打ったように静まり返った。
俺はほっと息を吐き、黒とヴィヴィアンを見る。
だが二人とも、まだ気を抜いた様子はなかった。
「……黒さん」
ヴィヴィアンが、低い声で黒に問いかける。
「京都の百鬼夜行について、教えていただけませんか?」
黒は一瞬だけ視線を伏せ、ゆっくりと口を開いた。
「百鬼夜行とは、本来――
妖怪が現れる現象ではありません」
俺は思わず眉をひそめる。
「都に溜まった穢れ、怨念、未練……
それらを“妖の行列”という形にして、
一度にまとめて流すための儀式です」
「流す……?」
「はい。人の恐怖や噂、伝承を利用して、
『今夜は妖が出る』と納得させるのです」
黒は淡々と続ける。
「そうすることで、実体を持たない穢れや怨念を
“役目を終えたもの”として外へ出す。
それが、京都における百鬼夜行の本来の意味です」
ヴィヴィアンは静かに頷いた。
「ですが……」
黒の声が、少し低くなった。
「流すべきものが多すぎると、
行列は“儀式”ではなく“現象”になります」
「……現象?」
「ええ。人の恐怖が増え、想像が膨れ上がり、
幻界が肥大化する」
黒は、さきほどのドアの方を一瞥した。
「そうなれば、百鬼夜行は“妖怪の比喩”ではなく、
本当に妖が歩く夜になる」
ヴィヴィアンが、ぽつりと呟く。
「……だから、夢幻界のようなものが……」
「はい」
黒は静かに肯定した。
「今の京都は、百鬼夜行を“流す夜”ではなく、
呼び寄せる夜になりつつあると予測されていましたが…」
「当たってしまったわけですね……」
「……はい」
部屋の中に、重い沈黙が落ちた。
「……対処法とか、ないのか?」
俺がそう聞くと、黒は迷いなく答えた。
「戸締まりをして、明かりを消し、静かに……
朝までやり過ごす。それだけです」
「それだけって……」
言い終わる直前。
バキバキバキバキバキ!!
廊下の方から、壁を引き裂くような異音が轟いた。
木材が軋み、石膏が砕け、
何かが“爪を立てて這いずる”ような音。
「……っ!」
俺は思わず息を呑む。
ヴィヴィアンが目を細め、
黒は即座にドア際へ移動した。
「……音が、変わりましたね」
廊下の向こうで、
ズ……ズ……
重たい何かが引きずられる気配がする。
「さっきのは“呼びかけ”。今のは……」
黒は低く言った。
「こちらを探している音です」
ヴィヴィアンが、唇を噛みしめる。
「……目を閉じてください。息も、できるだけ静かに」
そして、はっきりと言った。
「これは――朝まで続きます」
マジかよ……
俺はソファーの背に体重をのせて天井を見た。
さっきまで感じていた得体の知れない恐怖は、
今はもう、はっきりとした違和感に変わっている。
「……結局、最悪の事態になっちまったって訳か……」
黒とヴィヴィアンは、否定しなかった。
ドアの向こうは静かだ。
さっきまでの物音が嘘のように、何も起きていない。
だが――
それが“安全”を意味しないことぐらいは、流石に分かる。
「さっきのは……」
俺は言葉を探しながら続けた。
「百鬼夜行そのもの、って訳じゃねぇよな?」
ヴィヴィアンは、少し考えてから首を横に振った。
「百鬼夜行“本番”ではありません。ですが……」
黒が静かに言葉を継ぐ。
「前兆です」
「前兆……?」
「ええ。人の不安、噂、期待……そういったものが積み重なって、
“起きてもおかしくない”状態になり始めている」
俺は、今日見た京都の街を思い出す。
人の多さ。
浮き足立った空気。
どこか落ち着かないざわつき。
「……なるほどな」
俺は小さく息を吐いた。
「百鬼夜行が、伝承や祭りじゃなくて……
現象として現実味を帯び始めてるってことか」
黒は、短く頷いた。
「はい。そしてそれは――」
ヴィヴィアンが、少し不安そうに続ける。
「明後日の本番が、危険になる可能性があるということです」
部屋の空気が、静かに重くなる。
俺は天井から視線を戻し、二人を見た。
「……やれやれ」
思わず、苦笑が漏れる。
「修学旅行のつもりが、とんでもねぇ前夜祭に巻き込まれたな」
だが、逃げる気にはならなかった。
「少なくとも、
“何が起きてるか分からねぇ”状態じゃなくなっただけ、マシか」
俺はゆっくりと立ち上がった。
「明後日が本番、か……」
その言葉の重さを噛み締めながら、
俺は静かに覚悟を決め始めていた。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
本作に登場するイラストは、自動生成AIによるものです。
物語そのものを補足する「正解のビジュアル」ではなく、
あくまでイメージや雰囲気を楽しむための要素として見て頂ければ幸いです。
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