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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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何時もの日常

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

一夜が明け、俺たちは街へ戻ってきた。


戦利品の整理を終えると、まずは分配。

肉はともかく、その他の素材はきっちり山分けした。


最初、イザベリアは眉をひそめて渋っていたが、俺が「ドラゴン素材なんて、価値はあっても使い道がねぇ」と説明すると、ようやく納得したようにため息をついた。


実際、ドラゴンの素材が“貴重”とされるのは値段の問題だけで、実用性はほとんどない。

鱗や皮、牙、骨――どれも一見すれば高級素材だが、ゲームみたいに都合よく加工できるものじゃない。


そもそもドラゴンの鱗や皮、牙が異常に硬いのは、奴ら自身が莫大な魔力を保有しているからだ。

だが、死ねばその魔力は抜け落ちる。

残るのは、少し硬いだけの素材。

魔力を流し込めば確かに硬度は戻るが、その分、魔力の消費が馬鹿みたいに多く、実用性はほぼゼロだ。


しかも、ドラゴンを討伐できるような冒険者は、すでにそれに見合う武器や防具、つまり魔剣や魔装を持っている。

わざわざ非効率な素材で装備を作り直す意味なんてない。

せいぜい、装飾品や研究素材としての価値が残る程度だ。


その点、肉は別だ。

竜種の肉は滋養が高く、調理すれば驚くほど旨い。

血や内臓は薬や強化剤の材料になるため、聖家がすべて引き取っていった。


……俺には価値がないがな。


結局のところ、こういう素材は中堅の探索者には嬉しいだろうが、上級者にとってはほとんど意味がない。

努力に見合う報酬というのは、案外、どこにも転がっていないものだ。

金銭と放出出来ない素材がゴミの様に溜まっていくだけだ。


ゲームではウハウハのコレクション扱いなんだけどな……

現実は邪魔でしかない。


分配が終え、俺達は学園に戻り解散した。


こうして長かったGWゴールデンウィークも終わり、のんびりと退屈な学園生活が戻ってきた。


ある日の放課後。

いつものレストラン《Service》で、黒野たちと他愛もない世間話をしていた時のことだ。


「そういや、夏休み前に修学旅行があるらしいな。」


フォークを回しながら俺が言うと、黒野が肩を竦めた。


「あぁ。普段なら二年になってからなんだが、今年は異例だそうだ。」


「へぇ? なんか理由でもあるのか?」


俺の問いに、黒野はふぅっと深いため息を吐いた。


「お前らだよ……特に御剣、お前をご指名だ。」


口いっぱいにパスタを詰め込んでいた御剣が、「ん?」と鳩が豆鉄砲を食らったような顔で首を傾げる。


「京都の華族が、百五十年ぶりに“百鬼夜行祭”を執り行うんだと。

で、“是非に”と――俺や獅子堂、御剣をはじめ、同じ学園の学友も招待したいんだそうだ。」


「華族って……京都の、あの関西圏の貴族階級だよな?」


「あぁ。東では御三家が、西では華族が権力を握ってる。」


「それって……まさか……」


「そう。めちゃくちゃ“楽しい”旅になるだろうな。」


「……行きたくねぇ~なぁ~。」


俺は顔をしかめ、思わず頭を抱えた。

どう考えても、ただの修学旅行で済むはずがない。

嫌な予感しかしなかった。


そんな時、イザベリアが御剣の口元を布巾で拭いながら、穏やかに尋ねた。


「百鬼夜行祭――というのは、なんでしょうか?」


「百鬼夜行祭は、昔、京都の一条通りで行われていた妖怪行列の祭りだな。海外じゃ“日ノ本のハロウィン”なんて呼ばれてたらしい。」


黒野がコーヒーを一口すすりながら答えた。


「日ノ本の鎮魂祭的なものなのですわね?」


「まぁ、近いけどちょっと違う。あれは“祓い”や“浄化”が主目的だったはずだ。」


そう言って、黒野はテーブルに肘をつき、ゆっくりと説明を始めた。

俺たちは自然と耳を傾けた。


■ 一条百鬼夜行


京都・一条通。

古来よりこの道は、現世と幽世の境と呼ばれてきた。

夜半になると、鬼や怨霊、妖しのものどもが列をなし、都を練り歩く――それが「一条百鬼夜行」である。


表向きは、ただの怪異譚にすぎない。

だが実際には、都に溜まった穢れや怨念を外へと流す“祓いの儀”でもあった。

百鬼の行列とは、放たれた魂と穢れの化身。

人々はその夜だけ、家の灯を落とし、声を潜め、異界が通り過ぎるのを静かに待ったという。


この行列が歩むことこそが、都を清める循環。

すなわち――「百鬼夜行」とは、恐怖の象徴ではなく、

**生と死の均衡を取り戻すための“夜の祓い”**であった。


陰陽師たちはその行列を制御し、怨霊を鎮め、魂を定めた。

彼らにとって一条通は、穢れを流す“導線”であり、

同時に、幽世と現世を繋ぐ“霊的な血管”でもあったのだ。


百鬼夜行は、都の呼吸のようなものだ。

それが絶たれた時、怨念は滞り、死者と生者の境が濁る。

ゆえに――百五十年ぶりに行われる「百鬼夜行祭」とは、

封印されていた“夜の循環”を再び動かす、再生と鎮魂の儀でもあるのだ。


「まぁ~普通に聞くと、“伝統の祭りを復活させるからどうですか”って話にしか聞こえないな。」


俺がそう言うと、黒野が軽く肩を竦めた。


「あぁ~、そうだな。」


イザベリアはゆっくりとカップを傾け、香りを楽しむように息を吐いた。


「日ノ本の神事や祭事というのは、いつ聞いても複雑で難解ですわね。

どこまでが神話で、どこからが現実なのか……境界が曖昧ですもの。」


「まぁ~海外の人からすればそうだろうな。**神話(神道)・仏教・政治(国家権力)**が三位一体で混ざってるかな。」


黒野が苦笑しながら言葉を続ける。


「日ノ本の人間ですら、ほとんど何も知らない。なぁ、獅子堂。」


「……俺に振るなよ。」


俺は肘をついて、半分うんざりしたように答えた。


「確かに、神事とか言われてもピンと来ねぇな。ニュースで名前を聞くくらいだろ。」


イザベリアは不思議そうに小首を傾げた。


「……でも、それは奇妙ではありませんの?

 自分の国で受け継がれてきた儀式や神の物語を、誰も詳しく知らないというのは。」


「それが普通なんだよ。」


黒野が軽く笑う。


「日ノ本の神事ってのは、特定の家や神社が守ってる閉じた世界なんだ。

一般人にとっちゃ、“ある”ことは知ってても、“何をしてるか”までは興味がない。

信仰が日常に溶けてる分、意識されにくいってやつだな。」


イザベリアはゆっくりと瞬きをした。


「……なるほど。つまり、“信じていないのに、信仰の上に立って生きている”ということですのね。」


彼女の言葉に、俺と黒野は一瞬だけ黙り込んだ。

正直、返す言葉がなかった。


――確かにそうだ。

俺は神を信じちゃいない。

けれど、神の定めた季節の巡りや、祓いの行事の上で暮らしている。

それを“当たり前”だと思っているだけなのだ。


「まぁ~難しい話はともかく……京の華族様が、なんで御剣をご指名なんだ?」


俺がそう聞くと、黒野は苦笑いを浮かべて、カップをそっとテーブルに置いた。


「……ここからは、オフレコで頼む。」


その声色が妙に低くて、俺も思わず姿勢を正した。

黒野は周囲を見回し、イザベリアと俺、それに御剣の顔を順に確かめる。

全員がうなずいたのを見て、彼は少し身を乗り出し、声を潜めた。


「――京都の一条家に、“ノヴァリア神聖王国”から《聖剣》が流れた。」


その一言に、空気が止まった。

イザベリアの指先が微かに震え、俺の表情が一瞬にして引き締まる。

御剣だけが、口にフォークをくわえたまま「ん?」と首を傾げていた。



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