御剣 葵 ③
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
「でも、それと“命が限られている”という話に、どう関係があるのですか? 呪いは解かれたのでしょう? 病気や、体の後遺症という線もあるのでは――」
私がそう問いかけた瞬間だった。
「――私たちが、何も考えずに、放っておいたとでもお思いですか!」
その言葉は、まるで鋭い刃のように私の声を遮った。
息を飲んだ私に、沙耶様は怒気と哀しみを含んだ視線を向けた。
その表情には、御剣様を想う深い憂慮と、他人に軽々しく語らせたくないという葛藤が宿っていた。
「……失言が過ぎましたわね」
私はすぐに頭を下げた。
沙耶様もまた、わずかに息を吐いてから頭を下げ直した。
「いえ……私こそ感情的になってしまい、申し訳ありませんでした」
そして沙耶様は、葵様の傍らでそっと頭を撫でながら言った。
「魂の概念――私には理解しきれない領域です。ですので、ここからは黒羽様の見解をお伝えいたします」
彼女の声音は落ち着いていたが、その芯には確かな重みがあった。
「魂とは、本来肉体と共に成長し、やがて朽ちていくものだそうです。泉の源泉のようなもので、そこから流れ出る力によって肉体は維持され、生は育まれる。そして、ある年齢を境に、その源泉が閉じ始める――それが老化であると」
「つまり、魂が“生命エネルギーの供給源”になっている……と?」
「はい。そして、その流れがあるからこそ、食事を取り、レベルを上げ、外部からも補うことでバランスが保たれるのです。ですが……今の葵様には、その“源泉”が小さすぎる」
私は眉を寄せた。
「小さすぎる?」
沙耶様は一瞬目を伏せてから、静かに言葉を続けた。
「肉体は、確かに年齢相応に育っておられます。しかし、魂が……それに追いついていないのです。もっと言えば、成長が止まってしまっている」
「呪いの影響……ですの?」
「おそらくは。葵様が首塚ダンジョンで受けた呪いは、“魂魄”にかかる上位の呪いでした。魂そのものに対しての干渉であり、精神汚染に近いものです。自身の弱さを突きつけられ、他人の悪意・憎悪・悲しみといった感情を何倍にも膨らませて見せつけられる――そういった、まさに“地獄”のような呪いです」
私は言葉を失い、ただじっと葵様の顔を見つめた。
「……そんな呪いを、10歳の子供が?」
沙耶様は黙って頷いた。
「本来であれば、精神が崩壊し、衰弱して死に至る呪いです。それを葵様は……耐え抜かれた。その結果、肉体は無事に成長を続けておられますが……魂の方は、あの呪いのときに止まってしまったようなのです」
私は唇を引き結び、問いかける。
「それで……命に限界があると?」
「ええ。今はまだ、何とかバランスを取っているのです。ですが、肉体が成長すればするほど、魂からの供給が足りなくなる。結果として、立ちくらみや気絶、意識の乖離といった症状が出るようになります」
「確かに……」
私は思い返した。探索中、葵様がふと虚を突かれたように意識を曇らせたことが何度もあった。
あれは、気の緩みではなく――限界の兆候だったのか。
「黒羽様の見解では、あの“反転スキル”が原因の一つではないかとも言われています。反転の能力が、肉体の成長を促す一方で、魂の成長を押し止めてしまっているのではないか……と」
「それは……矛盾では?」
「本来であれば矛盾です。しかし、葵様の魂はあの時“呪い”により、通常とは異なる状態にありました。成長しきっていない未熟な魂だったからこそ、“退行”と“成長”が拮抗していた。けれども、成人を迎えた今、そのバランスが徐々に崩れてきているのです」
私は、何も言えなかった。
口を開けば、言葉にならない何かが溢れてしまいそうだったから。
「魂が成長し始めれば、回復の可能性はある。そう……私たちも、最初は希望を抱いていました」
沙耶様は一度、息を吐くと、静かに続けた。
「けれど、それはそれで新たな問題があるのだそうです。“火に薪をくべ続けるようなもの”――そう黒羽様は仰いました」
抑えていた感情が、わずかに声ににじんだ。
「……このままでは、あと十年。早ければ五年……その命は、尽きると予測されています」
胸の奥が、きゅっと締めつけられる。
私はそっと目を閉じ、震える指先でティーカップを置いた。
わずかな揺れが、陶器の音を小さく響かせる。
視線の先、ソファで眠る葵様の表情は、あまりにも無垢で、あまりにも穏やかだった。
まるで何も知らずに、ただ静かに夢の世界にいるかのように。
けれど――
その命は、既に残酷な砂時計の上に立っている。
私の知る世界の理とは、まったく異なる場所に、彼は今、生きている。
そして私は、いま――その“真実”を、知ってしまったのだった。
私は天井を見上げながら、言葉にできない虚無感に包まれていた。
藪をつついたつもりが、出てきたのは蛇どころか――大蛇。
……いいえ、ドラゴンですわね。
まるで、開けてはならぬ箱の蓋を、うっかり開けてしまったような感覚ですわね。
“御剣家”と“御影家”は、なぜ、こんな重大な事実を私に話したのか。
私という個人に? それとも、“帝国”としての立場に?
その真意を掴みきれぬまま、思考は迷路のように頭の中を巡り続ける。
――何を託そうとしている? 何を望んでいる?
まるで見えない糸が張り巡らされているような感覚に、私はひとつ深く息を吐いた。
そんなときだった。
「イザベリア様」
沙耶様の静かな呼び声が、迷走する思考を引き戻した。
私は顔を上げ、彼女の方を見つめた――
「一つ、お願いがあります」
沙耶様は、まっすぐに私を見据えてそう言った。
正直、これ以上は何も聞きたくなかった。
頭の中はすでに混乱の極みにあり、まともに思考が回っていない。
外交交渉の手札になれば――そう思って突いたはずの問いが、こんな形で返ってくるとは。
確かに、これは最高の情報。
けれど、**迂闊に切れば命を散らす、ジョーカー……いえ、“爆弾”**ですわね。
「……何でしょうか、沙耶様」
私は平静を装いながら応じた。
沙耶様は、どこか申し訳なさそうに、それでもはっきりと口にした。
「たまにで構いません。葵様に、少し目をかけていただけませんか?」
そう言って、かすかに苦笑を浮かべた。
「……それは、どういう意味でして?」
率直に尋ねる。
冗談では済まされない気配があった。
「学園内では、我々の目もすべてには届きません。……幸い、葵様はイザベリア様に心を開いておられるようですし」
そう言って、沙耶様はすっと立ち上がり、深く頭を下げてきた。
……これは、卑怯ですわね。
爆弾を私に抱かせた直後に、この情に訴える手。
断ることなど到底できない構図。
(……ため息すらつけませんわ)
私は心の中で大きく息を吐いた。
「――沙耶様、どうか頭をお上げください。……もともと、そのつもりでおりましたから」
そう返すと、沙耶様が何か言いかけたのを手で制し、先に言葉を続けた。
「ただし……私の“目が届く範囲”で、構いませんわよね?」
「ええ、それで十分です。あまり意識されすぎても、かえって不自然になりかねませんので」
沙耶様は、深く頷き、もう一度頭を下げた。
「一つだけ、お聞きしても?」
「……何でしょうか?」
私は、すっかり冷めてしまった紅茶を一口すすり、視線を落としたまま訊ねた。
「この件……獅子堂様や、黒野様には?」
沙耶様は、そっと首を横に振った。
「……ご存じありません。この話は、御内密にお願いします」
そう言って、彼女はもう一度、丁寧に頭を下げた。
しばらくの間、誰も口を開かなかった。
ただ、静寂だけが部屋を満たし、紅茶の香りだけが名残のように漂っていた。
正直、私の頭の中はもうグチャグチャだった。
――この事実をどう処理すればいいのか。
――これを、私はどう扱うべきなのか。
外交官としての判断と、個人としての情が入り混じり、思考は堂々巡りを繰り返すばかり。
そんな中で、ただ、時間だけが静かに流れていた。
……と、不意に。
外から、人の気配がした。
ざわ……ざわ……
小屋の周囲で何かが騒がしくなりはじめた、と思った次の瞬間。
――バンッ!
勢いよく、小屋の扉が開かれた。
「おう。ただいま。今戻ったぞ!」
そう言って、獅子堂様――いえ、閣下が、いつもの豪放な笑みを浮かべて入ってこられた。
「お帰りなさいませ……」
私と沙耶様が、ほぼ同時に言葉をかけようとした――その、瞬間だった。
二人の声が、途中でピタリと止まった。
その理由は明白だった。
獅子堂様のすぐ後ろから、神崎様に抱えられ、黒野様がグッタリとした状態で運び込まれてきたのだ。
その顔色は蒼白く、衣服には血と土が付着しており、呼吸は浅く、まるで意識がないように見える。
「黒野……様……?」
思わず私は声を失い、凍りついたようにその姿を見つめた。
沙耶様も同様だった。
あれほど冷静沈着な彼女の表情が、見る間に強張り、動揺を隠しきれていなかった。
――何があったのか。
たった数時間前まで、ダンジョンに向かう際は何事もなく、あの男はいつものようにふてぶてしく笑っていたはずなのに。
「神崎様、状況を」
沙耶様が、低く、鋭く問いかけた。
だが神崎様は黙ったまま、黒野様をそっとソファに寝かせ、その様子を確認することに集中していた。
「ちょっとした事故だ。大丈夫、命に別状はない」
ようやく口を開いたのは獅子堂様だったが、その言葉とは裏腹に、彼の目に浮かぶ焦りと苛立ちは隠しきれていなかった。
私の中で、ざらついた不安が渦を巻き始める。
――“このタイミングで”
――“彼が”
――“この状態で戻ってきた”理由とは――
その時、沙耶様が小声で私にささやいた。
「……イザベリア様、葵様を」
私はハッとして、ソファで静かに眠る葵様へと視線を向けた。
彼の表情は、変わらず穏やかだった。
けれど、その眠りが次に覚めるとき、何かが変わってしまうのではないかという、不吉な予感が胸をよぎった。
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