御剣 葵 ②
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
「……まあ、既に存在しないダンジョンの話はこの辺りにしておきましょう。本題に戻りましょうか。」
紅茶のカップを静かに置きながら、沙耶様がこちらをじっと見据える。
「えぇ……そうですわね。」
私も同意の言葉を返し、紅茶をひと口含む。
温かい香りと共に、言葉を整える時間が流れる。
「御剣葵。彼が“転生者”であるという噂を、私どもも耳にしております。不確かな情報ではありますが、葵様ご本人が幼少の頃に“前世の記憶”を語ったことが何度かあったとか。加えて、刹那様や千鶴様も、そうした言葉を何度か口にしていたという話も耳にしておりますわ。」
私はそう言いながら、片目だけを開けて沙耶様の反応をうかがう。
「――つまり、私たちがこの“日ノ本”に赴いた理由は、まさにそこにございますわね。御剣葵様が“本当に転生者かどうか”を確かめること。そしてもう一つ。」
私は一息置き、笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「――彼の“子種”を頂けるかどうか、その交渉のため、ですわ。」
沙耶様の表情に微かに揺らぎが走った。
「……そうでしたね。“インペラトル皇帝陛下”。」
紅茶を口に運びながら、沙耶様が静かに私を見据えてそう言った。
「……何のことかしら?私はただの、“第三皇女イザベリア・フォン・インペラトル”に過ぎませんわ。」
私はやんわりと微笑みながら答えた。
視線が交差し、空気が静かに引き締まる。
「……失礼いたしました。イザベリア様。」
沙耶様はそう一礼すると、すぐに席を立ち、丁寧に頭を下げた。
私はゆっくりと紅茶を一口含み、静かに言葉を返す。
「以後、注意していただければそれで結構ですわ。」
「かしこまりました。では、お代わりを準備いたします。」
沙耶様はそう応じると、手早く新しい茶葉を用意し、湯を注ぎ始めた。
その手元を見つめながら、私は口を開いた。
「それで、本題に戻りますけれど。御剣様は、本当に“転生者”なのでしょうか?」
沙耶様は、紅茶の湯気に目を細めながら静かに答えた。
「それを私たちが見抜く術はございません。“本人がそう語った”と言えば、それまでですから。」
そして、新たに淹れた紅茶のカップを、私の前へそっと差し出す。
「……そうですわね。」
私はその香りを楽しみながら、紅茶に口をつけた。
「確かに、確かめる術はありませんはね。しかし、判別は可能ですわ。転生者は、少なからず世界各地で確認されていますから。希少性はありますけれど、完全に存在を否定するものではありませんの。」
私はそう言って、優雅に紅茶を口に運んだ。
――転生者――
この世界では、これまでにも幾人もの転生者の存在が確認されてきた。
数として多いのは男性であるが、女性の例も存在している。
男性の転生者は、女性に対して偏見や恐怖を抱かず、積極的に交流を持つ傾向がある。
その結果、複数の女性との間に多くの子を残し、血統を広げていった。
一方、女性の転生者は、その知識や経験を活かし、多方面で目覚ましい成果を残している。
探索者として名を馳せる者、魔法の体系に革新をもたらした者、錬金術において飛躍的な進歩をもたらした者――彼女たちの存在がもたらした影響は計り知れない。
中でも、ポーションの開発は大きな転換点であった。
それまでダンジョンからのドロップに頼っていた回復薬という概念が、彼女たちの研究によって、野草や魔石といった自然由来の素材を用いて人工的に生成できるものへと進化した。
その結果、探索における生存率は飛躍的に向上し、探索の継続性と安全性も格段に増したのである。
「獅子堂様や黒野様のように、自ら転生者であると公言し、確かな実績と結果を残しておられるのであれば、私としても納得がいくのですが……御剣様には、それが見受けられませんわよね?」
そう言って、私は静かに目を閉じ、紅茶の香りと味を楽しんだ。
その時だった。
沙耶様が、鋭い視線をこちらに向け、低い声で問いかけてきた。
「それはつまり、御剣家、ひいては御影家が虚偽の報告をしているとお考えで?」
その鋭さに思わず唇が緩む。
私は微笑を浮かべながら、静かに首を振った。
「いいえ、そのような意味では御座いませんわ。ただ……確かに、御剣様には女性に対する“忌避感”がないのは事実。そこに関しては、私も転生者の可能性を否定するものではありません。しかし――」
そこで私は沙耶様を見つめ、わずかに目を細める。
その瞬間、沙耶様がごくわずかに表情を曇らせ、苦虫を噛み潰したような顔をしたのを、私は見逃さなかった。
「仮に、葵様が転生者であるとして。女性に対する忌避感が希薄であるのは理解できます。なぜなら、世の男性のほとんどが、女性という存在そのものに対して強い警戒心と忌避感を抱いておりますから。そう、狼の群れに放り込まれた兎――といった印象を受けますわね。」
「それは、インペラトル帝国としての見解ですか?」
沙耶様がわずかに語気を強めて問いかける。
私は静かに紅茶を一口含み、穏やかに微笑むと答えた。
「皇族として、さまざまな立場の男性と接してまいりました。その経験から来る実感ですわ。世の男性の多くは、女性に囲まれることに対して本能的な恐怖を抱くものですが、御剣様にはそれが無い。だからこそ、私はお尋ねしているのです。本当に“転生者”であられるのか、と。」
言葉を紡いだ後、私はゆっくりと視線を沙耶様に向けた。
彼女は一言も発することなく、じっとこちらを見つめていた。
その瞳には、感情の揺らぎと、迷いの色が微かに滲んでいるように見えた。
「別に、政治的な取引の話をしているのではありませんわ。」
そう前置きしてから、私はわずかに語調を落とし、静かに言葉を続けた。
「ただ、今の御剣様、未だ“精通”も来ておられないと聞き及んでいますわ。その幼さと、純粋さ。もしかすると、そこに“先ほどの子供らしさ”があるのではなくて? 私は、そう問うているのです。」
核心に触れるその言葉を、私は真正面から沙耶様へと投げかけた。
「流石ですね、イザベリア様。」
そう言って、沙耶様はそっと視線を御剣様に向けた。その表情には、厳しさはなく、どこか母のような慈愛が滲んでいた。
やがて彼女は再び立ち上がり、私に向かって深く頭を下げた。
「先ほどから、試すような真似をしてしまい……申し訳ございません。」
「構いませんわ。主、ひいては御剣様を守るための行為でしょう?」
私は穏やかな口調でそう答え、その謝罪を受け入れた。
「……ありがとうございます。」
そう言って沙耶様は再び席に着くと、紅茶を一口だけ含み、口元を潤した。そして、そのまま視線を逸らすことなく、静かに言葉を継いだ。
「葵様の命は、持って十年。早ければ五年もたないと、そう言われています。」
「……は、はあっ!?」
思わず声が漏れ、私は席から身を乗り出してしまった。
そのとき沙耶様が、小さく指を立て、唇に当てて制する。
「しっ……」
私は我に返り、慌てて背筋を正した。
「……んっ、オホン……。大変、失礼しましたわ。」
咳払いをひとつしてから、ゆっくりと深呼吸をし、平静を取り戻す。
だが、胸の奥に湧き上がる動揺は、まだ収まりそうになかった。
「理由をお聞きしても……?」
私は紅茶のカップを静かに置き、できる限り平静を装いながら沙耶様に問いかけた。
「――五年前、葵様が首塚ダンジョンで重度の呪いを受け、意識不明に陥った件はご存じでしたね?」
「ええ……もちろん存じております。まさか、解呪できなかったと……?」
「いえ、解呪自体は成功しています。ただ――」
沙耶様は一瞬言葉を濁し、慎重に言葉を選ぶように続けた。
「問題は、呪いの影響か…後遺症なのか…その時発現したと思われるのが……‘’反転‘’のスキルなのです」
その言葉に、私は内心息を呑んだが、顔には出さない。
――反転。
「確か……ダンジョン内部における事象の確率や因果を逆転させる、極めて危険なスキルでしたわよね?」
「その通りです。」
沙耶様は静かに頷き、話を続けた。
「葵様ご本人には、詳細はお伝えしておりませんが、“レアドロップ率の上昇”という副次的な効果だけを知らせてありますで。」
「……ですから、あの発言だったのですわね。」
私はふと、ここに来る前に御剣様たちが交わしていた会話を思い出していた。
なるほど――と、腑に落ちる部分がありましたわね。
「ですが、それに一体どんな意味があるのですか?ダンジョン内での効果なのですわよね?」
私が率直な疑問を投げかけると、沙耶様はわずかに間を置き、ゆっくりと答えた。
「はい。私共も“最初は”そう考えておりました。けれど……イザベリア様。あなた様から見て、葵様はどのようなお方に見えますか?」
突然の問いかけに、私は少しだけ考えてから答える。
「御剣様は……気さくで、人当たりも良い方ですわね。」
カップを口に運びながら、ソファで安らかに眠る御剣様に視線を向ける。
「男女の隔てなく接し、興味あることにはまっすぐ向かう……強いて言えば、行動の端々に“普通の男性”に近い気質を感じることが多いですわ。」
言葉を選んではいるが、内心ではこう思っていた。
――女性に対する忌避感がほとんど無い、珍しい“男性”。
「やはり……他の方からも、そう見えているのですね」
沙耶様はぽつりとそう呟くと、そっと席を立ち、眠る御剣様のもとへと歩み寄った。
そして、静かに膝を折り、優しくその髪を撫で始める。
「私共から見た葵様は、5年前のあの日、十歳の頃のまま、何も変わっておられないのです」
その声は、慈しみに満ちていた。
しかし、その奥に滲む、どこか儚げな寂しさもまた、隠しきれないものだった。
何度も、何度も。
沙耶様は御剣様の頭を、まるで壊れ物を扱うように愛おしげに撫で続ける。
「身体は、歳相応に成長しておられます……けれど、内面――精神面においては、ほとんど変化が見られないのです」
そう言って、彼女は私の方を見た。その瞳には、一切の嘘も曖昧さもなかった。
「イザベリア様……おかしいとは思われませんでしたか? 黒野様や獅子堂様、その他のクラスメイトたちと同等の実力を持ちながら、葵様だけが放つ“気”が妙に希薄であることに」
――その言葉で、私はようやく気づいた。
確かに、黒野様はどこか謎めいた雰囲気を纏っている。
あれは意図的にオーラを押し殺しているのだと、すぐに分かる。
獅子堂様は、まるで野性の獣のような圧力を周囲に撒き散らす。
あれは誰が見ても“強者”のそれだ。
けれど――御剣様は違っていた。
彼のそばにいると、つい忘れてしまうのだ。
彼がどれほどの力を持っているかということを。
「……それって……まさか……」
思わず口をついて出た私の言葉に、沙耶様は静かに頷いた。
「ええ。イザベリア様のご推察の通りです。成人を迎えられた今、葵様は岐路に立たされております。このまま何も無ければよろしいのですが……我々の予測どうりなら……」
その言葉に、私は紅茶のカップを置き、ゆっくりと天井を見上げた。
――葵様の命は、もって十年。早ければ、五年すら持たない。
さっき聞いたはずの言葉が、今になって骨の髄まで染みこんでくる。
こんな話、聞きたくなかった――。
ただの政治的取引で踊らされていた方が、まだ気が楽だった。
感情のない仮面を被っていればいい。
なのに、今この胸にあるのは、紛れもない現実の痛み。
私は、ただ静かに目を閉じた。
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