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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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御剣 葵 ①

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

ダンジョンを抜けた私たちは、外の林道を抜けた先に建てられた一軒の小屋へとたどり着いた。


「思ったより、大きいですわね……」


その佇まいに思わず声が漏れる。

小屋と聞いていたが、実際には十人ほどが寝泊まりできそうな広さを持つ、一階建てのしっかりとしたログハウス。


「ここは、獅子堂家の護衛たちがダンジョンの管理を担う際の滞在拠点です」


そう説明してくれた沙耶様は、御剣様を軽々と肩に担いだまま、慣れた足取りで建物の扉を開けて入っていく。


中は清潔で整理整頓されており、長期ではなく短期の滞在を前提とした構造であることが一目でわかる。

資材や備品の配置にも、明確な意図と計画性が感じられる。


「これは……護衛用というより、短期の滞在を見越した設計ですわね」


私がそう口にすると、沙耶様は頷きつつ詳しい事情を教えてくれた。


「はい。このダンジョンで得られる資源は、貴重かつ国家戦略物資に近い扱いです。特に下層に棲むドラゴン個体は希少。市場に流すわけにはいきません。御三家と探索者協会が主体で管理しており、一部の政治家などには――まあ、金銭で適当に黙ってもらっているようですね」


「まさか国家ぐるみで……?」


「語弊がありますが、そう受け取られても否定できませんね。ですが、それだけ重要ということです」


私はそこで一つ、以前から感じていた疑問を口にした。


「あれほどの魔物が出現するダンジョンを、なぜそこまで厳重に監視・管理しなければならないのでしょう?」


沙耶様はわずかに表情を引き締め、私の方へ向き直った。


「イザベリア様、あのダンジョンが秘匿されている理由は、貴重性だけではありません。本当の問題は、“再出現のインターバル”です」


「再出現……つまり、敵が再配置されるまでの期間が?」


「はい。通常のダンジョンでは、早ければ翌日、遅くても一週間程度で再構築されますが、あのダンジョンは最低でも三ヶ月。つまり、一度攻略されたあとは、完全に無防備な状態になるのです」


「……なるほど。だからこそ、コアの破壊を警戒されているわけですのね」


沙耶様は深く頷き、落ち着いた口調で続けた。


「そうです。コアを破壊してしまえば再構築もできず、資源も回収できなくなる。だから、一部の権力者だけに秘匿し、継続的に管理・採取する必要があるのです」


その話を聞いた私は、ふと疑問を抱いた。


「でも……そんな重要な情報を、私にお話しされてよかったのですか?」


沙耶様はその問いに、わずかに笑みを浮かべて答えた。


「獅子堂様が、イザベリア様をここへお連れになった。それが答えではありませんか?」


「信用されている……それなら嬉しいですわね。でも……どちらかといえば“まぁいいか”程度の、安易な判断だったような気もしますけれど」


そう言って私が笑いかけると、沙耶様もふっと吹き出した。


「おそらく、その通りでしょうね」


私たちはしばしの間、そんなたわいのない会話で、張り詰めていた心の緊張を緩めるのだった。



「沙耶……」


ソファに横たわっていた御剣様が、ぽつりと沙耶様の名を呼んだ。


「葵様、どうされましたか?」


沙耶様が静かに近づいて声をかけると、御剣様はまぶたを重そうに閉じながら、ぽつりと告げた。


「僕、ちょっと眠いから……寝るね……」


そのまま、すうっと意識を手放すように、深い眠りへと落ちていかれた。


沙耶様は微笑みを浮かべると、そっと御剣様の傍らに腰を落とし、アイテムボックスから一枚の毛布を取り出した。

そして、何も言わずにそっと肩へと掛けられました。


「……お疲れ様です、葵様」


その声はまるで、子をあやす母のような優しさに満ちていた。


沙耶様はしばし、安らかに眠る御剣様の寝顔を眺めたあと、ふとこちらに振り返って言った。


「さて、お茶にしましょうか」


沙耶様がてきぱきと手際よく準備を整えていく様子を眺めながら、私は隣のテーブル席に腰を下ろした。


ソファで眠る御剣様の穏やかな寝息が、静かな室内に小さく響いていた。


「こうして見ておりますと……本当に、子供のようですわね」


私がぽつりと呟くと、準備を終えた沙耶様が紅茶のカップを差し出しながら言葉を返してきた。


「イザベリア様も、そうお感じになられましたか?」


「それは……どういう意味かしら?」


紅茶を受け取りながら、私は訝しげに問い返す。


沙耶様は、ほんの少しだけ微笑を浮かべて答えた。


「いえ、文字通りの意味でございます」


そう言って、彼女は自分の紅茶をテーブルに置き、音もなく椅子に腰を下ろすと、ゆっくりとカップを口元に運んだ。


紅茶をすする微かな音だけが、静かな室内に溶け込んでいく。

私も何も言わず、その様子をじっと見つめていた。


やがて沈黙が耐えきれなくなった私は、肩をすくめて口を開いた。


「……答える気は、ないということかしら?」


すると、沙耶様はあくまで穏やかに、しかしどこか含みのある声で言った。


「そのようなつもりは、ございません」


その言い回しには、肯定でも否定でもない。

けれど、意図的にはぐらかされてる気がした。


私は一口、紅茶を飲む。

薫り高く、渋みの中にほのかな甘さが残る味。


「……美味しいですわね」


紅茶の香りに包まれながら、私はそう呟いた。


「ありがとうございます」


沙耶様は穏やかに微笑み、礼を返した。


しばしの沈黙が流れ、湯気の向こうで視線が交錯する。


やがて沙耶様が、まるで探るような口調で言葉を差し向けてきた。


「イザベリア様は――葵様について、どれほどご存じで?」


私はすぐに答えず、ほんの僅かに微笑を浮かべて切り返した。


「それに答える意味があるのかしら?」


問いには問いで返す。

それが最も優雅な“防御”というもの。


しかし、沙耶様はそのやりとりに満足する気配もなく、静かに告げた。


「いえ。特に意味はございません。ただ……ここまでですね、今回の会話は」


そう言って、彼女は視線を紅茶に戻し、音もなくカップに口をつけた。


視線は再び交差し、空気がわずかに張りつめる。


……致し方ありませんわね。


私はそう思い、軽くため息を吐くと、観念して口を開いた。


「御剣葵。現在15歳。御剣家の嫡男として、御剣茜が出産。御剣家の三児のうちのひとり。

10歳のお披露目までは、御剣家および御影家による厳重な警戒体制のもと隔離され、外部との接触および情報流出は一切なし」


「……」


沙耶様はカップを置いたまま、ただ耳を傾けている。


「探索協会への登録と同時に、初めて公に姿を現す。

御剣刹那・千鶴の両姉妹によるダンジョンカメラのライブ配信によって、全世界にお披露目されましたわ。

その後の初陣で、刹那様と共に重傷を負い、聖家傘下の医療施設へ緊急搬送。

五日後、無事に退院。

その後は、東京第三城壁内にある初心者ダンジョン、通称『食料ダンジョン』にて再訓練を開始」


私は一呼吸置いてから、結びの言葉を添えた。


「現在はダンジョンカメラの記録等にて、活動の一端が随時確認されております。……以上が、私の把握している“表の情報”ですわ」


沙耶様は、その言葉を受けて柔らかく微笑むと、静かにこう言った。


「――ええ、確かに。表向きは、そうですね」


その微笑には、どこか意味深な含みがあった。


「ここからは、私“個人”で収集した情報になりますわ」


そう前置きして、私はゆっくりと話し始めた。


「東京近郊の山岳地帯に位置する、橘家監修の開拓村。――その中腹に、今はなき《首塚ダンジョン》と呼ばれる場所がございましたわね」


沙耶様がわずかに眉を動かすのを視界の端に捉えつつ、私は言葉を継ぐ。


「関東大刑場跡地――旧時代の処刑場跡に発生した特殊ダンジョン、代々、橘家によって封印と監視が続けられておりましたわね。


橘静江。現在七十八歳。

かつてはSランク冒険者として名を馳せ、祈祷と武を併せ持つ《戦巫女》と呼ばれた御方。

御剣家の分家筋として知られる橘家の家長」


私は茶を一口含み、視線を沙耶様に向けた。


「その橘家の管理する首塚ダンジョンこそ、御剣葵様の初期戦闘訓練に使用された場所。刹那様と千鶴様もまた、かつて《対人訓練》を目的に同じ場を用いられていたようですわね」


「……」


沙耶様は沈黙を守ったまま、微動だにしない。

私は続けた。


「内部情報については、正直なところ不明点が多いのですが――ひとつだけ確かなことがございます。


世界最強の称号を持つ現当主、御剣茜様ですら“攻略不可能”と判断されたほどの超危険領域。

それゆえに、探索協会ではこのダンジョンを《特級SSSランク》として、極秘裏に登録・管理しておりましたわね。」


私は静かに指を組み、少し声を落として続けた。


「聞くところによれば、ダンジョン内部は《ランダム構成》。

入るたびにマップが変化し、出現する敵性存在も階層によって大きく異なる。

さらに――脱出は、5階層ごとでなければ不可能だとか。


そして、そこで起きた事、刹那様は《内臓破裂》の重傷。

葵様は《高位呪詛》を受け、意識不明となったと伺っておりますわ」


それを告げると、私は沙耶様の瞳を正面から見据え、ゆっくりと問いを含ませた視線を向けた。


私の説明を静かに聞き終えると、沙耶様が紅茶を一口すすり、静かに言葉を継がれた。


「少し、訂正させていただきます」


その声音に刺々しさはなく、あくまでも事実の明確化する、冷静な補足だった。


「葵様方が入られたのは、《首塚ダンジョン》そのものではありません。正確には、そこから溢れ出した“小規模な副次ダンジョン”でございます」


「……副次?」


私が聞き返すと、沙耶様は頷いて続けた。


「本来の首塚ダンジョンは、さらに奥深くに存在しております。茜様ですら“攻略不可能”と判断されたのは、あくまでそちらの本体――《本ダンジョン》の方です」


「なるほど……」


沙耶様はひと呼吸おき、さらに静かに言葉を継がれた。


「補足となりますが……“本体”の首塚ダンジョンも、副次と同様に《記憶・過去の再現》によるダンジョンだと考えられております」


「記憶の再現……ですの?」


「はい。内部構造は常にランダムで変化し、その都度《誰かの記憶》――あるいは、過去にあった出来事が再構成されるのだそうです」


沙耶様は紅茶を一口含み、慎重に言葉を選びながら続けた。


「実際、茜様が踏破を試みた際、百回以上エリアを更新されたにもかかわらず、ダンジョンコアには一度たりとも辿り着けなかったと聞いております」


「百回……それでも、ですか」


私は思わず息を呑んだ。


「はい。茜様が《攻略不可能》と判断されたのは、単に敵が強いからではなく、“終わりが見えない”からです。

もし本当に、《負の記憶の再現》を追体験しなければならない構造であるならば……何百年、何千年に及ぶ“呪い”を、その身をもって辿らねばならない。

そういう意味で、茜様は“無理だ”と仰ったと聞いています」


その言葉には、軽いものではない重みがあった。


記憶を辿る。

それが、“誰かの記憶”ではなく、“何百年にも渡る怨嗟や嘆き”であるとしたら――

それは、攻略ではなく、地獄そのものだ。


私は紅茶に口をつけながら、思わず小さく呟いた。


「……記憶を、辿る……地獄、ですわね」


沙耶様は、ただ静かに頷かれた。



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