イザベリアの訓練 ④
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
パチパチパチ……
乾いた拍手の音が、静寂を取り戻した空間に響いた。
「お見事でした、イザベリア様。」
穏やかな笑みを浮かべながら近づいてきた神崎様が、私を称えてくださる。
口調こそ柔らかいが、その眼差しには確かな評価の色が浮かんでいた。
「ありがとうございます、神崎様。ですが、まだまだですわ。あの程度で満足していては、閣下…獅子堂様に顔向けできませんもの。」
私がそう返すと、神崎様は「謙遜ですね」と軽く笑った。
その隣で、やや鋭い視線を向けながら歩み寄ってきたのは沙耶様。
「……イザベリア様は申し分ありません。ですが、葵様は……お話になりませんね。」
ぴしゃりと切り捨てるような口調に、私は思わず御剣様の方へ目を向ける。
御剣様は、先程の戦闘で疲れ果て、地面に座り込んでいた。
顔は疲れ果てており、どこか居たたまれなさそうに俯いている。
「刃が通らぬ鱗を相手に、同じ箇所を何度も斬りつけては弾かれ……ようやく目を狙って突き立てたは良いものの、蛇が瞼を閉じた瞬間に刀が挟まって抜けなくなる。そこで離脱すればまだしも、刀にしがみついたまま空中に持ち上げられ、まるでおもちゃのように振り回されるとは……」
沙耶様は呆れたように額に手をやり、ため息をついた。
「全くもって……情けない限りです。」
「……うぅ……」
御剣様は小さくうめいて、さらに顔を伏せてしまわれた。
私はそっと視線を逸らし、空を見上げながら小さくつぶやいた。
「……まぁ、あれも経験の一つですわね。」
それは慰めにもならないが、成長の一歩には違いない…そう信じることにした。
「イザベリア様、先ほどの技は何ですか? エアーボム、あるいはサウンドボムの類でしょうか?」
沙耶様が、地面にしょんぼりと座り込んでいる葵様を綺麗にスルーして、私の方へと尋ねてきました。
「――Bruchのことですか?」
私が問い返すと、沙耶様は軽く頷きました。
「はい、それです。空気の衝撃と炸裂――あれは通常のボム系とは明らかに挙動が違っていました」
私は鞭を右手に取り、再び軽く振る。
シュッ――パンッ!
乾いた破裂音が森の中に鋭く響き渡る。
「沙耶様、この音が何の音か、ご存じでしょうか?」
私が問いかけると、沙耶様は少し思案するように首を傾げて答えました。
「……確か、“音の壁”を叩いた音――と、聞いたことがあります」
「半分正解で、でも“外れ”ですわね」
イザベリアはニコリと意味ありげに笑みを浮かべた。
沙耶様が答えたのは、世間一般でよく語られる「音の壁を叩く音」という解釈。
「正確には、“音の壁を突き破った瞬間”に生じる空気振動の衝撃音。いわば小規模なソニックブームですわ」
イザベリアはそう言いながら、軽く鞭を揺らし、再び「パンッ」と高音の破裂を響かせた。
神崎様が静かに問いかけけて来た。
「ということは、その衝撃を魔力で強化しているのですか?」
私は、苦笑を浮かべながら頷いた。
「正解――ではありますが、同時に外れでもありますわ」
「そうですね。その理屈ですと、エアーボム系やサウンドボム系に分類されるはずです」
沙耶様が、横から静かに補足してくれる。
「では、違うと?」
神崎様が興味深そうに首を傾げる。
私はふたりの視線を受け止めたまま、静かに息を整えて言葉を継ぐ。
「この技は――ええ、まさにその“衝撃を強化する”研究の最中に偶発的に生まれた“副産物”ですの。正直なところ、理論や構造、発動条件などもはっきりとは解明されていませんわ。もし、憶測の域でも構わないのでしたら、お話ししても?」
ふたりは静かに頷いた。
「研究班の見解によれば、この技は……一種の“空間震”を引き起こしているのでは、という仮説がありますわね」
「空間震……?」
「ええ。元々は魔力による衝撃を強化する研究を進めていたのですが、強化だけでは思うような効果が出なかった。そこで、“魔力の延滞”“ディレイ処理”を用いて、遅延発動型の罠として応用できないか、という流れで研究を進めておりましたわ」
「つまり、“仕掛けるタイプの魔法”としてですか?」
「はい。トラップ魔法として、遅れて炸裂する小規模な魔力衝撃波を生み出す、その過程で偶然、この技が発動しました」
「それが、あの鞭の音と衝撃ですか?」
沙耶様が少し眉をひそめながら問いかけてくる。
「ええ、そうですわ。納得いただけると嬉しいのですが……正直、私自身が完全に理解して使いこなしているわけではありませんわ。あくまで“現象”として扱っている、という感覚です」
私は軽く鞭を構え、鞭先を振りぬいて「パンッ」と音を鳴らした。
「先ほど言いましたように、これは音の壁を叩いている音……と一般的には思われていますけれど、実際は違いますの。“音の壁を突き破った際に生じる衝撃波”、つまり、小規模なソニックブーム――音速の壁を超えた瞬間の波ですわ」
神崎様と沙耶様が視線を交わす。
「では、その衝撃波に魔力を加えて強化している?」
「そう見えますでしょう? けれど、それが実は違うのですわ」
私は少し笑みを浮かべながら首を横に振った。
「魔力による“強化”は、実験段階でもあまり効果が得られませんでした。ところが、魔力による“遅延”――つまり、“ディレイ”の技術を併用すると、突如として空間に“歪み”が発生し、局所的に大きな反響を引き起こす現象が確認されたのですわ」
「音波や空間振動を、魔力によって停滞・圧縮するということですか?」
「ええ、その通りかもしれませんわね。もちろん理論化はされておらず、今も研究段階ですけれど」
私は、例としてファイアボールを詠唱した。
赤い球体が手のひらから放たれ、数メートル先で静止し、三秒後に「ドゴォンッ」と炸裂した。
「これが“ディレイ制御”です。魔力による操作・制御が十分であれば、このような遅延爆発も可能です。ですが、物理的な対象に対して同様の干渉を試みても、通常は不可能とされていました。魔力が物理を直接制御することは、基本的にはできないのです」
「つまり、Bruchは、その常識を逸脱した存在――」
「……副産物。偶然の産物ですわね」
私はそう言って、いたずらっぽく微笑んだ。
「サウンドボムやフラッシュボムといった魔法は、“音や光”の物理現象を模した“再現魔法”にすぎません。でも、Bruchは、“物理現象に対する魔力の直接干渉”……あるいは、“干渉してしまった結果”、なのかもしれませんわ」
そう言うと、私は周囲に一言。
「耳を塞いでいただけますか?」
全員が耳を塞いだのを確認してから、私は軽く息を吸い、大声で叫んだ。
「――わっ!」
その瞬間、空気が揺らぎ、空間に甲高い“キィィン”という高周波のような音が反響した。
「……これが“音の干渉”ですわ。声に反応した空気振動を、魔力が拾って増幅し、跳ね返している。これが“物理に対する魔力干渉”の一例と――うちの研究班は説明していますの。」
私はもう一度「わっ」と叫んでみせた。
だが、先ほどと違い、音も魔力の反応も一切起きなかった。
「今のは……?」
と沙耶様がたずねてきます。
「声にディレイ――時間差をかけ、遠方に飛ばそうとしたのですが……」
「発動しなかったのですか?」
「いえ、発動はしていますわ。ただ、“干渉”によって対消滅を起こしてしまった、とのことですわ。」
「対消滅……?」
「えぇ。これも研究班の仮説の一つですが――物理現象にディレイや停滞をかけると、同一の現象同士が干渉し合い、維持できずに構造が崩壊してしまう、というのです。外から見ると“不発”や“失敗”に見えますが、内部的には現象が発生し、結果的に自壊している――とのことですわ。」
沙耶様と神崎様が顔を見合わせ、私は説明を続けた。
「つまり、アプローチの問題……現象そのものは成立しているので、異なる方向からの制御によって、結果が変わる可能性がある……と、研究班は言っていましたの。」
「ということは、イザベリア様の“Bruch”は、その例外的な成功例、ということでしょうか?」
「はい、ですが……私自身、正直、仕組みはよくわかっていませんの。研究班の方々が、可能性として語っていたことを、こうしてお伝えしているだけです。」
「どういった仮説なのですか?」
神崎様が前のめりに聞いてこられました。
「……ええと。研究班によると、あの技は“空間震”のような状態を引き起こしている可能性があるそうですの。ソニックブーム――音速を超えた瞬間の衝撃波を、魔力と空気圧の拮抗で圧縮・停滞状態にし、それが一定条件下で爆発的に開放されている、との見解です。」
沙耶様が眉をひそめた。
「小規模な真空状態が、外部の空気を吸収・圧縮し続け、破裂寸前の空気膜を生成している。そこに、私の魔力制御による“停滞”を組み合わせることで、結果的に“待機状態”の破壊力が蓄積されている……らしいですわ。」
「理屈としては成立しそうですが……」
神崎様が疑問視していた。
「……あくまで“副産物”でして、私が理解して使っているわけではありませんの。ただ、集中して、“留める”イメージを意識し続けると、発動することだけは確かです。」
「そのような威力があるなら、最初から使えばよろしかったのでは?」
神崎様が問いかけてきました。
「これには、大きな制限がございますの。」
「制限?」
「はい。あの技は、私が極限まで集中しないと制御できません。そのため、戦闘中に走ったり動いたりしながらでは使えませんわ。」
「つまり、その場で待機するしかない?」
「ええ、完全静止状態で最大五つ。戦闘中なら三つが限界。歩きながらでは、一つ維持できるかどうか、ですわ。それに、動いている敵には非常に相性が悪いですわね。」
沙耶様が納得したように微笑む。
「なるほど。威力は絶大でも、取り回しが非常に難しい――まさに“尖った技術”というわけですね。」
「ええ、そう言っていただけると救われますわ、沙耶様。」
私は微笑み返した。
それは、“理解できぬまま使っている技”。
けれど、確かにそこに“破壊の力”は宿っている。
研究の理論の外側――
それが、私の“Bruch”ですわ。
「ですが……本当に宜しかったのですか? そのような高度な技術について、私たちにお話しなさっても」
沙耶様が少し戸惑いながら問いかけてこられました。
「ええ、構いませんわ。あくまで、これは研究班が立てた仮説のひとつ。確定した理論ではございませんし、むしろ――他の方々の視点や意見が欲しいところですの」
「なるほど。つまり、理論がまだ確立していない以上、体系として扱う段階にはないと」
「その通りですわ。それに……こういった技術こそ、秘匿するより“共有”してこそ、新たな発見が生まれるものですから」
私がそう微笑むと、神崎様が小さく頷きながら口を開かれました。
「さすがです、イザベリア様。多くの者は、こういった技術を独占し、秘匿するものです」
「恐縮ですわ。」
私は静かに礼を述べました。
「さて――そろそろ切り上げて、先に進みましょうか。お昼もとっくに過ぎておりますし」
神崎様がそう言って会話を締めに入られましたが、私はふと御剣様に視線を向けました。
……御剣様は、明らかに疲労困憊のご様子。
もちろん、私自身も、これ以上の戦闘に耐えられるかは怪しいところですわね。
私は神崎様に向き直り、はっきりと告げました。
「申し訳ありませんが、ここで休息を取らせていただきますわ」
「おや? 理由を伺っても?」
「はい。少々疲労が溜まっておりますし……御剣様の様子を見ても、無理は禁物かと。それに、これ以上の相手が現れた場合、私一人で対処できる保証もありませんもの」
私の言葉に、神崎様はふっと笑みを浮かべました。
「……なるほど。無理をせず、状況判断で撤退を選べる。その冷静さこそが、戦場では何より重要です。立派な判断です、イザベリア様」
そう言って、神崎様は満足げに小さく拍手を送ってくださいました。
「それでは、私は残りの討伐。主様…いえ、獅子堂様から依頼されていた分を片付けてまいります。ダンジョン外に簡易小屋がございますので、そちらでご休憩を。中の設備も、ご自由にお使いください。夕刻までには戻る予定です」
そう言い残して、神崎様は颯爽と次の階層に向かわれました。
「……返事も聞かずに行ってしまわれましたわね」
「余程お急ぎだったのでしょう……」
「それなら、それで……少し悪いことをしてしまいましたわね」
私はふと周囲を見回しました。
御剣様が討伐したギガントサーペントからは、大きな蛇革と一本の牙が残されており、私が仕留めた二体からは、それぞれ、人の頭ほどのサイズの宝石、サーペントアイが静かに輝いておりました。
「……本当に、これはこれで贅沢な戦果ですわね」
私はそう言いながら、残されたアイテムを回収し、沙耶様の肩に担がれた御剣様を眺めながら、ダンジョンを後にしました。
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい。
いいね!・コメント・ブックマークの登録をよろしくお願いします。
レビューや感想も気軽に書き込んで下さい。
やる気の活力になります。
X(旧Twitter)では、沢山のAIイラストやSUNOでの音楽作成をしています。
世界観が好きな人や、音楽が好きな人は是非、見に・聴きに来てください。
Xを中心に活動していますので、意見やコメント・ネタばれなんかも、Xに書き込んで貰えたらうれしいです。
意見や参考など気軽にコメント貰えたらうれしいです。
絡みに来てくれるだけでも嬉しいので、興味があればフォローをお願いします。
X(旧Twitter)の方もよろしくお願いします。
拡散・宣伝して貰えれば嬉しいです。
https://x.com/Dx8cHRpuIBKk7SW




