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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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イザベリアの訓練 ④

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

パチパチパチ……


乾いた拍手の音が、静寂を取り戻した空間に響いた。


「お見事でした、イザベリア様。」


穏やかな笑みを浮かべながら近づいてきた神崎様が、私を称えてくださる。

口調こそ柔らかいが、その眼差しには確かな評価の色が浮かんでいた。


「ありがとうございます、神崎様。ですが、まだまだですわ。あの程度で満足していては、閣下…獅子堂様に顔向けできませんもの。」


私がそう返すと、神崎様は「謙遜ですね」と軽く笑った。


その隣で、やや鋭い視線を向けながら歩み寄ってきたのは沙耶様。


「……イザベリア様は申し分ありません。ですが、葵様は……お話になりませんね。」


ぴしゃりと切り捨てるような口調に、私は思わず御剣様の方へ目を向ける。


御剣様は、先程の戦闘で疲れ果て、地面に座り込んでいた。

顔は疲れ果てており、どこか居たたまれなさそうに俯いている。


「刃が通らぬ鱗を相手に、同じ箇所を何度も斬りつけては弾かれ……ようやく目を狙って突き立てたは良いものの、蛇が瞼を閉じた瞬間に刀が挟まって抜けなくなる。そこで離脱すればまだしも、刀にしがみついたまま空中に持ち上げられ、まるでおもちゃのように振り回されるとは……」


沙耶様は呆れたように額に手をやり、ため息をついた。


「全くもって……情けない限りです。」


「……うぅ……」


御剣様は小さくうめいて、さらに顔を伏せてしまわれた。


私はそっと視線を逸らし、空を見上げながら小さくつぶやいた。


「……まぁ、あれも経験の一つですわね。」


それは慰めにもならないが、成長の一歩には違いない…そう信じることにした。




「イザベリア様、先ほどの技は何ですか? エアーボム、あるいはサウンドボムの類でしょうか?」


沙耶様が、地面にしょんぼりと座り込んでいる葵様を綺麗にスルーして、私の方へと尋ねてきました。


「――Bruchブルッフのことですか?」


私が問い返すと、沙耶様は軽く頷きました。


「はい、それです。空気の衝撃と炸裂――あれは通常のボム系とは明らかに挙動が違っていました」


私は鞭を右手に取り、再び軽く振る。

シュッ――パンッ!


乾いた破裂音が森の中に鋭く響き渡る。


「沙耶様、この音が何の音か、ご存じでしょうか?」


私が問いかけると、沙耶様は少し思案するように首を傾げて答えました。


「……確か、“音の壁”を叩いた音――と、聞いたことがあります」


「半分正解で、でも“外れ”ですわね」


イザベリアはニコリと意味ありげに笑みを浮かべた。

沙耶様が答えたのは、世間一般でよく語られる「音の壁を叩く音」という解釈。


「正確には、“音の壁を突き破った瞬間”に生じる空気振動の衝撃音。いわば小規模なソニックブームですわ」


イザベリアはそう言いながら、軽く鞭を揺らし、再び「パンッ」と高音の破裂を響かせた。


神崎様が静かに問いかけけて来た。


「ということは、その衝撃を魔力で強化しているのですか?」


私は、苦笑を浮かべながら頷いた。


「正解――ではありますが、同時に外れでもありますわ」


「そうですね。その理屈ですと、エアーボム系やサウンドボム系に分類されるはずです」


沙耶様が、横から静かに補足してくれる。


「では、違うと?」


神崎様が興味深そうに首を傾げる。

私はふたりの視線を受け止めたまま、静かに息を整えて言葉を継ぐ。


「この技は――ええ、まさにその“衝撃を強化する”研究の最中に偶発的に生まれた“副産物”ですの。正直なところ、理論や構造、発動条件などもはっきりとは解明されていませんわ。もし、憶測の域でも構わないのでしたら、お話ししても?」


ふたりは静かに頷いた。


「研究班の見解によれば、この技は……一種の“空間震”を引き起こしているのでは、という仮説がありますわね」


「空間震……?」


「ええ。元々は魔力による衝撃を強化する研究を進めていたのですが、強化だけでは思うような効果が出なかった。そこで、“魔力の延滞”“ディレイ処理”を用いて、遅延発動型の罠として応用できないか、という流れで研究を進めておりましたわ」


「つまり、“仕掛けるタイプの魔法”としてですか?」


「はい。トラップ魔法として、遅れて炸裂する小規模な魔力衝撃波を生み出す、その過程で偶然、この技が発動しました」


「それが、あの鞭の音と衝撃ですか?」


沙耶様が少し眉をひそめながら問いかけてくる。


「ええ、そうですわ。納得いただけると嬉しいのですが……正直、私自身が完全に理解して使いこなしているわけではありませんわ。あくまで“現象”として扱っている、という感覚です」


私は軽く鞭を構え、鞭先を振りぬいて「パンッ」と音を鳴らした。


「先ほど言いましたように、これは音の壁を叩いている音……と一般的には思われていますけれど、実際は違いますの。“音の壁を突き破った際に生じる衝撃波”、つまり、小規模なソニックブーム――音速の壁を超えた瞬間の波ですわ」


神崎様と沙耶様が視線を交わす。


「では、その衝撃波に魔力を加えて強化している?」


「そう見えますでしょう? けれど、それが実は違うのですわ」


私は少し笑みを浮かべながら首を横に振った。


「魔力による“強化”は、実験段階でもあまり効果が得られませんでした。ところが、魔力による“遅延”――つまり、“ディレイ”の技術を併用すると、突如として空間に“歪み”が発生し、局所的に大きな反響を引き起こす現象が確認されたのですわ」


「音波や空間振動を、魔力によって停滞・圧縮するということですか?」


「ええ、その通りかもしれませんわね。もちろん理論化はされておらず、今も研究段階ですけれど」


私は、例としてファイアボールを詠唱した。

赤い球体が手のひらから放たれ、数メートル先で静止し、三秒後に「ドゴォンッ」と炸裂した。


「これが“ディレイ制御”です。魔力による操作・制御が十分であれば、このような遅延爆発も可能です。ですが、物理的な対象に対して同様の干渉を試みても、通常は不可能とされていました。魔力が物理を直接制御することは、基本的にはできないのです」


「つまり、Bruchブルッフは、その常識を逸脱した存在――」


「……副産物。偶然の産物ですわね」


私はそう言って、いたずらっぽく微笑んだ。


「サウンドボムやフラッシュボムといった魔法は、“音や光”の物理現象を模した“再現魔法”にすぎません。でも、Bruchは、“物理現象に対する魔力の直接干渉”……あるいは、“干渉してしまった結果”、なのかもしれませんわ」


そう言うと、私は周囲に一言。


「耳を塞いでいただけますか?」


全員が耳を塞いだのを確認してから、私は軽く息を吸い、大声で叫んだ。


「――わっ!」


その瞬間、空気が揺らぎ、空間に甲高い“キィィン”という高周波のような音が反響した。


「……これが“音の干渉”ですわ。声に反応した空気振動を、魔力が拾って増幅し、跳ね返している。これが“物理に対する魔力干渉”の一例と――うちの研究班は説明していますの。」


私はもう一度「わっ」と叫んでみせた。

だが、先ほどと違い、音も魔力の反応も一切起きなかった。


「今のは……?」


と沙耶様がたずねてきます。


「声にディレイ――時間差をかけ、遠方に飛ばそうとしたのですが……」


「発動しなかったのですか?」


「いえ、発動はしていますわ。ただ、“干渉”によって対消滅を起こしてしまった、とのことですわ。」


「対消滅……?」


「えぇ。これも研究班の仮説の一つですが――物理現象にディレイや停滞をかけると、同一の現象同士が干渉し合い、維持できずに構造が崩壊してしまう、というのです。外から見ると“不発”や“失敗”に見えますが、内部的には現象が発生し、結果的に自壊している――とのことですわ。」


沙耶様と神崎様が顔を見合わせ、私は説明を続けた。


「つまり、アプローチの問題……現象そのものは成立しているので、異なる方向からの制御によって、結果が変わる可能性がある……と、研究班は言っていましたの。」


「ということは、イザベリア様の“Bruch”は、その例外的な成功例、ということでしょうか?」


「はい、ですが……私自身、正直、仕組みはよくわかっていませんの。研究班の方々が、可能性として語っていたことを、こうしてお伝えしているだけです。」


「どういった仮説なのですか?」


神崎様が前のめりに聞いてこられました。


「……ええと。研究班によると、あの技は“空間震”のような状態を引き起こしている可能性があるそうですの。ソニックブーム――音速を超えた瞬間の衝撃波を、魔力と空気圧の拮抗で圧縮・停滞状態にし、それが一定条件下で爆発的に開放されている、との見解です。」


沙耶様が眉をひそめた。


「小規模な真空状態が、外部の空気を吸収・圧縮し続け、破裂寸前の空気膜を生成している。そこに、私の魔力制御による“停滞”を組み合わせることで、結果的に“待機状態”の破壊力が蓄積されている……らしいですわ。」


「理屈としては成立しそうですが……」


神崎様が疑問視していた。


「……あくまで“副産物”でして、私が理解して使っているわけではありませんの。ただ、集中して、“留める”イメージを意識し続けると、発動することだけは確かです。」


「そのような威力があるなら、最初から使えばよろしかったのでは?」


神崎様が問いかけてきました。


「これには、大きな制限がございますの。」


「制限?」


「はい。あの技は、私が極限まで集中しないと制御できません。そのため、戦闘中に走ったり動いたりしながらでは使えませんわ。」


「つまり、その場で待機するしかない?」


「ええ、完全静止状態で最大五つ。戦闘中なら三つが限界。歩きながらでは、一つ維持できるかどうか、ですわ。それに、動いている敵には非常に相性が悪いですわね。」


沙耶様が納得したように微笑む。


「なるほど。威力は絶大でも、取り回しが非常に難しい――まさに“尖った技術”というわけですね。」


「ええ、そう言っていただけると救われますわ、沙耶様。」


私は微笑み返した。


それは、“理解できぬまま使っている技”。

けれど、確かにそこに“破壊の力”は宿っている。

研究の理論の外側――

それが、私の“Bruchブルッフ”ですわ。


「ですが……本当に宜しかったのですか? そのような高度な技術について、私たちにお話しなさっても」


沙耶様が少し戸惑いながら問いかけてこられました。


「ええ、構いませんわ。あくまで、これは研究班が立てた仮説のひとつ。確定した理論ではございませんし、むしろ――他の方々の視点や意見が欲しいところですの」


「なるほど。つまり、理論がまだ確立していない以上、体系として扱う段階にはないと」


「その通りですわ。それに……こういった技術こそ、秘匿するより“共有”してこそ、新たな発見が生まれるものですから」


私がそう微笑むと、神崎様が小さく頷きながら口を開かれました。


「さすがです、イザベリア様。多くの者は、こういった技術を独占し、秘匿するものです」


「恐縮ですわ。」


私は静かに礼を述べました。


「さて――そろそろ切り上げて、先に進みましょうか。お昼もとっくに過ぎておりますし」


神崎様がそう言って会話を締めに入られましたが、私はふと御剣様に視線を向けました。


……御剣様は、明らかに疲労困憊のご様子。

もちろん、私自身も、これ以上の戦闘に耐えられるかは怪しいところですわね。


私は神崎様に向き直り、はっきりと告げました。


「申し訳ありませんが、ここで休息を取らせていただきますわ」


「おや? 理由を伺っても?」


「はい。少々疲労が溜まっておりますし……御剣様の様子を見ても、無理は禁物かと。それに、これ以上の相手が現れた場合、私一人で対処できる保証もありませんもの」


私の言葉に、神崎様はふっと笑みを浮かべました。


「……なるほど。無理をせず、状況判断で撤退を選べる。その冷静さこそが、戦場では何より重要です。立派な判断です、イザベリア様」


そう言って、神崎様は満足げに小さく拍手を送ってくださいました。


「それでは、私は残りの討伐。主様…いえ、獅子堂様から依頼されていた分を片付けてまいります。ダンジョン外に簡易小屋がございますので、そちらでご休憩を。中の設備も、ご自由にお使いください。夕刻までには戻る予定です」


そう言い残して、神崎様は颯爽と次の階層に向かわれました。


「……返事も聞かずに行ってしまわれましたわね」


「余程お急ぎだったのでしょう……」


「それなら、それで……少し悪いことをしてしまいましたわね」


私はふと周囲を見回しました。


御剣様が討伐したギガントサーペントからは、大きな蛇革と一本の牙が残されており、私が仕留めた二体からは、それぞれ、人の頭ほどのサイズの宝石、サーペントアイが静かに輝いておりました。


「……本当に、これはこれで贅沢な戦果ですわね」


私はそう言いながら、残されたアイテムを回収し、沙耶様の肩に担がれた御剣様を眺めながら、ダンジョンを後にしました。

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