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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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イザベリアの訓練 ②

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

ズドォン――!


大地を震わせるような轟音が、静寂だった森にこだました。


視界の端で、巨大な蛇――ギガントサーペントの頭部が爆ぜ飛び、木々の向こうへと霧散していく。

轟音の中心には、黒い髪をなびかせた神崎様の姿。

何が起きたのか理解する間もなく、彼女は片手を天へ伸ばし、宙を舞う紅い魔宝石をひらりとキャッチした。


レッドスネークアイ。

まるで蛇の瞳を模したような赤い魔宝石が、太陽の光を受けて妖しく煌めく。


「――おしゃべりはこの辺にしておきましょうか」


神崎様は淡々と呟く。

まるで庭に現れた虫を払うような、そんな軽やかさで。


その直後、森の奥――私達の右手、神崎様がいた方向から新たに五体ものギガントサーペントが、その巨体を揺らしながら姿を現した。


それだけではない。

私達の左手――つまり私と御剣様がいる側にも、森の木々を押しのけるようにして、三体のギガントサーペントが姿を現した。


「イザベリア様、御剣様。そちらの三体はお任せしても大丈夫でしょうか?」


神崎様が落ち着いた声で言った。

すでに彼女は、正面の五体へと歩みを進め始めている。


「――なんとかやってみますわ」


私も負けじと気を引き締め、眼前の巨蛇たちに視線を向けた。

ずんぐりとした鱗の重なり、二対の瞳孔がこちらを鋭く睨んでいる。

異様なほど静かに――けれど、明確な殺意を乗せて。


「なら、お任せします」


そう言い残すと、神崎様はすでに駆け出していた。

彼女の足元にある地面が小さく爆ぜ、残像を残すように森の奥へと消えていく。


残されたのは、私と御剣様、そして三体のギガントサーペント。


「――さて、御剣様」


「はい、イザベリアさん?」


御剣様は冷静だった。

瞳に迷いはない。

状況は理解している様子で、きちんと戦う覚悟を決めている顔だ。


「私が二体の注意を引きます。その間に、正面の一体をお願いいたしますわ」


私は魔導銃を構え、左手で散弾装填を切り替えるスライダーを押し込んだ。


視界の前方には、黒緑色の鱗を持つ三体の蛇――通常個体であることが、わずかに救いだった。

少なくとも、今の私たちの力でも対処可能なはず。


銃口をわずかに上げて――。


バンッ! バンッ! バンッ!


三発の散弾を、わざと顔近くへと撃ち込んだ。

傷を負わせるつもりはない。

あくまで注意を引くこと、それが目的だ。


鋭い金属音とともに鱗に弾かれた散弾が光を弾き、二体のギガントサーペントが鬱陶しげに首を振った。そして――次の瞬間、怒声のような咆哮とともに、一気に私のほうへと殺到してくる。


森の下草が薙ぎ倒され、木々が震える。


私は既に右手方向へと走り出した。

足元に魔力を流し、地形を読みながら木の根を蹴るように跳躍していく。


(御剣様は――?)


ちらりと横目で見ると、御剣様もまた刀を手にかけ、目の前の一体へと駆け出していた。

その背に、私は小さく微笑んだ。


「狩りの時間ですわよ――」


呟いたその言葉と同時に、私は戦場の中心へと飛び込み思考を切り替えた。


私に狙いを定めた二匹のギガントサーペントが、一斉に樹木をなぎ倒しながら突進してくる。

地面が揺れ、衝撃で体が跳ねる。

が――焦るわけにはいかない。


「こっちよ!」


森の木々を縫うように跳躍し、足元に魔力を流しながら加速する。

魔導銃を斜めに構えながら、散弾をもう一発――バシュンッ!


鱗に当たって弾かれる音とともに、目を細める蛇の瞳が見えた。

怒っている、というより、本能的な怒りに近い。




一方その頃――御剣 葵の刀が空を裂いた。


「はあぁっ!」


ギィィィイン!


刃がギガントサーペントの首に触れた瞬間、火花が散った。

刃が通らない。


「な、硬っ……!?」


見た目より遥かに厚く、そして魔力が染み込んだような鱗。

鉄を切るようにはいかない。


ギガントサーペントは反撃に出た。

尾が唸りを上げて薙ぎ払われる。


「うおっ――!?」


咄嗟に下へ転がって躱す御剣 葵。

土煙とともに巨木達が、尾の一撃で吹き飛ばされた。


「くそ……舐めてた…」


焦りの色が滲む。




イザベリア様と御剣様が戦闘を開始して間もなく、神崎様が森の奥から姿を現された。


「――もうお戻りですか?」


私がそう問いかけると、神崎様は肩をすくめながら、両腰の剣の柄を軽く叩いた。


「大きな蛇の首を落とすだけでしたから。そう時間はかかりませんよ」


飄々とした声音とは裏腹に、手には一滴の血も付いていない。

既に一戦を終えて戻ってきたというのに、まるで散歩の帰り道のような様子だった。


「状況は?」


神崎様の視線が、眼前の戦闘へと注がれる。

私は頷きながら、静かに説明を始めた。


「イザベリア様は、魔導銃の散弾で二体の注意を引きつけ、鞭で翻弄しています。的確な立ち回りですが、さすがに時間をかけすぎると……」


そう、既にギガントサーペントの巨体が、重く鬱陶しそうにうねっていた。

散弾に苛立ったのか、鈍い咆哮をあげ、牙を剥き出しにしながら彼女を追い詰めようとしている。


「御剣様のほうは……」


私はもう一方に視線を向ける。


葵様は刀を手に、真っ向から一体に斬りかかっていた。

だがその刃は、鱗に当たっても金属音を響かせ、滑るように弾かれている。

鋭い一撃の数々が肉に届かず、ただ気力だけが削られていく。


その背には、焦燥と苛立ち――そして悔しさが滲んでいた。


「……どちらも決定打に欠けています」


私が言うと、神崎様は静かに頷いた。


「敵を翻弄する技術はある……が、殺し切るための“何か”が足りない。これはもう、経験でしか補えないでしょうね」


そう言って神崎様は、森の奥へと目をやる。

視線の先に、まだ反応を見せていない気配――おそらく、次の敵が控えている。


「行きますか?」


神崎様がそう問いかけてくる。


「……よろしいのですか?」


私がそう返すと、神崎様は優しく微笑み、言った。


「ええ。」


許可を得た以上、やるべきことは一つ。


私は気配を殺し、森の闇へと溶けるように歩き出した。

草木を揺らさず、気配を漏らさず――ただ獲物に向かって、静かに。


「……御剣家の影。ナイトウォーカー。暗殺者。呼び名は様々でも――草木すら揺らさず音もたてませんか……。いやはや、御影家は恐ろしい」


神崎様がぼそりと漏らすその声を、私は背中で受けながら、11匹目のギガントサーペントの気配へと向かっていた。


沙耶はじっとその場に佇み、気配を殺して森の奥を見据えていた。



木々の隙間に横たわり殺気を殺して獲物を見定める、巨体。

――11体目のギガントサーペント。


「……おかしいですね」


神崎様の言では、この階層に存在する個体数は10体のはずだった。

それが1体多いとなれば――


「……やはり、葵様の影響ですか」


小さくため息をつき、右手をアイテムボックスへ滑らせる。


次の瞬間、シュッという音と共に、黒漆に染まった大鎌が手の中に収まっていた。

その刃は鋭く湾曲し、まるで夜の闇そのものを写したかのような冷ややかさを湛えている。


沙耶は足音もなく近づき、鎌を地面につけて斬り上げる。


ザシュッ。


ひと振り。

頸椎を断ち切る鈍い感触とともに、ギガントサーペントの巨大な頭部が音もなく地面に転がった。


血飛沫もなく、断面はあまりに整いすぎていて、不気味なほど静寂だった。


「……鱗は少々硬いですが、大きさ相応ですね」


淡々とそう言いながら、沙耶は落ちた胴体に歩み寄ると、一枚鱗を剥ぎ取って手の中に収める。

そして、魔力の一片も込めずに、その鱗を指先でギリリ……ッと握りつぶした。


パキン。


割れた破片が砂のように手の中からこぼれ落ちる。


「……見た目に反して、ただの大蛇。魔力反応も希薄。やはり葵様のスキルで生成された“確率の反転個体”とみて間違いないでしょうか」


分析を終えた沙耶は、ギガントサーペントが黒い霞のように霧散していくのをただ見送った。


残されたのは――2本の巨大な牙。

それをひと目見ると、沙耶は静かに首を傾げた。


「……ドロップ品の縁が無いのは、相変わらずですね、葵様」


言葉に棘はない。

ただ、事実を淡々と述べたその声には、微かな――半ば呆れにも似た親愛の色が滲んでいた。


鎌を納めると、沙耶は再び気配を薄め、静かに元の場所へと戻っていった。

まるで、最初からそこに誰もいなかったかのように。



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