退屈な日常 パート2 ②
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
GW初日、東京・第三城壁前
「……遅え」
俺はそう呟きながら、城門前の広場で一人、腕を組んで突っ立っていた。
場所は東京の東側、第三城壁の出入口。
この国、日ノ本國は、かつての旧日本列島を基盤に再編された六大都市国家によって構成されている。
博多、京都、名古屋、東京、仙台、札幌。
それぞれの都市は、大規模な堅牢都市として建築され、三重の城壁に囲まれていた。
理由は明確でシンプルだ。
“男性を保護するため”。
そしてもう一つ。
“ダンジョンや魔物からの防衛”。
いわば、この世界の「人類の希望」は、女性の手によって城壁の中で守られている。
その城壁もまた、歴史と共に拡張されてきた。
今となっては三重構造になっている。
第一層は“保護区”――政府管理の元、男性や特権階級、重要人物が暮らす区域。
第二層は“富裕区”――戦力あるギルドや名家などが住まう区域。
第三層は“一般区”――いわば庶民たちの生活圏。
俺が今いるのは、その第三層の外門。
いわば都市の最も外周部。
その無駄に高く、無駄に広く、無駄に堅牢な城門の前で、俺はもう30分も待っている。
「……誰も来ねぇ。マジで遅え……」
GWとは名ばかりの、風がやけに冷たい春の朝。
空は快晴。ダンジョンに行くには申し分ない日和だというのに、この静けさ。
地味に人通りがある中、フル装備の俺が一人突っ立っている光景は――完全に悪目立ちだった。
(……まさか、全員寝坊とかじゃねぇよな)
心のどこかでそんな不安を覚え始めたその時――
「お待たせしましたわ、閣下。」
振り返れば、黒と金を基調とした軍服風のロングジャケットに身を包んだ少女――イザベリア・フォン・インペラトル第三皇女殿下が、どこか誇らしげに立っていた。
その隣では、猫のように縮こまった御剣が、もぞもぞと手を挙げている。
「……ついさっきまで、身支度してました! というか、イザベリア様の髪のセットがですね……っ」
「……お前ら、遅刻の理由がそれかよ」
俺が深いため息を吐いた瞬間、背後から別の気配が近づいてくる。
「よう、獅子堂。案外似合ってるぞ、その“引率の先生”ポジ」
「……黒野か。お前は時間通りか?あ?」
俺は苛立ちをぶつけるように振り返って言った。
黒い羽織を羽織った黒野は、肩をすくめながら煙草に火をつけた。
「俺たちもいろいろ大変だったんだよ……」
そう言いながら、手に持った煙草で何かを指すように軽く振った。
「何が――」
言いかけた俺の目の前に、ふわりと首根っこを掴まれた何かが突き出された。
「うぐ……ぐるじぃ……」
「……御剣……か?」
俺の目の前にいたのは、猫のように丸まり、イザベリアに後ろから首を持たれた哀れな少年――御剣だった。
「……何があったんだ?」
俺は黒野に問いかける。
黒野は煙をふかしながら、少し呆れたような笑みを浮かべた。
「何時もの事だよ……」
「は?」
「アホが周りの女性に愛想良く、笑顔を振りまきながら、手ぇ振ってたらな……案の定、囲まれて、もみくちゃにされてた」
俺は深くため息をついて、頭を抱えた。
「……バカか、あいつ……」
御剣は半泣きの表情で抗議する。
「ひどいよ黒野くん! 僕が困ってるの見てて無視して行ったじゃないかっ!」
「……知るか」
黒野は、面倒ごとを回避するように煙草をくゆらせながら答えた。
イザベリアは、黒野と俺のやり取りを見下ろしながら、どこか愉快そうに微笑んでいた。
そして、そのまま優雅な所作で俺の前に立つと、すっと片手を胸元に添えて軽く会釈する。
「閣下。お待たせして申し訳ございません。……子猫の保護と、その身だしなみに少々手間取ってしまいまして」
まるで茶会に遅れたことを詫びるような口調で、イザベリアは柔らかく言った。
その隣で首根っこを掴まれたままの御剣は、ぷらんと力なく揺れている。
顔は真っ赤、目には涙を浮かべ、完全にいじけた猫状態だった。
「インペラトルの第三皇女様が、我が主を子猫扱いとは……大変ご出世なされたのですね」
冷ややかに響いた声に、俺はそちらへと視線を向けた。
歩み寄ってきたのは、漆黒のゴシックドレスに身を包んだ、黒髪のメイドだった。
手入れの行き届いた髪は艶やかで、その整った容姿には、まるで人形のような気品と静謐さが宿っている。
「――初めまして、獅子堂様。御影 沙耶と申します。以後、お見知りおきを」
深く一礼するその姿は、洗練された礼儀作法の一つ一つまで計算されたように美しい。
御影 沙耶――確か、御影家の三女で、御剣 葵の専属護衛メイドだったか。
見た目こそ華奢だが、その体には戦闘特化の機構魔術が刻まれているという噂もある。
イザベリアは俺の視線に気づいたのか、にこりと上品に微笑む。
「閣下。まさか、私のことも“遅刻組”にカウントされているのではございませんでしょうね?」
その口調はあくまで丁寧だが、口元に浮かぶ笑みには、ほんのりと毒が混じっている。
「……いや。お前はまぁ、御剣連れてきたからセーフってことで」
「ふふ、それは光栄でございます」
と、横で首をかしげる御剣の首筋を軽く締め直しながら、イザベリアは楽しげに笑う。
そのやりとりを冷静に見つめていた御影沙耶が、静かに一歩前に出ると、目を細めてイザベリアを見据えた。
「……インペラトルの皇女ともあろうお方が、我が主を“猫”と称するとは。大変、格式高いユーモアをお持ちなのですね」
「まぁ。そちらの御影家こそ、護衛でありながら“迷子”にされた我が陣営の小動物を放置なさっていたとは……実に高貴なご対応ですこと」
ぱちぱちと火花が散るような笑みの応酬に、俺はこめかみに手を当てた。
(……めんどくさい奴ら、また増えたな)
黒野は黒野で、気づかないふりをして黙々と煙草をふかしている。ズルい。
「……はいはい、口喧嘩はこのくらいにしてくれ。時間、無駄にすんなよ?」
俺が手を叩くようにして言うと、ようやく両者は一歩引いた。
「さて、出発するか。目的地は――霞ヶ浦の南、山間にある《竜の巣》だ」
出発の準備を整えた俺たちは、城壁ゲートから外に出て、東の霞ヶ浦方面へと足を向ける。
本来、ダンジョン探索には車や移動魔導具を使うのが一般的だが――
「……さて、走るか」
俺がそう言って踏み込めば、地面が割れるような勢いで脚が地を蹴った。
爆発的な加速に、風が一気に身体を包み込む。
――これが、上位探索者の移動速度。
全力で走れば、街道を走る車よりも遥かに速い。
目指す《竜の巣》までは、およそ2時間弱の道のりだ。
その背後から、黒野、イザベリア、沙耶、そして必死についてくる御剣の姿があった。
静かなGWの初日、少しだけ騒がしくなってきた――。
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