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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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黒野の過去 捌

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。


※ストーリーが重複していたのを修正しました。

 済みませんでした。

「……その後、俺はな……」


静かに煙草に火をつけた黒野が、紫煙を吐きながら遠くを見つめて呟いた。


「八千代にこう言われたんだ。『シヴァ様と勝負をするには、今のままでは弱すぎます』ってな。」


その言葉の一言一言に、どこか諦めにも似た静けさが滲んでいた。


「……そっからだよ。地獄の始まりは。」


黒野はわずかに口元を歪めて苦笑いを浮かべた。


「“戦闘訓練”だとさ。中身は……ただの殺戮だったけどな。」


「殺戮……?」


俺が反射的に聞き返すと、黒野は一度、煙草の灰をトントンと落としてから言葉を継いだ。


「幽世、黄泉の領域は死と再生。死が確定しないからと、何度も殺されては、生き返らされて……また殺された。首は撥ねられるし、心臓は潰される、内臓は焼かれ……それを毎日繰り返すんだよ。」


淡々と語るその声に、悲壮感しかなかった。

ただ、過去の痛みを思い出すような、淡く鈍い傷のような響きがあった。


「何度も俺の首を撥ねながら言うんだよ……『戦闘の才が無いなら努力で埋めなさい』ってな。」


「……」


俺は言葉を失った。

笑えない冗談だ。

だが、黒野は本気でそれを生き抜いてきた。


「それでも……少しずつ、生き残る術ってやつを覚えていくんだ。」


煙が静かに宙を漂い、黒野の目が、まるで“それでも生き延びてやる”という不屈の強さを宿していた。


努力で手に入れた強さではない。

もはや、“生存のために身についた凶暴性”に近い。


俺はようやく気づいた。

黒野の強さは、才能でも運でもない。

ただ、死に抗ってきた結果だったんだ。


「……それで、その話と……ヴィヴィアンと、どう関係があるんだ?」


俺は、ふと疑問に思っていたことを口にする。


黒野が、わざわざこの話をした意味。

シヴァとの勝負、死と再生の訓練、調律者としての覚悟。

そして、ヴィヴィアン――


黒野はしばらく黙っていたが、やがて煙草をもみ消しながら、静かに答えた。


「お前も見ただろ。あの女……“神降ろし”をして、意識を失った姿を。」


「……ああ。」


「ありゃ間違いなく、こっち側の世界に片足突っ込んでる。」


「こっち側……?」


「ダンジョン側だよ。」


黒野は低く、重く、そう言い放った。


「神に触れ、神に憑かれ、人としての限界を超えて“別の存在”になりかけてる。俺のように神に利用され、目的の為の道具にな。」


その言葉の意味が、ゆっくりと俺の胸に落ちてきた。


「獅子堂、選べ。」


不意に投げかけられたその言葉に、俺は思わず思考を止めた。


黒野は静かに立ち、煙草を口元にくわえながら、俺を真っ直ぐに見据えていた。

その瞳には、決して軽くはない覚悟と、何かを諦めたような影が宿っている。


「今ならまだ引き返せる。この先、俺や――あいつに関わるというのなら……お前も、この理不尽な争いに巻き込まれることになる。」


語気は淡々としていたが、その声は明確だった。


俺にこれ以上関わるなと、そう言っている。


まるで自分自身を呪うように、あるいは、これ以上誰も巻き込まぬようにと、必死に距離を置こうとするような――そんな言い方だ。


……だが。


「冗談じゃねぇよ。」


俺は鼻で笑い、皮肉混じりに言い返した。


「黒野、お前は“関わるな”って言いたいんだろうがな――」


一歩、黒野に近づき、強く言い放つ。


「俺から言わせりゃ、とっくに巻き込まれてるっての。」


黒野の目がわずかに揺れた。


「お前の存在も、ヴィヴィアンの存在も――もう俺の目の前にあるんだよ。すぐ隣にいて、黙って巻き込まれるなって言われて、はいそうですかって引き返せるか?」


そう言いながら、俺は拳を握りしめる。


「だったら俺は、俺の道を行くさ。」


それがたとえ、どれほど理不尽で先が見えない道だったとしても。


「この手で守れるものがあるのなら、戦う理由くらい、それで十分だろ。」


しばしの沈黙が続いた。


黒野はゆっくりと煙を吐き、宙を見上げると――やがて静かに笑った。


「……言うと思ったよ。お前はそういう奴だったな。」


その笑みに、俺は応えなかった。

ただ、無言で前を見据えていた。


引き返す気なんて、最初からなかった。


これが俺の選んだ道だ。


「ところで、ひとつ聞きたいんだが……“争い”とか“勝負”って、具体的にどうやって決着をつけるんだ?」


ふと疑問に思ったことを、俺は黒野に投げかけた。


黒野は煙草をくわえたまま少しの間ぽかんとした顔をしたが、やがて苦笑交じりにため息を吐いた。


「……領域戦争。ダンジョンバトルってのは聞いたことあるだろ?」


「ああ。ダンジョンコアをかけて、プレイヤー同士が支配権を奪い合う戦争だろ?」


俺がそう答えると、黒野は「まあ、ゲームならな」と呟きながら話を続けた。


「現実はもっとシビアだ。……例えば俺で説明するなら、黄泉が敗北するか、屈服するか。そうならなきゃ決着はつかない。」


「……どういう意味だ?」


ピンとこなかった俺が聞き返すと、黒野はわずかに眉をひそめながら、説明を重ねた。


「要するに、神域には“ダンジョンコア”なんて便利なものは存在しないんだよ。例えるなら、黄泉がダンジョンコアで、八千代がダンジョンボス。そう考えればわかりやすいか?」


「つまり……神を倒すってことか?」


「正解。神を倒すか、屈服させる。そうしない限り、領域戦争には勝てない。」


「……バカ言うな! それ、無茶だろ!」


思わず、俺は大声を上げていた。


神を倒す?

そんなこと、人間にできるはずがない。


だが黒野は、少しだけニヤリと笑って、答えた。


「ああ、無茶なのは百も承知だ。つまり、神殺しの英雄になれって話だよ。」


「……できるのか? 本当に……」


俺の問いに、黒野は一拍置いてから、静かに答えた。


「本当の意味での神殺しは無理だな。」


「なら――」


「でも、奴らは“本当の神”じゃない。」


俺の言葉を遮って、黒野は低く静かに言った。


「さっきも話したろ? 奴らは“神の形骸”――信仰や概念をもとに、人々の想念が作り出した模倣物なんだ。」


「……模倣物……」


「だから、“倒すことができるように設計されてる”。ある意味じゃな。」


その言葉は、重くて、そしてどこかで希望にも似た響きを持っていた。


「まあ、生半可な実力じゃ、瞬殺されるけどな。」


黒野は苦笑いを浮かべ、煙をゆっくりと吐き出した。


その顔には、かつて何度も“神”に挑んで、何度も殺され、それでも立ち上がってきた男の、強さと哀しさが滲んでいた。


「……それに、この話は俺とシヴァだけの問題じゃない。」


ぽつりと呟いた黒野の声は、妙に静かで、どこか遠くを見ているようだった。


「これは、全世界に存在しうる“神々”に関わることだ。誰一人として、例外じゃない。」


「……全世界の神々って、おい……」


俺は思わず言葉を失った。まるで冗談のようなスケールだ。

だが、黒野は真顔のまま、淡々と続けた。


「冗談じゃない。冗談どころか、笑えもしない話だろ。そうしなきゃ……世界そのものの安定が保てないからな。」


「世界の安定って……」


「そうだ。」


黒野は煙草を取り出し、火をつけた。

細く煙が立ち昇り、その視線の先はどこまでも遠く、果てを見据えていた。


「俺の今の目標は、この“日ノ本の國”を安定させる事。幽世と現世、その境を守るためには、まずこの国を掌握しなきゃ話にならない。」


「掌握って……まさか……」


「そのまさかだよ。」


黒野は煙草をくゆらせ、目を細めた。


「日ノ本に眠る“八百万の神々”――あれらを全て、俺の傘下に加える。」


「…………っ!」


言葉が出なかった。


正気か? それはもう、戦争どころか神話そのものじゃないか。


「無謀だ……無茶だ……」


俺は呟くように言った。だが、黒野はそれに頷いた。否定ではなく、むしろ肯定として。


「ああ。無謀で無茶苦茶だ。だが、これが“現実”だ。幽世・神域が歪み、神々の枷が緩んでる今……放っておいたら世界は瓦解する。生と死が曖昧になり全て無に着っする……」


静かに煙草に火をつけた黒野が、紫煙を吐きながら遠くを見つめて呟いた。


「……だから、先に手を打つと?」


「ああ。神々を“管理”する側に回る。それが俺の戦いだ。」


黒野の声は決して大きくはなかったが、重く、確かな響きを持っていた。


冗談で済まされる話じゃない。

だが、誰かがやらなければいけない話でもあった。


俺は無言のまま、ただその言葉の重さを飲み込んでいた――。



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