黒野の過去 漆
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
「……時夜はん、少し神々の立ち位置について話しておきんしょうかえ。」
シヴァが骸骨の手に潰されて倒れた静寂の中で、黄泉はそう切り出した。
俺は、混乱する頭を落ち着けるように息を整え、彼女の言葉に耳を傾けた。
黄泉の声は落ち着いていたが、どこか深く沈むような響きを持っていた。
「わっち――伊邪那美は、“死”という概念そのものから生まれた存在でありんす。わっちを祀ったのが日本だったというだけで、わっちの本質は“地球”や“国”に縛られた存在ではないでありんす。」
「……つまり、場所や信仰は関係ないと?」
「そういうことでありんす。」
黄泉の視線は遠くを見つめるようだった。
言葉では説明しきれない“重さ”がそこにはあった。
「対して、シヴァ――でありんすが、あれは“ヒンドゥー教”という信仰体系から生まれた神でありんす。確かに“破壊と再生”の力を持つ強大な存在。しかしそれは、あくまで“地球という枠組み”に属した姿でありんす。」
「つまり……限定的な神、ってことか?」
「うむ。強くとも、その信仰に依存しておる。だからこそ、ここ幽世では“枠”から外れ、力の維持すら困難になっておるのじゃ。」
そう補足したのはシヴァ自身だった。
「その点、黄泉様――伊邪那美は、“死”という概念そのもの。“どの世界でも死がある限り、必ずそこに存在する普遍の現象”の顕現なのです。」
八千代の補足説明を聞いた俺は、ごくりと唾を飲んだ。
「じゃあ……他の“冥界の神”たちはどうなんだ? ハデスとか、オシリスとかは……」
その問いに、八千代はゆるりと頷いた。
「冥界を司る神々は世界に複数存在します。ハデス――ギリシア神話の冥府の王、オシリス――エジプト神話における死と再生の神。そして私、八千代――大国主命。」
「それぞれ立ち位置が違う、ってことか?」
「そうでありんす。」
黄泉がゆっくりとキセルをくゆらせながら続けた。
「神々は、大きく分けて“二つの系統”に分類できるでありんす。」
◆ 概念神
「“現象”そのものの具現化。信仰によらず、普遍的な“概念”が意思を持った存在。」
例:伊邪那美(=死)、黄泉(=冥府の通路と境界)
「わっちは“死”が存在する限り、どこにでも存在し得る。地球だけでなく、他の世界にも。」
◆ 体系神
「“特定の神話体系”や“文化的背景”から生まれた神。一定の役割を与えられた“管理者的存在”。」
例
ハデス(ギリシア神話):三分世界の冥府管理者
オシリス(エジプト神話):死後の裁定と再生の象徴
シヴァ(ヒンドゥー教):破壊と再生の神
八千代(日本神話):魂の流れと秩序の守護神
「わたくしも、正確には“概念神”ではありません。あくまで“幽世”という枠組みにおける“機能”として創られた存在。管理し、守ることが役割――それが“体系神”の本質です。」
「シヴァ様は、確かに強大ですが、彼女は“地球”という枠組みから外れると、その力は保てません。今の姿がその証拠です。」
床に転がっていたシヴァがようやく起き上がり、むくれた表情で唇を尖らせた。
「……その説明のしかた、なんか癪じゃのう……」
「……だが、否定はしないのですね?」
「うむ。否定はせぬ……」
しぶしぶうなずいたシヴァに、八千代は薄く微笑んだ。
「いずれ理解が深まれば、あなたも概念を超える“存在”となる可能性はあります。」
「フン、なるのじゃ。いずれ必ずな!」
シヴァが床から跳ね起きるや否や、にやりと口元を歪めた。
「しかしのう、調律者になれる可能性を持つ者を、ただ待つだけとは……退屈よのう。」
その声に含まれた悪戯心を、誰もが察した。
「いっそ、作ってしまえばよいのじゃな!」
彼女は何かを思いついたように、目を爛々と輝かせながら続けた。
「黒野とか言ったか、お主――」
シヴァはピシリと俺を指差した。
俺は思わず背筋を伸ばす。
まさかまた何かされるのではと身構えたが、彼女はそれすらも愉快そうに笑い飛ばした。
「我と勝負せい!」
「はぁ?」
突然の勝負宣言に、間の抜けた声が漏れる。
「ちょ、ちょっと待て! 俺が勝てるわけねぇだろ! お前、神だろ!?」
シヴァはケラケラと笑いながら手を振った。
「安心せい、今のお主とやり合っても、我が指先一つで終わってしもうてはつまらんからなぁ。」
そう言ってから、再び俺の顔を見つめた。
「じゃから勝負の中身はこうじゃ。我も“調律者”を育ててやる。先にどちらが“世界”を制するか――勝負じゃ!」
そう高らかに宣言したシヴァは、再び天を仰いで「ワァーハハハハ!」と豪快に笑った。
空間がビリビリと振動し、次の瞬間、バリッと音を立てて空間が裂ける。
「見ておれよ黒野。必ず我が先に、世界を調律してやるからのう!」
その言葉を最後に、シヴァはひゅっと空間の裂け目に飛び込み、そのまま姿を消した。
……残された俺達には、しばしの沈黙が降りた。
「まったく、騒がしい奴でありんすな……」
黄泉が深くため息をつきながら、キセルをくゆらせた。
「……ええ、本当に嵐のようなお方でしたね。」
八千代も同意しながら、静かに湯呑みに口をつける。
そして――
俺はというと、その場にぽつんと取り残され、ぽかんと口を開けていた。
「……いや、なんだよそれ……」
世界をかけた勝負? 調律者? 世界を制する? 俺が? 神と? え、まじで?
心の中で言葉にならない叫びが渦巻く。思考は混乱し、現実感がすっかり遠のいていた。
「なぁ……俺、帰っちゃダメなのか……?」
ふと、そんな弱音が漏れた。
その言葉に、黄泉も八千代も、そして消えたシヴァすらも含めたこの“神々の世界”の中で――俺だけがただの只人だということを、改めて思い知らされたのだった。
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