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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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黒野の過去 漆

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

「……時夜はん、少し神々の立ち位置について話しておきんしょうかえ。」


シヴァが骸骨の手に潰されて倒れた静寂の中で、黄泉はそう切り出した。

俺は、混乱する頭を落ち着けるように息を整え、彼女の言葉に耳を傾けた。


黄泉の声は落ち着いていたが、どこか深く沈むような響きを持っていた。


「わっち――伊邪那美は、“死”という概念そのものから生まれた存在でありんす。わっちを祀ったのが日本だったというだけで、わっちの本質は“地球”や“国”に縛られた存在ではないでありんす。」


「……つまり、場所や信仰は関係ないと?」


「そういうことでありんす。」


黄泉の視線は遠くを見つめるようだった。

言葉では説明しきれない“重さ”がそこにはあった。


「対して、シヴァ――でありんすが、あれは“ヒンドゥー教”という信仰体系から生まれた神でありんす。確かに“破壊と再生”の力を持つ強大な存在。しかしそれは、あくまで“地球という枠組み”に属した姿でありんす。」


「つまり……限定的な神、ってことか?」


「うむ。強くとも、その信仰に依存しておる。だからこそ、ここ幽世では“枠”から外れ、力の維持すら困難になっておるのじゃ。」


そう補足したのはシヴァ自身だった。


「その点、黄泉様――伊邪那美は、“死”という概念そのもの。“どの世界でも死がある限り、必ずそこに存在する普遍の現象”の顕現なのです。」


八千代の補足説明を聞いた俺は、ごくりと唾を飲んだ。


「じゃあ……他の“冥界の神”たちはどうなんだ? ハデスとか、オシリスとかは……」


その問いに、八千代はゆるりと頷いた。


「冥界を司る神々は世界に複数存在します。ハデス――ギリシア神話の冥府の王、オシリス――エジプト神話における死と再生の神。そして私、八千代――大国主命。」


「それぞれ立ち位置が違う、ってことか?」


「そうでありんす。」


黄泉がゆっくりとキセルをくゆらせながら続けた。


「神々は、大きく分けて“二つの系統”に分類できるでありんす。」


概念神かんねんしん

「“現象”そのものの具現化。信仰によらず、普遍的な“概念”が意思を持った存在。」


例:伊邪那美(=死)、黄泉(=冥府の通路と境界)


「わっちは“死”が存在する限り、どこにでも存在し得る。地球だけでなく、他の世界にも。」


体系神たいけいしん

「“特定の神話体系”や“文化的背景”から生まれた神。一定の役割を与えられた“管理者的存在”。」



ハデス(ギリシア神話):三分世界の冥府管理者


オシリス(エジプト神話):死後の裁定と再生の象徴


シヴァ(ヒンドゥー教):破壊と再生の神


八千代(日本神話):魂の流れと秩序の守護神


「わたくしも、正確には“概念神”ではありません。あくまで“幽世”という枠組みにおける“機能”として創られた存在。管理し、守ることが役割――それが“体系神”の本質です。」



「シヴァ様は、確かに強大ですが、彼女は“地球”という枠組みから外れると、その力は保てません。今の姿がその証拠です。」


床に転がっていたシヴァがようやく起き上がり、むくれた表情で唇を尖らせた。


「……その説明のしかた、なんか癪じゃのう……」


「……だが、否定はしないのですね?」


「うむ。否定はせぬ……」


しぶしぶうなずいたシヴァに、八千代は薄く微笑んだ。


「いずれ理解が深まれば、あなたも概念を超える“存在”となる可能性はあります。」


「フン、なるのじゃ。いずれ必ずな!」


シヴァが床から跳ね起きるや否や、にやりと口元を歪めた。


「しかしのう、調律者になれる可能性を持つ者を、ただ待つだけとは……退屈よのう。」


その声に含まれた悪戯心を、誰もが察した。


「いっそ、作ってしまえばよいのじゃな!」


彼女は何かを思いついたように、目を爛々と輝かせながら続けた。


「黒野とか言ったか、お主――」


シヴァはピシリと俺を指差した。


俺は思わず背筋を伸ばす。

まさかまた何かされるのではと身構えたが、彼女はそれすらも愉快そうに笑い飛ばした。


「我と勝負せい!」


「はぁ?」


突然の勝負宣言に、間の抜けた声が漏れる。


「ちょ、ちょっと待て! 俺が勝てるわけねぇだろ! お前、神だろ!?」


シヴァはケラケラと笑いながら手を振った。


「安心せい、今のお主とやり合っても、我が指先一つで終わってしもうてはつまらんからなぁ。」


そう言ってから、再び俺の顔を見つめた。


「じゃから勝負の中身はこうじゃ。我も“調律者”を育ててやる。先にどちらが“世界”を制するか――勝負じゃ!」


そう高らかに宣言したシヴァは、再び天を仰いで「ワァーハハハハ!」と豪快に笑った。


空間がビリビリと振動し、次の瞬間、バリッと音を立てて空間が裂ける。


「見ておれよ黒野。必ず我が先に、世界を調律してやるからのう!」


その言葉を最後に、シヴァはひゅっと空間の裂け目に飛び込み、そのまま姿を消した。


 ……残された俺達には、しばしの沈黙が降りた。


「まったく、騒がしい奴でありんすな……」


黄泉が深くため息をつきながら、キセルをくゆらせた。


「……ええ、本当に嵐のようなお方でしたね。」


八千代も同意しながら、静かに湯呑みに口をつける。


そして――


俺はというと、その場にぽつんと取り残され、ぽかんと口を開けていた。


「……いや、なんだよそれ……」


世界をかけた勝負? 調律者? 世界を制する? 俺が? 神と? え、まじで?


心の中で言葉にならない叫びが渦巻く。思考は混乱し、現実感がすっかり遠のいていた。


「なぁ……俺、帰っちゃダメなのか……?」


ふと、そんな弱音が漏れた。


その言葉に、黄泉も八千代も、そして消えたシヴァすらも含めたこの“神々の世界”の中で――俺だけがただの只人だということを、改めて思い知らされたのだった。



画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい。


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