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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園
58/61

黒野の過去 陸(画像あり)

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

「……破壊神、あなた様は一体、何をしに来られたのですか……」


八千代は額に手を当てたまま、深いため息と共に問いかけた。

その声には諦めと呆れが滲んでいる。


「ガハハハハッ! 何をしに来たもクソもあるか!」


そう叫ぶと、先ほどの女性――“破壊神”と呼ばれた彼女は、仁王立ちのまま胸を張り、天を仰いで豪快に笑った。


「そこの常世のババアが何やら怪しげな動きをしておるという噂を聞いたゆえに、様子を見に来てやったのじゃ! ガーハッハ!」


「常世のババアとは……わっちのことかえ……?」


黄泉がキセルを口から外し、じろりと睨む。


「そりゃそうじゃろ。お主以外に誰がいる! あちこちで“只人”に神の役目を与えるだの、幽世の調律だのと……」


破壊神はどこまでも無遠慮な態度で言い放ち、再び笑い声を上げる。


だが、その瞬間だった。


ゴゥン……


鈍く、地を鳴らすような音が響いたかと思うと、彼女の足元の地面が、スゥ……と黒く染まっていく。


「……ん?」


そして次の瞬間。


ズドォンッ!!


黒く染まった地面から突如として、巨大な骸骨の手が飛び出した。


「へ……?」


その問いの間すら与えず、骸骨の手はズシンと破壊神の身体をがっしりと掴み上げた。


「アイダダダダダダダッ!? ちょっ、痛い! 痛いのじゃっ! これはおふざけじゃろ!? 誰じゃ!?」


空中で宙吊りにされながら、バタバタと手足を振る破壊神。


「……やりすぎた神には、お仕置きが必要でありんすよ」


黄泉が目を細め、キセルをくゆらせながら静かに笑った。


「ふ、ふざけるなあぁぁぁぁッ! 放せぇぇぇぇぇ!」


破壊神の絶叫が、再び幽世に響き渡った。


時夜はただ唖然としながらその光景を見つめていた。




「消える……消える……消えるじゃろうがぁぁぁぁああッ!!」


破壊神が怒声を上げた瞬間、全身から圧倒的な力が解き放たれた。


眩いほどの光と共に、彼女の周囲に張り巡らされた重圧が崩れ、バキン、と空気を裂く音を伴って骸骨の巨大な手が砕け散る。


ガシャァァン――!


骸骨の残骸が黒い霧と共に地へと落ち、辺りに静寂が戻る。


「ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……死ぬかと思ったのじゃ……」


破壊神は地面に四つん這いになったまま、肩を上下させて必死に呼吸を整えていた。

髪は乱れ、先ほどまでの堂々とした様子とは裏腹に、その姿はどこか情けない。


その様子を見て、黄泉はゆったりとキセルを吹かせながら肩をすくめた。


「惜しかったでありんすな、時夜はん」


「……ん?」


予想外の言葉に、俺は思わず目を瞬かせる。


続けて、八千代も静かに湯飲みを口に運びながら、まるで世間話でもするかのような声で言った。


「何もせずに一柱の魂が手に入りそうだったのに、残念です。」


その穏やかな口調とは裏腹に、言っている内容は恐ろしい。


「お主らは……な、何をさらっと恐ろしいことを言っておるのじゃ……」


破壊神は四つん這いのまま、顔を引き攣らせて言葉を絞り出す。

金色の瞳には微かな恐怖が宿っていた。


「何しに来たでありんすかえ?」


黄泉は興味なさげに、キセルの煙をふわりと吹きながら問いかけた。

その表情はまるで「邪魔しに来ただけなら帰ってくれんかえ」と言いたげだった。


破壊神は一瞬口を開きかけて――すぐに黄泉の鋭い視線に気付き、慌てて言葉を選び直す。


「だ、だからの! 常世のバ……じゃっなかった、常世の女王がなにやら企んでおると聞いてな、様子を見に来たのじゃ!」


慌てて“ババア”と言いかけた舌を噛み、誤魔化すように叫ぶ彼女の姿に、黄泉は冷ややかに目を細めた。


「よろしい。口の利き方だけは学んだようでありんすな」


「ぐぬぬ……!」


破壊神はなおも四つん這いのまま、プルプルと肩を震わせていた。


その滑稽さに、黄泉と八千代のどちらも微笑を隠さず、時夜はただ一人、言葉を失ってこの超常のやり取りを見つめるしかなかった。


「……それで、あれは誰なんだ?」


混乱と動揺を必死に押し殺しながら、俺は隣にいる八千代へそっと問いかけた。


八千代は何でもない事の様に、静かに答えてくれた。


「――あれは破壊神。ヒンドゥー教の破壊と創造の神、シヴァ様です。」


その瞬間だった。


「待っておったぞおぉぉぉぉ!!!」


まるで自分の出番を待ち構えていたかのように、さっきまで四つん這いで息を整えていた女が勢いよく跳ね起きた。


両手を腰に当て、胸を反らせ、誰に向けてか分からぬが堂々と高らかに宣言する。


「我こそは破壊と創造の神、シヴァじゃ!畏れよ!敬え!称えよぉぉぉ!!」


そのドヤ顔には満面の誇りと、全力の自信が滲み出ていた。



挿絵(By みてみん)





……が。


俺の目は、別のところに釘付けになっていた。


「……え?」


最初に現れた時よりも――明らかに縮んでいる。


いや、間違いない。

登場時は堂々たる姿だったはずなのに、今の彼女はどう見ても――


「……幼女、だよな?」


「はい。神力が吸われた影響で、今の姿を維持できなくなったのです。」


八千代が、淡々とした口調で言い放った。


「吸われた……って、誰に?」


「もちろん、黄泉様です。」


「……あぁ」


思わず納得しかけたが、納得していいのか分からない。

というか、納得したら負けな気がする。


当のシヴァはというと、自身の“異変”にまったく気づく気配もなく、むしろ威張り方に拍車をかけていた。


「お主ら、もっとこう……崇め奉る感じで迎えんか!?何故に無言なのじゃ!」


「いや……そのサイズで言われてもな……」


「むうう!? むむむむ……!」


ぷるぷると震えるその姿は、威厳どころか、怒った子供にしか見えなかった。


黄泉はそんなシヴァの姿を見て、涼しげにキセルの紫煙を吹きながら、わざとらしく肩をすくめる。


「吸い過ぎたでありんしたなぁ……ふふ、見た目まで小さくなるとは思いせんでありんした。」


「おぬしぃぃぃぃぃ!!!」


「時夜はん、これが神の真の姿でありんすよ。信仰が薄れ、神力が失われれば、この通りでありんす」


黄泉の言葉に、俺は思わず言葉を失った。


目の前で喚いている破壊神――シヴァ。


たしかにその存在は圧倒的だった……登場の仕方までは。


けれど今は、神の矜持どころか、ただの騒がしいチビ子にしか見えない。


「わらわを侮るでないぞ……このままでは済まさぬ……神力を取り戻したら、お主ら全員、順番に破壊してくれるわ!」


シヴァは、ぷるぷると震えながら威嚇するが、その姿があまりにも可愛らしくて、誰も本気で取り合っていなかった。


八千代は静かにお茶を啜り、黄泉はくすくすと喉を鳴らして笑っていた。


俺はただ、呆気に取られながら、神々の世界の“自由さ”と“訳の分からなさ”を改めて痛感していた。




「……で、それで結局、何しに来たのでありんすかえ?」


黄泉がやれやれといった様子でシヴァに問いかけた。


すでに一悶着の後で、空気は沈静化していたが、場に漂う妙な緊張感は拭えなかった。

黄泉の問いに、シヴァは仁王立ちのまま胸を張り、どや顔で答える。


「様子を見に来ただけじゃ!」


「様子だけ、でありんすか?」


「それだけじゃ!」


自信満々の顔でシヴァが言い切ったその瞬間――


バギィィィッ!!


突如、足元の空間が黒く染まり、異形の骸骨の腕がズルリと現れた。


「ま、またかぁぁぁぁぁっ!!」


シヴァが悲鳴を上げる間もなく、骸骨の手は彼女の小さな頭を鷲掴みにし、そのままぐいっと持ち上げた。


「い、痛いっ……! あいだだだだだっ!! なぜじゃ!? 我は悪くないじゃろうがぁぁぁぁっ!!」


無理やり頭を握りしめられながら、シヴァは必死に暴れるが、細い手足では抗えず、じわじわと骸骨の手の中に圧迫されていく。


「け、消える……消えるぅ……きえるじゃろぉぉがあああああ!!」


叫び声が最高潮に達したその瞬間――


ボンッ!!


軽快な破裂音とともに、シヴァの姿が空間からかき消えた。


しばらく静寂が満ちたあと、骸骨の手がスゥ……と霧のように消えていく。


その場に残されたのは――


大の字に倒れて目を回した、本来の姿のシヴァ。


銀の装飾が施された衣をまとい、髪を乱し、片腕を投げ出して完全に意識を飛ばしている。

ついさっきまで小さな幼女のような姿で騒いでいた彼女が、今ではしっとりとした大人の女性の姿で、見事にダウンしていた。


「……おしかったでありんすな、時夜はん。」


黄泉が煙管をくゆらせながら、くすりと笑って呟く。


「何もせずとも、一柱の魂が手に入るところだったのに、惜しいです。」


八千代が静かに相槌を打ちつつ、優雅に茶を啜る。


「お主ら……何さらっと恐ろしいことを口にしておるのじゃ……」


倒れ伏したままのシヴァが、引きつった顔で呻きながら呻いた。


「ふふ、油断は命取りでありんすよ、破壊神様?」


黄泉は楽しげに微笑んだが、その目の奥にはほんのりと黒い冗談が見え隠れしていた。


「この地においては、神もまた、魂の理に抗えぬということでありんす。」


「し、しばらく……ここで寝るのじゃ……」


シヴァはそのまま寝返りを打って、顔を伏せてしまった。


俺はというと、その一連の出来事をただただ見ているしかなかった。


――神って……こんなもんなんだろうか。


いや、違う。これはもう「面倒くさい」というやつだ。

俺の中で神々のイメージが音を立てて崩れ落ちていく。


こうして、再び静けさを取り戻した部屋の中、俺はただ、何も言わずに湯呑みを手に取り、そっとお茶をすすった。



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