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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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黒野の過去 伍(画像あり)

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

「......どこまで理解してるんでありんすかえ?」


黄泉の声には、呆れと困惑が入り混じっていた。


静まり返る部屋の中、黄泉のキセルから紫煙がふわりと立ちのぼる。その香りが、空気の緊張をいくらか和らげていたが、彼女の目は笑っていなかった。


「幽世がダンジョンで......ダンジョンが幽世? 神は......人の信仰の塊みたいなもので、黄泉たちはダンジョンボスとして人につくられた? 正直よく理解できてないし、意味がわからない......」


俺は正直にそう答えるしかなかった。情報が多すぎて、全てを飲み込めるほど、俺の頭は追いついていなかった。


黄泉は大きくため息を吐いた。


「時夜はん、世界の理を聞いてもどうにもならんしょうに......」


そう言って黄泉は肩をすくめた。

まるで迷子の子供を見るような、微妙な視線を俺に向けてくる。


そのとき、八千代が静かに口を開いた。


「幽世とは、元は夢現の世界。黄泉と現世の狭間の神域であり、『隠りかくりよ』『幽世かくりよ』『常世とこよ』とも呼ばれているのは御存じですよね?」


「......あぁ。知識としては知っている。」


俺は記憶を手繰り寄せながら答えた。幽世という言葉は、神話や古文書などで目にすることが多い。


八千代は頷き、さらに続けた。


「では、黄泉国・黄泉・冥界等と呼ばれている場所は御存じですか?」


その問いには、すぐに答えが浮かんだ。


「死んだ者の魂が帰る場所。死者の国、あの世のことだよな?」


「正解です。」


八千代は僅かに微笑んだ。


「では、続けます。あの世とは、どの世界でも存在します。すなわち、死者の国は、全世界中で一つしか存在しません。異世界・パラレルワールド等と幾つもの世界が存在していても、あの世は一つだけ。全ての世界の死者が集約される場所が、あの世であり黄泉国なのです。」


その言葉に、俺は思わず眉をひそめた。


「......待て。それって、つまり......?」


「はい。どの次元、どの時代、どの並行世界であれ、死んだ魂は必ずこの“あの世”に流れ着きます。そしてそれを受け入れ、秩序を保つための機構が、幽世なのです。」


八千代の声音は澄んでいた。だがその言葉の意味は、あまりにも重い。


「そしてこの幽世の在り方が歪めば、全ての世界に影響が及びます。幽世は死者の魂の受け皿であり、新たな生命が生まれ変わる場所でもあるのです。」


「輪廻転生っと言われているのが、これでありんす。」


黄泉はキセルを優雅に吹かせながら言った。


まるでファンタジーの話だ。

だが、現実に黄泉や八千代が目の前にいる以上、疑う余地はない。


「......で? 世界の維持を俺に任せるつもりなのか?」


「はい、それが黄泉様のご意志でもあります。」


俺の問いに対し、八千代ははっきりと頷いた。


その視線は真っ直ぐで、どこまでも揺らぎがなかった。


「……ここまでの話、理解できましたか?」


八千代が静かに問いかける。


その瞳は穏やかでありながら、まるで試すように俺の反応をじっと待っていた。


俺は黙って、ゆっくりと頷いた。


理解が追いつかない部分はまだある。

だが、少なくともこの場の会話の輪郭は掴めてきている気がした。


それを確認したように、八千代は話を続ける。


「では次に、世界の破綻とダンジョンについて説明いたします。」


彼女の声が、ひときわ凛として響いた。


「あなた方が“ダンジョン”と呼んでいるもの……それは、正確には“幽世へと繋がる道”のことなのです。」


「幽世へ……?」


俺が思わず呟くと、八千代は小さく頷く。


「はい。現世に蓄積された魔力が、一定の閾値を超えたとき、それは形を成し、幽世へと向かって伸びる“通路”となります。これこそが、あなた方が日々対峙しているダンジョンの正体です。」


「……魔力から生まれた道……」


「さらに補足すると、幽世から現世へと伸びた道もまた、ダンジョンと呼ばれています。」


八千代は一呼吸置いて、言葉に重みを乗せた。


「そして、それらは極めて危険な存在です。特に幽世から伸びてきたものは、現世に強い影響を与えるため、Sランクを超える“SSランク以上”と公式に認定されております。」


俺は眉をひそめた。


つまり、あの“ダンジョン”という現象は、現世と幽世を繋ぐ穴。

魔力によって生じた歪みの通路。


そして、それは一方通行ではない。


「……じゃあ、幽世ってのは、そんなに危ない場所なのか?」


俺の問いに、八千代は静かに頷いた。


「幽世には、“魔界”と呼ばれる領域が存在しています。時夜様、魔界が何であるか……ご存知ですか?」


少し考えてから、俺は答えた。


「確か……悪魔の住む世界、だったか……?」


「正解です。」


八千代は淡く微笑んだ。


「魔界とは、世界に満ちた“負の感情”、すなわち怒り、憎しみ、嫉妬、怨念……そういった全ての“負の想念”が集まる場所です。」


その言葉に、背筋に寒気が走った。


「人が生きる上で避けられぬ感情……それが、幽世の一部として形を持ち、“魔”として具現化されたのが魔界です。そして、そこから生まれるのが――魔物。」


八千代は真っ直ぐに俺を見据えた。


「ダンジョンで魔物に襲われるのは、彼らが生者の魂を求めているからです。生の光を求めて、魔は暗き世界から這い出てくるのです。」


俺は喉がひりつくのを感じた。


これまで何気なく“脅威”として認識していたダンジョンと魔物。

その正体は、もっと深い、もっと根源的なものだった。


「そして、その流入が増えすぎたとき……幽世は、現世を侵食し、世界そのものが崩壊する危険性があるのです。」


八千代の声が静かに、けれど確かに、部屋の空気を締め付けていた。


俺は思わず、息を呑んだ。


世界の崩壊。


それは、決して荒唐無稽な話ではない。


目の前にいる彼女たちが現に“幽世”の存在であり、そして“その理”を語っているのだから。


そして、黄泉が最初に言っていた「世界の均衡を守る者」が、俺であるという話も――現実味を帯びてきていた。


だが俺には、まだ尋ねねばならない疑問があった。


「……なあ、一つ聞いていいか?」


俺は重たくなった胸を押さえながら、問いかける。


「なんで……俺なんだ?」


その疑問は、今も心の中で渦巻き続けていた。


俺は何者でもない。

ただの人間のはずだ。


それなのに、なぜ――。


その問いに、八千代も黄泉も、すぐには答えなかった。


「……正確には、時夜様である必要は御座いません。」


静かながらも、はっきりとした声音で八千代は言い放った。


その言葉に、俺は一瞬、耳を疑った。


「……それって……つまり、俺じゃなくてもいいってことかよ?」


問いかけた声に、自分でも驚くほどの力がこもっていた。


八千代は、動じることなく頷く。


「はい。事実として、あなた様でなければならない理由は存在しません。ただ、この地に辿り着き、使命を与えられたのが“時夜様だけ”だった――それだけのことです。」


その淡々とした返答に、俺の中で何かが弾けた。


「じゃあ……なんでだよ。なんでお前ら神々は、そのことを知っていながら何もしてこなかったんだよ!」


声が震えた。

怒りというより、苛立ち。戸惑い。

そして理不尽への憤りが混じった叫びだった。


だが八千代は、目を細め、俺を睨むように見据えて返す。


「……これは異なことをおっしゃいますね。」


彼女の声には、今までになく厳しさが宿っていた。


「この現状……世界の改変を望んだのは、あなた方“只人”ではありませんか?」


「……!」


「私たち神々は、その成り行きを傍観し、見届ける存在に過ぎません。人の願いが、世界のかたちを変えたのです。」


八千代は言葉を区切るように一度息を吸い、続けた。


「あなた方は望んだのです。魔力という力を。力によって自らの欲を満たし、理をねじ曲げ、理想を現実にしようと。」


「違う……! そんな大それたこと、俺は――」


「“個”ではなく、“種”としての人間の話です。」


静かながら、揺るぎない言葉だった。


「あなた一人に責任があるとは言いません。ですが、結果として“世界の崩壊”という終焉に向かう道を作ったのは、紛れもなく“人類そのもの”なのです。」


俺は言葉を失った。


神々が何もしてこなかったのではない。

彼女たちは、“見ていた”のだ。

世界が変わっていくのを。

人が望み、選び、築いた未来が、やがて破綻へと繋がるその過程を。


そして今、彼女たちは言う。

世界を正す“調律者”が必要なのだと。


たまたまここに来た、俺がその役目を託された。


それだけのこと。


選ばれし者、なんて都合のいい肩書きではなかった。


「……じゃあ、俺に拒否権は……?」


言いかけたその言葉を、黄泉が横からゆるりと遮った。


「ありんすよ、時夜はん。誰もそなたに強制はしとりんせん。」


そう言って、黄泉はキセルから紫煙をくゆらせる。


「ただ一つだけ言えるのは――このままじゃ、世界は滅びるということ。そして……それを止める術があるのなら、そなた自身が“どうしたいのか”を決める必要がある、ということだけでありんす。」


選ばれた理由などどうでもいい。


今ここに“可能性”がある。それだけが、揺るぎない事実だった――。





「ガーハハハハ!」


突如、空間を裂くような凄まじい笑い声が幽世に響きわたった。


まるで天地を揺るがす雷鳴のごとく、それは場の空気を一変させるほどの威圧感を伴っていた。


「常世のババアが何か企んでおると思って来てみれば……まさか只人に、調律者の役割を与えようとはのうッ!」


その声と同時に、空間がピキピキと軋むような音を立ててひび割れ、次の瞬間――バリィンッと空間そのものが裂けた。


そこから、異様なオーラを纏った一人の女が現れた。



挿絵(By みてみん)





艶やかな水色の髪が空気に舞い、金色の瞳が鋭く光る。

黒の衣を身にまとい、その佇まいはどこか神秘的で、神すら凌ぐ威容を漂わせていた。


現れた女性は、空中に立ったまま、にやりと口元を歪めると、


「――我、参上‼」


ビシィッ!


勢いよくポーズを決めた。


……が。


「…………」


場には沈黙が落ちた。


ぴたりと動きを止めた黄泉と八千代。


そして俺もまた、何が起きたのか一瞬理解できず、ただ目を瞬かせていた。


沈黙の時間が数秒続いたのち、唐突に焦りを見せ始めたその女が、アタフタと身振り手振りを交えながら叫んだ。


「な、何故無視するのじゃ!? 今の完璧だったであろうが!? ビシッと決めたのじゃぞ!?」


「……また、うるさいのが来たでありんすな……」


黄泉がげんなりとした声を漏らし、キセルを口元から外して肩を落とす。


「……はぁ……」


八千代は額に手をあて、今にも頭痛がしそうな様子でため息をついた。


「……常世の門が軋んでおりましたから、まさかとは思いましたが……本当に、来てしまいましたか……」


異様な登場と共に空間から現れた女性――

黄泉でも、八千代でもない、もう一人の“異質”。


その圧倒的な存在感とは裏腹に、妙に残念な空気を纏っていた。


俺はというと、完全に置いてけぼりのまま、ただぽかんとその姿を見上げていた。


「こ、これは……何の流れなんだ……?」


新たな神の登場により、場はさらに混沌へと踏み込んでいく――。



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