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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園
56/61

黒野の過去 肆

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

「結局のところ、何が言いたい。」


俺は率直に黄泉に聞いた。


黄泉は目を細め、キセルを吹かせながら静かに問い返す。


「時夜はんには、わっちや此処がどう見えるでありんすかえ?」


俺は黄泉の言葉を受けて、あらためて周囲を見渡す。


果てのない夜の星空と華豊かな大地。

そして目の前には、ただならぬ気配を纏う二人の女性。


「俺には……幻想的な風景の場所と、強者の二人にしか見えないが……。」


そう答えると、黄泉はわずかにため息を吐き、「八千代」と静かに名前を呼んだ。


八千代はその場でわずかに佇まいを正し、俺に向き合うようにゆっくりと座り直した。


その動きだけで、彼女がただの存在ではないことを、俺の肌が理解する。


「時夜様の時代の言葉を借りるなら、此処は幽世かくりよという名の神域。そして同時に、ダンジョンです。」


八千代の声音は透き通るように澄んでいた。

だが、その言葉の奥底には、神域を支配する者の絶対的な意志が込められている。


「そして、私たちこそが――このダンジョンのあるじ。ダンジョンボスであり、ダンジョンマスターです。」


俺は息を呑んだ。


その言葉が意味するものを、本能が察していたからだ。


俺が理解したのを知ってか、黄泉がキセルの煙をゆるりと吐きながら言った。


「そう、八千代がかつて葦原中国あしはらのなかつくにの国作りを完成させ、高天原たかあまのはらからの天照大御神あまてらすおおみかみの使者に国譲りを要請され――対話と武力を交えた交渉の末に、幽冥界の主、幽事の主宰者となった者でありんす。」


黄泉の声音は穏やかだったが、その言葉の意味は俺の頭を揺さぶった。


俺は思わず目を見開き、八千代を見つめる。


黄泉はそんな俺の反応を楽しむように、キセルを優雅に吹かせながらニヤリと笑っていた。


――冗談じゃない。


「初めまして、時夜様。」


静かで透き通った声が響く。


八千代はゆっくりと正座の姿勢を正し、深く頭を下げた。


八千矛神やちほここと、八千代で御座います。」


その瞬間、空気が変わった。


俺の心臓がひとつ大きく脈打つ。


――最悪だ…。


大国主には、いくつもの名がある。

宇都志国玉神(うつしくにたま-)。

所造天下大神あめのしたつくらしし おおかみ

国造りの神として崇められた存在。

けれど――


今、俺の目の前にいるのは、出雲の武神。


この幽世を統べる者。

そして、俺に試練を与えようとしている存在だった。


「さぷらいずの挨拶は済んだでありんすかえ?」


黄泉はケラケラと愉快そうに笑っていた。


「八千代、時夜はんの下につく気はありんすかえ?」


冗談めいた調子で、八千代に問いかける。


「ご冗談を。」


八千代は一瞬の迷いもなく、きっぱりと言い放った。


「黄泉様の伴侶と言えど、ただの只人に下れと?」


その瞳には怒気が宿る。

八千代の声には、神としての誇りと、圧倒的な拒絶が滲んでいた。


黄泉は、そんな彼女を面白がるように目を細めると、ゆっくりと着物の袖を持ち上げ、わざとらしく顔を隠した。


「お~怖い怖い。そう睨まんでおくなまし。」


八千代がさらに鋭い視線を向けると、黄泉は楽しげに笑い、キセルを吹かせた。


「とは言っても――」


その声色が、ほんの僅かに真剣味を帯びる。


「時夜はんが此処に居を構えん事には、わっちらは何も出来んせんし…。」


そう言いながら、黄泉は扇子を口元にあて、ゆるりと考え込む仕草を見せる。


部屋の空気が、僅かに沈んみ、八千代の睨みも、次第に険しさを帯びる。


俺は、黙ってその場の空気を感じ取っていた。


――俺が、ここに留まることが前提になっている?




静寂が満ちる幽世の一室。

黄泉はキセルから紫煙をふわりと吐き出し、微笑を浮かべたまま上座に腰を下ろしていた。


八千代は、彼女の真正面に座りながら、まっすぐに視線を向けた。


「黄泉様」


その声には、僅かな棘が混じっていた。


「一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか。……貴女様はいったい、何がしたいのですか?」


問いの切っ先は鋭かった。


黄泉は少し目を細め、口元にキセルを当てたまま、ふふっと小さく笑った。


「そんなもの、決まっておりんす。わっちは、現世(うつしよ)でのほほんと、ぬくぬくと暮らしたいだけでありんす。」


「……は?」


八千代の声が素っ頓狂に響いた。


「まさかとは思いますが……この黄泉国の女王たる身で、現世でのんびり暮らしたいと?」


「そうでありんす。神の形骸とはいえ、わっちらは神の一部でありんす。現世に干渉できる数少ない場所。だったら、一番価値のある場所で、穏やかに過ごしてみたじゃありんせんかえ?」


黄泉は愉快そうに笑いながら、キセルをふかせ煙の輪をいくつも宙に浮かべる。


「……呆れました」


八千代は額に手を当て、小さくため息をついた。

その表情は真剣さを超え、もはや心底呆れ返っていた。


そのやり取りを、俺はただぽかんと見ていた。

いや、ついていけないのが正直なところだった。


幽世、神の形骸、世界の均衡、調律者……。


俺にはどれも、いまいち現実味がない。

八千代はそんな俺に鋭い視線を向けてきた。


「時夜様、あなたにお尋ねします。……世界を律する覚悟、おありですか?」


――重い問いだった。

だが、俺は正直に答えるしかなかった。


「ない」


間髪入れずにそう言った。


「……俺は別に、そんな大層なものを背負いたくなんてない。ただ、のんびり暮らせれば、それでいい。」


その答えに、八千代はこめかみに手を当て、深々とため息をついた。


「あなたもですか……」


そして、まるで頭痛をこらえるように、ぐっと目を閉じた。


俺はますます分からなくなってきた。


なぜ、自分が世界の運命を背負わされているのか?

なぜ、世界が崩壊するなどという話になっているのか?


ついに我慢できず、俺は二人に問いかけた。


「……なあ、そもそもなんで俺が世界を守らなきゃならないんだ? そもそも、なんで世界が崩壊する話になってるんだ?」


その問いに、黄泉と八千代はぴたりと動きを止めた。


そして、無言のままお互いに顔を見合わせ、……同時に深く、重いため息をついた。


「……はあ」


「……やっぱり、分かってなかったんでありんすな」


 二人の声が重なり、同じ呆れの波が部屋中に広がっていった。



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