黒野の過去 参 (画像あり)
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
黒い鳥居をくぐると、目の前には幻想的な風景が広がっていた。
夜空には満天の星が輝き、柔らかな月光が辺りを照らす。
そこには、現世では考えられないほど美しく咲き誇る満開の桜が、薄桃色の花びらを風に舞わせていた。
足元には鮮やかな花々が広がり、ほのかに甘い香りが漂う。
「幽世へようこそ、時夜はん。」
黄泉はゆったりと微笑みながら俺にそう告げた。
「ここが……幽世……?」
あまりにも現世離れした光景に、俺は言葉を失った。
幽世と聞いて、もっと陰鬱でおどろおどろしい場所を想像していたのだ。
そんな俺の表情を読み取ったのか、黄泉はくすくすと笑いながら歩き出した。
「もっと、禍々しく恐ろしい場所だと思っておりんしたかえ? ふふ、幽世は死者の魂が流れ着く場所。人の記憶が交じり合い、様々な形を作り出すのでありんすよ。」
俺は黙って黄泉の後をついてしばらく歩いた。
しばらく歩くと、目の前には、まるで豪華な旅館のような和風の屋敷が佇んでいた。
荘厳でありながら温かみを感じさせる木造建築。
屋敷の入り口に近づくと、中から一人の女性が現れた。
「お帰りなさいませ、黄泉様。」
女性は品のある所作で深々と頭を下げた。
白く整った顔立ちに、落ち着いた紫の瞳。
長く艶やかな黒髪。
黒の着物に身を包んでいた。
「ただいまでありんす、八千代。」
黄泉は優雅に返事をしながら屋敷へと足を踏み入れた。
俺が八千代と呼ばれた女性に視線を向けると、彼女は俺を一瞥し、静かに黄泉へと問いかけた。
「そちらの殿方は?」
黄泉はくすっと微笑みながら、俺を振り返る。
「わっちの伴侶となる時夜はんでありんす。丁重に扱うでありんすよ。」
俺は思わず黄泉を見返した。
「おい、伴侶って……?」
「ふふ、時夜はん。言葉通りの意味でありんすよ。」
黄泉は悪戯っぽく微笑むだけで、それ以上は何も言わず、屋敷の奥へと進んでいく。
八千代は一瞬だけ困惑したような表情を見せたが、すぐに深く頭を下げ、俺へと視線を向ける。
「時夜様、お待ちしておりました。」
「いや、待たれてても俺は何も知らないんだが……」
俺が戸惑いながら言うと、八千代は静かに微笑んだ。
「黄泉様の伴侶としてお迎えする以上、こちらとしても準備が必要です。」
「準備?」
「黄泉様の命により、お部屋を用意いたします。どうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ。」
そう言うと、八千代はすぐに手を合わせ、一礼してその場を去っていった。
俺は思わずため息をつく。
「……伴侶ねぇ。」
俺と黄泉は、八千代に案内された部屋へと入った。
そこは落ち着いた和の趣を感じさせる部屋で、障子から差し込む淡い光が室内を優しく照らしていた。
黒檀の机に置かれた茶器からは、ほのかに香る上質な茶葉の匂いが漂い、どこか懐かしさすら感じるほどだ。
黄泉は悠然と上座に腰を下ろし、優雅にキセルを吹かし始めた。
その仕草は、何もかも見通しているかのような余裕を感じさせる。
俺は向かいの席に座らされ、少しだけ背筋を伸ばした。
「失礼します。」
八千代が静かに部屋へと入り、慎重な手つきでお茶を運んできた。
彼女の所作は一つ一つが美しく、侍女というよりは長年仕えてきた従者のような品格を感じさせる。
湯呑みを俺たちの前に置くと、八千代はすぐに部屋を出ようとした。
しかし、その瞬間、黄泉が微笑みながら声をかけた。
「八千代も聞いていきなんし。」
八千代は足を止め、一瞬だけ驚いた表情を見せたものの、すぐに深々と頭を下げた。
「畏まりました。」
そう言って、彼女は静かに正座し、背筋を伸ばしたまま待機すした。
まるで長年の習慣のように、何の躊躇もなく、その場に馴染んでいた。
黄泉は、そんな八千代を見届けると、再びキセルを口にくわえ、紫煙をくゆらせながら楽しげに微笑んだ。
「さて……何から話そうでありんしょうねぇ~。」
キセルの先端がわずかに赤く灯る。
紫煙がふわりと部屋の空気を包み込み、まるで過去の記憶を呼び覚ますかのようだった。
魔力のこと……世界の歴史……そして、ダンジョンが産まれるまでの話……。
黄泉は一つずつ、言葉を選ぶようにして語り始めた。
魔力がこの世界に存在することは、誰もが知っている。
しかし、その真の意味や成り立ちを知る者は少ない。
黄泉が語る内容は、まるで古き神話を紐解くかのように壮大だった。
「人が魔力を使わなくなったせいで、世界に魔力が溜まり、それが人々の願いを叶えるように世界を塗り替えたのでありんす。」
「……ちょっと待ってくれ。」
俺は手を挙げて制止し、混乱する頭を整理しようとした。
「じゃあ、この世界を創った原因は……人間だってことか?」
黄泉は目を細め、ゆったりと微笑んだ。
「そうでありんす。これは誰か特定の人間の願いではなく、人類の集合意識の産物。喜び、悲しみ、嫉妬、怒り、憎しみ——そのすべてが折り重なり、形を成したでありんす。」
俺は何かを言い返そうとしたが、喉の奥に詰まって声にならなかった。
納得できないというより、理解が追いつかない。
世界は、人間の想いで変わった?
それが事実なら、俺たちは今まで何を信じて生きてきたのか。
ぐるぐると思考を巡らせる俺を見て、黄泉は楽しげに微笑んだ。
「時夜はんは、わっちや八千代を前にしても、恐怖を感じないのでありんすな?」
「……それは。」
俺は、言葉に詰まる。確かに、黄泉や八千代からは確かな力を感じるが、それは理不尽な暴力や圧倒的な恐怖とは違うものだった。
だが、あの時——伊邪那美の残滓を前にしたとき、俺は本能的に震え上がった。
「わっちの本体の残滓を見た時は、小鹿のように震えていたでありんしょうに。」
黄泉はくすくすと笑いながら、再びキセルの煙を吐き出した。
「それが何故か、分かるでありんすか?」
俺は首を横に振る。
黄泉は紫煙をゆっくりと吹きながら、落ち着いた声で続ける。
黄泉は紫煙をくゆらせながら、俺の目を覗き込むようにして微笑んだ。
「わっちは伊邪那美であって、伊邪那美では無いでありんす。」
その言葉に、俺は無意識に息を呑んだ。
「……どういう意味だ?」
問い返す俺に、黄泉は静かに笑みを浮かべる。
「わっち等は、神の形骸。人によって作られた存在でありんす。」
「人によって作られた?」
俺は黄泉の言葉の意味を考えながら、先ほどの過去の会話を思い出した。
人々の願いや想いが形を成し、世界を塗り替えた……そんな話を聞いたばかりだ。
「神とは、元より人の畏れと信仰が生み出すもの。人が信じ、恐れ、願いを込めることで、その概念は具現化されるのでありんすよ。」
黄泉の目が、一瞬だけ冷たく光った。
「そなたが見た伊邪那美の残滓……あれは、元より“人が創りし伊邪那美”の一端に過ぎんのでありんす。」
「じゃあ、お前は?」
俺がそう問いかけると、黄泉は軽く笑い、キセルを唇に寄せる。
「わっちは、伊邪那美の一部……だが、同時に別の存在でありんす。」
紫煙がゆらりと揺れ、彼女の白い指先が器用にキセルを回した。
「神々は、長い年月の中で幾度となく形を変えてきたでありんす。時代が変わるたび、人々の信仰もまた変わり、信じられぬ神は消え、求められた神は新たな形を得る。故に、かつての伊邪那美と今の伊邪那美は、もはや同じものではないでありんす。」
「つまり……お前は、過去に生まれた“伊邪那美”の一つの側面、ってことか?」
俺の推測に、黄泉はゆっくりと頷いた。
「さすがでありんすな。」
黄泉の唇が、微かに楽しげに歪んだ。
「わっちは、死を司る神として、長くこの幽世を見守ってきんした。そして、そなたが今ここにいるのもまた、幽世の理が巡り合わせた縁でありんす。」
「俺が……?」
黄泉は俺を真っ直ぐ見据えたまま、淡々と語る。
「そなたは幽世に触れ、現世を越えた者。いずれ、そなたもまた……わっちのような存在となるやもしれんでありんすなぁ~」
その言葉はまるで預言のように響いた。
俺の身体に、じわりと冷たい汗が滲む。
神の形骸——人によって作られた存在。
もし、それが本当ならば、幽世を支配する大国主もまた、同じなのか?
俺は次の言葉を飲み込んだ。
この世界の真理を知れば知るほど、俺はもう後戻りできない場所へと踏み込んでいる気がしていた——。
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