黒野の過去 壱 (画像あり)
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
俺たちは意識を失ったヴィヴィアンを急ぎ医務室へと運び込んだ。
診察の結果、身体に異常は見られなかった。
だが、魔力と体力が著しく低下しており、極度の疲労状態にあるとの診断だ。
医者の話では命に別条はなく、二、三日しっかり休めば回復するだろうという。
「……よかった。」
俺はほっと胸を撫で下ろした。
どんな理由があるにせよ、目の前で倒れた人間が無事だと分かれば、安堵せざるを得ない。
だが、そんな俺とは対照的に、黒野は真剣な表情でヴィヴィアンをじっと見つめていた。
その目はまるで何かを見極めるかのような鋭い光を宿している。
「獅子堂、この女は?」
黒野が俺に問いかける。
「ああ、ヴィヴィアン・パルドナーラ。ブデザム宗教国の富豪の娘らしい。」
俺は簡潔に答えた。
黒野は「なるほど」と短く呟くと、再び考え込むように目を細めた。
そして、突如としてイザベリアたちに向かって言い放つ。
「外に出ていてくれ。」
その言葉は、穏やかではあるものの、拒否することを許さない強い圧を孕んでいる。
イザベリア、クリスティーナ、鈴凛――三人は一瞬顔を見合わせたものの、何も言わずに部屋の外へと足を向け出て行った。
ドアが閉まり、医務室には俺と黒野、そしてベッドで静かに眠るヴィヴィアンだけが残された。
「……あいつらを追い出してまで話す大事な話ってなんだよ。」
俺はそう言いながら、近くのベッドに腰を下ろした。
黒野が慎重に言葉を選ぶようにしながら、ゆっくりと口を開く。
「おそらく、こいつが倒れたのは"神降ろし"のせいだろうな。」
「神降ろし?」
俺は眉をひそめた。
黒野はヴィヴィアンを見つめたまま、淡々と続ける。
「そうだ。簡単に言えば、巫女やシャーマンが神の力を一時的に身に宿す儀式のようなものだ。」
「イタコみたいなものか?」
俺の問いに、黒野は少し考えたあと、肯定するように頷いた。
「まあ、似たようなものだな。ただし、"降ろした"というよりは"降りてきた"に近い。おそらく、こいつはシャーマンだろう。」
黒野の確信に満ちた言葉に、俺は少し驚いた。
「その言い方だと、"降りてきた神さん"に心当たりがあるんだろ?」
俺の問いに、黒野はゆっくりと俺を見据え、静かに答えた。
「シヴァだ。」
「……氷の大精霊のか?」
「それはF〇だ。」
黒野は少しだけ苦笑すると、改めて静かに言葉を紡いだ。
「創造と破壊の神、シヴァだ。」
俺は眉を顰めた。
シヴァ——それは単なる神話の存在ではない。
インド神話において、創造と破壊を司る最高神の一柱。
その名がここで出てくるということは……。
「つまり、ヴィヴィアンの体に"シヴァ"が降りていたってことか?」
俺は半信半疑で尋ねた。
黒野はゆっくりと頷く。
「そういうことだ。だからこそ、彼女は膨大な魔力を消費し、意識を失ったんだろう。」
「……マジかよ。」
俺は無意識にヴィヴィアンの方を見る。
眠る彼女の表情は静かで、今にも目を覚ましそうなほど穏やかだった。
「それにしても……"神降ろし"か。」
俺は頭を掻きながらため息をつく。
「そんな荒唐無稽な話、普通なら信じられねえよな。」
黒野は煙草を取り出し、火をつけることなく指先で弄びながら、低く呟いた。
「だが、現実に起こっていることだ。」
「お前のその話し方だと、心当たり、面識がありそうだな。」
俺が問いかけると、黒野は「あぁ」と短く答え、煙草に火をつけ、ゆっくりと煙を吐き出した。
「少し長くなるが、いいか?」
俺は「いいぜ」と軽く頷きながら、黒野の話に耳を傾けた。
「お前と初めて話した時、俺が"黄泉国"に行ったと言ったのを覚えているか?」
「あぁ、一番大事なところで終わったからな。」
黒野は苦笑いを浮かべ煙草を吹かしながら、過去を思い出すようにゆっくりと話し始めた。
「俺は黄泉に連れられ、黄泉国へと向かった。」
冥府の門を抜けると、目の前にはどこまでも続くかのような長い下り坂が広がっていた。
そこには何もなく、空気は静寂に包まれていた。
まるで時間が止まったかのような場所だった。
「ここは……?」
俺は、黄泉に支えられながら周囲を見回し、疑問を口にした。
「ここは、黄泉津平坂でありんす。現世と黄泉を繋ぐ道でありんす。」
黄泉はそう言いながら、俺を支えつつ坂を下り始めた。
「島根の千引の岩だったか?」
俺がポツリと呟くと、黄泉はクスクスと笑いながら答えた。
「よく知ってるでありんすなぁ。そこは伊邪那岐の馬鹿が封じた場所でありんすよ。」
黄泉は遠い昔を懐かしむように、坂の先を見つめながら続ける。
「伊邪那岐は恐怖し、逃げ出した。わっちの醜い姿を見て、愛した者を拒絶し、そして封じた。」
黄泉の声には、どこか憂いが混じっていた。
「けれど、その封印はその場だけ。黄泉国が消えぬ限り、入り口は無数に存在し永遠に続くでありんす。」
俺は無言で、果てしなく続く坂道を見下ろした。
「で、どこまで行けば着くんだ?」
黄泉は少し微笑み、俺の顔を覗き込むように答えた。
「そんなもの、決まっておりんせん。黄泉の意思が望むならば、一歩で辿り着くこともありんすし、幾千もの夜を越えても着かぬこともありんす。」
「……はぁ、やっぱりか……。」
俺は苦笑しながら、目の前の長い坂道を再び見つめた。
「ま、歩くしかねぇか。」
俺たちは、ただひたすらに坂を下った。
黄泉津平坂は、まるで終わりがないかのように続いていた。
しばらく進むと急に道が開け、目の前に大きな門が現れた。
「ここから先は黄泉国でありんす。」
黄泉はそう言って足を止めた。
俺は「行かないのか?」と顔を向けると、黄泉は顔を横に振って「やめておきんせん。」と言った。
しばらく立ち尽くしていると、黒い靄が集まりだし、俺たちを覆い取り込み始めた。
俺は慌てたが、黄泉が「大人しくしてるでありんす。」と言って俺を落ち着かせる。
目の前が真っ暗な霞に覆われ、視界が完全に閉ざされた瞬間、俺は心臓を掴まれたような恐怖を感じた。
「よく来た、定命の者。」
重く響く声が空間を満たした瞬間、俺の全身に寒気が走った。
息を吸おうとしたが、肺が凍りついたように動かない。
目の前に佇むのは、黄泉国を統べる冥府の女王――伊邪那美命。
その姿を直視した瞬間、俺の脳は本能的に理解した。
「この存在は、決して逆らってはならない。」
皮膚が爛れ、腐敗した身体。
その瞳の奥には、計り知れぬ年月を生きた神の威厳と、すべてを支配する圧倒的な死の気配が渦巻いていた。
彼女の口元がわずかに動く。
「此処は、汝が立ち入るべき場所ではない。されど、選ばれし者として、私は汝を迎え入れる。」
足が震えた。
いや、震えを通り越して硬直し、身体の自由が奪われている。
喉はひゅうひゅうと乾いた音を漏らし、息を整えようとするが、まるで深海に沈められたかのように空気が届かない。
「っ……は……がっ……」
歯がガチガチと鳴る。
顎の震えが止まらない。
意識がかすむほどの恐怖と圧迫感に、俺は膝をつきそうになるが、それすらも叶わない。
「怯えることはない。汝は既に、現世に属する者ではないのだからな……」
その言葉の意味を理解する余裕などなかった。
ただ、神の声が心臓を鷲掴みにするように響き、脳を直接支配するかのように耳に残る。
伊邪那美は、さらに静かに語りかけた。
「さあ、答えよ。汝は死を受け入れるか、それとも抗うか?」
俺の呼吸は浅く、視界が揺れる。
俺には、選ぶ権利など最初からなかった。
「答えぬか…」
伊邪那美の声は、ただ静かに響いた。
だが、その一言が俺の心臓をさらに締め付ける。
「ならば、汝に選ぶ意志はないと見做そう。」
その言葉に、俺の視界がさらに暗くなった。
息ができない。何もできない。
ただ、死の権化である神の存在を前に、膝をつくことすら許されないまま、時間だけが過ぎていく。
「……汝には、我が分体たる**黄泉**と契りを結ぶ宿命なり。」
伊邪那美の言葉が、まるで呪詛のように俺の脳に刻み込まれる。
「現世にて**幽世**の領域を広げよ。」
まるで当たり前のことのように、伊邪那美は淡々と命じる。
俺の魂をその手で握りつぶすような圧倒的な力を持ちながら、それを行使することすら不要とばかりに。
「だが……汝の魂は脆弱なり。」
彼女は俺を一瞥し、まるで取るに足らぬ存在を見るかのように言い放つ。
「詳細は、黄泉に聞け。」
それだけ言い残し、伊邪那美は背を向けた。
一歩、また一歩と歩むたび、彼女の姿は闇へと溶けていく。
その場に残された俺は、魂を凍らせる恐怖に、未だ震えが止まらなかった。
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