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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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退屈な日常 ④

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

意識がゆっくりと浮上していく。


薄暗い視界の中で、徐々に周囲の光が形を成し、ぼんやりとした影が天井に広がる。

俺はゆっくりと目を開いた。


「……知らない天井だ。」


ぽつりと呟いた。


「ベタだな……」


俺はゆっくりと横を向くとそこには、黒野がいた。


彼は病室のベッドの端に腰掛け、静かに本を読んでいた。


「うるせぇ。」


俺は素っ気なく返した。


身体の状態を確かめるために、布団を少し押しのけて手足を動かしてみる。

腕、脚、指先——異常はない。

むしろ、あれだけの激闘を繰り広げた後とは思えないほど、身体は軽い。


「相変わらずこの世界はすげぇな……」


胸のあたりを指先で撫でる。


確かに、俺はあの戦いで黒野の《千枚通し》を喰らい、胸を貫かれたはずだった。

それが、今では何の痛みもない。

傷痕すら存在しない。


ふと、黒野を見ると、俺の視線に気づいたのか、本から目を離さぬまま口を開いた。


「そうだな……本当なら二人とも死んでてもおかしくないからな。」


黒野はそう言いながら、ゆっくりと本のページをめくる。


俺の視線は、黒野の左肩へと向かった。


戦いの中で、俺の《天絶斬》によって斬り落としたはずの左腕。

今では、まるで最初から失われていなかったかのように、元の位置にある。


「……どうやって治した?」


俺は尋ねた。


黒野は微かに笑い、本を閉じると、ゆっくりと俺の方を見た。


「さあな。気づいたらこうなってた。」


「お前もかよ……」


俺はため息をつき、再び天井を見上げる。


戦いの記憶が鮮明に蘇る。


あの瞬間、俺たちは確かにお互いを殺し合う覚悟で技を放った。

結果として、俺は貫かれ、黒野は左腕を斬り落とされ——それでも、こうして生きている。


「相変わらず……ふざけた世界だ。」


俺は呟いた。


黒野が笑った。


「回復魔法に回復アイテム……確かにな。」


お互いにゲームだなっと思い、静かだった医務室に笑いが広がる。



俺たちが医務室の扉を押し開くと、そこには見慣れた顔ぶれが待ち構えていた。


「閣下、ご無事で。」


「黒野様、ご無事ですか?」


イザベリア、鈴凛、ヴィヴィアン——彼女たちが整然と並び、俺たちを出迎える。

その表情には、安堵とわずかな緊張が滲んでいた。

まるで、俺たちがここから無事に出てくることを信じつつも、確信を持てなかったかのように。


「……わざわざ待っていたのか?」


俺がそう尋ねると、イザベリアは余裕の笑みを浮かべ、微かに肩をすくめる。


「当然ですわ。閣下が無事に戻られることを、臣下としてお迎えするのは義務でしょう?」


「臣下って……お前はどこまで本気なんだか。」


俺は小さくため息を吐きつつも、彼女の変わらぬ態度に内心苦笑した。


向かい側、そこには一組の女子たちが立っていた。

その中に、一人だけ際立った存在感を放つ少女がいた。


「確か……クリスティーナ・フォン・パトリオットだったか?」


俺が呟くと、隣の黒野がすぐに答える。


「あぁ、俺のお気に入りだ。」


その言葉に、クリスティーナは微笑みを浮かべながら一歩前に出る。

そして、優雅に制服のスカートの裾を摘み、カーテシーをしながら挨拶をした。


「獅子堂様、お初にお目にかかります。スターリン独立国のクリスティーナ・フォン・パトリオットと申します。以後お見知りおきを。」


その仕草には一切の乱れがなく、気品が滲み出ていた。

彼女の金色の髪はくるくると巻かれ、整然としたドリルヘアを形作っている。

いったいどうやって巻いているのか——そんな疑問が脳裏をよぎる。


「……随分と格式張った挨拶だな。」


「ええ、私は礼儀を重んじる国の生まれですので。」


クリスティーナの声は落ち着いており、どこか冷静さを感じさせる。

しかし、その奥には計り知れない芯の強さがあった。


スターリン独立国——イギリスがあった地域に位置し、ノヴェリア神聖王国から独立してできた国家。

騎士道精神を重んじるノヴェリアでは、パトリオット家が使う魔法銃が異端とされ、軽蔑の対象だった。


だが、イザベリアが属する軍事国家、インペラトル帝国の支援を受けることで独立を果たした。

今では、自らの信念を貫く国としての地位を確立している。


「獅子堂、こいつとは気が合うかもしれないぞ?」


黒野が楽しげに言う。


「……どうだかな。」


俺はクリスティーナを一瞥しながら、黒野の言葉に適当に返した。


金髪のドリルヘア、透き通るような青い瞳、そして整った顔立ち。

加えて、驚くほどのプロポーション。

この世界の女性たちは相変わらず、規格外にスタイルがいい。


「閣下はクリスティーナのような女性がお好みで?」


俺がクリスティーナを見ていた事に、嫉妬したようにイザベリアが聞いてきた。


「そうだな。お前達と違って慎ましそうだからな。」


俺がそう言うと、イザベリアはイラっとしてクリスティーナを睨んだ。


「良かったですわねティーナ。閣下のお眼鏡に叶ったようで。」


「リアはもう少し淑女然とした方が宜しいかと。」


二人は知り合いなのか、お互いを愛称で呼びバチバチと睨み合っていた。


俺が呆れてはぁ~っとため息を吐くと、黒野がふと呟いた。


「腹が減ったな。飯でも行かないか?」


俺は肩をすくめ、軽く同意する。


「そうだな、そろそろ何か食わねぇと。」


そう言って俺は黒野の誘いを受け、一緒に飯を食いに行くことにした。




やってきた店はファミレスだった。


確か店の名前は「Service」。

奉仕部の店だとかいう話で、あれから俺もちょくちょく来ている。

商業区の飲食店をいくつか回ってみたが、ここが一番美味かった。


俺は隣の黒野に聞いた。


「お前もここによく来るのか?」


「あぁ~、ここが一番美味かったからな。」


どうやら黒野も同じだったらしい。


俺たちが店に入ると、店内は程よく賑わっていた。

馴染みの店員がこちらへと歩いてきた。


「いらっしゃい……ま……せん……」


カウンターの奥から出てきた店員の少女が、俺たちを見て動きを止めた。


相変わらず、男に慣れていないのか、俺の顔を見た途端、硬直する。


「あー、やっぱりか……」


俺は心の中でため息をつきながら、目の前の少女を見た。


彼女の名はエリカ。

『Service』のウェイトレスで、店ではよく見かける顔だ。

しかし、どういうわけか俺が店に来るたびに固まってしまう。

これが初めてではないのだがな……。


「……お前、まだそんな反応するのかよ。」


俺が苦笑混じりにそう言うと、エリカは一瞬びくっと肩を震わせた後、慌てて表情を整えようとする。


「い、いえっ! そ、そんなことはありりりりません! こ、こちらへどうぞ! 案内お席します!」


言葉とは裏腹に、顔が真っ赤だ。


黒野が隣で俺を肘で小突き、ニヤリと笑う。


「相変わらず人気者だな、獅子堂。」


「黙れ。」


俺はそっぽを向きながら、エリカに案内された席へと向かった。


テーブル席に着くと、俺たちは向かい合わせで座る形になった。


イザベリア、俺、ヴィヴィアン、鈴凛が一方の席に座り、向かいにはクリスティーナ、黒野、そしてクリスティーナの部下たちが並んだ。


エリカは震える手でメニューをテーブルに置くと、一礼してから、何度も確認するように視線を動かす。


「ご、ご注文が決まりましたら、お呼びください!」


そう言うなり、彼女はまるで逃げるようにカウンターの方へ戻っていった。


「……あれ、大丈夫か?」


俺が呆れたように呟くと、黒野が肩をすくめた。


「獅子堂、お前がもう少し優しく対応すればいいんじゃないか?」


「これでも十分優しくしてるつもりだが?」


黒野は苦笑しながらメニューを開いた。


「まぁ、彼女が慣れるまで気長に待つしかないか。」


俺も仕方なくメニューに目を通しながら、何を注文するか考えた。


しばらくして、エリカが戻ってきた。

彼女は相変わらずぎこちないが、必死に冷静を保とうとしている。


「ご、ご注文はお決まりですか?」


俺は少し考えてから答えた。


「俺はハンバーグセットで。」


「俺はステーキ。ミディアムで。」


黒野も続いて注文する。


クリスティーナは優雅にメニューを閉じると、落ち着いた口調で言った。


「私はシーフードグリルを。」


「私はローストビーフ。」


イザベリアも静かに続く。


ヴィヴィアンと鈴凛もそれぞれ注文し、エリカはメモを取りながら、少しずつ落ち着きを取り戻しているようだ。


ここで俺は周りを見渡しながら聞いた。


「後、生を八つで良いか?」


全員が同意するようにうなずいた。


「か、かしこまりました! 少々お待ちください!」


エリカはそう言いながら俺達に背を向けた——が。


「は・・・初めて…なので…優しくお願いします…」


俺は頭の中が『???』になった。


「八回…凄いとは聞いてたけど…耐えられるかな…」


エリカがブツブツと小声で何かを言っている。


それを聞いた黒野はクツクツと笑い、女性陣はニヤニヤしながら俺を見ていた。


「やるかぁぁぁぁ‼」


俺は思わず大声でツッコんだ。


エリカは「ヒィィィィ」っと悲鳴をあげると、こちらを向き「すみませんすみません」と何度も謝った。


「最初はお口からでしたよね……?」


そう言って目を閉じ、口を開けた。


「違うわぁぁぁ‼」


俺は全力でツッコんだ。


エリカは口を開けたまま驚愕な表情で俺を見ていた。


「何でお前が…いや…いい。ビールだよビール‼生ビールを八つ!」


俺は呆れながら言った。


エリカは「ビールビールビール」と何度か繰り返し言うと、「隠語……」っと呟き、テーブルに置いてあった水を一気に飲み干した。


飲み干したカラのコップを床に置いて——パンツを脱ぎ始めた。


「アホかぁぁぁぁ‼」


俺は大声でツッコみ、即座にメニューを投げつけた。


投げたメニューはエリカの頭に直撃。


エリカは股を開いたままそのまま後ろに倒れた。


「種付けプレス……」


っと言い残し、気を失った。


……場が凍りつく。


俺は両手で顔を覆った。


黒野はテーブルに肘をつきながら、俺を見て微笑んだ。


「こうしてみると、普通の学生みたいだな。」


「……そうだな。こういう時間が、いつまで続くか分からねぇけどな。」


俺は窓の外を見ながら呟いた。


黒野も同じように視線を外へ向け、静かに頷いた。


やがて、厨房から料理のいい匂いが漂い始めた。

俺たちはそれを感じながら、何気ない会話を続けた。

目の前の惨事を忘れるかの様に、現実逃避しながら。



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