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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第三章 国立探索者学園

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奇跡の店員

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

家具の発注と設置が全部終わった頃、俺はリビングのソファーに全力でへたりこんでいた。

新品のソファーってのは座り心地はいいが、疲れた体を癒してくれるわけじゃねえ。


「……疲れた。」


小声でぼそっと呟く。

まだ学園生活が始まって一日目だってのに、この有様だ。

朝からいろいろありすぎて、心も体もズタボロだ。


風見先生は、クラスメートを俺の周りに手配するとかなんとか張り切ってたが、俺はその話を速攻で断った。


「悪いけど、今日は一人でダラけさせてもらうわ。」


そう言ったら、先生は「分かりました」とニコニコして去って行ったが、背中に『申し訳なさ』を丸出しにしていた。

ああいうのを見ると、ちょっとだけ罪悪感が湧くが、それ以上に疲れの方が勝っていた。


俺はソファーに沈み込み、ぼーっと天井を眺めて時間を潰していた。

何かする気力もなけりゃ、考える気もない。

ただ、無駄に時間が過ぎていくのを感じるだけだ。


すると、耳に入ってきたのは遠くから聞こえる鐘の音だった。


「キーンコーン、カーンコーン……。」


この学園の鐘らしい。

終業の合図か?知らんけど。


「……もう夕方かよ。」


腕時計を見ると、時刻は午後6時ちょうどを指していた。

昼飯すら食ってないことを思い出し、腹が盛大に鳴った。


「しゃーねえ、なんか食うか。」


ソファーからノロノロと立ち上がり、背筋を伸ばす。

全身が重い。

だが、このまま何もしないのもなんか腹が立つ。

俺は、ため息を一つ吐いて、屋敷を出た。


向かった先は、商業区だ。

学園内で一番便利な場所らしいが、俺にとっちゃメシが食える場所ってくらいの認識だ。

正直、今から飯を作るなんて気力もねえし、そもそもキッチン周りがまだ整ってない。

外で済ませるしかなかった。


歩きながら、ふとスパとか温泉があったのを思い出した。

飯を食った後にでも入るか。

そう考えると、少しだけ足取りが軽くなる気がした。


商業区に近づくと、街並みが派手になってきた。

ブランド品を扱う店やら、カフェやらレストランやら、娯楽施設まで揃ってて、なんつーか「ここ本当に学校か?」って疑いたくなる。


だが、それ以上に俺が気になるのは……視線だ。


「……なんだよ。」


商業区を歩く女性たち――生徒たちの視線が全員俺に向いている。

こそこそ囁いてる声も聞こえるし、露骨に指差してる奴もいる。

けど、誰も近寄ってこない。

なんだこれ。


「居心地悪ぃな……。」


男が珍しいって話は聞いてたが、ここまで注目されるとは思ってなかった。

なんつーか、動物園の珍獣扱いされてる気分だ。


商業区の中心部まで来ると、飲食店の看板があちこちに並んでいる。

和食、洋食、中華、カフェ、バー……

選択肢が多すぎて逆に困る。


「どれにすっかな……。」


看板を見上げて悩んでいると、背後から小さな声が聞こえてきた。


「あの人……男性よね?」


「うん、たぶん……今日入学した獅子堂君じゃない?」


チラッと後ろを振り返ると、何人かの女子生徒がこっちを見て慌てて視線を逸らす。

なんだよ、言いたいことがあるなら直接言えよ。


ため息を吐きながら、俺は視線を無視して足を進めた。



結局、食べたいものが特に決まっていたわけでもなかったので、適当に目についたファミレスのような場所に入ることにした。

ドアを押し開けた瞬間、店内の空気が少しだけ変わったような気がした。


「いらっしゃ……い……」


俺が店に足を踏み入れると、カウンターの奥から駆け付けてきた女性店員が、俺を見た瞬間に固まった。

まるで時間が止まったかのように動きを止め、じっと俺を見つめている。


「一人だが、席は空いてるか?」


そう話しかけても、店員はピクリとも動かない。

顔が引きつり、口がパクパクと動いているものの、言葉が出てこないようだった。


「おーい、聞こえてるか?」


俺は仕方なく彼女の顔の前で手を振った。

それでようやく彼女はハッと我に返り、慌てたように口を開いた。


「だんにぇいのおぎゃぐみゃにゃいちねんひりにゃにゅ‼」


……何を言っているのか、全く分からない。

緊張のせいなのか、それとも単なる滑舌の問題なのか、彼女の言葉はぐちゃぐちゃだった。


「お、案内御席します!」


ようやく正確な言葉を発するも、支離滅裂だ。

動き出した店員の動きはブリキのロボットのようにぎこちない。

右手と右足を同時に出して歩くその姿は、見ていて正直恥ずかしくなってくる。

俺は呆れたように額に手を当てつつ、店員の後をついて行った。


案内されたのは店の奥にある大きなテーブル席。

一人で座るには明らかに広すぎるが、まあ文句を言う気力もない。

俺は静かに腰を下ろし、テーブルに置かれたメニューを手に取った。


メニューを眺めると、和食から洋食、デザートまで色々と揃っていて、まさにファミレスそのものだった。

ページをめくりながら、何を注文しようか考えていると、先ほどの店員が水を持って戻ってきた。


「おみすすすすでず。」


どうやら緊張がまだ解けていないらしい。

手に持ったコップが小刻みに震え、水面がバシャバシャと揺れている。

案の定、テーブルに水がまき散らされテーブルの上はビチャビチャだ。


「おいおい……。」


俺がそう言う前に、店員は自分のやらかしに気づいたらしく、顔面蒼白になって固まった。

だが、何故か驚愕の表情を浮かべている。

いや、お前がやったことだろうが。


正直ギャグやコントかと思うほどだが、実際に目の当たりにすると、正直、笑えず哀れに感じてしまう。


「ピッチャーでくれ。」


俺は大きなため息を吐きながら、簡潔にお願いした。

すると、店員は「ひゃい!」と大きな声で返事をした。


だが次の瞬間、彼女は手に持っていたおしぼりを勢いよく振りかぶり、俺の顔めがけて投げつけてきた。


ベチ。


おしぼりが俺の顔に命中し、そのままポトリとテーブルの上に落ちる。


「……。」


しばらく無言の時間が続いた。


俺は顔に当たった感触を確かめつつ、静かに目の前の店員を見る。

店員は我に返ったようで、今度は驚愕の表情を浮かべて俺を見ていた。


いやいや、だから何でお前が驚いてんだよ‼

俺は内心で思いっ切りツッコんだ。


「……とりあえず、水を頼む。」


冷静にそう伝えると、店員はハッとしたように立ち上がり、今度こそピッチャーを持ってくるために走り去っていった。


その姿を見ながら、俺は再びため息を吐いた。


「飯食うだけなのに、なんでこんな疲れなきゃならねえんだ……。」


しばらくすると、先ほどの店員が「お待たせしましたぁ~」と元気だけは良い声で戻ってきた。

手にはピッチャーがしっかりと握られている。


だが、問題はその次だった。


「投げちゃダメだ……投げちゃダメだ……。」


何やら恐ろしい事をブツブツと呟きながら、ピッチャーを持った手を震わせている。

俺はその異様な光景に目を疑った。


そして、彼女は何を思ったかピッチャーを振りかぶった。


「待て待て待て‼」


慌てて俺は声を張り上げて止めに入った。

俺の声でハッとなった店員は動きを止めると、「すみませんでしたぁぁぁ!」と大声で謝罪し、勢いよく頭を下げた。


……その瞬間。


バシャーン。


ピッチャーを振りかぶったまま頭を下げたせいで、ピッチャーの中の水がテーブルにぶちまけられた。

水は見事にテーブル一面を濡らし、俺の服にも飛び散る。


店員の子は頭を下げたまま顔を向け、俺を見て再び驚愕の表情を浮かべていた。


「だから、何でお前が驚いてんだよ‼」


俺は思わず声を張り上げてツッコんだ。




「とりあえず、拭くものと新しい水を持ってきてくれ。」


俺は呆れながら店員に頼んだ。

彼女は「は、はい!」と返事をすると、急いで取りに戻り、こちらに駆け足で帰ってきた。


次の瞬間、悲劇は再び起きた。


濡れた床で足を滑らせた彼女は、

勢いよく転び、その拍子に持っていた新しいピッチャーをテーブルにドンッと叩きつけた。

叩きつけられたピッチャーはそのままテーブルの上で倒れ、今度は彼女の頭に水がジョボジョボとかけられる。


「……。」


俺は目の前の光景を無言で見つめた。

頭から水を浴びた店員は、呆然とした顔で立ち上がり、次に自分の濡れた制服を見下ろす。


「す、ずみまぜん…」


彼女がまた謝り始めたので、俺は大きなため息を吐きながら言った。


「とりあえず、拭くものだけ持ってきてくれ。それ以上は何もするな。」


彼女は「はい」と返事をして、再び布巾を取りに行こうとしたが、濡れた床で足を盛大に滑らし、勢いよく後方に飛んで転び、後頭部を床にぶつけた。


ゴンッ


店員の女性は頭を押さえて悶絶しながら床を転げ回っていた。


俺は哀れに感じながらも店員の女性に声をかけ、助け起こして席に座らせた。


「もういい…ここで休んでろ。」


俺はそう言って彼女を休ませると、カウンターに行って新しい布巾と雑巾を貰い、水をピッチャーで持ってきてくれるように頼んだ。


席に戻ると、店員の女性はグズグズと泣いていた。


「すみません…本当にごめんなさい…。」


「だからもういい……。」


俺がそう言っても、彼女は何度も頭を下げ、反省しきりだった。


その間、別の店員がようやく水と布巾を持って駆け寄ってきた。


「すみません、すみません!」


何度も謝罪しながら、俺の手から布巾を奪うようにして掃除を代わってくれた。

その動きは非常にテキパキしており、まさにプロフェッショナルといった感じだった。


「こういう人を最初から呼べばよかったのにな…。」


俺は呟きながら椅子に腰を下ろし、水を一口飲んだ。


掃除を終えた店員は、ずぶ濡れになった先ほどの店員を連れて奥へと戻っていった。

あの子もきっと注意されるんだろうが、あれだけ頑張って空回りしていた姿を見ると少し同情してしまう。


「これでようやく落ち着けるか…。」


そう思いながらメニューに目を通していると、先ほどの別の店員がやって来た。


「これはお詫びです。本当に申し訳ございませんでした。」


そう言って、フライドポテトと唐揚げ、ピザをテーブルに置いてくれた。

俺は「別に構わない」と言って謝罪を受け入れた。


「それより、さっきの子は大丈夫だったのか?」


俺は気になって尋ねた。

勢いよく後頭部をぶつけていたから少し心配だった。


店員は苦笑いを浮かべながら答えた。


「今は奥で着替えさせて少し休ませています。生真面目で良い子なのですが……緊張して…と言うか……男性様に慣れておらず……申し訳ございませんでした。」


店員の女性はそう言って深く頭を下げた。


「無事ならそれでいい。」


俺はそう答えた。


店員の女性は「後で謝罪に向かわせます」と言って、もう一度頭を下げた。


「それと…」


彼女は申し訳なさそうに俺の顔を見ながら言った。


「相席の方をお願いしてもよろしいでしょうか?」


そう言って入り口付近に視線をやった。

俺はそっちに視線を向けると、こっちを見ている黒野と、笑顔で手を振っている御剣 葵の姿があった。


「はぁ…」


俺は大きくため息を吐きながら、了承の旨を伝え、彼らがこちらに向かってくるのを見つめていた。




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