奇跡の店員
画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい
キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。
家具の発注と設置が全部終わった頃、俺はリビングのソファーに全力でへたりこんでいた。
新品のソファーってのは座り心地はいいが、疲れた体を癒してくれるわけじゃねえ。
「……疲れた。」
小声でぼそっと呟く。
まだ学園生活が始まって一日目だってのに、この有様だ。
朝からいろいろありすぎて、心も体もズタボロだ。
風見先生は、クラスメートを俺の周りに手配するとかなんとか張り切ってたが、俺はその話を速攻で断った。
「悪いけど、今日は一人でダラけさせてもらうわ。」
そう言ったら、先生は「分かりました」とニコニコして去って行ったが、背中に『申し訳なさ』を丸出しにしていた。
ああいうのを見ると、ちょっとだけ罪悪感が湧くが、それ以上に疲れの方が勝っていた。
俺はソファーに沈み込み、ぼーっと天井を眺めて時間を潰していた。
何かする気力もなけりゃ、考える気もない。
ただ、無駄に時間が過ぎていくのを感じるだけだ。
すると、耳に入ってきたのは遠くから聞こえる鐘の音だった。
「キーンコーン、カーンコーン……。」
この学園の鐘らしい。
終業の合図か?知らんけど。
「……もう夕方かよ。」
腕時計を見ると、時刻は午後6時ちょうどを指していた。
昼飯すら食ってないことを思い出し、腹が盛大に鳴った。
「しゃーねえ、なんか食うか。」
ソファーからノロノロと立ち上がり、背筋を伸ばす。
全身が重い。
だが、このまま何もしないのもなんか腹が立つ。
俺は、ため息を一つ吐いて、屋敷を出た。
向かった先は、商業区だ。
学園内で一番便利な場所らしいが、俺にとっちゃメシが食える場所ってくらいの認識だ。
正直、今から飯を作るなんて気力もねえし、そもそもキッチン周りがまだ整ってない。
外で済ませるしかなかった。
歩きながら、ふとスパとか温泉があったのを思い出した。
飯を食った後にでも入るか。
そう考えると、少しだけ足取りが軽くなる気がした。
商業区に近づくと、街並みが派手になってきた。
ブランド品を扱う店やら、カフェやらレストランやら、娯楽施設まで揃ってて、なんつーか「ここ本当に学校か?」って疑いたくなる。
だが、それ以上に俺が気になるのは……視線だ。
「……なんだよ。」
商業区を歩く女性たち――生徒たちの視線が全員俺に向いている。
こそこそ囁いてる声も聞こえるし、露骨に指差してる奴もいる。
けど、誰も近寄ってこない。
なんだこれ。
「居心地悪ぃな……。」
男が珍しいって話は聞いてたが、ここまで注目されるとは思ってなかった。
なんつーか、動物園の珍獣扱いされてる気分だ。
商業区の中心部まで来ると、飲食店の看板があちこちに並んでいる。
和食、洋食、中華、カフェ、バー……
選択肢が多すぎて逆に困る。
「どれにすっかな……。」
看板を見上げて悩んでいると、背後から小さな声が聞こえてきた。
「あの人……男性よね?」
「うん、たぶん……今日入学した獅子堂君じゃない?」
チラッと後ろを振り返ると、何人かの女子生徒がこっちを見て慌てて視線を逸らす。
なんだよ、言いたいことがあるなら直接言えよ。
ため息を吐きながら、俺は視線を無視して足を進めた。
結局、食べたいものが特に決まっていたわけでもなかったので、適当に目についたファミレスのような場所に入ることにした。
ドアを押し開けた瞬間、店内の空気が少しだけ変わったような気がした。
「いらっしゃ……い……」
俺が店に足を踏み入れると、カウンターの奥から駆け付けてきた女性店員が、俺を見た瞬間に固まった。
まるで時間が止まったかのように動きを止め、じっと俺を見つめている。
「一人だが、席は空いてるか?」
そう話しかけても、店員はピクリとも動かない。
顔が引きつり、口がパクパクと動いているものの、言葉が出てこないようだった。
「おーい、聞こえてるか?」
俺は仕方なく彼女の顔の前で手を振った。
それでようやく彼女はハッと我に返り、慌てたように口を開いた。
「だんにぇいのおぎゃぐみゃにゃいちねんひりにゃにゅ‼」
……何を言っているのか、全く分からない。
緊張のせいなのか、それとも単なる滑舌の問題なのか、彼女の言葉はぐちゃぐちゃだった。
「お、案内御席します!」
ようやく正確な言葉を発するも、支離滅裂だ。
動き出した店員の動きはブリキのロボットのようにぎこちない。
右手と右足を同時に出して歩くその姿は、見ていて正直恥ずかしくなってくる。
俺は呆れたように額に手を当てつつ、店員の後をついて行った。
案内されたのは店の奥にある大きなテーブル席。
一人で座るには明らかに広すぎるが、まあ文句を言う気力もない。
俺は静かに腰を下ろし、テーブルに置かれたメニューを手に取った。
メニューを眺めると、和食から洋食、デザートまで色々と揃っていて、まさにファミレスそのものだった。
ページをめくりながら、何を注文しようか考えていると、先ほどの店員が水を持って戻ってきた。
「おみすすすすでず。」
どうやら緊張がまだ解けていないらしい。
手に持ったコップが小刻みに震え、水面がバシャバシャと揺れている。
案の定、テーブルに水がまき散らされテーブルの上はビチャビチャだ。
「おいおい……。」
俺がそう言う前に、店員は自分のやらかしに気づいたらしく、顔面蒼白になって固まった。
だが、何故か驚愕の表情を浮かべている。
いや、お前がやったことだろうが。
正直ギャグやコントかと思うほどだが、実際に目の当たりにすると、正直、笑えず哀れに感じてしまう。
「ピッチャーでくれ。」
俺は大きなため息を吐きながら、簡潔にお願いした。
すると、店員は「ひゃい!」と大きな声で返事をした。
だが次の瞬間、彼女は手に持っていたおしぼりを勢いよく振りかぶり、俺の顔めがけて投げつけてきた。
ベチ。
おしぼりが俺の顔に命中し、そのままポトリとテーブルの上に落ちる。
「……。」
しばらく無言の時間が続いた。
俺は顔に当たった感触を確かめつつ、静かに目の前の店員を見る。
店員は我に返ったようで、今度は驚愕の表情を浮かべて俺を見ていた。
いやいや、だから何でお前が驚いてんだよ‼
俺は内心で思いっ切りツッコんだ。
「……とりあえず、水を頼む。」
冷静にそう伝えると、店員はハッとしたように立ち上がり、今度こそピッチャーを持ってくるために走り去っていった。
その姿を見ながら、俺は再びため息を吐いた。
「飯食うだけなのに、なんでこんな疲れなきゃならねえんだ……。」
しばらくすると、先ほどの店員が「お待たせしましたぁ~」と元気だけは良い声で戻ってきた。
手にはピッチャーがしっかりと握られている。
だが、問題はその次だった。
「投げちゃダメだ……投げちゃダメだ……。」
何やら恐ろしい事をブツブツと呟きながら、ピッチャーを持った手を震わせている。
俺はその異様な光景に目を疑った。
そして、彼女は何を思ったかピッチャーを振りかぶった。
「待て待て待て‼」
慌てて俺は声を張り上げて止めに入った。
俺の声でハッとなった店員は動きを止めると、「すみませんでしたぁぁぁ!」と大声で謝罪し、勢いよく頭を下げた。
……その瞬間。
バシャーン。
ピッチャーを振りかぶったまま頭を下げたせいで、ピッチャーの中の水がテーブルにぶちまけられた。
水は見事にテーブル一面を濡らし、俺の服にも飛び散る。
店員の子は頭を下げたまま顔を向け、俺を見て再び驚愕の表情を浮かべていた。
「だから、何でお前が驚いてんだよ‼」
俺は思わず声を張り上げてツッコんだ。
「とりあえず、拭くものと新しい水を持ってきてくれ。」
俺は呆れながら店員に頼んだ。
彼女は「は、はい!」と返事をすると、急いで取りに戻り、こちらに駆け足で帰ってきた。
次の瞬間、悲劇は再び起きた。
濡れた床で足を滑らせた彼女は、
勢いよく転び、その拍子に持っていた新しいピッチャーをテーブルにドンッと叩きつけた。
叩きつけられたピッチャーはそのままテーブルの上で倒れ、今度は彼女の頭に水がジョボジョボとかけられる。
「……。」
俺は目の前の光景を無言で見つめた。
頭から水を浴びた店員は、呆然とした顔で立ち上がり、次に自分の濡れた制服を見下ろす。
「す、ずみまぜん…」
彼女がまた謝り始めたので、俺は大きなため息を吐きながら言った。
「とりあえず、拭くものだけ持ってきてくれ。それ以上は何もするな。」
彼女は「はい」と返事をして、再び布巾を取りに行こうとしたが、濡れた床で足を盛大に滑らし、勢いよく後方に飛んで転び、後頭部を床にぶつけた。
ゴンッ
店員の女性は頭を押さえて悶絶しながら床を転げ回っていた。
俺は哀れに感じながらも店員の女性に声をかけ、助け起こして席に座らせた。
「もういい…ここで休んでろ。」
俺はそう言って彼女を休ませると、カウンターに行って新しい布巾と雑巾を貰い、水をピッチャーで持ってきてくれるように頼んだ。
席に戻ると、店員の女性はグズグズと泣いていた。
「すみません…本当にごめんなさい…。」
「だからもういい……。」
俺がそう言っても、彼女は何度も頭を下げ、反省しきりだった。
その間、別の店員がようやく水と布巾を持って駆け寄ってきた。
「すみません、すみません!」
何度も謝罪しながら、俺の手から布巾を奪うようにして掃除を代わってくれた。
その動きは非常にテキパキしており、まさにプロフェッショナルといった感じだった。
「こういう人を最初から呼べばよかったのにな…。」
俺は呟きながら椅子に腰を下ろし、水を一口飲んだ。
掃除を終えた店員は、ずぶ濡れになった先ほどの店員を連れて奥へと戻っていった。
あの子もきっと注意されるんだろうが、あれだけ頑張って空回りしていた姿を見ると少し同情してしまう。
「これでようやく落ち着けるか…。」
そう思いながらメニューに目を通していると、先ほどの別の店員がやって来た。
「これはお詫びです。本当に申し訳ございませんでした。」
そう言って、フライドポテトと唐揚げ、ピザをテーブルに置いてくれた。
俺は「別に構わない」と言って謝罪を受け入れた。
「それより、さっきの子は大丈夫だったのか?」
俺は気になって尋ねた。
勢いよく後頭部をぶつけていたから少し心配だった。
店員は苦笑いを浮かべながら答えた。
「今は奥で着替えさせて少し休ませています。生真面目で良い子なのですが……緊張して…と言うか……男性様に慣れておらず……申し訳ございませんでした。」
店員の女性はそう言って深く頭を下げた。
「無事ならそれでいい。」
俺はそう答えた。
店員の女性は「後で謝罪に向かわせます」と言って、もう一度頭を下げた。
「それと…」
彼女は申し訳なさそうに俺の顔を見ながら言った。
「相席の方をお願いしてもよろしいでしょうか?」
そう言って入り口付近に視線をやった。
俺はそっちに視線を向けると、こっちを見ている黒野と、笑顔で手を振っている御剣 葵の姿があった。
「はぁ…」
俺は大きくため息を吐きながら、了承の旨を伝え、彼らがこちらに向かってくるのを見つめていた。
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