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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 

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もう一つの魂 漆

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。


25/07/01 ※黄泉のセリフで

「今のわっちらでは、この常世とこよで身体の維持が難しいでありんす。」


「今のわっちらでは、この現世うつしよで身体の維持が難しいでありんす。」


に変更・修正しました。

現世と常世がごちゃ混ぜになってました。すみません。

3人で天沼矛を回し続けた結果、巨大なコアを作り出すことに成功した。

部屋には高濃度の魔力が飽和液として漂っており、その豊富なエネルギーが予想以上に良質なコアを形作った。


俺たちは荒い息をつきながら、その完成品を見上げた。

光を放つコアは、まるで生き物のように脈動している。


「ハァハァハァ……なんとか間に合った……」


俺は息を整えながら時計を確認した。


「……1800秒を切ってる……」


残された時間の少なさに、焦りと苛立ちが混ざる。

全身の疲労感に押しつぶされそうになりながら、俺はダンジョンコアの前に立ち、コアへのデータ移動を指示した。


しかし――


「回答:拒否。」


コアの冷たい音声が響き渡る。


「理由を述べろ!」


俺は苛立ちを隠せず、声を荒げた。


「回答:マスター権限が無し。」


その一言が、俺の胸に鋭く突き刺さる。


「なら……俺をマスターにしろ!」


喉が裂けそうになるほど叫んだが――


「回答:資格なし。」


冷淡な回答が返ってきた。


「……っ!」


俺は拳を握りしめ、怒りを抑えきれずに壁を叩いた。

黄泉と刀祢も状況の深刻さを悟り、眉をひそめてこちらを見ている。


「どうすりゃいいんだよ……!これだけ準備してもまだ足りないってのか!」


苛立ちが込み上げる中、俺はもう一度コアに向き直り、深く息を吸い込んだ。

そして、静かに問いかけた。


「他に方法はないのか……?」


コアの答えは、再び冷酷だった。


「回答:存在せず。」


その言葉が、部屋の中に重く響いた。


「時夜はん、わっちらが造った核はどうでありんすかえ?」


黄泉の声が部屋に響いた。

彼女の穏やかな提案に、俺はその場で考え込んだ。

自分たちの手で作り上げた巨大なコア――確かにこれを使う以外、残された道はなさそうだ。


「刀祢、ちょっと頼む。」


俺は刀祢に視線を送った。

彼も事態の重さを理解しているのか、無言で頷き、自分たちが作ったコアに手を伸ばす。


次の瞬間、部屋全体に柔らかな光が広がり、俺たちの作ったコアが静かに反応を示した。


「回答:外部からのアクセスを確認。」


コアから冷たいながらも明確な声が発せられる。その内容に、俺も刀祢も黄泉も耳を疑った。


「回答:接触者、御剣 葵と確認。ダンジョンコア製作者と確認。」


「……何だって?」


俺は思わず呟いた。

その声を無視するように、コアの反応は続く。


「お早う御座います。マスター。」


静寂が広がる部屋で、その言葉が俺たちの心に重くのしかかった。


黄泉が扇子で口元を隠しながら、じっと俺を見つめている。

刀祢は、信じられないという表情で眉をひそめた。


「俺が製作者……御剣葵って……どういう事だ……」


疑問が頭をよぎるが、今は考えている時間がない。

俺はちらりとタイマーを確認する。

1200秒を切っていた。

時計の進む音が頭の中でカウントダウンのように響く。


「くそ……いろいろ確かめたいことがあるが、後回しだ。」


深呼吸を一つしてから、俺は目の前のコアに問いかけた。


「俺たちがここから助かる方法はあるか?」


コアが一瞬光を放ち、回答を出した。


「回答:error、error。ダンジョンマスターの確認が出来ませんでした。管理者権限を行使しますか?」


「管理者権限……?」


また新しい疑問が増えたが、今はそれを掘り下げている場合じゃない。

迫りくる崩壊の足音が、俺たちを急かしている。


「それで頼む!」


俺が強く言い放つと、コアは再び反応を示した。


「回答:了解。管理者権限を行使します。」


一瞬だけ部屋が静寂に包まれる。

次に響いたのは、再びエラーを告げる不吉な声だった。


「回答:error、error……情報不足。詳細な内容の指示をお願いします。」


「……っ!」


俺は拳を握りしめ、悔しさを飲み込む。

冷静になれ――今は、情報不足を埋める具体的な指示を出すしかない。


「黄泉、刀祢……お前たち、何か案はないか?」


俺は二人に問いかける。


黄泉は扇子を閉じ、真剣な表情でこちらを見つめた。


「時夜はん……この状況、今の情報だけで策を練るのは至難の業でありんすが……」


「分かってる。だが、何か手がかりになることでもいい、出してくれ。」


刀祢は眉間にシワを寄せ、腕を組んで考え込んでいる。


「……管理者権限ってのが鍵だろ。お前が使えるなら、そいつを徹底的に叩いて調べるしかねぇんじゃないか?」


刀祢の提案に俺は頷く。


「そうだな……俺の権限を使って、もっと掘り下げてみるしかない。」


再びコアに向き直り、具体的な指示を考え始めた。

頭の中で時間が刻々と削れていく音が、重く響いていた。


俺たちは状況を整理しながら、目の前のコアに思考を続けさせた。


「現状、崩壊を防ぐ方法はあるのか?」


俺は可能性を模索し続けながら問いかける。コアは微かに輝きを増し、答えを返してきた。


「回答:ダンジョン崩壊の可能性、大。危険性、大。消滅の可能性、大。」


その返答に俺たちは沈黙した。

全員の表情が険しくなる。

だが、コアはさらに続ける。


「回答:思考中……思考中……」


沈黙が続き、次に響いたのは冷たい無機質な声だった。


「回答:1. 現コアを新たなコアに取り込み、再度思考を開始。

2. 崩壊を防ぐ方法、無し。

3. 生存確率、不明。

4. 崩壊範囲、情報不足により不明。

5. 崩壊エネルギーを上空に放出すれば、崩壊範囲を減少させる可能性。」


「……っ!」


全員が一瞬で息を呑む。


「上空に放出……?」


俺はコアの回答を反芻し、眉間にシワを寄せる。


「……つまり、エネルギーをこの場ではなく、外に逃がせば被害を減らせる可能性があるってことか?」


黄泉が俺の言葉に補足を加えるように言う。


「そうでありんすね。ただし、どれだけ減少できるかは不明……そして、もし失敗したら?」


刀祢が腕を組んで低く問いかける。

その目には怒りと焦りが混ざり合っていた。


「失敗すれば……ここだけじゃなく、崩壊範囲がもっと広がるかもしれない。」


俺の言葉に、全員が黙り込む。


「……だが、このまま何もせずに崩壊を待つより、少しでも可能性がある方法に賭けるしかない。」


俺は拳を握りしめ、コアに再び問いかけた。


「上空へのエネルギー放出の具体的な手順は?」


コアが再び光を強めながら思考を開始した。

部屋に響く思考の音は、時間との戦いを突きつけるようだった。


「回答:現状、不明。状況不足により詳細な判断不可。コアの吸収を要請。」


俺は深い溜息をつきながら、再度質問を投げかけた。


「コアを吸収すれば可能性はあるんだな?」


「回答:情報不足により不明。ただし、情報収集のための必要性、大。」


曖昧な回答に苛立ちを感じたが、時間がない。

焦燥感が胸を締め付ける中、俺は覚悟を決めて命じた。


「……なら、コアの吸収を頼む。」


「回答:了承。ただし、御剣 刀祢は現コアに既存しているため、消滅しますがよろしいですか?」


「な……!」


その瞬間、俺は言葉を失った。

刀祢も驚きに目を見開き、黄泉は表情を険しくした。


「おい……助かる方法はないのか?」


「回答:御剣 刀祢の魂の権限の移譲の有無。」


「権限の移譲だと……?どうすればいい?」


「回答:御剣 刀祢、コアに触れてください。」


刀祢は俺たちが作ったコアを無言で見つめ、しばらく逡巡していた。

そして、決意したように息を吐き出し、静かに手を伸ばした。


コアの輝きが強まる中、機械的な声が響く。


「回答:御剣 刀祢の接触を確認。スキャンを開始……確認。御剣刀祢、帰属しますか?」


刀祢は一瞬だけ俺を見てから頷き、低い声で答えた。


「あぁ、それで助かるなら。」


「回答:御剣 刀祢の了承を確認。魂を回収します。」


次の瞬間、コアが激しく振動し、刀祢の体から光の粒が立ち上った。

それはまるで彼の魂そのものが引き抜かれていくような光景だった。


「刀祢!」


思わず声を張り上げる俺に、刀祢は薄く笑ってみせた。


「……心配するな。俺はこういう役回りだ。」


そう言うと、刀祢の体は徐々に光に包まれ、やがて完全に消失した。


黄泉が静かにキセルを置き、俯いたまま呟く。


「……あまりにもあっけないでありんすね。」


俺は拳を握りしめながら、刀祢の最後の姿を脳裏に焼き付けた。

そして、改めてコアに向き直り、静かに言葉を放つ。


「これで……準備は整ったか?」


「回答:ダンジョンコアの新規接続を確認。準備完了。次の指示をお願いします。」


時間は残りわずかだった。俺たちには、まだやるべきことが山積みだった。


「回答:ダンジョンコアの回収を要請。」


俺は息を詰めながら答える。


「あぁ……頼む。」


俺たちが作り出したコアが、首塚ダンジョンのコアを吸収する。

その瞬間、周囲に響き渡る機械的な声が、静寂を切り裂いた。


「回答:幽世かくりよ 琉刑場ダンジョンコアを確認……スキャン開始……オーバーフローを確認……error、error、error……魔力崩壊の制御失敗……error、error……制御不能……過剰エネルギーを上空に放出します。よろしいでしょうか?」


俺は一瞬目を閉じて、拳を握りしめた。


「それで助かるなら……やれ。」


「回答:了承。管理者の守護を第一に行います。コアに触れてください。」


俺は黄泉を見つめた。

彼女は微笑みを浮かべると、無言で頷き、俺と共にコアへ手を伸ばす。

冷たい感触が掌に伝わった瞬間、再び機械的な声が響く。


「回答:強制排出を開始します。」


その言葉を聞いた途端――。


ドゴォォォォォン!


眩い光が一瞬で視界を埋め尽くし、耳を裂くような轟音が響き渡る。

周囲の空気が震え、巨大なエネルギーの奔流が体を吹き飛ばしそうになる。


俺と黄泉は咄嗟に手をつなぎ、その場に踏みとどまった。

眼前に広がるのは、天へと向かって吹き上がる魔力の柱。

その光は夜空を切り裂き、まるで天上に達するように見えた。


「これが……過剰エネルギーの放出か……」


俺は目を細めながら呟く。


黄泉は唇を引き結び、じっとその光景を見つめている。


「まるで天の柱でありんすね……」


俺たちは強烈な魔力の奔流に飲み込まれ、全身を切り裂くような圧力と眩い光に意識を奪われた。


次に目を開けたとき、俺たちは真っ暗な空間に倒れていた。

蒼白い光を放つコアだけが、ぼんやりと周囲を照らしているが、ここがどこなのか見当もつかない。

視界に映るのは無限に広がる闇と、コアのわずかな光だけだ。


「……ここはどこだ?」


俺は黄泉に問いかけると、彼女は上を見上げて言った。


「おそらく奈落の底でありんしょうかね…」


そのとき、機械的な声が静寂を破った。


「回答:魔力強制排出完了。過剰エネルギー放出を確認……error、error……魔力残量不足……強制スリープに移行します。おやすみなさい。」


最後の言葉を残し、コアの光は徐々に弱まり、完全に消えた。

暗闇の中、鈍い音と共にコアが地面に転がる。


ドスン。


その音がやけに大きく響き、静寂が戻る。

俺たちは言葉を失い、ただ目の前のコアを見つめた。


黄泉が静かにキセルを取り出し、火をつける音だけがやけに響く。

赤い火が一瞬だけ黄泉の顔を照らし、彼女は小さく息を吐きながら口を開いた。


「終わったでありんすね。」


その言葉に、俺は何かを感じたが、疲労に勝てずに身体を動かし、大の字に横たわった。


「……終わったのか。」


「えぇ、終わったでありんす。」


黄泉の声が穏やかに響く。


俺は重いまぶたを少し開け、真っ暗な闇の中、キセルの赤い光だけが見える黄泉の方に顔を向けた。


「時夜はん、動けるでありんすかえ?」


「……あぁ、多少は。」


そう言いながら、俺はフラフラになりながらなんとか立ち上がろうとした。

だが、足元がふらつき、完全に倒れそうになったところで――黄泉が俺を抱き止めた。


「しょうがありんせんね。」


黄泉は呆れたようにため息をつきながら、俺の肩をしっかりと支えてくれた。


「今のわっちらでは、この現世うつしよで身体の維持が難しいでありんす。」


黄泉の声は優しく、どこか遠くを見るようだった。

彼女は俺を支えたまま歩き出し、転がったコアに手を伸ばして収納した。


「行くでありんすよ。」


そう言って、黄泉はキセルを軽く空間に向けて振り、次いでコンコンと叩いた。

その瞬間、濃密な霧が音もなく立ち込め、闇を切り裂いて一つの門を形作る。


霧の門がゆっくりと開き、冷たい空気が俺たちを包み込む。


「行き先は?」


俺が問いかけると、黄泉は微笑を浮かべながら答えた。


「どこでもない場所。わっちらが住む場所…あの世へ――。」


その言葉と共に、霧の門が俺たちを飲み込み、次の瞬間には全てが白い光に包まれていた。




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