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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 

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もう一つの魂 伍(画像あり)

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

扉を開けた先には、予想を遥かに超えた光景が広がっていた。


真っ白な空間――そこには、濃密な魔力が充満し、空気そのものが光を放っているかのようだった。

瘴気に満ちていた外の空気とは打って変わり、この場所は驚くほど澄み切っていて、神聖さすら感じさせるほど美しい。

まるで魔力の源泉そのものが形を成したような場所だ。


「すごいな……」


自然と感嘆の言葉が漏れる。

俺は一歩足を踏み入れ、目の前にある手すりに身を乗り出して部屋全体を見渡した。


部屋は簡素で質素な造りで装飾らしいものは一切ないが、壁や床に溜まった魔力の濃度が、全体を幻想的な輝きで包み込んでいる。

それはまるで、静寂の中に隠された生命の脈動を感じさせるかのようだ。


右手側の壁に目を向けると、下へと続く階段が確認できた。

しかし、その階段の半ばからは、蒼白く光る液体――魔力飽和液が満たしている。

ゆっくりと波打ちながら、液体は穏やかな光を放ち、部屋全体に不思議な安らぎを与えている。


階段の先、部屋の中央には、巨大なクリスタルが静かに鎮座していた。

透明でありながら、内部には流れるような光の粒が閉じ込められているように見える。

そのクリスタルからは、途方もない力を感じる。

あれが、このダンジョンの心臓部――ダンジョンコアであることは間違いなかった。



挿絵(By みてみん)



「あれが……コアか……」


俺はその光景に目を奪われ、しばし息を呑んだまま立ち尽くしていた。

隣で黄泉がキセルを口元から外し、興味深そうに呟く。


「見事でありんすね……まさに神聖なる核心。ここまで綺麗なコアは初めて見るでありんす。」


黄泉の声にはいつもの飄々とした調子があるものの、その瞳には真剣な光が宿っていた。



階段を降りきると、目の前に広がる青白く光る魔力飽和液がゆっくりと揺れている。

俺はその液体を見つめながら考え込んだ。

この美しい場所が、ただ美しいだけのものではないというのは明らかだった。

何かを間違えば――いや、ほんの些細なミスでも――全てを吹き飛ばす可能性を孕んでいる。


俺は膝をつき、魔力飽和液に指先を軽く触れた。

冷たく、そして異様に重い感触が指先を通じて伝わってくる。

触れるだけで、全身を押しつぶされそうな圧力を感じる。


後ろからついてきた黄泉が、キセルを吹かしながら声をかけてくる。


「それで、時夜はん。この状況、どうするおつもりでありんすかえ?」


その軽い調子に反して、黄泉の瞳は真剣だった。

俺は彼女に視線を向けず、魔力飽和液を眺めたままぼんやりと答えた。


「まさか、扉を開けた先が原子炉になってるとは思わなかったよ。」


魔力飽和液は見た目こそ美しいが、実際には原子炉以上に危険な代物だ。

一歩間違えれば、俺たちどころか、外の世界までも巻き込む災厄になりかねない。

ここに来た時点で、すでに綱渡り状態だ。


「お前はどうなんだ?ここに何か策があったから来たんじゃないのか?」


俺は黄泉の方に顔を向けて問いかけた。

黄泉は肩を軽くすくめ、気の抜けた表情で答えた。


「わっちの予想を遥かに超えてありんす。」


黄泉はそう言いながら、階段の横に腰を下ろした。

そしてキセルを吹かせながら、どこか楽しげに、だが少しだけ悔しそうな口調で続けた。


「わっちの予想では、せいぜい此処が魑魅魍魎の溜まり場になっている程度でありんした。」


そう言うと、黄泉はキセルを置き、指先で魔力飽和液をすくった。

光を反射して揺れる液体を眺めながら、彼女は呟くように言った。


「これは……わっちの予想を遥かに超えてありんす。正直に申し上げて、わっちにはもう手の打ちようが無いでありんすよ。」


黄泉がその場に座り込むのを見て、俺は深く息を吐いた。

ここに来るまでの彼女の余裕は一体どこへ行ったのか。

今の彼女は完全にお手上げ状態だった。


俺は再び目の前の魔力飽和液を見つめた。

この状況をどうにかしなければならない。

だが、その手段が見えない。


「……詰んだな。」


俺はそう呟きながら、階段に腰を下ろした。

横には黄泉が座ったまま、ゆるりとキセルを吹かしている。

けれど、俺も黄泉も打つ手がなかった。

目の前には滴り落ちる魔力飽和液、耳にはそれが奏でる静かな音。

そんな不気味な美しさが広がる中で、俺たちはただその情景をぼんやりと眺めていた。


天井から滴る魔力の小雨が、蒼白い光を纏ってキラキラと輝く。

それが魔力飽和液の表面に触れるたび、淡い波紋が広がる。

幻想的で、まるで美術品のような光景だ。

だけど、この美しさの裏にあるのは破滅だ。


「これからどうするでありんすかえ?」


黄泉の言葉が、静寂を破った。


「どうするも何も……自壊するのを待つか、自滅覚悟で悪あがきするかしかないだろ。」


俺は天井を見上げたまま、投げやりに答えた。


「自滅覚悟かえ……」


黄泉は苦笑いを浮かべながら、キセルをくるりと回した。

その表情は、どこか憂いを含んでいるようにも見える。


「他に手があるなら聞きたいが?」


俺は視線を黄泉に向ける。

黄泉は小さく肩をすくめ、苦笑いを浮かべたまま俺を見つめ返してきた。


俺たちは同時に、大きなため息を吐いた。


「ハァ〜……」


無言のうちに共有される無力感。

それでも俺たちは、この場を放置するわけにはいかない。

放置すれば、この美しい空間が破滅の引き金になる。

けれど、どうすればいい? 何をすれば、この状況をどうにかできるのか?


再び訪れる沈黙の中で、俺は頭を掻きむしりながら考え続けた。

けれど、その答えは見えないままだった。


しばらくの沈黙が続いた。

蒼白い光の小雨が、無情に滴り落ちる音だけが響いている。

その中で、俺は口を開いた。


「この際だから幾つか聞きたいことがあるんだが、聞いてもいいか?」


黄泉はキセルを軽く吹かしながら、相変わらずののほほんとした口調で答えた。


「答えられる範囲なら良いでありんすよ。」


「ここで死んだら……俺たちはどうなるんだ?」


黄泉は少し目を細め、俺の顔をじっと見つめた。

その視線はどこか深く、底が見えない。

俺が何を知りたがっているのか、探るような雰囲気だった。


「死という定義を、人間のそれで例えるんでありんしたら――」


黄泉は少し間をおき、キセルを唇から離すと、ふわりと煙を吐き出した。


「わっちらは既に死人でありんす。」


その言葉には、妙に重みがあった。


「……どういうことだ?」


「人としての命は、とうの昔に尽きておりんすよ。ここにいるのは魂――いや、魂の残滓と言うべきでありんすかね。」


黄泉は軽く微笑むが、その表情にはどこか哀愁が漂っていた。


「では、ここでさらに命を落とすとどうなる?」


俺は続きを促すように問いかけた。


「ふふ……そうでありんすねぇ。存在そのものが霧散するか、あるいは何かに喰われるか――いずれにせよ、時夜はんやわっちのような存在は、輪廻には戻れんでありんす。」


「輪廻に戻れない……」


俺はその言葉を繰り返し、思わず眉をひそめた。


「つまり、ここで消えるってことか。」


黄泉は静かに頷いた。


「その通りでありんす。死んだあとすら存在できない――それがこの場所で消えるということ。時夜はん、わっちはそれを“終焉”と呼んでおりんす。」


俺は息を呑み、魔力飽和液が滴り落ちる音を再び耳にした。

それはまるで、残された時間を刻む時計の針の音のようだった。


「……黄泉、お前はそれが怖くないのか?」


ふと口から出た問いかけだった。

俺自身、気づかないうちにそんなことを考えていたのかもしれない。


「怖いでありんすよ。」


黄泉は煙を吐きながら、軽く笑った。


「だったら……」


俺が言葉を続けようとするのを、黄泉はすぐさま被せるように口を開いた。


「もっと必死になれでありんすか?」


黄泉の声は穏やかだが、その目は冷静に俺を見据えていた。

微笑んでいるはずなのに、その奥には一切の妥協がない鋭さがあった。


「……あぁ。」


それしか返せなかった。

言葉に詰まり、次に何を言えばいいのかわからない俺に、黄泉は続けた。


「時夜はんも、刀祢はんも――もっと必死になるでありんす。この程度で絶望しているようでありんしたら、この先はありんせん。」


その言葉に、胸の奥が少しだけチクリと刺された気がした。

黄泉はそう言いながらキセルをくるりと回し、ふーっと煙を吐き出した。


「それは……どう――」


どういう意味なのか、と聞き返そうとしたその瞬間。

黄泉はキセルを置き、俺の口元に指を当てて、言葉を遮った。


「話はここまででありんす。」


柔らかな声と共に、黄泉は微笑んだ。

その笑顔はどこか無邪気さを装っているようにも見えたが、実際には底知れない何かが潜んでいるように感じられる。


俺は返す言葉を失った。


黄泉は再びキセルを持ち直すと、また煙をゆっくりと吐き出し始めた。

その仕草はいつもと変わらない、のんびりとした黄泉の姿そのものだったが、彼女の言葉だけが耳の中に深く残ったままだった。


「なら、最後に一つだけ聞いてもいいか?」


俺は口を開き、黄泉に視線を向けた。

黄泉はキセルを吹かしながら、興味なさそうに答えた。


「なんでありんす?」


「俺がここに飛び込んだ場合、お前は俺の魂を守ることはできるか?」


黄泉はキセルを止め、一瞬だけ間をおいた後、あっさりと答えた。


「無理でありんすね。」


そのあまりにあっけない答えに、俺は眉をひそめた。


「理由を聞いても?」


黄泉はキセルを唇に当て、煙を吐きながら淡々と続けた。


「わっちの手の届かない場所に飛び込むのに、どうしろと言うでありんすかえ?例え一緒に飛び込んだとしても、わっちもろとも消えて無くなるでありんす。」


その声には感情の起伏がほとんど感じられず、黄泉らしいと言えばそれまでだが、少しだけ苛立ちを覚えた。


「なら、お前の手の届く範囲なら守れるんだな。」


俺はそう言いながら黄泉の反応を待つことなく、目の前に広がる魔力飽和液に手を伸ばした。


「ちょっと――!」


黄泉が声を上げるよりも早く、俺は魔力飽和液に触れ、そのまま全てをアイテムボックスに吸い込むように収納した。


魔力飽和液が消えた瞬間、空間全体が揺らぎ、耳をつんざくような轟音が響き渡る。


黄泉はキセルを取り落とし、慌てて立ち上がる。


「時夜はん!何をしてるでありんすか!」


「これで――少しはマシになっただろう?」


俺は黄泉を振り返りながら、薄ら笑いを浮かべて言った。


空間は未だに不安定だ。

だが、飽和液がなくなったことで、少なくとも一つの危機は回避できたはずだ。


「どうせ全て消えて無くなるんだ。なら後はお前にかけるだけだ。」


俺の言葉に、黄泉は一瞬呆然とした表情を浮かべたが、すぐに扇子で口元を隠し、微かに笑った。


「無茶苦茶でありんすな、時夜はん。」


俺は黄泉に薄ら笑いを浮かべて意識を手放した。






「終わったか?」


低い声が響き、刀祢が黄泉に近づいてきた。

黄泉はその声に顔を上げ、いつものようにのらりくらりとした調子で応じた。


「遅かったでありんすね?」


刀祢は眉間に皺を寄せつつ、鋭い視線を時夜へ向けた。


「お前たちの話が終わるのを待っていたんだ。それで……あいつは死んだのか?」


その問いに対し、黄泉は一瞬だけ口元に扇子を当てて思案するような仕草を見せた後、答えた。


「まだ消えてはおりんせんよ。」


刀祢の視線が鋭さを増し、時夜の姿をじっと見据える。

彼の身体は微かに消えたり戻ったりを繰り返し、不安定な状態に見えた。


「だが、あいつの身体が消えたり戻ったりしているが?」


刀祢の指摘に、黄泉は微笑みを浮かべながら、優雅にキセルを吹かした。


「破壊と再生を繰り返してるでありんす。」


「何があった?」


刀祢の声には苛立ちが混じっている。

その問いに黄泉は、淡々とした口調で答えた。


「ここを満たしていた魔力飽和液を自分の宝物庫に取り込んだでありんす。」


刀祢はその言葉に一瞬、眉を寄せ険しい表情を浮かべる。

黄泉はそんな刀祢を見ながら、膝枕の態勢で時夜の頭を優しく撫でた。


「それで?」


刀祢の問いに、黄泉は軽く息を吐き、大きなため息をつく。


「刀祢はんは、もっと勉強せななりんせんな。」


その言葉には呆れが含まれているが、同時にどこか諦めのような響きもあった。


「詳しく説明しろ。」


刀祢が強い調子で言うと、黄泉は時夜の髪を優しく撫でながら、言葉を選ぶように続けた。


「魔力飽和液をそのまま取り込めば、当然身体がそれに耐えられるわけもなく、こうして破壊と再生を繰り返してるでありんす。でも――」


黄泉は目を細めて時夜の表情を見つめた。


「彼がこの過程を乗り越えれば、新たな段階に達するかもしれんでありんすよ。」


その言葉に刀祢は苛立ちながらも少し黙り込み、考え込むような仕草を見せた。


「つまり、賭けってわけか?」


刀祢の皮肉混じりの問いに、黄泉は微笑みながらキセルをゆっくりと吹かした。


「何事も、そうでありんしょう。」


その場には、不安定な静寂が漂った。

ただ時夜の身体は、なおも破壊と再生を繰り返しながら、その行く末を暗示するかのように、微かな輝きを放ち続けていた。



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