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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 

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もう一つの魂 肆(画像あり)

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

あれから俺は、酒を手にぼーっとしながら考え続けていた。

どうやったら、この状況から抜け出せるのか――助かる道はあるのか。


だが、どれだけ頭を捻っても、出てくるのは憶測や予測ばかり。

確信には至らない。

思考が堂々巡りするばかりで、結論にたどり着けない自分に、苛立ちさえ覚えていた。


「……こんなことしてても埒が明かないな……」


重い溜め息をつきながら、俺は杯を置いて立ち上がる。

その仕草を見ていた黄泉が、キセルをくるりと回しながら口を開いた。


「どちらへ行かれるのでありんすかえ、時夜はん?」


「一旦、ダンジョンコアの様子を見に行く。」


その言葉に、刀祢が眉をひそめた。


「本気か。無闇に動いて刺激すれば、さっき言ってた爆弾を自分で叩き割るようなもんじゃないのか?」


「分かってるさ。」


俺は刀祢を横目で見ながら答える。


「だが、こうして座っていても何も変わらない。少なくとも現状を直に見なければ、次の手も考えられないだろ。」


刀祢は短く舌打ちをし、腕を組んだまま黙り込む。


黄泉は興味深そうに俺を見つめ、扇子を開いて口元を隠しながら、含み笑いを漏らした。


「ふふ、時夜はんらしい判断でありんすな。それでは、わっちも同行致しんすかえ?」


「あぁ頼む。俺は場所が分からないからな。」


「了解でありんす。」


黄泉はそう言うと立ち上がり、黒い霧の渦を空中に生み出した。

その光景を見た俺は、思わず眉をひそめる。


「これは?」


「霧の門でありんす。」黄泉が答える。


「なるほど、転移門……ゲートか。」


そう言って納得すると、黄泉は「今はそう呼ばれてありんすかえ?」と興味深そうに尋ねてきた。

「あぁ、現世ではな。」俺が答えると、黄泉は満足そうに頷きながら、空間転移について俺達は話し始めた。


俺たちがそんな会話をしている間、刀祢は微動だにせず座ったままだった。

それに気づいた黄泉が、ちらりと視線を向ける。


「刀祢はんは行かんでありんすかえ?」


「行かん。」


刀祢は短くそう答え、視線をそらした。


「怖気づいたでありんすかえ?」


黄泉の問いかけに、刀祢は舌打ちをするだけだった。


「ビビったな。」


俺が軽く挑発すると、黄泉もクスクスと笑いながら言葉を重ねる。


「怖気づいたでありんすね。」


刀祢の肩がピクリと動く。


「まぁいい。「何もしないで死ぬか、何かを成し遂げようとして死ぬか」を選ぶのは自由だからな。」


俺はそう言い残し、霧の門を潜った。


その直後――


「あぁぁぁぁっ!」


刀祢の荒れた声が背後から響く。

振り返ることなく進む俺を追うように、刀祢が立ち上がり、霧の門へと飛び込んできた。


その様子を目にした黄泉は、扇子で口元を隠しながら、楽しそうにクスクスと笑う。


「相変わらず素直じゃないでありんすねぇ~。」


そう呟くと、黄泉も軽やかに霧の門を潜った。




俺たちが転移した先は、まさに地獄絵図とも言える合戦跡地だった。

辺り一面には武将や兵士たちの死体が幾重にも重なり合い、無惨な姿を晒している。

地面には血が染み込み、あちこちで死体が焼け焦げており、鼻をつく強烈な死臭と焦げた肉の匂いが立ち込めていた。


「……ひどいな。」


俺は無意識に口元を押さえながら呟いた。


「この先が主の間でありんす。」


黄泉が着物の袖で鼻を覆いながら、視線を前方に向けて告げる。

その先には、巨大な城が霧の中にぼんやりと浮かび上がっていた。

崩れかけた石垣と焦げ跡の残る外壁が、長い間この地で繰り広げられてきた闘争の激しさを物語っている。


俺たちは黙ってその戦場を進む。

無数に転がる兵士たちの死体を踏み越えながら、一歩一歩前へと足を運ぶ。


死者の怨嗟が残るこの場所は、異様なまでに静まり返っていた。

風さえも吹かず、ただ暗い空気がまとわりつくように漂っている。


戦場を抜けるまでの道は、終わりの見えない苦行のようだ。

足元に転がる遺体の多くが、断末魔の表情を浮かべたまま硬直しており、その眼差しは何かを訴えるかのようにこちらを見つめている。

俺達は、死者たちの嘆きが木霊する戦場を、ただひたすら前へ進んだ。


城の堀までたどり着き、俺はそびえ立つその異様な建造物を見上げた。

不気味な瘴気が漂い、いたるところに傷や血糊がこびりついている。

崩れた城壁には兵士や武将の亡骸がぶら下がり、合戦の物々しい惨状をまざまざと物語っていた。


「見たことのない城だな……」


つぶやきながら城の姿をじっくりと目で追う。

江戸城のような規模感を持ちながら、小田原城を彷彿とさせる要塞の堅牢さも感じさせる。

しかし、霧のせいか視線や見る方向が変わるたびに城の印象はがらりと変わる。

まるで見られることそのものを拒むかのような異様な存在感だった。


「時夜はんが知ってるかどうかはわかりんせんが……ここは怨念の溜まり場でありんす。」


隣で黄泉が着物お袖で口を覆いながら静かに語り出す。


「この城も、この戦場も、怨念が作り出した幻影でありんすよ。想い、執念、絶望、憤怒――過去に生きた者たちの記憶が混じり合い、こうして形を成しているんでありんす。」


黄泉の説明を聞きながら、俺は周囲を改めて見渡した。

荒れ果てた戦場に掲げられた幟旗には、知る者もあれば知らぬ者の家紋が描かれている。

有名な戦国大名の旗もあれば、歴史に埋もれた無名の者たちの旗も混じっていた。

ふと見上げた城壁の幟旗には、複数の家紋が並ぶ不自然な光景が広がっている。

それは、あらゆる因縁や怨恨が混ざり合って作り上げられたこの場の異様さを象徴しているようだった。


「なるほどな……」


俺はそれらを一つ一つ目で追いながら、呟くように納得した。


「つまり、この場所は過去の記憶と想念が寄せ集まったもの……あらゆる争いの残滓が形を成しているわけか。」


「その通りでありんすよ。」


黄泉は軽く頷いた。


「ここに集う怨霊たちは、己の恨みを果たすためにこの城に囚われ続けているのでありんす。だから、見る方向や意識するものによって城の姿が変わるんでありんすよ。」


「お前も詳しいんだな。」


俺が感心したように言うと、黄泉はいたずらっぽく微笑みを浮かべた。


「わっちは遊郭の主でありんすから。京の都でも、似たような話はよく耳にしたものでありんすよ。」


俺は彼女の話を聞き流しながら、もう一度視線を城に戻す。

その不気味な存在感が、じわじわと胸に重くのしかかってくる。


「さて……そろそろ行くか。」


俺は深く息を吸い込み、気を引き締めて城に向かって歩き始めた。

その背後で、黄泉が楽しげに微笑みながら俺についてくる気配がした。


俺たちは堀を渡り、重厚な正門の前に立つ。

その扉は錆びつき、幾度の戦乱をくぐり抜けたかのように無数の傷跡が刻まれていた。


俺が動き出した瞬間、正門がゆっくりと音を立てて開き始める。

その隙間から、一気に濃密な瘴気が吹き出してきた。


「……これはまた、ずいぶん歓迎されてるな。」


吐き出される瘴気はさらに濃厚になり、肌に纏わりつくような不快感がある。

湿った空気が喉を塞ぐようで、歩みを進めるたびに胸が重くなる。


正門を潜り抜けた先は広々とした広場だった。

その広場の中央に、一人の武将が静かに立っている。

漆黒の甲冑に身を包み、手には長大な刀を携え、その存在感だけで周囲を圧倒していた。



挿絵(By みてみん)




「……主は不在じゃなかったのか?」


俺は刀祢に視線を向け、問いかける。


「あぁ……以前来た時はいなかったんだがな。」


刀祢は答えながらニヤリと笑い、刀に手をかける。

その顔は不気味なほど嬉々としていた。


「戦国の武将か……これは楽しめそうだ。」


刀祢はそう言って意気揚々と前に進み出る。

俺と黄泉は互いに顔を見つめ合い、同時にため息を吐いた。


「お前たちはボスを倒せるのか?」


俺が問いかけると、黄泉は肩をすくめて答えた。


「わっちらは、主と戦う事は出来ても止めを刺すことは出来んせん。」


「そうか……思った通りだな。」


俺たちは広場の中央に佇む武将を睨みながら、その間合いへと静かに歩み寄った。

ヒューっと風が吹き抜け、濃密な魔力が渦巻く中で、広場には不気味な静寂が広がっていた。


「動かないな。」


俺がつぶやくと、黄泉も小さく頷いた。


「動かんでありんすね。」


俺と黄泉は顔を見合わせてひた向き、視線を再び武将へと戻す。


「仕方ない……確かめるか。」


そう言って俺はゆっくりと武将に近づき、その鎧にそっと手を伸ばした。


瞬間――


武将の姿は、砂のように崩れ始めた。

甲冑が粉々に砕け、体が霧散するように霞となって消えていく。


「……これは一体……?」


目の前の光景に、俺は驚きつつも冷静に呟いた。

振り返ると、黄泉がいつもの余裕の表情を崩さず、キセルを軽く回しながら俺を見ていた。


「どうやら死んでいたみたいでありんすね…」


黄泉は煙を一つ吐き、楽しげに言葉を続けた。

その無駄のない軽口に、俺はわずかに眉をひそめるが、特に追及はしなかった。


俺はその言葉を聞き流しつつ、消えた武将が残した微かな痕跡に目を凝らした。


「さて……どうしたものか……」


俺は腕を組み、目の前にそびえ立つ不気味な城を見上げながら呟いた。

廃墟のように荒れ果てたその姿は、無数の傷跡と血糊で覆われ、陰鬱な空気を漂わせている。

この城のどこかに、俺たちが探しているコアがある――そう思うしかなかった。


「とりあえず、コアを目指すか……おそらく、あるなら城の中だろうし。」


そう自分に言い聞かせるように呟き、俺は重々しい足取りで城の中へと足を踏み入れた。


城内は、外観以上に荒廃していた。

天井から瓦礫が落ち、壁には無数の亀裂が走り、床には崩れた石材や木片が散乱している。

だが、それ以上に目を引くのは、濃密な瘴気と魔力だ。


空気そのものが淀み、蒼白い陽炎のようなものがゆらゆらと揺らめいている。

その光景は、この空間が現実ではないような錯覚さえ引き起こす。


「これはまた……強烈でありんすね……」


黄泉が着物の袖で口元を覆いながら呟く。

彼女の言葉は、まさに俺たちの心境を的確に代弁していた。


目の前には、大きな階段が二つ並んでいた。

一つは地下へと続く階段。

もう一つは上階へと続く階段だ。


どちらも不気味な闇に包まれているが、地下へと続く階段からはひときわ濃密な魔力が漂い、空間を歪めるほどだった。


「どちらに進むでありんすかえ?」


黄泉が問いかけてくる。

俺は地下へと続く階段から漂う魔力の気配をじっと見つめ、しばらく考えた。


「おそらく、本命は下だろうな……」


そう結論づけた俺は、振り返って刀祢に指示を出す。


「悪いが、刀祢。上の探索を頼む。俺と黄泉は下に行く。」


刀祢は眉をひそめ、不機嫌そうに問い返した。


「理由を聞いてもいいか?」


「おそらく本命は下だ。俺と黄泉は下を確かめて対策を考える。お前には、上階で使えそうなものを探してきてほしい。宝物庫でも何でもいい。役に立ちそうなものがあれば、根こそぎ持ってきてくれ。」


刀祢は鼻で笑いながら皮肉めいた口調で返す。


「俺に盗人になれと?」


「探索者はそういうものだ。」


俺の言葉に、刀祢はため息を吐きながら肩をすくめた。


「わかったよ……期待すんな。」


そう言い残して、刀祢は上階へと続く階段を昇り始めた。


刀祢の背中が見えなくなるのを見届けた俺と黄泉は、地下へと続く階段を降り始めた。


階段はどこまでも続いているかのように長く地下に伸びていた。

足音がやけに大きく響き、空気の重さが増していく。


瘴気の濃度はさらに高まり、肌に張り付くような感覚が全身を覆う。


「これで良かったのか?」


俺は足を進めながら黄泉に問いかけた。


黄泉はキセルを軽く吹かしながら、淡々と答える。


「何がでありんす?」


「お前の目的は下だろ?」


俺が追及すると、黄泉は即座に否定する。


「違うでありんすよ。」


「なら……」


俺がさらに目的を聞き返そうと顔を向けると、黄泉は静かに指を立てて俺の唇を押さえた。


「時夜はんは何が知りたいでありんすかえ?」


彼女はいつものように微笑みながら、柔らかい声で問いかけてくる。


「目的?それとも真実?どちらにせよ、ここをどうにかせんことには意味がありんせんよ。」


その言葉に、俺は軽く舌打ちをして黙り込む。

結局、彼女の言う通りだった。

ここを如何にかしないかぎり俺達には未来が無いのだから。


それから俺と黄泉は無言のまま階段を降りていった。

足音だけが木造りの階段に響き、空気はますます淀んでいく。

地下へと近づくにつれ、蒼白い魔力が空間を包み、揺らめく光が視界を歪める。


階段を下り切った先は、広大な空間が広がっていた。

周囲の壁は不規則な模様を描くように魔力が染み込んでおり、地面からはじわじわと瘴気が立ち上っている。

息をするたびに肌に纏わりつくような感覚が不快だった。


黄泉はキセルを指先で回しながら、どこか楽しげに周囲を見回していた。

その余裕のある笑みが、かえって不安を煽る。


「さて、何が待ち構えているのか楽しみでありんすね。」


彼女の言葉は軽やかだったが、その奥に妙な含みを感じた。


「その余裕、どこから来るんだか……」


俺は彼女の様子に苦笑しながらも、目の前にそびえる巨大な門へと目を向ける。


門は黒く鈍い輝きを放っており、瘴気がその表面を覆い、見るだけで圧迫感を感じるその門に、俺はそっと手を伸ばした。


「さて、何が出るやら……」


半ば嘆くように呟きながら、俺はゆっくりとその門を押し開けた。


軋む音とともに、重厚な扉がゆっくりと開き始めた。

その向こうに待つものが何であるのか――答えを知るのが、恐ろしくもあり、楽しみでもあった。


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