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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 
31/61

もう一つの魂 弐(画像あり)

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい


キャラクターの容姿や髪型等は多少違ったりもします。

黄泉が布団に横になりながら、話しかけてきた。


「おや~、もう帰って来たでありんすかえ?」


目を覚ました俺は、全身に襲いかかる疲労感とともに、猛烈な吐き気を感じた。


「ウゲェ……ハァ、ハァ、ハァ……」


額から冷や汗を流し、深く息を吸い込む。


そんな俺を見ながら、黄泉はキセルを優雅に吹かしながら薄く笑った。


「無茶するからでありんすよ。」


「……黙れ。」


息を整えながらそう返すが、黄泉はどこ吹く風だ。

煙を吹かしながら、にやけた表情で俺を見ている。


しばらくしてようやく吐き気が治まり、俺はふらつきながらも立ち上がった。

手を握ったり開いたりして感覚を確かめる。

まだ若干の違和感があるが、これなら何とか動けるだろう。


「準備はできたでありんすかえ?」


黄泉が横目で俺を見ながら問いかけてくる。


「あぁ……たぶんな。」


そう返しながら、俺は記憶を掘り起こし、前世で自分が使っていたキャラを頭の中に思い描く。


俺は目を閉じ、全身の魔力を限界まで解放した。

ごぅっと黒い魔力が渦を巻き、空気が重たく震えるような感覚が広がる。

部屋全体に圧迫感が満ち、黄泉がキセルを止めてじっとその様子を見守っていた。


「随分と派手でありんすなぁ……」


黄泉の声が遠く聞こえる中、俺は意識を集中させた。

体内を駆け巡る魔力を制御し、意識の中で前世の自分を具現化する。


黒い魔力が激しく渦巻き、俺の身体を包み込む。

その中心で、俺の姿が少しずつ変わっていく。


肉体が強化され、衣服が変化し、かつて自分が愛用していた武具が手元に具現化される。

黒いコートに身を包み、鋭い眼差しを持つその姿――それは、前世で自分が使っていたキャラクターそのものだった。


挿絵(By みてみん)




「……これでいい。」


俺は新たな身体の感覚を確かめるように拳を握り、そしてゆっくりと開く。

前世の感覚が完全に戻ったこの感覚――それが今の俺のすべてだった。


黄泉はその様子を満足げに眺め、軽く微笑む。


「お見事でありんす。これなら、何が来ても怖くありんせんね。」


「言うじゃないか。」


俺はそう返しながら、黒い魔力を収束させ、静かに息をついた。


「シッ!」


鋭い掛け声とともに、刀祢が俺の顔を目がけて強烈な突きを繰り出してきた。

俺は咄嗟に顔を横にずらして突きを避けると、突き出された刀祢の右手を掴み、じっと睨みつける。


「ずいぶんなご挨拶だな。」


「黙れ!」


刀祢は怒りを露わにし、俺を睨み返してくる。

その眼差しには、冷静さを失った鋭い光が宿っていた。


「どうゆうつもりだ黄泉!何故こいつを覚醒させた!」


刀祢は激昂しながら、黄泉に声を荒げる。


黄泉はというと、まったく動じる様子もなく、キセルを吹かしながら答えた。


「どうもこうも、勝手に覚醒されたでありんすよ。」


のらりくらりとした口調で、いつもの調子を崩さない。


「この女狐が……!」


刀祢は舌打ちをし、さらに怒りを募らせた。


「邪魔なんだが。」


俺は刀祢の腕を強引に引き、後方へと押し退ける。

体勢を崩した刀祢はすぐに立て直し、刀を構え直した。


一瞬の静寂の中、俺は縮地を使って一気に距離を詰める。

そして、刀を鞘から振り抜き、一撃を繰り出した。


「一閃。」


閃光のような斬撃が刀祢を襲う。

だが刀祢もただでは済まない。

両手で刀を構えて斬撃を受け止めると、そのまま後方へ滑るようにずさりながら耐えた。


「この化け物め……!」


刀祢は低く唸るように吐き捨てる。


互いに睨み合いながら、再び距離を詰める。

同時に駆け出し、剣戟が激しく交わる。


キンッ、キンッ、キンッ――


豪華な室内に鋭い金属音が響き渡り、静寂が一瞬たりとも訪れない。


「……あまりわっちの部屋で暴れんでおくんなまし。」


黄泉は相変わらず優雅にキセルを吹かせながら、状況を眺めている。


「だとさ!」


俺は振り上げた刀を一瞬止めると、刀祢の顎に思い切り掌打を叩き込んだ。


「ぐっ……!」


掌打の衝撃で刀祢は大きく吹き飛ばされ、そのまま窓の障子を突き破り、豪華な室内から外へ放り出される。


俺は窓枠を蹴り、勢いよく遊郭街の石畳へと降り立った。

目の前には刀祢が立ち上がり、忌々しそうにこちらを睨んでいる。


「この化け物が。」


「それはお互い様だろ。」


互いに刀を構え、目線だけで探り合う。

次の瞬間、同時に駆け出し、刀を激しく交わした。

遊郭街に鋭い剣戟音が響き渡る――キンキンキンッ。


「……ッ!」


激しい斬撃の応酬が続き、俺たちは一歩も譲らない。

互いの刀が火花を散らし、何度も打ち合った末、鍔迫り合いに持ち込まれる。


「黙って使われていれば良いものを。」


刀祢が歯を食いしばりながら毒づく。


「黙れ。お前らと無理心中なんて御免だ。」


俺も負けじと睨み返し、剣にさらに力を込める。


鍔を弾き合い、一瞬の間を置いて距離を取ると、互いに同時に刀を納刀し、腰を深く落として構えた。


「このまま黙って死んで逝け。」


「せっかく手に入れた自由だ。好きにやるさ。」


沈黙――空気が張り詰める中、俺たちは再び睨み合う。

その視線は鋭く、一切の隙を見せない。

次の瞬間、同時に駆け出す。


「御剣流剣術 乱撃!」

「御剣流剣術 乱舞!」


互いに技名を叫びながら、激しい連撃を繰り出す。

キャイン、キャイキャイキャイ――鋭い剣戟音が響き渡り、刀と刀が激しく交わる。

乱撃と乱舞がぶつかり合い、閃光が弾けるような衝突が続いた。


「はああっ!」


「くっ……!」


交錯するたびに、互いの技が火花を散らし、ついに再び鍔迫り合いとなる。

刀を交差させたまま、二人でぐるぐると回るように動きながら力を競い合った。


一瞬の隙をついて、互いに刀をいなし、一気に距離を取る。

次の技が勝負を決める――その確信を胸に、再び同時に技を繰り出した。


「「御剣流剣術 千枚通し!」」


互いに鋭い突きを繰り出し、剣先が目にも止まらぬ速さで空を裂く。

突き出した刀は、互いの左肩を正確に貫いた。


「――ッ!」


突き刺さる痛みに、二人とも同時に後方へ吹き飛ばされる。

俺は地面を転がり、すぐさま膝をついて体勢を整える。

刀祢もまた、瓦礫をどけながら立ち上がり、再び俺を睨みつけてきた。


その光景を遊郭の最上階から黄泉がキセルを吹かしながら眺めていた。

煙の向こうからでも分かるほど、彼女は余裕の笑みを浮かべている。


「……やれやれ。男というものは、本当に意地っ張りでありんすねぇ。」


そう呟きながら、黄泉は扇子を広げて顔を隠し、二人の激闘を静かに見守っていた。




俺たちはお互い満身創痍の状態で、意地と気力だけで刀を振り回していた。

キャイン、キャイン――金属音が虚空に響き渡り、その光景は戦いというよりも、子供のチャンバラ遊びのようだった。


「……っ!」


刀祢も俺も、呼吸は荒く、体力の限界が見えていた。

だが、それでも最後の気力を振り絞り、振るう刀を止めることはなかった。


お互いの刃が閃き、決定的な一撃が放たれる――その瞬間。


チンッ!


二人の刀はピタリと止まった。

それを止めたのは、黄泉だった。

彼女はキセルと扇子を軽々と操り、俺たちの刃を受け止めていたのだ。


「そこまででありんす。」


黄泉はゆったりと微笑みながら、二人の間に立ちはだかる。

その余裕たっぷりな態度に、俺も刀祢も言葉を失った。


「わっちの領域で暴れんとくれんせんな。」


黄泉の静かな一言が、場の空気を一気に冷やす。

お互いに息を切らしながら周囲を見回すと、先ほどまでの妖艶な遊郭街は見る影もなく破壊されていた。

建物はボロボロに崩れ、そこかしこで瓦礫が散乱している。


物陰から覗いているのは、幽鬼たちだ。

遊女の幽鬼たちは怯えた様子でこちらを伺い、黄泉に救いを求めるような視線を送っていた。


刀祢は重たそうに刀を地面に突き刺し、膝立ちの状態で荒い息をつきながら黄泉を睨む。


「……お前のせいだろ。」


その声には苛立ちとわずかな疲労感が滲んでいた。

俺は刀を手放し、地面に座り込む。

額から汗が滴り、荒い息を整えるのに精一杯だった。


「わっちは関係ありんせん。」


黄泉はキセルを口元に運び、ふぅっと煙を吐きながら刀祢を一喝する。

その悠然たる態度は、刀祢の怒りにさらに油を注ぐようだった。


「葵はんもよろしいかえ?」


黄泉が俺に目を向ける。

彼女の落ち着いた声に、俺は肩で息をしながら答えた。


「あぁ……もとより、あいつが手を出してきただけだからな。」


俺は刀祢をちらりと睨む。

刀祢は相変わらず鋭い目つきで黄泉を睨みつけながらも、疲労の色を隠しきれていない。


黄泉はため息をつき、扇子で口元を軽く隠しながら言った。


「はぁ~童じゃありんせんでしょうに……このままじゃどちらも共倒れでありんすえ?」


その言葉に、俺も刀祢も返す言葉を失った。

俺たちはまるで言い争う子供のようだった――お互いに自覚していたのだろう。


俺は一瞬、黄泉を見つめてから深く息を吐いた。


「悪かったな……」


それだけを言い、俺は再び座り込んだ。

刀祢も一言も発さず、地面に突き刺した刀を支えにしながらゆっくりと立ち上がる。


黄泉は先ほどの戦いで荒れ果てた遊郭の景色を一瞥し、ふっと息をつくと、軽やかに口を開いた。


「部屋に戻って、話の続きをするでありんすえ。」


そう告げると、彼女の体は霧のように薄くなり、瞬く間に消え去った。

残された俺は、その光景をぼんやりと見つめながら、先ほどまでいた部屋を思い浮かべる。


「転移…ね……できるのか?」


試しに、魔力をそのイメージに流し込むと――


――ドスンッ。


座ったまま発動したせいか、転移先を見誤り、部屋の天井付近に出現した俺は、無様にもそのまま落下して床に倒れ込んだ。

不格好な姿勢のまま天井を見上げる俺に、黄泉が目元を扇子で隠しながら笑いかける。


「無茶するでありんすな。」


「……転移は、できた。」


俺は肩で息をしながらも、自分が転移できたことに小さく安堵する。


そのころ、遊郭の外に取り残された刀祢は、破壊された街並みを無言で見渡していた。

物陰に怯える幽鬼たちを一瞥し、彼はぼそりと呟く。


「化け物共が……。」


肩を落としながら、刀祢はひとり寂しく歩き始めた。


一方、部屋の中では、黄泉が手を二度パンパンと打ち鳴らし、花魁の幽鬼たちを呼びつけていた。

美しい装束に身を包んだ幽鬼たちは、黄泉の合図で酌の準備を始める。


「さて、刀祢はんが来るまで飲んで待つとしようかえ。」


そう言って黄泉は座り直し、酒杯を手に取る。

幽鬼たちの一人が酒を注ぐと、黄泉はそれを優雅に口に含む。


ふと思い立った俺は、花魁の幽鬼を横に呼び寄せ、彼女の腕を引いて胸を揉んでみた。

幽鬼の花魁は微動だにせず、その行動を見ていた黄泉が軽く眉を寄せながら問いかける。


「何をしてるでありんすかえ?」


「いや……幽鬼の花魁を抱いたらどんな感じか、気になってな。」


「抱くでありんすかえ?」


黄泉が少しだけ驚いた様子で問い返してきたが、俺は首を横に振りながら続けた。


「無理だな。肌は冷たく、まるで空気が詰まった風船みたいだ。表情が見えても声が聞こえないのは、正直ダメだ。」


そう言うと、黄泉は扇子で口元を隠しながら意味深な笑みを浮かべる。


「なら、わっちで試してみるかえ?」


そう言いながら、黄泉は着物の襟をスルリと外し、豊かな胸元を大胆にさらけ出した。

その艶かしい姿に、一瞬目を奪われる俺だったが――


「やめておけ。その女狐に手を出すと、骨の髄まで喰われるぞ。」


低く響く声と共に、刀祢が部屋に入ってきた。

彼は一瞬黄泉の姿を見て、わずかに顔をしかめる。


「おやぁ~、遅かったでありんすね。」


「……その胸を隠せ。お前のは目に毒だ。」


刀祢は黄泉に冷ややかな視線を送り、幽鬼の花魁に酒を注がせると、ゆっくりと席についた。


「初心でありんすね~、刀祢はん。」


黄泉は着物を着直しながら小さく笑い、刀祢は舌打ちをして杯を傾けた。


「貴様、『蝶野の百鬼夜行』を知っているか?」


刀祢が杯を置き、静かに問いかけてきた。


「お伽話のやつなら。」


俺が答えると、刀祢は目を細め、酒を一気に飲み干す。


「その元凶が此奴だ。」


そう言って、刀祢は黄泉を指差した。


「失礼やなぁ~、乙女の秘密を暴くなんて。」


黄泉は肩をすくめ、悪びれる様子もなく笑みを浮かべる。


蝶野の百鬼夜行――

それは、平安時代に起きたとされる怪異譚だ。

京の都を出発した鬼女が魑魅魍魎を引き連れ、坂東の村々を次々と襲い、人々を喰らい尽くしたという物語。

子供たちに「悪いことをすれば、蝶野の百鬼夜行に喰われるぞ」と教える戒め話として伝わっている。


だが――


「その元凶が、黄泉……なのか?」


俺の問いに、黄泉は無邪気に微笑みながら言葉を濁す。


「さて、どうでありんすかねぇ?」


しかし、その瞳の奥にある得体の知れない光が、彼女の言葉が単なる冗談ではないことを物語っているようだった。








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