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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 

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初心者ダンジョン②(画像あり)

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい

あれから何匹かホーンラビットを狩ったものの、出てくるのは相変わらず角と毛皮ばかり。

肉はたまにドロップする程度で、期待にはほど遠い結果だった。

僕は思わずため息をつきながら、手元の戦利品を見下ろす。


「葵お坊ちゃま、兎を狩るのはこの辺りにしておきましょう。他の方の分が無くなってしまいます。」


摩耶が柔らかく言い聞かせてくる。

確かに、手当たり次第に草原を駆け回って狩り尽くしていたせいか、いくつかの探索者のパーティーは早々に下の階へと降りて行ったそうだ。


「次の階のピグーなら、各種肉の部位や内臓系がドロップするので大丈夫でしょう。」


摩耶が気遣うように慰めてくれる。

僕は「そうだね…」と小さく頷きながら、疲れた体を引きずるようにして下の階への階段に向かった。


下の階に着くと、そこは広大な草原から一転、自然豊かな森のような場所だった。

あちらこちらで探索者たちが狩りや採取に励んでいるのが見える。

沙耶が辺りを見渡しながら呟いた。


「少し人が多いですね…。」


挿絵(By みてみん)




その言葉に、摩耶が説明を加える。


「ここは初心者向けのダンジョンであると同時に、食料が豊富に取れることで有名な場所です。特にピグーは比較的温厚な魔物なので、初心者でも狩りやすいんです。」


挿絵(By みてみん)




目の前にはピグーがのんびりと草を食む姿が見える。

体長は2メートル近くあり、大きなブタそのものだ。

ただ、その巨体で動きが鈍そうで、特にこちらを警戒している様子もない。


「ピグーは不用意に近寄ったり、危害を加えない限り攻撃してくることはありません。分類としては安全な魔物ですね。」


摩耶がさらりと教えてくれる。


周囲を見渡すと、探索者たちはピグーの狩猟だけでなく、森の中で採取をしている人たちも多かった。沙耶が周囲を確認しながら、小声で補足する。


「平原や森といったフィールド系ダンジョンは、野菜や木の実、キノコなどの採取が可能です。なので、食糧が足りなくなった探索者が時折ここを訪れることもあります。」


「なるほど…。初心者ダンジョンって言っても、ここは色々と取れるんだな。」


僕は少し感心しながら、周囲の風景に目を走らせた。

確かに食料を得るには理想的な環境だ。

そんなことを考えていると、母様が僕に声をかけてきた。


「葵、そろそろ一匹狩ってみなさい。あなたのペースでいいから。」


僕は緊張しながらも、目の前でゆっくりと草を食むピグーに向けて刀を構えた。


ピグーに向かって駆け寄った僕は、一気に刀を振り下ろし、その首元を切り裂いた。

斬られたピグーは「ブビィィィ!」と苦しげに鳴き声を上げると、首から血を流しながら僕の方に向かって突進してきた。


「しまった!」


慌てて横に飛び避けると、ピグーは僕のすぐ横を通り抜け、そのまま力尽きたように倒れ込んだ。

そして、その体が黒い霞のように消えていくのを見届ける。


「ふぅ…。」


安堵の息を吐きながら刀を鞘に納め、ドロップ品を確認しに歩み寄った。

そこに残されていたのは、なんとブタの耳だった。


「ミミガーね…。お酒のあてには良いかも。」


母様が呟く声が背後から聞こえた。

摩耶と沙耶もその結果に苦笑いを浮かべている。


「チキショオォォォォ!」


僕は悔しさを全力で叫ぶと、再び森の中を駆け回りピグーを狩り始めた。

耳、耳、尻尾、豚足、耳、内臓、尻尾、肉――やっと肉が出た!


「やっとだ…!」


しかし、それもつかの間。また耳、尻尾、内臓といった素材ばかりが続く。

気が遠くなるほどの作業の中、僕はひたすら走り、刀を振り続けた。


そんな時だった。

目の前のピグーに向かって刀で突きを入れた瞬間、鈍い音と共に、僕の右腕が弾かれた。


「ガキン!」


ピグーの頭部が思いのほか硬く、突きが効かなかったのだ。


「しまった!」


体勢を崩した僕は、その隙を突かれ、ピグーの突進をまともに受けてしまった。


「うわっ!」


後ろに大きく跳ね飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる。

衝撃で肺から空気が抜け、息が苦しい。


「ごほっ、ごほっ…!」


咳き込む僕は、すぐに立ち上がることもできず、痛む体を押さえながら横たわるしかなかった。


「葵お坊ちゃま!」


摩耶が素早く駆け寄り、僕の状態を確認してくれる。

その後ろには沙耶が鋭い目つきで周囲を警戒し、さらなるピグーの襲撃がないか確認していた。


「葵、無事?」


母様が近づいてきて、僕の顔を覗き込む。

その目には心配とともに、少しの怒りも見え隠れしている。


「えぇ…なんとか…。でも、油断してしまいました。」


僕は痛む体を押さえながら答えると、母様が少しだけ厳しい声で言った。


「葵、戦いでは油断は命取りよ。ピグー相手でこれなんだから、もっと危険な相手ではどうなると思う?」


「はい…気をつけます。」


僕は素直に頷き、立ち上がろうとするも、まだ体に力が入らず摩耶の手を借りてようやく起き上がった。


落とした刀を受け取ると、摩耶がそっと僕に声をかけてきた。


「武器にはそれぞれ相性というものがあります。刀は突きや切り裂くことに特化していますが、それ相応の技量が求められる武器です。」


僕は頷きながら刀を握り直す。


「特に、突進してくる魔物は頭蓋が硬いのが特徴です。真っ向から突くのではなく、横から弱点を狙う必要があります。」


摩耶の説明に僕は「…はい」と短く答えた。

自分の未熟さが恥ずかしく、言葉がそれ以上出てこなかったのだ。


そんな僕の気持ちを察したのか、摩耶は微笑みを浮かべながら、僕の服についた土汚れを軽くはたき落としてくれた。


「別に怒っているわけではありませんよ。」


その穏やかな声に、少しだけ心が軽くなる。


「今の葵お坊ちゃまには、圧倒的に実践経験が足りません。でも、それは仕方のないことです。何度も失敗して、何度も学んでください。そのために私たちがいるのですから。」


摩耶はそう言いながら僕の服を整え、髪についた埃を払ってくれた。


「そうね。私も少し葵を急かしすぎたのかもしれないわね。」


母様はそう言うと、僕の頭をワシャワシャと無造作に撫でた。

その手の感触に、思わず肩の力が抜ける。


「予定を変更して、今日はピグー狩りに専念しましょう。今晩はバーベキューよ。」


母様の明るい声に、僕はほっとする反面、自分の不甲斐なさに胸が締め付けられた。

いつも母様や摩耶たちから厳しい訓練を受けてきたはずなのに、それに応えられなかった自分が情けなくて仕方がない。


そんな僕の気持ちを察したのか、摩耶がそっと肩に手を置いてきた。


「帰ったら、葵お坊ちゃまは受け身の練習をしましょうね。」


摩耶の言葉は穏やかに聞こえたが、その手の力は意外なほど強く、僕の肩をぎゅっと握りしめていた。


僕は堪らず摩耶の顔を見上げた。

彼女は相変わらずニコニコと微笑んでいたが、その目は全く笑っておらず、冷たく鋭い視線を僕に向けている。


その視線に、背中を冷たい汗が伝うのがわかった。


「え、えっと……が、頑張ります。」


何とか言葉を絞り出した僕に、摩耶は満足げに微笑みを深くした。


「その意気です。期待していますよ。」


その一言が、妙に怖かった。

僕は明日からも生きていられるのだろうかと、冷や汗を流しながら思わず天を仰いでしまった。


画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい。


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