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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 
23/61

目覚め

画像は自動生成AIによるものなので、イメージや雰囲気で楽しんで下さい

朝日が窓から差し込む頃、茜は病室の扉を静かに開けた。

葵と刹那の様子を見るためだ。

昨日までの緊張が、ほんの少し和らいでいるようにも感じられる。


しかし、次の瞬間、茜の足は止まり、言葉を失った。


「おはようございます、母様、みんな。」


ベッドの上で腰掛ける葵が、柔らかな苦笑いを浮かべながら挨拶をしていたのだ。


「葵…!」


その声に、一瞬静寂が訪れた後、千鶴と沙耶が勢いよく前に飛び出した。


再会の喜びと…


「葵ちゃん‼」


「葵様‼」


二人は葵に飛びつくように抱きついた。

その勢いに、葵はバランスを崩し、後ろの壁に後頭部を激しく打ちつけてしまった。


ドン!


鈍い音が病室に響く。

葵はそのままがくりと頭を垂れ、意識を失ったようだった。

しかし、千鶴と沙耶はそんなことにも気づかず、葵にしがみついたまま、わんわんと泣きじゃくっている。


「無事でよかったよぉ…本当によかった…!」


「すみませんでした御守りできなくて…!」


その声には、心底安堵した気持ちと、これまでの後悔が入り混じっていた。

茜はその様子を見ながら、通常なら微笑ましく思える光景のはずが、どこか違和感を覚えていた。


茜の隣では、静流婆さんと摩耶も葵をじっと見つめていた。

二人の表情は険しく、茜も同じように違和感を感じ取っていた。


「御館様、これは…」


静流婆さんが小声で切り出す。

その言葉に茜は小さく頷いた。


「えぇ…何かがあるわ。麻耶。」


「はい。今後の様子を厳重に見守るべきかと。」


摩耶の言葉には、普段の冷静さの中に僅かな緊張が含まれていた。


目の前には、壁に寄りかかる形で意識を失った葵がいる。

彼が目覚めたことは、喜ばしいはずだった。

それでも茜たちには、何故葵が目覚めたのか、葵が何か大きく変わってしまったような、そんな違和感が拭えなかった。


「葵が目覚めた。それ自体は奇跡だわ。」


茜は静かに呟いた。

しかし、その視線は葵に向けられたまま、

どこか不安げだった。


「ただの奇跡で済まされる話ではない気がするのよ…。」


茜の中には、新たな疑念と警戒が生まれていた。

この瞬間から、茜たちの中での「葵」は、今までの葵とは異なる存在として見られ始めていた。


気絶した葵に寄り添いながらわんわん泣いていた沙耶が、突如ピタリと泣き止んだ。

異様な静けさに、千鶴が驚いて沙耶を見たが、沙耶はそれに応えることなく、気絶している葵の体に顔を近づけ、スンスンと匂いを嗅ぎ始めた。


「沙耶、何をしているの?」


千鶴が不安げに問いかける。


しかし沙耶は何も答えず、葵の体に顔を近づけたり離したりしながら、まるで何かを確認するように嗅ぎ続けた。

そして、沙耶はおもむろに顔を上げ、意識を失っている葵に向かって、低く真剣な声で言った。


「……あなたは、誰ですか?」


その一言が病室に響き渡り、一同の表情が凍りついた。


動揺する一同


「沙耶、一体どういうこと?」


茜が恐る恐る尋ねる。

沙耶の発言はそれほどまでに衝撃的だった。


沙耶は一度息を深く吸い込み、茜に向き直ると、慎重に言葉を選ぶように話し始めた。


「いえ、葵様のニオイはします。ただ…軽薄というか、残り香のようなものです。」


その言葉に一同が戸惑う中、沙耶はさらに続けた。


「以前の葵様のニオイは、濃厚で…そう、不純でありながらも優しさと欲望に満ちた…なんとも言えない芳醇さがあって…」


沙耶は言葉を紡ぐうちに、次第に顔が赤らみ、呼吸を荒げ始めた。


「ハァ…ハァ…思い出すだけでたまりません…!」


「沙耶、今はあなたの性癖の話はいいの!現状を教えて!」


茜が額に手を当てて止めると、沙耶は我に返り、「失礼しました。」と軽く頭を下げた。

周囲の視線が冷たく注がれる中、沙耶は改めて現状を報告し始めた。


「葵様のニオイは確かにあります。ただ…かなり薄いです。本当に残り香のような感じで…。ただ、それだけではありません。」


沙耶は言葉を選びながら、再び葵の体に近づき、顔や手足をそっと触りながら調べた。


「見た目も肉体も、確かに葵様です。でも、ニオイがどうにも歳相応の子供のものなのです。以前のような、葵様特有の…あの、複雑なニオイが完全に消えている。」


「歳相応の子供のニオイ?」


茜が眉をひそめて沙耶を見つめる。彼女の言葉の意味を完全に理解するのに時間がかかった。


「そうです。」沙耶は自信を持って頷いた。


「つまり、肉体としては確かに葵様ですが、その内側にある『存在』がまるで無くなってしまったように感じるのです。」


静流婆さんが鋭い目で葵を見つめる。

長年の経験が、沙耶の指摘が的を射ていることを告げていた。


「…沙耶の言う通りじゃな。気配が薄いというより、『ズレている』ように感じる。」


静流婆さんが低く唸るように言うと、摩耶も慎重に頷いた。


「確かに、葵様がただ意識を失っているだけなら、もっと存在感があるはずです。でも今の葵様は…希薄ですね。」


茜は深く息を吐き出し、葵の顔をじっと見つめた。

その無防備な顔に、普段の葵の面影はある。

だが、沙耶や静流が指摘するように、何かが決定的に異なっているのだ。


「葵…一体、あなたに何が起きたの…?」


茜の声は震えていた。

その問いに答える者は誰もいない。

葵は依然として意識を失ったままだ。


「摩耶。」


茜が鋭い声で摩耶に指示を出す。


「葵の身体を調べて、どんな異常でもいいから見つけてちょうだい。そして沙耶、匂いから何かわかることがあれば引き続き教えて。」


「承知しました。」

「はい、茜様。」


摩耶と沙耶がそれぞれ動き始める中、静流婆さんが茜に近づき、低い声で問いかけた。


「御館様、どうするつもりじゃ?」


茜は拳を握りしめ、強い口調で答えた。


「葵を必ず取り戻すわ。どんな手を使っても、絶対に。」


その言葉には、茜の母としての強い覚悟が滲んでいた。

そして同時に、彼女が心の奥底で抱える不安と恐怖も。


病室内に緊張が漂う中、茜たちはそれぞれの役割を果たすべく動き始めた。

葵の変化の真相を探り、その背後にある何かを暴くために。








絢爛豪華な装飾に囲まれた遊郭の奥の一室。

花魁の女性が静かに仮初の身体に魔力を流し込んでいると、不意にその身体から声が漏れた。


「そろそろ起きてもいいか?」


花魁は手を止め、驚く様子もなく涼やかな目を細める。

その声は、彼女が待ち望んでいた反応だった。


「おやぁ~もぉ~お目覚めでありんすかえ。」


「いや…ずっと起きてたが…」


その返答に、花魁の唇がわずかに笑みを形作る。

しばしの沈黙の後、仮初の身体が再び口を開いた。


「起きていいのか?」


「起きられるのであれば、かまいありんせんが…」


仮初の身体は何とか動こうと試みるものの、ピクリとも動かなかった。

その様子を見て、花魁が軽く肩をすくめる。


「すまん…もう少し魔力を注いでくれ…」


「…分かりんした…」


花魁が再び魔力を注ぎ始めたその時、部屋の片隅で黙って座っていた刀祢がぼそりと口を挟む。


「さっきから何か話しているようだが、大丈夫なんだろうな?」


その問いに、花魁は淡々と答えた。


「大丈夫でありんしょ。」

「あぁ…動けないしな。」

「そうゆう意味じゃねぇ‼」


刀祢が苛立った様子でツッコむと、花魁はホホホと上品な笑みを漏らした。


「おやおや…素が出てるでありんすえ。」


「なるほど、寡黙なのはキャラ作りだったのか…」


仮初の身体がぽつりと言う。


その言葉を聞いた刀祢は、一瞬肩を震わせたがすぐに舌打ちをし、再び黙り込んで目を閉じてしまった。


仮初の身体が不満げに呟く。


「この待ち時間、退屈で仕方ない。」


「まぁまぁ、焦らずともよろしゅうおすえ。目覚めた後は存分に動けますどすえ。」


花魁は飄々とした様子で言い放ち、再び魔力を注ぎ込む。


「…お前たち、何を企んでるんだ?」


仮初の身体が問いかける。


「ふふ、お話しするのはまだ早いでありんすなぁ。」


花魁は微笑みながらも、それ以上の言葉を濁した。


「なんだ、そののらりくらりした態度は。余計に気になるだろうが。」


仮初の身体が不満を漏らすと、花魁はふわりと笑うだけだった。


「もう少し御時間をいただきとうありんす。」


花魁は最後にそう言い放ち、再び魔力を注ぎ続けた。


その場に漂う奇妙な緊張感と静寂。

仮初の身体に宿る存在が完全に目覚める日は、もう間近だった。



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