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転生した世界の現実は甘くなかった  作者: 蓮華
第二章 分水嶺 

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特殊系ダンジョン

ダンジョンカメラの設定や配信の設定は千鶴姉様が車内でやってくれており、俺の右肩の上には金色で装飾された黒いダンジョンカメラが浮いている。

ちなみに、絶賛ライブ配信中である。

配信したそばから、一斉に登録者数が爆上がりで、現在も上昇中。


爆速で流れるコメント


「葵くん、車内でもかわいすぎ!!この子、絶対やばいって!」

「え、え、えー!?なんでこんなに面白いの??普通、こういう配信ってシリアスじゃないの!?」

「葵くんの表情www焦ってるのがまじで可愛いすぎwww」

「やっぱり葵くんって、女の子に優しそう!弟タイプじゃん、ほんと最高!」

「きゃーーーーーーー!!!!葵くん!!!!可愛すぎて死ぬーーーー!!!」

「マジで!?10歳でこの顔!?反則でしょ!!!」

「いや、ちょっと待って、絶対成長したらもっとイケメンになるやつじゃん、私の推し決定!!!」

「なんか、全体的に浮かれてる感じがすごい!」

「葵くんだけじゃなくて、他の家族も個性的すぎw」

「この家、全員カオスすぎ!でもそのカオスが面白いんだよなー」

「千鶴姉様が、葵くんにちょっかいかけすぎwww」



男性配信者が珍しいのはわかるが、探索者としての配信はないのだそうだ。

その為、登録者数が異常に多い。


車内でのわちゃわちゃが一段落し、俺たちはついに目的地であるダンジョンに到着した。

場所は街から少し離れた山の麓だった。

街の喧騒を離れ、窓の外に広がる景色が徐々に緑の濃い山道に変わるにつれ、俺の胸にじわじわと緊張が広がっていった。

車を停め、ドアを開けると、清涼な山の空気が肌に触れる。

心なしか空気に漂う魔力が、ほんのりと冷たい。


「ダンジョンはこの上よ。」


母様が軽い口調で言いながら、山の中腹を指差す。

俺もその方向を見上げてみると、長く続く石段が見え、その先には古びた石の鳥居がぽつんと立っていた。


「神社ですか?」


俺が訊ねると、母様はにこやかに微笑みながらこう答えた。


「違うは。」


その言葉に俺の眉がピクリと動く。

確かに、古びた鳥居の奥には荒れた参道がうっすらと見えるが、その神聖さがどこか薄れているように感じる。

いや、それどころか、不気味な気配すら漂っている気がした。


「ほら、早く行きましょう。」


母様は何事もなかったかのように、さっさと階段を登り始める。

俺は慌ててその後を追いながら、姉様たちに視線を送ったが、彼女たちはまるで遊びに来たかのように楽しげな様子だ。


階段を登りながら、俺は周囲の景色に目をやった。

城壁を抜けた先に広がっていたのは、かつて人々が生活していた街並みの面影ではなく、自然に飲み込まれた廃墟と、圧倒的な大自然だった。


人類が築いた文明の痕跡が、まるで静かに飲み込まれていくかのように消えていく。

建物の基礎部分だけが露出したまま苔に覆われ、樹木が突き破るようにその上に根を張っている。


「……これが魔力の影響を受けた世界か。」


つぶやいた言葉が自然と口から漏れる。この光景は話や書籍で何度も目にしてきたものの、自分の目で直接見ると、その迫力がまるで違って感じられる。


魔力がもたらした自然の力は、人類が積み上げてきたものを簡単に破壊し、その跡地を新たな形で塗り替えていく。

言葉では説明しきれない圧倒的な力の前で、俺は人類の小ささを痛感した。


「葵ちゃん、何ぼーっとしてるの?早くついてきて。」


千鶴姉様が振り返りながら声をかけてくる。その無邪気な笑顔に、一瞬だけ緊張が解ける。


「だってさ、こんな風景、普通に生活してたら見られないじゃん。」


そう答えると、千鶴姉様が俺の肩を軽く叩きながら笑った。


「ふふっ、まだまだ初心者だね、葵ちゃんは。これからもっとすごいものをたくさん見ることになるよ。」


いやいや、初心者も何も、これが初めてのダンジョン探索なんだから当たり前じゃないか。

俺がそう思っていると、千鶴姉様が突然スマホを取り出して、カメラを俺に向けてきた。


「はい、葵ちゃん、記念写真撮るよ~!」

「えっ!?今!?こんなとこで!?」

「だって、ダンジョンデビューだもん。撮らないと後悔するよ?」


そう言いながら、千鶴姉様は躊躇なくシャッターを切った。

画面の向こうに映る自分の顔は、完全に困惑と呆れの混ざった表情をしていた。


階段を登りきり、鳥居をくぐると、そこにはさらに荒廃した景色が広がっていた。

かつて社があったと思われる場所は、今や完全に魔力の影響を受け、自然とダンジョンの境目が曖昧になっている。


「ここが、入口ね。」


母様が立ち止まり、足元にある大きな岩を指差す。

その岩の中央には、不気味に輝く魔力の光が渦巻いていた。

これがダンジョンへの入口なのだろう。


「さて、準備はいいかしら?」


母様がそう尋ねると、姉様たちは一斉に武器や道具を確認し始めた。

母様は愛用の大剣を肩に担ぎ、刹那姉様は愛刀を腰に差し、千鶴姉様は魔力を帯びた剣を両手に持って軽く振る。

摩耶は相変わらず冷静に周囲を警戒している。


そして俺は――何も持っていない。


「ねぇ、俺の装備は?」

「葵の初回だから、特に必要ないわよ。」

「いや、何か持たせてよ!?せめて棒とか!」


そう抗議するも、母様は「あら、必要になったらその辺の枝でも拾えばいいじゃない?」と、まるでピクニックに来たかのような返事をする。


そうやってわちゃわちゃと騒いでいると、奥から一人の巫女装束の老婆が近づいてきた。


「お久しぶりです、御館様。」

「あら、橘の婆ちゃん、まだ生きてたの?」

「御館様は相変わらずですな…このとおり、まだまだ現役ですわい。」


そう言いながら、巫女装束の帯に差してる木刀の柄をポンポンとたたく。

いや…仕込み刀か。


「して、そちらの坊やが若様かい?」

「えぇそうよ、葵、挨拶なさい。」


俺は母様に言われて挨拶をした。


「御剣家嫡男、御剣 葵10歳です。」


それを聞いた婆様はカッカッカ‼っと大笑いすると、自己紹介をしてくれた。


「儂は橘家元当主、(たちばな) 静流(しずる)じゃ。この関東大刑場跡地の首塚を管理しておる。」


それを聞いた瞬間俺の顔が引き攣った。

それを見た静流婆さんは「聡いの…」っと呟き目を細めた。


俺はその意味を確かめるべく質問を返した。


「特殊系ダンジョンですか……?」


すると、静流婆さんは面白そうに口元を歪ませながら、山の奥を指差した。


「本命はあっちじゃ。」


促されるままに視線をそちらへ向け、俺は気配を探った。

すると、何か濃密なものが一気に押し寄せてきた。

濃厚な魔力――いや、それだけではない。

そこに混じるのは、殺意、嫉妬、無念、その他様々な負の感情。

まるで巨大な濁流のように俺の感覚を侵してくる。


「――ッ!」


耐えきれず、俺は口元を押さえて「ウッ」と声を漏らし、その場でえづいてしまった。


特殊系ダンジョン――

ダンジョンとは本来、洞窟や廃墟、建物の入り口など、魔力が溜まりやすい場所に自然発生するものだ。

そこには魔物が巣食い、人類にとっては災厄の象徴でありながらも、時に資源を得るための狩場ともなる存在だ。

いわば、ゲームやアニメで描かれるような典型的なダンジョンの姿といえる。


だが、特殊系ダンジョンはその枠を大きく逸脱している。

これらは、軍事施設、工場地帯、病院、墓地といった特異な環境で発生する特別なダンジョンだ。

それぞれの場所の特性が影響を与え、異質な魔物や機能を持つことが多い。


例えば、軍事施設や工場地帯に発生したダンジョンでは、魔物が武器を所持していることがある。

そればかりか、魔物を量産する生産プラントや工場として稼働することさえあるのだ。

一方で、墓地や病院に発生するダンジョンでは、負の感情や死にまつわる異様な力が渦巻き、死霊や怨霊が跋扈する、恐ろしい領域となり生者にとって耐え難い環境が広がっている。


そして、ここは刑場――関東大刑場跡地だ。嫌な予感しか浮かばない。


画面越しに視聴している視聴者たちも同様らしく、コメント欄には「ヤバい」「知らなかった場所だ」「危険すぎる」といった文字が怒涛のように流れている。

どうやら、この場所は一般には公開されていない、秘匿された特殊系ダンジョンらしい。


そんなことを考えながら冷や汗をかき、曇った顔をしている俺を見て、静流婆さんはまたもや豪快に笑い声を上げた。


「カッカッカッ! 若には少し早すぎたかのう!」


そう言ってから、彼女は悪戯っぽく目を細め、俺を見据えた。


「ここは御三家で管理しとる秘匿の特殊系ダンジョンじゃわい。」


静流婆さんの言葉に、俺は無言でその顔を見つめ返した。

その顔には、何か深いものを秘めたような笑みが浮かんでいる。


「この場所はの、今だ誰も攻略できとらん。あの御館様でさえ手を焼いておる特殊な場所じゃ。」


その言葉を聞いて、俺はさらに緊張を強めた。

御館様――御剣家の当主、つまり母様でさえ攻略できない場所だというのか?


静流婆さんはさらに言葉を続ける。


「まぁ~それ以外にもいろいろあるがの……。」


そう呟きながら、彼女は俺の頭を撫でた。


「若、おぬしもそのうちここに挑む日が来るじゃろうて。それまでしっかり力をつけることじゃ。」


橘 静流――ただ者ではないその老婆の目には、俺がまだ見ぬ未来を見通しているような、そんな深い光が宿っていた。


「葵、準備が出来たなら行くわよ。」


母様の声に、気を引き締めて「はい」と返事をし、準備を終えた俺は足早に母様たちの元へ向かった。


母様の足元には、大きな岩が鎮座していた。

その岩の背後には、どす黒い魔力の渦がまるで池のように広がっている。

魔力溜まり――この世のものとは思えない禍々しさが漂い、見るだけで息苦しさを覚える光景だ。


その周囲には無数の積み石と石山が連なっている。

それを見て、ふと頭をよぎったのは「(さい)河原(かわら)」の石積み――子供の亡者が鬼に邪魔され苦しみながら石を積むという地獄の光景だ。


俺がそんなことを考えていると、後ろから静流婆さんの声が響いた。


「ほう、若は賽の河原を思い浮かべたか。鋭いのう。」


振り返ると、静流婆さんが満足げな笑みを浮かべて俺を見ていた。


「ここはの、賽の河原と似て非なる場所じゃ。この積み石一つひとつに、魔力が込められとる。怨念、未練、憎悪……それらが重なることで、この場所はああして渦巻いとるのじゃ。」


指差した先には、再びあの魔力の池。

その中心は黒く深く、まるで底なしの淵のようだ。


「……つまり、これも特殊系ダンジョンの一部ということですか?」


俺が恐る恐る尋ねると、静流婆さんはカッカッカッと笑い声を上げた。


「その通りじゃ! だが、ここは入口に過ぎん。本命はまだ奥じゃよ。」


母様と静流婆さんが交わす視線は鋭い。

どうやら、この場所がどれほど危険であるかを二人とも理解しているようだ。


俺も再び気を引き締め、母様に問いかけた。


「母様、この先には何が……?」


だが、母様はわずかに眉を寄せ、静かに言葉を返すだけだった。


「葵、覚悟だけはしておきなさい。それだけよ。」


その言葉に込められた重みが、胃の底にずしりと響く。


静流婆さんは「若、まだ甘いの」と言わんばかりの目で俺を見ながら、一歩前へ進んだ。


「ここから先、御三家の血を引く者以外は立ち入れん。それほどの力と覚悟が必要じゃ。」


静流婆さんが刀を一振りすると、積み石の一つが崩れ落ちた。

その瞬間、周囲の魔力が暴れるように波打ち、耳鳴りのような音が空間を支配する。


足元にあった大きな岩の上にダンジョンの入り口が開いた


「行くぞ、若。この体験はお前にとって糧となるはずじゃ。」


静流婆さんの背中は小柄ながらも頼もしく、その言葉には何とも言えぬ力強さがあった。


俺は一度深呼吸をしてから、母様と静流婆さん達の後を追った。




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