テンプレ展開はあり得ません!
テンプレ展開。
異世界に転生した主人公が、チート能力で無双するとか。
冤罪で婚約破棄された悪役令嬢がざまぁするとか。
不遇なスキルだと思われていた能力が、実はものすごいポテンシャルを持っていて成り上がるとか。
虐げられていた主人公が、ものすごい美形に溺愛されるとか。
私が生まれ変わった世界は、どんな展開が待っているのか・・・
と思っていた時期が私にもありました。
テンプレ展開と言っていいような内容といえば近世ヨーロッパ風の貴族社会に転生した、と言うことくらい。
食事がひどいようなこともなく、魔法もない。貴族が男女交じって学ぶような学園はあるらしいが、入学が必須というわけでもないらしいので私は通っていない。
6歳の頃に前世で日本に暮らしてた頃の記憶をなんとなく思い出したものの、Web小説やら漫画を読み漁っていたちょいオタク気味の学生だったことくらい。
どうやって死んだのか、どうしてこの世界にいるのか、全くわからない。
生活を改善したり、事業を立ち上げるような知識チート的なものもない。
そもそも貴族令嬢が学ぶことなんて、現代日本の知識なんて全く役に立たない。
冷遇する義理の親やら嫌がらせをする義理の兄弟姉妹やらもいない。
中年太りを気にする父と、化粧をすればまあまあ化ける母。時に優しく、時に厳しく甘やかされすぎるほどでもなく接してくれる両親には愛されていると思う。
貧乏ではないけれど大金持ちでもなく、ちょっとした農業と、貴族が普段の食事で飲む程度のレベルのワインを作っているような領地を持つ子爵家の一人娘。
それが私だ。
いつか親が決めた婿を取り、ほどほどに社交するくらいで一生を終えるのだろう。
母似の顔と、父に似て油断するとすぐ太る体。ちょっとは転生ボーナス的に絶世の美少女だったりしたら、少しはドラマティックな展開も期待できるのに。
化粧をすればそこそこ可愛い、ぐらいのレベルの子爵令嬢が学園で王太子殿下にみそめられるだなんて無理がある。
王太子であるサイラス殿下には幼少の頃から婚約者であるアデレード様がいらっしゃるのだ。
転生者だから愛されるのが当然、だなんて傲慢な態度をとっていたら嫌われるのは当然だし、公爵令嬢であるアデレード様を冤罪にかけようものなら、ざまぁされても仕方がないわ。
アデレード様は化粧なんかなくともお美しい方だし、礼儀のなっていない子爵令嬢などにも丁寧に注意をしてくださるくらい周囲のことを気にかけてくださる方だもの。
そんな方を貶めようなど、家族ごと断罪を受けても仕方がないわ。
ああ、よかった。学園になど通わなくて。きっと普通が一番幸せなのね。
***
「キャロラインの様子はどうだい?」
「大丈夫よ、以前のことなど覚えてはいないわ。『早く婚約者が決まらないかしら』と話しているようよ。」
我が子爵家には、当主にのみ伝わる秘宝がある。当主の寿命を捧げることでその分の年数を巻き戻ることができるのだ。
断絶の憂き目にあった場合にのみ行われる、王家にも知られていない秘密だ。
秘宝を使用した当主と配偶者にのみ記憶が残され、その失敗をやり直すことができる。
まさか自分の代で秘宝を使う羽目になるとは思わなかった。
「私の寿命は10年ほど縮んだが、子爵家を失うのも、一人娘を失うのも耐えられないからな。」
「あら、私のことは良いのですか?」
妻が冗談混じりで私の頬をつねる。
以前の生では娘のキャロラインが学園にて王太子殿下をたぶらかし、公爵令嬢に冤罪をかけたことにより国家反逆罪とみなされ、一族全てが処罰されることとなった。
一人娘で甘やかしすぎていたこと、学園に入ってからの様子をきちんと把握できていなかったことを夫婦で反省した。
『私は王妃になるのよ!』などと言っていた子どもの頃からしっかりと身分の違いや王族の重責などを説明し、おかしな考えを持たないように躾できただろう。
「もちろん、君を失うなんて耐えられないさ。こんな私や娘を見捨てずにいてくれた、妻の鑑さ。」
国内では大きな力を持つようなことはなかったが、没落することもなく、この子爵領は長い間平和に続いていった。