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第六話

「おはよう要佑。今日はちょっと早いわね」

 校門を入った坂を歩いている要佑に志乃は声を掛けた。

「おはよう阿方、今日は両親(おや)が家にいるんで、継美の事任せてきた」

 要佑は笑顔でそう答える。

「そっか、じゃあさ」

 美紗姫は目を輝かせて言葉を続けた。

「今日、授業終わったらみんなでどっか行かない? 志乃ちゃんも誘って!」

「いいんじゃない。街の案内も兼ねて」

 芯太が答えた。

「分かった。じゃあ吉行さん約束取れたら時間空けとくよ」


 教室の生徒は、クラス全体の半分程だった。

 今日は道路が比較的空いており、バスが予定より少し早めに到着した為、始業時間にはまだ余裕があった。

 机に鞄を掛ける為、各々自分の席の方に向かう。芯太の右斜め前の席の志乃はすでに席に着き、ノートを広げていた。

 「おはよう、吉行さん」

 芯太が志乃に声を掛けると、志乃はノートを閉じて振り返った。

 「おはよう」

 小さく笑顔を作り志乃が答えた。

 「おはよう、志乃ちゃん!」

 机に鞄を掛け終えた美紗姫がこちらにやって来た。志乃も「おはよう」と笑顔で返す。

 「ねーねー、志乃ちゃん。今日の放課後ってなんか予定ある?」

 志乃の机に両手をつき、乗り出すような恰好で尋ねる。

 「特に何も無いけど」

 小首を傾げて志乃が言葉を返す。

 「だったら今日、授業終わったら皆でどっか遊びに行かない? 志乃ちゃんこっち来て間が無いでしょ? どこか案内できたらなと思って」

 美紗姫は目を輝かせながら言葉を続ける。

 「志乃ちゃんどっか行きたい所無い?」

 「何かお勧めのスポットとかあったら、教えて欲しいな」

 少し考えた後、志乃はそう答えた。

 「うーん……志乃ちゃん、前の学校ではお友達とどういう所へ遊びに行ったりしてたの?」

 「洋服や小物なんかを見に行ったりとか、ショッピングが多かったかな。後はカフェでお喋りとか」

 「へー、都会っ子だね」

 美紗姫は関心したように言った後、芯太の方を向いて続けた。

 「私らなんて、本屋かせいぜいファーストフードだよね」

 「お前、そんな所を吉行さんに案内するつもりだったのか?」

 芯太が呆れたように言う。

 「いや、そういう訳じゃないけど……」

 少し考えた後、美紗姫は閃いたように言葉を続けた。

 「じゃあさ、駅前のショッピングモール行かない?」

 「……なんか、発想が田舎者だぞ」

  「だって、こっからバス一本で行けてそこそこ近いし、色んな店があるし」

 そう言って、口を尖らせる。

  「いいよ。行ってみたいかも」

  志乃は、そう行って笑顔を向ると、美紗姫は明るい表情になって、うんと頷いた。それから要佑の席の方を向いて叫んだ。

 「よ-すけー、今日オッケーだって! ショッピングモール行くよ!」

 「分かった」

 一限目の授業の準備をしていた優生は、右手を上げて答えた。

 その後三人で行先での予定を少し話していたが、予鈴が鳴り美紗姫は自分の席に戻って行った。

 「じゃあまた後でね、志乃ちゃん」

 「うん」

 「芯太は居眠りするなよ」

 今朝の調子を思い出して美紗姫は言葉を付け足した。芯太は手だけひらひらさせて答える。すでに机に突っ伏した状態だ。

 「夜更かし?」

 斜め後ろの芯太の方を見ていた志乃が声を掛けた。

 「早起きの方」

 突っ伏したまま答える。

 「一限目は寝ない方がいいよ。明日小テストがあるから」

 志乃はひそひそ声でそう言って悪戯っぽく微笑んだ。

 それを聞いて芯太は顔を上げる。志乃に話しかけようとした時、本鈴が鳴り教室に教師が入って来た為、会話を中断し志乃は前を向き直した。

 芯太も仕方なく授業前のお辞儀の為に立ち上がった。


 午前の授業が終わり、昼休みに入る。今日も四人集まって昼食を摂る約束になっていた。

 「優生ごめん。ちょっと志乃ちゃんとこの後の打ち合わせがあるからついでに私のパン買ってきてくれない?」

 美紗姫は両手を合わせて優生に頼み込む。

 「いいよ。何がいい?」

 「ん~、クリームパンと、チョコクロワッサン」

 少し考えて付け足す。

 「あと、やきそばパンと牛乳」

 「やきそばパン今日は売ってないよ」

 志乃は美紗姫に向かってそう言った。

 「え?」

 美紗姫は志乃の方を振り向いた。

 「さっき購買の前通った時、お店の人が言ってたよ」

 「あーそうなんだ……じゃあ優生、コロッケパンで」

 「クリームパンとチョコクロとコロッケパンね」

 「もしあったら、焼きそばパンね! よろしくー」

 確認する要佑に美紗姫は言葉を付け足す。分かったと合図をして足早に教室を出て行った。

 「さてと、今日の放課後のことだけど……」

 志乃の席に机を寄せながら、美紗姫が言った。

 「バスで行くんだっけ?」

 志乃が確認する。

 久世(くぜ)駅はJRでは沓掛高校の最寄りとなっている為、通学の為に直通のバスが往復していた。

 「うん。あ、お金持ってきてた? 何なら芯太に出さすよ」

 「何でオレに振る」

 「月末でお小遣いもらったところでしょ?」

 「お財布持ってきてるから大丈夫だよ」

 二人のやりとりに苦笑しながら志乃が答えた。

 「そっか、そういえば志乃ちゃん生活費どうしてるの?」

 「んー、一応今は仕送りに頼ってるけど、一段落したらバイトしようと思ってる」

 「そっか」

 「あんまり時間作れないから短時間のアルバイトとかあったらいいんだけど」

 お弁当の準備をしながら志乃はそう答えた。

 「おばあちゃんの病院とかで忙しいもんね」

 昨日校庭に集まっていた時、志乃が皆にそう話していたのを思い出した。

 「おばあちゃん、具合はどうなんだ?」

 芯太が尋ねた。

  「容態は特に悪く無いよ。しばらく経過観察入院だって」

  「そっか……」

 美紗姫は少しだけ考えて言った。

  「じゃあ、おばあちゃん退院したら、前の学校戻っちゃうの?」

  「んーん」

 志乃は首を横に振る。

  「退院しても、暫く介護が必要だと思うし、それに卒業まではこっちに居る約束」

  「そっかーよかった」

 美紗姫は明るい表情になって言った。

  「お待たせ」

 購買から要佑が帰ってきてパンの入った緑のエコバッグを机の上に置いた。

  「やっぱ焼きそばパン無かったわ」

 ごそごそとパンを机に並べる。

  「志乃ちゃんの情報正しかったね」

 自分の分のパンを選び取りながら志乃が言った。

 「要佑、いくらだった?」

 スカートのポケットをまさぐって、猫の顔の形をした小さな小銭入れを取り出す。

 「あー、じゃあ行き帰りのバス代で」

 「おっけー」

 そう言って小銭入れをポケットに戻す。行先のショッピングモールは芯太達が通学に使うバスと運行系統が違う為、別途料金が必要となった。

 「そういえばさ……」

 芯太が弁当箱を開きながら志乃の方を向いて話しかけた。

 「吉行さん今朝、明日の小テストがどうとか言ってたけど、あれ本当?」

 「何? その話」

 美紗姫が話に入って来る。

 「うん。今朝職員室に編入の書類持って行った時に数学の先生が教えてくれたよ。明日の数学の時間に小テストするけど、転入生で授業の進行具合が違うから今日の一限でやる前後の内容予習しておけって」

 「ホントに? ラッキー、やっぱ持つべきは転入生ね」

 「なんだよそりゃ」

 「あれ? 志乃ちゃん今日は普通のお弁当ね」

 美紗姫が志乃のランチボックスを覗き込みながら言った。

 「あ、うん。今朝はおばあちゃんの病院に着替え届けに行って、あんまり時間が無かったから」

 煎り卵と鳥そぼろの二色のそぼろご飯にミートボールと、三粒ずつ串に刺した枝豆が数本入っている。

 キャラクターでデコレーションはされていないが、それでも十分にかわいらしい。

 「そっかー」

 コロッケパンを頬張りながら美紗姫が続けた。

 「帰りはおばあちゃん所に寄らなくて大丈夫だったの?」

 「うん。朝行ったから今日はもう大丈夫だよ」

 そういってスプーンで(すく)ったそぼろご飯を口の中に入れた。

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