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月曜日の巫女  作者: 桜居かのん
第一章 月曜日の憂鬱
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9


「先生」



「はい」



「それで私をここに連れてきて、あれを見せて、自分が陰陽師だ、

なんて明かしたのは何でですか?」



きっとこれはトップシークレットのはずだ。

なんでそれを私なんかに。


先生はおもむろに上着の内ポケットから小さな双眼鏡を出して私に手渡した。



「これで、あの人達を見てみて下さい。

知っている人はいませんか?」



また試すように言う先生に私はむっとしてしまう。

葛木先生はこんな意地悪な人だったのだろうか。

私は手のひらくらいの双眼鏡を受け取り、

小高い丘にむけ中をのぞく。

そこには祭壇のようなものと、それを取り囲む人達がいた。

服装はテレビなんかでも見た、

陰陽師が着ていそうな装束のようなものを着ている。

知っている人は居ないかと聞くのだから、きっといるのだろう。

私はゆっくりと顔が見える人を特に重点に見ていった。



「えっ」



思わず声が出た。

祭壇の最前列で座っている一人の男からは全く違うものを感じた。

強い、という感想しかない。

だがその横顔に見覚えがった。



「先生、もしかして」



私は双眼鏡からゆっくり顔を離すと、横にいる葛木先生を見る。

私の顔は強ばっているかもしれない。



「えぇ、光明ですよ」



私に少し顔を向けた後、また先生は丘の方へ顔を向けた。

再度双眼鏡で藤原を見る。

顔に覚えはあるのに、なんだかあそこにいるのは別の人に思えた。

でも葛木先生は藤原だと断言した。

服装が違うからだろうか。

いや、今ならわかる、他のそこにいる人とはレベルが全く違う事が。



「光明はね、東京の陰陽師を統べるおさなんです」



ぽつりと呟かれて私は驚いて葛木先生を見た。



「あの藤原が?」



「えぇ」



私の声に、先生が苦笑いで答えた。



「やっぱり一番強いとか?」



「はい、私なんかより遙かに」



やんわりとした声には何か尊敬のようなものが含まれているのを感じた。

いつもは葛木先生が藤原のお兄さんという感じにしか思ってなかったから、

この先生の反応がいかに藤原が凄いのかを実感させる。

そんな先生の表情が急に曇った。



「まずいですね」



「何がですか?」


「押されてる」



私もまた丘の方を見る。確かに何かおかしい。

じわりじわりと真ん中にある黒い煙のようなものが広がっているように見える。



「先生、あの黒い煙、広がったらまずいものなんですよね?」



「邪気ですから。

彼らはそれを祓うためにずっと祈祷をしているのですが、やっぱり・・・・・・」



「やっぱり?」



言葉を続けない先生を見る。



「光明の調子が良くないせいで押されているんだと思います」



「もしかしてあの日から体調崩したままなんですか!?」



私が倒れた日、確かに藤原は酷い顔色だった。

あれから一週間近くなるのにまだ良くないままだったなんて。

学校で何度か会ったけどそんなようには見えなかった。

もしかして気づかれないようにしていたんだろうか。



「それで、貴女に助けてもらいたくて来て頂いたんです」



先生は私の方に身体を向けると、神妙な面持ちでじっと私を見た。



「え?」



「お願いです、光明を助けてもらえないでしょうか」



再度、お願いします、と突然頭を下げられ、私は驚いた。



「せ、先生!やめてください!

助けるってそもそも私に何が出来るって言うんですか!」



先生は頭を上げると断言した。



「いえ、貴女にしか光明を助けることは出来ないんです」



強い言葉で言われ、私は思わず一歩下がりそうになった。

丘の方を見れば、さっきより黒い煙の色が濃くなり、範囲も広がっている。

オレンジ色の光が必死にそれを押さえようとしているのもわかる。


けど。


今起きていることは現実なんだろうか。

藤原が体調悪いのを助けただけで、私が倒れただけで、そんな事で陰陽師だの、映画で観るような服装の人達や祭壇やら、突然見えるようになった光や。


そして最後には助けてくれ、君にしか出来ない。


唐突に沢山の情報を与えられ、そしてそんな事を言われて、私には何が何だかわからない。


私は思わず頭を抱えその場にしゃがみ込んだ。



「東雲さん?!もしかしてまた体調が?」



急に慌てたような葛木先生の声に、何故か私はほっとした。

その声はいつも学校で聞いていたものと同じだったから。


私は少しその場でしゃがんでいたが、ゆっくり立ち上がると目を閉じた。

そして両手を一杯に広げてゆっくり深呼吸する。

緊張した時はこれが一番だ。


何度か深呼吸を繰り返し、静かに目を開ける。


そこに見えるのは黒いものにおされる光。



「・・・・・・あの黒いのが広がるとまずいんですよね?」



「はい」



「それを押さえるのに藤原の力が必要で、それを私が助力出来るんですね」



「・・・・・・・はい」



「それって、痛かったり、怖かったりします?」



「えっ?」



私はいたって大まじめに聞いた。

悪いけど痛いとか怖いとかならやっぱり嫌だ。

少しくらいなら我慢しなくもないけど。

それに生贄にしたいことか言われても困る。


葛木先生は驚いた顔をしていたが、急にぷっと吹き出した。

私は思わず、酷い、と頬を膨らませた。



「すみません。

そうですね、別に痛いとかはありませんが、君の霊力を使う分疲れるかとは思います。

もちろん生贄なんて思っていないですから」



あ、考えていたことが見抜かれていた。



「また私倒れるんですか?」



「そんな事はさせません」



まっすぐな目で言い切られた。



「わかりました。

どうすれば良いんですか?」



私はため息混じりに返事をした。

おそらく時間が延びれば延びるほど邪気を祓うのは大変になることぐらいはわかる。



「ありがとうございます。

貴女には、単に光明に頑張って欲しいと祈ってくれたらそれで良いのです」



「えっ?他には?」



「それだけです」



私はぽかんとした。

こう、もっと何か大変な事をするのかと思っていた。

そんなので良いのだろうか。



「後で説明しますから。

まずはお願い出来るでしょうか?」



「わかりました。

後できちんと、沢山、説明して下さいね?」



私のたたみ掛けるような念押しに、先生は笑った。



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