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月曜日の巫女  作者: 桜居かのん
第一章 月曜日の憂鬱
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3



放課後になり友人達に冷やかされながらも、私は仕方なくの目的地へと向かう。

あぁ今日は早く帰りたかったのに。



「来てあげましたよ~」



英語教師室という名の藤原の自室のドアを軽くノックし、私は中に入る。



「おー、待ってた」



明日の授業の準備だろうか、

テキストやプリントを広げた机にむけていた身体を、

藤原は椅子を回転させてこちらを向いた。

あれ?昼見た時より顔色が悪くなってる気がする。



「いい加減夜更かし止めたら?今日の顔色、本当に酷いよ?」



「そうだなぁ、やめられたらどんなに良いか


そういうと藤原はため息をついた。



「仕方ないんだ、今レベル上げないと次のイベントが」



「このクズゲーマーが。あーもういいから黙って早く寝なさい」



クズ・・・とショックを受けたような顔をしたが、

椅子からふらりと立ち上がり、

一番奥にあるソファーに行くともそもそと横になる。

いつも通り一時間後に起こして、

というと既に用意してあった大きめのブランケットを頭までかぶり、

藤原はすぐに寝息をたてて眠ってしまった。

私はいつもの様子を見届けると、

真ん中にある広い机に勉強道具を取り出し授業の復習を始めた。


こんな事が始まったのは、

約2ヶ月前に行った鎌倉で行われた社会見学での事だった。

買い物タイムと言うことで実咲や塔子達と別れ一人うろうろしていたら、

小さな公園のベンチに藤原が真っ青な顔で1人座っているのをみつけ、

思わず声をかけた。

声をかけたのにあまり元気が無い。

もしかして熱があるのかと咄嗟に手を額に当てたのだが、

その時藤原は目を見開いて私の顔をまじまじと見たかと思うと俯いた。



「やっぱり誰か先生を」



「東雲ゆい、だったか」



「あ、はい」



授業は習っていたがそんなに話したことも無いのに、

名前をフルネームで覚えてくれていたことに少し嬉しい気分になった。



「すまない。体調が良くないんだ。少しだけ隣りに居てくれ」



と藤原は一方的に言ったかと思うと、

私の肩にもたれかかりあっという間に寝てしまったのだ。

寝息を立てながら思い切り寝てしまって、

今日の日のために用意した私の可愛い洋服にヨダレを落とされたことは、

未だに根に持っているけれど。


社会科見学が終わり、授業が始まったすぐの日、藤原に放課後呼び出された。

何事かと思えば、お前は英語の成績悪いから放課後特別に勉強を見てやる、

なんて言うのだ。

だが一見面倒見良さそうな事を言うかと思ったら、そのかわり、

1時間先に寝せて欲しいというよくわからない条件が提示された。

正直帰るのが遅くなるし面倒そうなので断ったのだが、

その間勉強して質問事項をまとめる時間に使えばいい、

他の教科もわからなければ教えてやるからとかなり強引に押し切られて、

私は気がつけば頷いてしまっていた。


ある時用事を思いだして、寝ている藤原を起こさないようメモだけ置いて途中で帰ったのだが

、翌日何で勝手に帰ったんだとそれはそれは非難されて思わず喧嘩したこともあった。

どうしたって寝ている1時間は側に居ろということらしい。


こういう時、長女としての気質が出てしまうのか、単に押しに弱いのか、

こういうのを無視出来ず世話をしてしまう自分の性格が憎らしい。

そして一時間後に起きると、

藤原は相当よく眠れたのか顔色も良くなって機嫌良く丁寧に勉強を教えてくれる。


何故こんな事を私にさせるのかはよくわからない。

もしかして毎日他の生徒でとっかえひっかえやってるの?と質問したら、

真っ赤な顔で否定された。

まるで女子生徒を毎日連れ込んでいる見たいに言うな!と怒られたけど、

そこで初めて私にだけそういう事をお願いしているのだとわかった。


鎌倉で私が藤原の体調不良を見かけたから、

気兼ねなく私には頼めるのかもしれない。

でもそんな理由でも人に頼って貰えているという事が、

私には心地よく感じてしまう部分でもあった。

だからなんとなく藤原のこのお願いを拒否できず、

未だにずるずるやっている理由かも知れない。


しかしさすがに本当の事を周りには言える訳もなく、

あくまで藤原の仕事を手伝うというのが建て前になっているのだ。


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