3枚目 カワル ①
あれから2時間ほど。集中力の限界だ。
施設をでて、購買に向かう。
(好みを聞くの忘れたな。糖分と、飲み物を数種類買っておこう…)
生徒会を中心とすれば、サジットやヘリオスの取りまとめもうまくいくと思ったが。
(切り替えたいし。外からいくか…)
ひんやりとした空気を全身で感じる。
枯葉も増えてきた。
(そろそろ掃除とかもしたほうがいいんだろうな。風邪ひくわけにはいかないし…)
決まり事を整理もしておこう。
ホールでの模造銃のこと。
あれをみるに、梓に実権をもたせたくない。。
志願者での自警団の練習がどれほどになるかわからないが、無いよりはマシ。
生徒会としては、なるべく補助にまわる。
あー…それだと梓との関わりが…。
頭を強くかきむしる。
それは、香織のことを考えるとあまり選びたくはない。
俺にも限界がくるだろうし。
(今のままいい距離感を保ちながら…。余計な問題を起こさずに…)
「あれ。佐山君だ」
「香織」
「へへ。似合ってる?」
ルクスのケープは、隣にいる菊姉のものだろう。
香織には丈が長く、引きずっていることが気になったが、目くばせを受け取った。
「大人に見える」
「香織は、大人だよ」
…そうだった。
「似合ってる」
改めて口にすると、香織は照れて笑う。
その唇が、青白いのが気になる。
「プライドを簡単に貸せるのね。やっすーい」
梓が嫌味たっぷりに言うが、菊姉は反応せず、商品をとってセルフレジを通す。
「待ちなさいよ」
「何?」
「ケープ、貸せるものじゃないでしょ!?」
「…服なんて、いくら貸してもかまわないよ」
「ただの候補生なら言わないけど。あんたは―」
「ルクスだから?」
「そうよ」
「香織。ちゃんと言うけど、いい?」
「うん…」
「香織は外にいて、体芯まで冷えていたから服を貸しただけ」
枯葉を思い出す。だから顔色が…。
この温度で、あんなに変色するまで、何時間いたんだ…?
「…梓。説明してくれ」
「購買の倉庫が思ったよりも広くて、乱雑だったから、外側から在庫の確認をお願いしただけよ」
「それだけでコートも持たせず外に?」
倉庫前には、作業うようのコートがいくつもかけられている。
「あー、俺からもー。恒元さんを擁護する形になっちゃうけど」
「坂巻…」
「この狭い通路で3人作業するのは、ちょっと無理があってさ。俺がいこうか?っていったんだけど、駒野さんがやってくれることになったんだよ。ね?駒野さん」
「…うん」
どことなく歯切れが悪い。
菊姉も、同じようなことを考えているようにみえた。
梓がいう、倉庫が広いこととと。坂巻がいう、3人での作業に向いていない通路の狭さというズレに、違和感。
しかし、ここで追っても、こじれるだけか。
「今度からは、ちゃんと思いやりを持って動いてくれ」
「わるいわるい。悪かったー」
「菊姉。香織を暖かいところで休ませたい」
「作業は?」
「無理だろ」
「…梓、坂巻君。ここに人手が必要であれば、何人か回すけど」
「いや、俺がいったとおり、人数増えると大変だとおもうから2人でやるよ。ありがとうね」
こっちは、殴りたい気持ちを抑えているのに、温和におわらせたいようだ。
香織の体温のまったくない手を握り。離れないほうがよかったと後悔した。
風邪をひいたとして、薬は足りるだろうか。休むなら教室以外がいい。
医師を目指している人はいたか?
そもそも、健康管理の機械は正常に動いていただろうか。
「ここをつかって。飲み物はそこ。ずっとシステムが体調の記録をとってくれる」
「プラグとかは?」
「必要ない。最先端の医療機器で熱・心拍数・呼吸度合いとかデータとれる。今は軽く―」
「香織。なにがあった?何言われた?」
香織は菊姉をみる。
「私は、出ていこうか?」
「ううん。居て…もらっていい…。助けてもらったし…」
香織は弱くいうと、ゆっくりと深呼吸をした。
「私には、よくわからないの…。ただ2人だけで話をしたいみたいだった」
「香織には知られたくない事みたいなこと?」
「そんな感じかな…」
「佐山。とってあげて」
機械が持ってきたのは、ブランケットに、暖かい飲み物を2人分。
ん?2人分…?
香織は、ゆっくりと飲みだした。頬にも血色がもどってきたようだ。
(よかった)
「香織。佐山をちょっと借りる」
「ん?なんだよ」
「香織のことになると視野が狭くなるのは、直そう」
「…あれは、梓と坂巻が悪いだろ」
「そうだね」
深いため息をついて、厳しい目になる。
「その一言で十分だよ」
あぁ。手の冷たさに自分の冷静なものまで奪われていたみたいだ。
しかし―。
「その癖は直せ」
「何度も言わなくても」
「生徒会を立て直して、そこで意見をまとめたい。そう思ってた。違う?」
「無理だったけど」
「そうだろうね。あの場にいる人間関係の根底にもう絡まってる。一気に解こうとするのは無理だよ」
「部外者だから言えるんだろ」
「違う。部外者だから見える」
「被害うけてるんだ」
「被害をうけたからって、頭に血が上ってたらなんもできない」
その通りではある。頭と体、心はバラバラだ。
「何度でもいう。香織が巻き込まれても、視野を保て」
「約束はできない。努力はする」
「自分が言われたときもちゃんと対応しな」
「そうだな。言ってるだけだったらだめだよな…でも、まだモヤモヤしてる」
「今すぐにどうのこうのは難しいだろうから、一旦佐山も休みな」
「そうする」
「情報のほうには無線いれとく。ここはしばらくカメラ止めるし。鍵もかけとく。出る時はあそこから私を呼び出せばいい」
「俺も端末もらってるから、連絡ははいる…」
「わかった伝えておく」
菊姉は、香織からのお礼も軽く返すと。扉を閉めた。